不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
換価遺贈の税務
最近、大学が予算に窮して、運営が大変だという話をよく聞きます。
生きている間は必要だけど亡くなったら自宅を寄付したいのです。どうしたら良いですか。その時の税金はどうなるのですか、というご質問をよく耳にします。
きちんとした説明ができる税理士は、あまりおりません。
改めて、本稿、事例でご説明いたしたいと思います。
【事例】
Aさん(88)は、次のとおり遺言を残し、本年7月に亡くなりました。この場合、どのような税金がだれに課税されるのでしょうか。
■ 遺言の要旨
Aの長男B、長女C、D大学は、次の(1)と(2)の財産を換価し、他の財産と合計して次のとおり分配すること。
■ 財産取得者
長男Bには、五分の二
長女Cには、五分の二
D大学には、五分の一
■ 財産
(1)自宅不動産・・・・宅地300㎡、建物120㎡
(2)上々株式・・・・・甲社株式、3,000株
(3)現金預金・・・・・1億円
相続人は、B、Cだけであり、財産の換価及び換価処分の代金の分配は遺言執行者Xによって行われました。
【答えと解説】
1. 相続税関係
相続人B、C及び受遺者D大学は、取得した財産について、相続税が課税されます。課税財産の評価額は、相続開始時点における財産評価基本通達が定める評価額と相続税法が定める課税価格です。実際に換価した金額は使用しません。
2. 所得税(譲渡所得)関係
不動産及び株式の換価処分に係る譲渡所得は、B、C及びD大学に対して配分された価額の割合に応じてB、Cに課税されます。
D大学は収入の内34種類の収益事業に該当しないと課税されません。譲渡所得は、収益事業に該当しないので課税されません。その代わりと言ってはなんですが、被相続人からD大学に遺贈で所有権が移転した時点で、被相続人に所得税(みなし譲渡所得)が課税されます。これは、被相続人の準確定申告書を提出し納税する義務のある相続人と包括受遺者が負担します。
みなし譲渡所得を回避するには、D大学は、譲り受けた株式と不動産を理事会にかけ基金に組み入れる議決を経て、基金内で大学の事業用(教育、研究等)に直接使用する資産に買い替えます。
なお、換価処分が相続税の法定申告期限から3年以内に行われた場合は、租税特別措置法39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用があります。
(解説)
遺産を換価して、その価額を一定割合で分配せよとの遺言があった場合には、①相続税法上、相続又は遺贈により取得した財産は、換価処分代金なのか、換価処分前の財産なのか、②換価処分による譲渡所得の課税はだれに行うべきか、③相続人と包括受遺者では、①②の判定を行う上で、差異があるかについて疑義が生じます。
この点に関しては、長くなりますので、次回解説することに致します。
昨今、遺言で不動産や株式を遺贈なさるケースが増えています。市販の書籍をみると誤った解説も散見されます。本稿では、相続実務、とりわけ国税局が採用している見解を中心に解説しております。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。