土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
境界標が一つだけなくなった!簡単に直せる?
「境界標が1つだけなくなってしまったのだけど、いくらで直せますか?」
事務所にはこういった問い合わせがよくあります。
ちょっと聞く限りでは簡単そうなこの案件ですが、実は一筋縄ではいきません。皆さんが想像されているより、ずっと多くの落とし穴があるのです。今回はそんなお話をしましょう。
何を基に復元する?
境界標を復元するには、まず元々あった位置を特定しなければなりません。そのためには地積測量図を使います。地積測量図とは、各土地の測量結果を記録したものです。分筆登記、地積更正登記などを申請していれば、登記所に保管されているはずです。そこには各境界標の素材や位置の他、それら同士を結んだ長さなどが記録されていますので、その位置関係から、境界標を復元するわけです。
ただ、場合によっては地積測量図がないこともあります。古くから所有している土地で、その間に分筆登記や地積更正登記などを行っていなければ、地積測量図も作成されていないのです。この場合には、隣接地の地積測量図から調べる必要が出てきます。
また、無事に地積測量図があったとしても、この地積測量図は作成された年度によって精度がかなり異なります。つまり、その地積測量図の現地復元性に問題があると、スムーズに復元することが難しくなるのです。
近年の地積測量図があれば大丈夫?
平成17年3月7日以降の地積測量図は、かなり信頼度が高くなります。よって、こうした図面が残っていれば、作業はグッと楽になるでしょう。この頃になると、境界標の位置は「座標」によって記録されていますので、測量をすればほぼ確実に境界標の位置を出すことができます。
ところがまだ安心はできません。測量は、現地に器械を据え付けて観測をしますから、地積測量図には、その観測した場所が記録されています。これを専門用語で「トラバース点」と呼びます。このトラバース点とは、簡単にいえば地面に打ち込んだ金属鋲なのですが、測量した当時から期間が経っていると、アスファルトの張替えなどで亡失してしまっていることがよくあるのです。すると、測量の基になる点がないので、簡単には復元できないことになってしまうのです。
その場合、改めて全ての境界標を測り、CADソフト上で地積測量図の座標値と照合して、本来あった位置を特定することになります。その土地全てを測量するわけですから、想定以上の費用になることもあるわけです。
隣接地所有者の立会いは?
さて、うまくその座標の位置が特定できたとします。あとはそこに境界標を設置すれば全て完了でしょうか?いえいえ問題はまだあります。そもそも、境界標は隣接地との間にあるものです。つまり、隣接地の方がその境界についてどういう姿勢なのか?という点も関わってくるのです。もし、あらかじめ話し合いがされており、隣接地の方の承諾の下で復元することになっていたのならスムーズでしょう。しかし、まったく話し合いがされていなかった場合、突然境界標を設置するとトラブルに繋がりかねません。「私が承諾していない位置に勝手に境界標を入れた」と怒る方もいらっしゃるからです。そこで、事前に立会いを行ったり、場合によっては境界確認書を交わす必要も生じてきます。
一筋縄ではいかない復元
つまり、「現地復元性のある図面の有無」「復元するためのトラバース点の有無」「隣接地の方の承諾の有無」などによって、必要になる業務は大きく異なるのです。当然費用も全く変わってきます。冒頭のようなお問い合わせを頂いても、すぐにその場で金額をお答えするのは難しいのです。
このように、たった1つなくなっただけでも意外と大事になる境界標ですから、常日頃から注意して管理しておいてくださいね。復元が必要になったときは、境界の専門家、土地家屋調査士にご相談ください。