土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
測地系、座標系、縮尺係数ってなに?
地積測量図を見ていると、たまにこのような表示を見ることがあります。
測地系?座標系?縮尺係数?これは一体何でしょうか。
実はこれらは、測量図中に表示されている数値が、「どこを基準」としたもので、「どれだけの補正」がかけられているかを示しています。
(測地系と座標系が「どこを基準」の部分に、縮尺係数が「どれだけの補正」の部分に、それぞれ該当します)
では、それぞれについて解説していきましょう。
測地系とは
「測地系」とは、地球上の位置を表す基準のことです。前回のコラム(求積法によって土地の面積は変わる?)にて、土地の筆界点は平面上の座標値として表されるとお伝えしました。座標値は必ず何かを基準にして定めなければなりません。基準がなければ、座標値が一つの値に決まることはないからです。
話を分かりやすくするために、こんな例で考えてみましょう。あるコンビニの位置は、Aさんの家を基準とすると北東の方にあるけれど、Bさんの家を基準とすると南西の方にある、なんてことがあります。つまり、「どこを基準とするか」によってコンビニの位置は変わってきます。
この場合、AさんやBさんの家を知らない人にとっては若干分かりづらいですよね。そのため、個人の家を基準にするのではなく、「交番」(公共物)を基準にして位置を考えよう、という発想が出てきます。そうすれば、誰もが等しくコンビニの位置を把握することができますよね。このように、公共の基準を使って位置を求めたものを公共座標といいます。そして、交番のことを「原点」と呼びます。
ここに「世界測地系」と書いてあるのは、国際的な基準によって求めた位置情報であることを表しています。分かりやすく言うと、行政が設置した基準点(測量の基準となる点)を「交番」として扱っているということです。
(ちなみに、日本にはかつて「日本測地系」というものがあったのですが、近年の衛星による正確な観測の結果、地球全体には適合していなかったため、平成14年の測量法の改正以後、世界測地系へ変更されました)
座標系とは
公共座標を求める場合、日本においては、「平面直角座標系」を使います(衛星測量を除く)。これは、日本全国を19に区分したものです。
日本は広いので、たった一つの交番(原点)を基準にして全国を測ることはできません。そのため、日本の各地に19個の交番を作ったのです。そして、それぞれに番号を振っています(これを系番号といいます)。
冒頭の例では「Ⅸ系」とありますね。これは9番目の交番(原点)を基準とすることを示しています。具体的な区域でいうと、東京都(島嶼部除く)、福島県、栃木県、茨城県、埼玉県、千葉県、群馬県、神奈川県が対象です。これらの範囲では、9番目の原点から見て、「北(南)に〇m、東(西)に〇m」のようにして座標値を決めるのです。
19の原点の位置や対象区域は、国土地理院のホームページで確認することができます。
(参照:国土地理院HP「分かりやすい平面直角座標系」)
縮尺係数とは
さて、先ほど「位置は平面直角座標系を使って表す」と言いました。「平面」という言葉に注目してください。私たちが普段目にする地図などは平面で表示されていますよね。しかし、実際の地球は球体であるわけです。そうすると、私たちが測量した結果も、実は球体の表面を測っていることになります(これを球面距離といいます)。そのため、これを平面上の値に修正してあげなければなりません。
イメージして頂くとお分かりかと思いますが、球面を平らにしようとすると必ずひずみが出ますよね。それを補正するものが「縮尺係数」というものです。
以下の図を見てください。青い線が地球の表面を表しています(中央が原点で、東西に130kmずつの範囲です)。緑色の線が「平面直角座標系」です。
そして、この青い線を、緑色の平面に映すことを考えます。2本の線が公差しているところ(90km地点)では青も緑も一致しますが、原点や130km地点は、2本の線がかなり離れていますよね。そうすると、その分ひずみが生じることになります。そのため、青い線上で行った測量の値は、そのまま使うことができません。これを緑の線上の値に補正するためにかける値が「縮尺係数」です。(縮尺係数は原点で0.9999であり、東西に離れるほど数値が大きくなります。90kmのところで1.0000となり、130kmのところで1.0001となります)。
再び交番とコンビニを使って例えてみましょう。交番(原点)から90km東にあるコンビニの立地を測量したとします。すると、その土地がちょうど100m四方であることが分かりました。原点から90kmの位置の縮尺係数は1.0000ですから補正の必要はありません。つまり、緑色(平面直角座標系)上の長さも100mとなります。
一方で、このコンビニが、交番(原点)から130km東にあったとしたらどうでしょうか。ここでの縮尺係数は1.0001ですから、緑色(平面直角座標系)上の長さは100m1cmとなります。(100m×1.0001=100m1cm)
「1cmなんて小さい値を気にする必要があるの?」
と思われるかもしれませんが、公共座標を使った場合は、このような部分まで考慮するのが測量の世界なのです。
なお、一般的な地積測量図が全て公共座標で作られているわけではありません。近隣に公共基準点がないなど、諸般の事情から任意座標(先ほどの例では、AさんやBさんの家を基準とした位置情報)で作られていることも多々あります。そして、その場合であっても、測量自体が不正確であるというわけではないのでご安心ください。
測量という作業は、一般の方が思っている以上に色々な要因を考慮して作成されているのだということを知って頂けたら幸いです。