土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
筆界特定の判断材料となる資料としての「地積測量図」
筆界特定の事例の中に、「分筆により形成された筆界(創設筆界)について、昭和52年に作成された地積測量図を有力な資料として採用せず、現況の実測図や道路境界図を有力な資料として特定された事例」というものがありました。とても興味深く感じました。
私の7月号のコラムでは、古い地積測量図を有力な資料として採用したケースのものでした。しかし、これはその反対で、「地積測量図を有力な資料として採用せず」、他の測量図を判断材料として筆界特定に至ったというものでした。なるほど、よほど地積測量図に問題があったのか、8月号のコラムにも書きましたが、信用のできないトリック測量図もありますからね。こんなことを書くと、今まさに筆界のことで悩んでいて、特に法務局にある地積測量図に納得がいかず、現況の工作物や塀のラインが真実の境界であると主張されている方々から注目されてしまいそうです。法務局に認証され保管されている地積測量図、そして諸先輩方である土地家屋調査士の作成した地積測量図。その地積測量図を否定して、真実の筆界に迫っていくというのは、同業の土地家屋調査士としてなかなかストレスのあるものです。「できることなら、地積測量図を否定することは避けて、、、」というのが、本音ではないでしょうか。
さて今回のコラムでは、「地積測量図が筆界特定の資料として採用されなかった理由」をまとめてみます。そして、今までコラムに取り上げてきた地積測量図という資料が、筆界の特定にどのように関係していくか、どこをポイントして見ていくべきか、触れていきたいと思います。
地積測量図を有力な資料として採用しなかった理由は、事例の中で以下のようにまとめられていました。
「同地積測量図には、対象土地甲のほか、同土地に隣接する1番2及び同番3の土地の地積及び辺長が記載されているが、同地積測量図は、復元測量に必要な境界標の記載及び筆界点と近傍の恒久的な地物との位置関係が記載されていないこと、また、対象土地甲及び1番2及び同番3の土地に係る南北のそれぞれの辺長が特定測量の成果と不動産登記規則第10条第4項第1号の精度区分(以下「公差」という)」の範囲を超えて相違することから、本件筆界特定申請の資料として採用することは適当でない」
※公差とは
現地に表示された筆界点(境界標)を測量した結果と、地積測量図など図面による筆界点の位置情報を比較すると差異が生じます。この差異が公差の許容範囲内なら、両者は同一点にあるものとして考えてよいということです。不動産登記規則第10条第4項にある「精度区分」を「公差」と呼んでいます。
※特定測量とは
筆界特定の時に行われる測量のことです。
前文は「復元測量に必要な情報(座標・位置関係の情報)がないこと」について、後文は「現地の測量結果と比較して公差の範囲を超えていること」について、以上2つの理由を挙げています。
①復元測量に必要な情報がないこと
これは、その地積測量図に現地復元性がないと判断したということです。境界標が亡失した場合、その地積測量図を参考にしても、境界標の位置を復元することができないということです。もともと地積測量図は読んで字のごとく、地積を算出するための測量図であって、筆界点の位置が現地のどこなのか、境界標識がどのような種類のものかなどは求められていませんでした。「復元測量に必要な情報」とは具体的に何かと問われれば、現在では当たり前になっている、筆界点の座標や、測量基準点の座標などです。また、座標がなくても、辺長や三斜求積の情報から位置関係を算出することもできます。現地復元性の有無については、コラム1月号の「地積測量図の変遷 一覧表」を参考にしてください。また地積測量図は、作成時期によって異なる性格を持っていますので、専門家を交えて十分に検証して判断していくべきです。必ずしも、一覧表のような年代区分で、現地復元性の有無を決めつけるような判断をしてはいけません。
②現地の測量結果と比較して公差の範囲を超えていること
前述した①が、その地積測量図それ自体の問題であるのに対して、②はその地積測量図と現地との関係性の問題になります。この検証が最も重要であり、労力を必要とし、専門的知識と経験が必要になるといっても過言ではありません。特に昭和35年から昭和52年にかけて作成された地積測量図は、現地で測量をせず机上で公図を写し、定規を使って寸法を測り求積したものも含まれているかもしれません。また、現地にて隣接地との境界確認が行われずに測量されていたものも含まれている可能性があります。コラム1月号に、各年代の地積測量図の性格を書きましたが、いよいよその性格を理解した上で、現地との整合性や、他の測量図や資料との比較を行い、総合的に判断しなければなりません。②はたった一文で言い表していますが、その根拠建てや確認の裏付けは大変な作業になります。
以上、筆界特定の事例の中に、明文化されていた代表的な理由の2つをまとめてみました。これらを深く追求していくと、おそらくコラムで語れる範疇を超えてしまいますので、ここまでにしておきます。私は8月号のコラムで、一部の地積測量図をトリックと比喩し、その問題点や不信感を、専門家として包み隠さず指摘したつもりです。法務局に保管されているからと言っても、その面積で昔から課税されているからと言っても、地積測量図は絶対的なものではないことを少しでも具体的に伝えたかったからです。
だからと言って、「地積測量図」を打ち破り、現況の工作物や塀のラインが真実の境界であると主張するには、それ相応の根拠建てや膨大な確認の裏付けが必要になることでしょう。筆界を特定するための判断材料として、「地積測量図」を検証していくことの重要性を、今回は最も伝えたかったのです。結局、境界自体が2つの土地の接する部分、すなわち両土地の関係性がおりなすものです。「あちらを立てればこちらが立たず」ということわざもありますが、土地と土地との関係性を特定するために、資料と現地の関係性も深く追求し、つり合い相応する結論を導かなければなりません。これらを、冒頭、興味深く感じてしまうところに、自分はつくづく土地家屋調査士なのだなと思いました。
杭を残して、悔いを残さず!ありがとうございました。