土地の境界がわからない、調べてもはっきりしない。現地でも、机の上でも、わかりづらい土地の境界について、具体例を交えて、できる限りわかりやすく伝える(ことを目的とした)、土地家屋調査士が解説したアドバイスです。
あらゆる土地の利用目的は、23種類に分類される?
不動産には、土地であれば一筆ごと、建物であれば一個ごとに、登記記録というものが作成されます。登記記録は、法務局(登記所)に行けば、誰でも取得可能なものです。
このうち、土地の登記記録には、「地目」という欄が設けられています。これは簡単にいうと、土地がどういう目的で利用されているかを示す情報です。例えば、「宅地」や「畑」といったようなものですね。
この地目は、一筆の土地につき一つしか定めることはできません。建物の種類であれば、1個の建物に複数の種類を記録することが可能なのですが(例えば、「店舗・事務所」のように)、土地はあくまで一つのみとされています。
そのため、土地全体の利用目的が変わった場合は、「地目変更登記」を申請することになりますし、土地の一部分だけ利用目的が変わった場合は、その部分で分筆して、地目を変更する「一部地目変更・分筆登記」を申請することになります。つまり、土地の境界は、地目の違いによっても生まれるのです。
(以下は、山林から宅地に地目変更登記がされた土地になります)
さて、この地目ですが、現在では、23種類が規定されています。つまり、日本中のあらゆる土地は、この23種類のどれかに当てはめられるということなのです。
「えっ、そんなに少ないのですか?」
そうなのです。建物の種類の場合は、「用途により適当に定める」ことができるとされていて(不動産登記事務取扱手続準則80条)、事実上無制限に増やせるのですが、土地に関しては23種類に限定されているのです。
では、一体どんな地目があるのか?23種類を一気に見てみましょう。
地目一覧
1 | 田 | 農耕地で用水を利用して耕作する土地 |
2 | 畑 | 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地 |
3 | 宅地 | 建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地 |
4 | 学校用地 | 校舎,附属施設の敷地及び運動場 |
5 | 鉄道用地 | 鉄道の駅舎,附属施設及び路線の敷地 |
6 | 塩田 | 海水を引き入れて塩を採取する土地 |
7 | 鉱泉地 | 鉱泉(温泉を含む。)の湧出口及びその維持に必要な土地 |
8 | 池沼 | かんがい用水でない水の貯留池 |
9 | 山林 | 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地 |
10 | 牧場 | 家畜を放牧する土地 |
11 | 原野 | 耕作の方法によらないで雑草,かん木類の生育する土地 |
12 | 墓地 | 人の遺体又は遺骨を埋葬する土地 |
13 | 境内地 | 境内に属する土地であって,宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条第2号及び第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しないものを含む。) |
14 | 運河用地 | 運河法(大正2年法律第16号)第12条第1項第1号又は第2号に掲げる土地 |
15 | 水道用地 | 専ら給水の目的で敷設する水道の水源地,貯水池,ろ水場又は水道線路に要する土地 |
16 | 用悪水路 | かんがい用又は悪水はいせつ用の水路 |
17 | ため池 | 耕地かんがい用の用水貯留池 |
18 | 堤 | 防水のために築造した堤防 |
19 | 井溝 | 田畝又は村落の間にある通水路 |
20 | 保安林 | 森林法(昭和26年法律第249号)に基づき農林水産大臣が保安林として指定した土地 |
21 | 公衆用道路 | 一般交通の用に供する道路(道路法(昭和27年法律第180号)による道路であるかどうかを問わない。) |
22 | 公園 | 公衆の遊楽のために供する土地 |
23 | 雑種地 | 以上のいずれにも該当しない土地 |
(不動産登記事務取扱手続準則 第68条)
これを見てどう思われたでしょうか。
「すごく偏っている…!」
と感じられたのではないでしょうか。それはおっしゃる通りだと思います。
何しろ、同じ水の貯留池であっても、かんがい用であれば「ため池」となり、それ以外は「池沼(ちしょう)」になります。外観上似ている水路であっても、かんがい用であれば「用悪水路(ようあくすいろ)」になりますし、田畝や村落の間にあれば「井溝(せいこう)」になります。これは違いを見極めるのが難しいといえるでしょう。
また、塩田や鉱泉地、運河用地といった、全国的に見ても少数の土地の地目がある一方で、雑種地という非常に多くの土地が該当する地目もあります。例えば、水力発電のための水路は雑種地ですし、競馬場の馬場も雑種地です。遊園地、運動場、ゴルフ場、飛行場も原則として雑種地ですし、高圧線の下の土地で他の目的に使用することができない区域も雑種地です。コインパーキングやガソリンスタンドも雑種地です。
…ということで、ものすごく細かい分類と、非常にざっくりした分類とが混在しているのが、土地の地目なのです。
その原因としては、そもそも地目の始まりが、明治時代の地券や土地台帳に記録された土地の利用目的であったことに由来します。当時は厳密に種類が規定されていたわけではなく、現況に応じて様々に認定されたため、このような細かい区分が生じました。時代の移り変わりに伴い、その一部は整理されましたが、いまだに当時から使われているものが多く残っているのがこの地目なのです。そして、平成17年2月25日に、正式に現在の23種類に確定しました。現在は、明治時代とは比べ物にならないくらい、多種多様な土地の利用方法がありますが、それらはすべて「雑種地」にまとめられることになったため、このような面白い偏りが生じたというわけです。
なお、すでに廃止された地目であっても、登記記録上は残っているものがあります。たまにそういった土地を見つけた際は、ちょっと宝物を見つけたような気持ちになりますね。
多くの方にとって、登記記録の地目欄に目が留まることは少ないかもしれません。しかし、実はこんな小さな欄一つにも、面白い歴史があることを知っていただけたら嬉しいです。