不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
空き家と住宅用地の特例(固定資産税等の減免措置)
イギリスでもっとも偉大な哲学者といわれるデヴィッド・ヒューム(1711~76)は不動産に課税する制度について、次のように言っています。
不動産に対する課税は、徴収に費用がかからないのはいいけれども、それ以外のありとあらゆる欠点をもっている。しかし徴税不足のためには、背に腹は代えられず、大概の国はこの不動産税に頼っている。(新潮文庫「経済思想の巨人たち」竹内靖雄著)
不動産に対する課税といえば、代表的なものに固定資産税がありますが、実は、税理士は固定資産税が苦手です。
固定資産税は、納税者が自ら申告して納税する申告納税方式とは異なり、納税者は原則として何もする必要がありません。不動産を所有している限り、市町村長が勝手に課税する賦課課税方式を採用しているのです。固定資産税を納税するのに、原則として、税理士はいりません。
税理士が固定資産税関連で多少仕事をするのは、固定資産税の評価額がおかしいと感じた時くらいです。
相続税の申告作業で土地の評価をしているときに、
「おや、この固定資産税の評価額は何だか変だな」
と気がついて、亡くなった人が過剰に支払っていた固定資産税を返してもらう作業に入ることがありますが、そのようなこと以外は、固定資産税で税理士が報酬を貰えるような仕事をすることが少ないのです。要は、いくら勉強してもあまり仕事にならないから、税理士は固定資産税に詳しくないのです。
ところが、本年5月26日に空家法(「空家等対策の推進に関する特別措置法」をいいます。)という法律が完全施行され、関連して固定資産税に関する地方税法が改正されたことで、苦手な固定資産税の質問を受けることが増えています。
空家法は、空き家の所有者が適正な維持・管理を怠ったために、倒れたり、悪臭を発したり、街並みを汚くしたりして「近隣に迷惑をかける空き家」を「特定空家等」と定義しています(空家法2(2))。
市町村長は、特定空家等の所有者に対し、周辺に迷惑をかけないよう建物の除却・修繕・立木の伐採などの助言・指導・勧告・命令をすることができるようになりました。
地方税法が規定する住宅用地のうち、毎年1月1日現在、空家法により所有者等に対し勧告が出されている「特定空家等」の敷地は、固定資産税等の住宅用地特例(住宅用地に対する固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例をいいます。)の適用対象から除外されることになりました(地方税法349の3の2(1)、空家法14(2)、2(2)、地方税法349の3の2(1)、附則17(3))。
そこで、次のような質問が増えて、税理士を困らせています。
「先生、決算と法人税の申告ご苦労様でした。ところで、ついでといってはなんですが教えてください。『固定資産税等の住宅用地の特例』とはどんなものですか」
などと、問われて
「おやおや、珍しく、固定資産税のご質問ですか。ちょっと忙しいのでまた来ますね」とお茶を濁して退散する税理士は少ないと思いますが、
「えーと、ですね。住宅用地の特例というのは、二種類あります」
「『小規模住宅用地の特例』と『一般住宅用地の特例』です」
「自宅やアパートなど住宅の敷地については、固定資産税の負担をなるべく小さくしようという政策によるのだと思いますが、固定資産税の評価額にそのまま税率(1.4%)をかけて税額を算出するのではなく、自宅の敷地のうち200平米までは評価額を1/6にして税額を出します。庶民の家と言いますか、比較的小さな家の敷地の固定資産税を減額しようというので「小規模住宅用地の特例」といいます」
と説明できる税理士は意外に少ないのです。
「『なるほど、ただ、うちの家はもう少し広いのですが』と、社長さんに言われて、
「そうですか。ご自宅は100坪もあるのですか。その場合は、200平米を超える部分については、評価額の1/3に対して税率をかけるようにしています。これを「一般住宅用地の特例」といいます」
とまで説明できる税理士はなおさら少ないでしょう。
「ただし、住宅用地の特例は無制限ではなく、家屋の総床面積の10倍が限度です。家の総床面積が、社長のご自宅は延べで200平米くらいありますから、敷地は2,000平米まで適用可能です」
と答えられる税理士は更に少なく
「住宅用の家屋ですから、固定資産税が少なくなる特例を受けるためには、現に人が住んでいる必要はあるのですか」
と尋ねられ
「いえ、住宅用の家屋といっても現実に人が住んでいる必要はありません。住宅用に作られた家屋なら、人が住んでいない場合でも適用されますよ」
などとすらすらと答える税理士も、意外に少ないでしょう。
「では、家を取り壊したらどうなるのですか」と尋ねられても
「建物を取り壊した場合は、原則として、評価額の7/10を課税標準にします(市町村により条例で負担水準の上限を65%に引き下げている場合は、評価額の65/100を課税標準にして税額を計算します。)」
とすまして答えられる税理士は、本当に少ないでしょう。
このように、人が住んでいてもいなくても、住宅用の建物の敷地ならば固定資産税が減額されているので、従来から、固定資産税や都市計画税が空き家を増やす原因の一つになっていると指摘されていました。
今後は、空き家の維持・管理が悪く、近隣に迷惑をかけ、市町村長に特定空家等として修繕を勧告されると固定資産税が最高4.2倍(正確には市町村の条例により増税額は異なります。都市計画税は最高2.1倍。)になります。そうならないために、空き家といえども、維持管理に費用をかけなければならない事態も生じそうです。
誰も住んでいない家にお金をかけなければならないのなら、空き家になった建物は早めに売るべきだろうかとお考えになる方も増えそうです。
この際、気を付けていただきたいのは、空き家になる直前までご自宅に使っていらっしゃった土地・建物の売却時期です。所有者が老人ホームに移転するなどして空き家になったご自宅は、空き家にしてから3年後の年末までに売却すると、原則として、居住用資産の特別控除の適用対象となり、値上がり益が3,000万円までなら税金はかかりません(居住用の特別控除《措置法35条》の特例を受けるための所得税の申告は必要です)。
空き家にしたご自宅の建物を取り壊した場合には、取壊してから1年以内(但し、空き家にしてから3年目の年末の到来が早ければ、3年目の年末)までに譲渡すると居住用の特別控除があります。
空き家にしてから3年目の年末までに家屋の所有者がお亡くなりになり、相続が開始してしまいますと、相続人または受遺者が取得した家を空き家になってから3年目の年末までに譲渡しても、居住用の特別控除は受けられません(相続税を負担された場合には、一定の要件を備えると相続税の取得費加算《措置法39条》を受けることは可能です)。
相続税対策の前提として、財産の運用と管理は重要なテーマです。ご実家が空き家になっている方は(これから空き家になると思われる方も)、早めにご相談いただくことが肝要です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。