不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
相続法改正と遺言に関し税務で起こる実務上の問題
1.相続法の施行時期
巷では民法改正の話がちらちら出ています。去る2018年7月6日に約40年ぶりに相続法を大きく改正する法律が成立したからです。具体的な内容としては、配偶者居住権、預貯金の仮払い制度、自筆証書遺言保管制度の創設などです。相続人以外の親族が被相続人の介護等をした場合、「特別寄与料」を請求できる規定も設けられました。
施行時期は2019年7月1日とされていますが、配偶者居住権については2020年4月1日に、自筆証書遺言については、方式緩和は2019年1月13日、保管制度は2020年7月10日に施行されます。
2.相続させる旨の遺言は特定財産承継遺言という制度に成文化されます。
自筆証書遺言の方式が緩和され、財産目録はワードなどPCで作成してもよいことになったので、資産をたくさん所有している方にとってはある意味朗報です。ただ、遺言書を作成するには、どうしても基礎的な法律知識が必要です。特に「相続させる旨の遺言」という判例の理解が重要でした。
「別紙物件目録の土地建物を妻Bに相続させる」と書いておくのと、「妻Bに渡す」とか「譲る」とか書いておくのとでは法律効果が大きく異なったのです。文末を「相続させる」と記載すると、相続が開始した時点(遺言者が亡くなった時点)で、別紙物件目録の土地建物の所有権は自動的にBに移転し、Bは自分の物ですから、単独で登記ができたのです。
遺言で重要なことは、遺言を法務局に持ち込むと(大抵は司法書士に依頼するのですが)、他の相続人の同意なくして登記できるようにしておくことでした。「相続させる」と書くだけで、Bは単独で相続登記ができるのです。
この「相続させる」旨の遺言は、平成3年4月19日の最高裁判例と平成14年6月10日の最高裁判例で形成された判例法なのです。これが今回の改正で「特定財産承継遺言」という形で成文化されたのです。
ただ、従来、相続させる旨の遺言で不動産を取得した相続人は、その権利を登記なくして第三者に対抗できたのですが、今回の改正では、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとされたので、「相続させる」と記載された遺言を見つけた場合は速やかに家裁で検認を行い(来年7月10日以降、遺言書が法務局に保管できるようになります。その場合は検認不要です。)、司法書士に依頼して登記を完了させておくことが重要です。
3.遺言に関し税務で起こる実務上の問題
遺言に関し、税務で起こる実務上の問題は、遺言無効確認の訴えが提起されている場合の課税です。遺言無効の訴えが起こされている場合でも、一見、形式上有効な遺言があれば遺言に基づき申告を行うのが原則です。遺言により一切の財産を取得しないとされている者(みなし相続財産である死亡保険金や死亡退職金も取得していない者)が遺言の無効を主張している当事者であるときは、税務上は遺言が無効であることが裁判で確定するまでは申告を行う必要はありません。
裁判で(遺言者の署名が本人の筆跡ではないとか、遺言作成時点で遺言を書くだけの思慮分別がなくなっていたなどの理由で)遺言の無効が確定したときは、法定相続による分割協議が開始されます。取得することが減少し、納税額も減少する相続人や受遺者は、判決が確定した日の翌日から4カ月以内に更正の請求を行います。
新たに遺産を取得し納税しなければならない者は期限後申告書を提出することができます。法定申告期限の翌日から期限後申告を行った日、または税務署長が決定処分の通知を発送した日までの延滞税は課税されません。このようなケースでは、無申告加算税も課税されません。
なお、遺留分減殺請求がなされている場合も裁判が確定するまでは、遺言に基づき相続税の申告を行います。遺留分減殺請求を受けた者は、遺留分の減殺請求により返済すべき又は弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4カ月以内に限り更正の請求ができます。
減殺請求者は取り戻し額が確定した時点で新たな納税義務が生じます。
遺言があれば紛争を未然に防ぐことができるかというと必ずしもそうではありません。紛争を防止できる遺言を作成するにはそれなりの法律知識が必要です。相続法に精通した弁護士やベテランの税理士を見つけることが紛争防止の第一歩かもしれません。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。