土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
ブロック塀は誰のもの?境界確認を伴う測量が解決の鍵
Q
お隣りとの間に、経年劣化した古いブロック塀があります。おそらく、このブロック塀が設置されたのは、この土地の宅地造成時ですから昭和40年代、約50年前だと思います。見栄えも悪く、いつ崩れるかもわかりません。撤去して、きれいなものに建て替えたいと思っています。その前にこのブロック塀の所有者が誰かわかりません。勝手に壊して良いのでしょうか?
A
確認しないで勝手に壊してはダメです。この手の事例は、弁護士の先生方が回答するべきところで、土地家屋調査士の私が語るべきではないかもしれません。しかし、この事例を問われることが、私の仕事では非常に多い!もう、はっきり言いますが毎日です。境界の立ち会いをすれば、境界標よりもブロック塀の位置が争点になることが多いのです。何せ、その土地に20年以上住んでいるのに、「境界標など見たこともない、境界はブロック塀ですよ」とおっしゃる方がいかに多いことか。
挙句の果てに「ところでこのブロック塀は誰のものかしら?」なんて、私に尋ねてくる始末です。いくら調査士と言われても、ブロック塀の所有権を調査してくれる専門家と思われてしまったら、さすがにつらくて泣いてしまいそうです。
と言いつつ、弁護士の先生方よりも、よほど現場で毎日のように「ブロック塀の所有権」や「ブロック塀の建て替え」問題に直面しているのは土地家屋調査士であると自負しております。ここはコラムですから、あえて土地家屋調査士のつぶやきということで、ネット上では見かけない土地家屋調査士による「現場からの声」をお届けしたいと思います。
解説
このブロック塀は誰のもの?私が作ったものではないですよ?
ブロック塀の所有権の確認は、売買時において、最近では当たり前のようになってきました。しかし、どうやって確認していますか?まさか、一方の土地所有者さんに、ただ一方的に聞いているだけではありませんか?「その土地にくっついているから、「不動産の付合」です。以上」というわけにはいきません。こういう時こそ、民法です。
民法 第229条 (境界標等の共有の推定)
境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
これが原則です。注意したいのは「推定する」という言葉です。「みなす」ではありません。「推定する」ということで反証ができます。もし、「みなす」であれば反証ができません。よって、反証できない限り、境界線上に設けた境界標や塀は共有物として考えていきます。この場合の反証というのは、「私が全額負担して、このブロック塀を設置しました。ゆえに共有物ではありませんよ、私のものです」ということを証明する必要があります。
それでは、重要なことを整理します。
解決に向けて重要なステップ
①「まずは境界線を明らかにすること」
まずは境界線、とにかく境界線。土地家屋調査士に「測量」を依頼するのが確実です。境界標があるからといって、素人判断は危険です。ブロック塀の設置工事の際に、境界標が動いている可能性があります。他人を巻き込む、難しい問題ですから、これくらい慎重になるべきと思います。この時の「測量」は、隣接地所有者との境界確認をともなう測量にしましょう。
ちなみによく家を建てたときに工務店が敷地を測量したといって図面を見せて頂くこともありますが、これは家を設計するために土地形状や大体の面積や寸法を把握するために行う現況測量といい、隣接地と境界確認していないことがほとんどです。
また、過去のコラム(2018年1月号 地積測量図の変遷)(2018年8月号 地積測量図のトリック)でもお話しましたが、法務局に備付の地積測量図があったとしても注意すべきことがあります。
特に昭和40年代のものは、当時の宅地造成の流行に乗って、かなり急いで作ったと思われる「地積測量図」が出回った時期であり、整合性がとれていない図面もあるということです。
②「隣接地所有者と立ち会って(面談して)協議確認すること」
ブロック塀が、境界線に乗っかっていることが確認できたら、次に反証がないか確認しましょう。「私が全額負担して設置した」と証明することは、ブロック塀工事の請負契約書とか、工事代金の領収書などを提示することでしょうか。「これは、俺の親父が設置したものだ」と言い張っても、反証にはなりませんね。反証がなさそうであれば、両者の共有物としての認識を持ってもらいます。
過去の状況を調べて、現在を知る。ブロック塀の設置慣習
昭和40年代や、50年代の分譲地にこの問題が多いです。民間の大手だけでなく、公団の造成地でも特に多い問題です。当然、宅地分譲の開発行為ですから、傾斜地における造成工事でつくった擁壁や土留め、外構工事で設置した石塀やブロック塀、これは開発行為の一環として造成業者が一括して費用を支払って設置しています。そして、擁壁や土留めは稀にですが、ブロック塀などはほぼ境界線の中心に設置されています。共有物が大流行していたというより、それが当たり前でした。分類するならば、昭和の宅地開発ではこのようなケースがほとんどですが、平成の宅地開発では、どちらかの土地に一方的に塀などの工作物が設置されていることがほとんどです。他者との余計な関わり合いを避ける設置の仕方ですね。両者にはそれぞれメリットとデメリットがありますが、私は圧倒的に平成の慣習を推しております。
私が現場で見る目も当てらない最悪な光景
また、造成工事から50年近く経ってますから、土地所有者が何代も所有権移転を繰り返しており、細かい昔のことなど記憶にない状態の方が少なからずいらっしゃいます。そこで、事例のように、片一方の土地所有者がブロック塀の建て替えをしたい時に、ブロック塀の所有権が共有物か、単独所有かで悩むときがあるのですね。私が現場で見る最悪な光景は、このとき、「ブロック塀の費用負担の割合」を先行して話してしまい、相手方が費用負担を警戒して、「このブロック塀の所有権など知らない、自分のものかわからない、勝手に壊されては困る」と交渉や協議のテーブルから離れてしまったケースです。誰だって、ブロック塀の改修工事などに多額の費用を捻出したくありません。非常によくわかります。ブロック塀が汚くたって、壊れそうだって、別に構わないと言われればそれまでです。
私が現場で見る魔法のような交渉術
上述した「重要なステップ」をもう一度確認してください。とにかく「測量」を行って境界の位置をはっきりさせましょう。そのときの「測量」は土地家屋調査士を交えて、隣接地所有者と境界確認の立ち会いを行いましょう。おそらく第三者の土地家屋調査士を交えて、かつ現地で隣接地所有者と面談することになりますから、いくらか話しやすくなると思います。お互い境界の確認後、ブロック塀の話を切り出してください。共有物が、単独での所有かの確認をここでします。ここまできてはじめて、ブロック塀の老朽化について言及して、建て替えや補修等のプランを話しあうと良いと思います。
私の知る限り、どの現場でもやはり費用負担が当事者同士の焦点になっていました。つぎに、工事に伴う危険性や騒音。見栄えや防犯についても協議するべき大切な事項と思います。隣接地所有者も言いたいことを言って、それでいくらか費用負担して頂ければ有難いのですが、両者で折半という事例はほとんどないのが、私の印象です。「ブロック塀の工事」を先に言及した方が、ほぼ全額負担するケースが多いように思います。私がそばで見ていた協議のなかで、魔法使いのような交渉上手な方がたまにいらっしゃいます。参考程度に紹介しておきます。
・「境界をはっきりさせ確認できたこと」が相手にとってプラスになること
・「老朽化したブロック塀の撤去」が相手にとってプラスになること
・「新しいブロック塀の設置」が相手にとってプラスになること
上記のことを、非常に簡潔に、かつ想像しやすく説明し協議できる方がいらっしゃいます。また専門家やアドバイザーを駆使しています。全く、見習うべきことばかりです。当たり前のことを言っているのですが、やはり人間ですので、測量費用や工事費用など、負担のことばかりに心が傾いてしまいがちです。そうして、相手の気持ちに寄り添うこともおろそかになって、しまいには些細なことで紛争というのが私のよく見る悲惨な光景です。ここらで協力し合って、より良いものにお互い改めていこうという魔法にかかってしまうのは実に気持ちのいいことです。
結局、事例のような些細なことから、泥沼の裁判劇に発展し、2年近くどうにもならなくなった現場を知っています。測量費用や工事費用はかかってしまいますが、思い切って、安全で安心な不動産を形成した方が、悩まず理想通りの運用ができると思います。遠回りのように見えますが、専門家に相談し、近隣の方と誠実に話し合って、劣化したブロック塀を建て替えてください。
あっ、境界標の担当は土地家屋調査士です!そこだけお忘れなく!
杭を残して、悔いを残さず!ありがとうございました。