土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
境界紛争のとき、公図はどれだけ信用できるのか
土地家屋調査士が土地の筆界を調べるときには、必ず登記所で「地図」又は「地図に準ずる図面」を取得することになります。筆界調査においては、初手の作業といっても過言ではありません。
ここでいう「地図」とは、土地の区画と地番が表示された以下のようなものです。一般的な地図(GoogleMapなど)と区別するために、「登記所備付地図」または、不動産登記法第14条に規定されていることから「14条地図」などとも呼ばれます。
この地図は、正確な測量と調査の成果に基づいて作成されていますので、もし筆界が不明になった場合でも、一定の誤差の範囲内で復元することができる能力を有しています。ただ、日本全国の土地が全て正確に測量されているわけではありませんから、地図がない地域もいまだ多くあります(本コラム執筆時点では、地図が備え付けられている地域は全国の60%弱に留まっています)。そこで、まだ地図がない地域は、それまでの間、代わりの図面が備え付けられることになっています。それが「地図に準ずる図面」です。
地図に準ずる図面(公図)とは
地図に準ずる図面(公図)は、その多くは明治時代に租税徴収の目的で作成された図面です。2022年11月号「なぜ筆界と所有権界は分かれていくのか」でもお話しましたが、これは測量の知識・経験を持たない村人たちが縄で測って作ったものなので、14条地図のように信用できるものではありません。実物は以下のようなものとなります。
現在は、これらをトレースしたものが登記所において公開されています。そのため、公図を取得すると、一見して地図と同じような見た目になっています。しかし、その下の分類に「地図に準ずる図面」と記載されており、違うものであることが分かるようになっています。
ちなみに、明治時代の図面は租税の徴収を目的として作られたものなので、かつては税務署に保管されていました。課税用の土地台帳に併せて備えられていたので、「旧土地台帳附属地図」と呼ばれます(上の画像にもそのように記載されていますね)。内容は正確でなくとも、歴史的価値のある資料ですから、今も法務局に大切に保管されています(希望すれば閲覧することも可能です)。
紛争のときに、公図を根拠に争えるのか
さて、ここで境界紛争が起きたとします。しかし、登記所には公図しかありません。この場合、この公図はどれだけ信用できるものとして扱われるのでしょうか。
結論からいいますと、「定量的なものは信用できず、定性的なものは(一定程度)信用できる」とされています。
定量的というのは「数値化できる」ということです。例えば、数字で表すことができる距離、角度、面積などが定量的なものとなります。定性的というのはその逆で、「数値化できない」ということです。例えば、境界線が直線か折れているか、土地の位置や形状といった要素などが定性的なものとなります。
距離、角度、面積など(定量的なもの) → 公図は信用できない
土地の形状、地物など(定性的なもの) → 公図は(一定程度)信用できる
つまり、そもそもの測量が正確性に欠けるので、数値は信用に足らないけれど、土地の配列や形状、道路や水路の有無といった事柄に関しては、一定の証拠価値を有している、と考えるのが判例の立場なのですね。
ただし、だからといって公図だけを根拠にすることはできない点に注意が必要です。東京高判昭62.8.31の判決では、公図の証拠価値は、筆界杭等の「物的証拠」や近隣の人の証言等の「人的証拠」による裏付けがあって初めて決まるものであって、公図のみでは証拠価値を認めることはできない、としています。つまり、定性的な要素であったとしても、他の証拠と合致しないと、それだけでは決め手にならないということなのですね。
現在、全国の法務局・地方法務局において、筆界の現地復元能力を有する14条地図の作成事業が推進されています。やがてはこれらの公図も差し替えられていくことになりますが、全てが差し替わるまでにはまだまだ長い時間を要するといえるでしょう。それまでの間、公図の地域で境界が分からなくなったら、専門家の知見に頼ることをお忘れなく。