不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
~必ずチェックしましょう~ 相続税の増税に備えてNo.2
1 前回のおさらい
前回は、妻と二人暮らしのAさんのお話しでした。Aさんが亡くなり、妻が相続する自宅の敷地は330㎡(平成26年中は240㎡)まで税金の対象となる価格(課税価格)を8割減額することができます。別居している娘二人が自宅を相続しても8割減額の特例を受けることはできません。この特例は、配偶者や同居の法定相続人がいると、別居の相続人は特例の適用を受けることは一切できないようになっているのです。
この特例の立法趣旨は、生活の拠点としている不動産の価格を減額して、生活の拠点が失われることを防止しようとするものです。被相続人の配偶者や同居の親族がいる場合には、それらの人を保護し、それ以外の人を保護する必要はないと考えているようです。
2 独り暮らしのBさんの場合
(1)子供たちは全員持家に住んでいる
独り暮らしのBさんはどうでしょうか。Bさんには別居している娘が二人います。二人とも嫁いでいて、夫名義の家に住んでいます。娘たち二人がBさんの自宅を相続しても、8割減額される特例は使えません。
次女夫婦は転勤族で現在も社宅に住んでいる場合はどうでしょうか。Bさんがもし亡くなった場合、現状では、持ち家に住む長女は8割減額特例を受けられませんが、社宅住まいの次女が相続した部分については、減額特例を受けることができます。相続税法は、持ち家がない相続人には優しいのです。持家がなければ親の自宅を相続して住むか売却したお金で自宅を取得すると考えているのでしょう。
相続税法は、だれがどの財産を取得しても相続税の総額は変わらないように計算するのが原則です。ところがこの自宅の課税価格を減額する特例(特定居住用宅地等の小規模宅地等の課税価格の計算の特例)は、亡くなった方の自宅を誰が相続するかにより、適用が変わるのです。配偶者がいれば、なんの対策も打たずにいても配偶者が自宅の敷地を相続すると特例を使えますが、配偶者もいなく同居の親族もいない、独り住まいの方は、対策を考えておくことが重要になるのです。
先ほどの例で、次女がフランスに住んでいる場合はどうでしょうか。次女が住んでいるパリの家は持家です。この場合は、不思議なことにBさんの自宅の敷地を次女が相続すると8割減額できるのです。なぜなら、持ち家を所有していると適用対象とならないのは、日本国内の家屋に限られるからです。
(2)独り住まいの方の対策
では、どのような対策が考えられるでしょうか。
子どもがいる場合には、子どもたちのうち一人でも持家に住まない者を作る方法が考えられます。地主など広大な宅地の片方に父親の家があり、もう片方に長男の持家がある場合などは、思い切って長男所有の家屋を親が買い取ってしまうなどの方法が考えられます。ただ、この方法ですと、3年経過しないうちに親が亡くなってしまうと効果がありません。相続開始前3年以内に持家に住んでいた長男は適用対象者になれないからです。
(3)遺言が重要な役割を果たすようになる
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例をよく読むと気がつくことがあります。この8割減額特例を受けられる人は法定相続人に限定されていないことです。大学生の孫など自宅を所有していない法定相続人以外の親族に遺贈すると8割減額の特例を受けることができるようになるのです。もちろん、配偶者や一親等の血族以外の者が相続又は遺贈で財産を取得すると通常の税額より2割多い相続税を納める必要がありますが、それでも課税価格が8割下がる方が節税効果は大きいのです。
一般的な遺言の方式には、自筆証書遺言か公正証書遺言があります。自宅でこっそり書くのが自筆証書遺言です。全文自筆でなければなりません。訂正箇所があれば「何字削る、何字加える」と書き訂正印を押しておきましょう。遺言は最も新しい日付のものが有効とされるので、必ず日付を書くことを忘れてはなりません。11月吉日などと記載すると日にちの記載がないので、同じ月にもう一通の遺言書があるとどちらが新しい遺言書か比較することができません。このため、日付をきちんと書かないと無効な遺言になってしまいます。押印も認印でよいので忘れないようにしなければなりません。
自筆証書遺言は、遺言をしたためる人が法律用語に習熟しているとは限りません。そうでない人の方が多いでしょう。遺言は遺言者の意思をできるだけ尊重し、なるべく有効な遺言として解釈するというのが裁判所の考え方のようですが、法律家がチェックしてくれる公正証書遺言と比べると正確性に欠け、文章の読み方や解釈の争いで紛争が長引くことの原因になってしまうこともあります。
このように考えると、多少時間と手間と費用がかかっても公正証書遺言を作成することが望ましいとも言えます。それと、これも忘れてはいけないことですが、遺言執行者を指名しておくことも重要です。遺言は執行者がいてはじめて迅速に執行され円滑な相続の糧となるのです。
次回は、老人ホームに入所しているCさんのお話しです。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。