土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
合筆登記をすることができない場合とは?
「一筆、二筆…」
土地を数えるときは「筆」という単位を使います。
(ちなみに、建物は「個」です)
「筆」を使うようになった由来は諸説あるようですが、代表的なものとしては、豊臣秀吉が行った太閤検地において、各土地の帳簿を一筆で書いていたことが始まりと言われています。
さて、土地に関する登記のうち、複数の筆を一筆にまとめる「合筆」の登記というものがあります。「分筆」が、一筆の土地を複数の筆に分ける登記ですので、その逆ですね。
(ちなみに「合筆」の読み方は「ごうひつ」「がっぴつ」のどちらでもよいです)
今回は、そんな合筆登記についてのお話です。
合筆登記をするメリット
合筆登記をすることにはいくつかメリットがあります。
① 管理や契約上の手間が削減される
複数の土地のままだと、管理が大変です。例えば、地積に誤差があるのでそれを更正したいと思ったら、それぞれの土地について測量をしなければなりません。登記記録を取得しようとしても、個別に取得する必要があります。売却するにも、土地ごとに売買契約を締結しなければなりません。費用も手間も土地の数だけかかるわけですね。
こうした土地を一筆にまとめることができれば、すべて1度で済ますことができます。また、固定資産税の明細の内容もスッキリしますね。
② 価値が上がることがある
合筆して土地の面積が広くなると、土地の利用価値が高まります。一筆ずつでは小さく、利用価値がない土地であっても、まとまることで大きな価値になることがあります。
例えば、前回のコラムでご紹介した、道路に接していない土地などは、道路と接する土地と合筆することで、全体として価値が向上します。
③ 再分筆によって土地の形状や数を調整できる
不整形で使いづらかった土地をいったん一筆の土地にして、改めて分筆することで、使いやすい形に再形成することができます。また、相続等で適切な数に分けたいときなども、いったんまとめてから分筆する方がやりやすいです。
合筆登記ができない場合とは
「なるほど、いいかもしれないな。一丁やってみようか」
そう思われた方もいるかもしれません。ところが、合筆登記には法律上の制限があります。以下のうち1つでも引っかかってしまうと、できないことになっているのです。
不動産登記法41条
次に掲げる合筆の登記は、することができない。
一 相互に接続していない土地の合筆の登記
二 地目又は地番区域が相互に異なる土地の合筆の登記
三 表題部所有者又は所有権の登記名義人が相互に異なる土地の合筆の登記
四 表題部所有者又は所有権の登記名義人が相互に持分を異にする土地の合筆の登記
五 所有権の登記がない土地と所有権の登記がある土地との合筆の登記
六 所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地(権利に関する登記であって、合筆後の土地の登記記録に登記することができるものとして法務省令で定めるものがある土地を除く。)の合筆の登記
一つ一つ見ていきましょう。
一 相互に接続していない土地の合筆の登記
合筆登記は、複数の土地を一筆の土地としてくっつけるものですから、接続していない土地は合筆することができません。道路で分断されていたり、点でしか触れていない土地同士は、そもそもくっつけられないのです。
二 地目又は地番区域が相互に異なる土地の合筆の登記
地目とは、登記記録に記載されている土地の用途です。以前のコラムでもご紹介しましたが、23種類に分類されています。この地目は、一筆の土地につき2種類以上の地目は認められていませんので、合筆後の地目も1つでなければなりません。したがって、地目が違う土地同士を合筆することはできないことになります。
また、地番区域が異なる土地も合筆できません。地番区域とは、地番という土地の番号を1から付すエリアのことをいいます。例えば、町を地番区域としている場合には、A市B町の土地と、A市C町の土地では、地番区域が異なるため、合筆することはできません。
三 表題部所有者又は所有権の登記名義人が相互に異なる土地の合筆の登記
所有者が異なる土地同士は、合筆することができません。Aさんの土地とBさんの土地をくっつけて、AさんとBさんの共有にする、なんてことはできないわけです。
なお、Aさんの土地同士であっても、一方の住所が引越し前の旧住所になっている、といった場合も、所有者が同一とは認められないので注意が必要です。
四 表題部所有者又は所有権の登記名義人が相互に持分を異にする土地の合筆の登記
所有者が同一である、というのが上記の条件でしたが、所有者が共有の場合は、持分も同一でなければなりません。例えば、Aさんの持分が1/2でBさんの持分が1/2の土地と、Aさんの持分が1/3でBさんの持分が2/3の土地は、合筆することができません。共有者はAさんとBさんで同じであっても、持分が異なるからです。
五 所有権の登記がない土地と所有権の登記がある土地との合筆の登記
あまり馴染みがないかもしれませんが、一口に「所有者」といっても、その人が表題部に記録されている「表題部所有者」なのか、権利部に記録されている「所有権の登記名義人」なのかによって、登記上の取扱いは異なります。(※表題部所有者が所有権の保存の登記をすると、所有権の登記名義人となります)
Aさんの土地同士であっても、一方はAさんが表題部所有者になっていて、もう一方はAさんが所有権の登記名義人になっている場合、これらの土地は合筆することができません。
六 所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地の合筆の登記
権利部に所有権の登記以外の権利に関する登記がある場合は、原則として合筆できません。例えば、一方の土地だけに抵当権の登記があったり、地上権や賃借権の登記があるような場合です。(ただし、この制限には特例が設けられており、一部の権利に関する登記については合筆することが認められています)
以上、見てきたように、合筆の登記には一定の制限が設けられており、気軽にできるものではありません。ただ、そのハードルは超えることができる場合もあります。地目が異なっているのであれば一致させたり、住所が異なっているのであれば予め変更の登記をしたり、といったようなことですね。
合筆の登記には専門的な知識が必要となりますので、「この場合はできるのかな?」と思われた場合には、ぜひお近くの土地家屋調査士へご相談ください。