不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
令和5年度税制改正の解説1
1. 改正の内容
(1)令和6年1月1日以後に受ける贈与について次の改正が行われました。
■相続時精算課税制度
現行の暦年課税の基礎控除とは別途、110万円(注)の基礎控除を創設するとともに、相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合に相続時にその課税価格を再計算する見直しを行います。
■暦年課税において贈与を受けた財産を相続財産に加算する期間を相続開始前3年間から7年間に延長し、延長した4年間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算しない見直しを行います。
(注)同一年中に複数の特定贈与者(相続時精算課税制度における贈与者をいいます。)から贈与を受けた場合は、110万円を各特定贈与者から受けた贈与額の構成比率であん分することになります。
例えば、令和6年中にお祖父さんから600万円、お祖母さんから400万円、合わせて1,000万円の贈与を受けたとしましょう。
お祖父さんからの贈与に係る基礎控除額は、110万円×600万円÷1,000万円=66万円、お祖母さんからの贈与に係る基礎控除額は、110万円×400万円÷1,000万円=44万円となります。
相続時精算課税制度による贈与には、2,500万円の特別控除額があります。
令和6年に初めて相続時精算課税制度を選択したとすると、お祖父さんからの贈与額600万円-基礎控除額66万円=534万円<2,500万円ですので、納める贈与税額はありません。
お祖母さんも同様です。(400万円-44万円=356万円<2,500万円)
また、お祖父さんがお亡くなりになられた場合、お祖父さんに係る相続税の課税価格への加算額は、改正前ですと600万円でしたが、改正後は600万円-66万円=534万円となります。
(2)改正の影響を考える時に大切なこと…資産3億円以上の層を狙い撃ち
イ 資産活用や相続対策の観点から、改正の影響を考える時に大切なことは、贈与の仕方や金額が、資産の規模や相続人の数によって大幅に変わるということなのです。
近年、税務署に提出される相続税の申告書の件数は、おおよそ14万件ほどです。
亡くなる人の数は、140万人前後ですから、約一割の方が相続税の申告義務を負うのですが、このうち2万件ほどは納税額がありません。配偶者の税額軽減や自宅や事業用の小規模宅地等の適用を受け、税金を0にするための申告です。
ロ 14万件のうち7万件は遺産の額が7千万円以下の方です。この方たちの財産構成は、自宅と預貯金、生命保険がほとんどで、上場株式を保有されている方も少しいらっしゃるという感じです。負担される税額も配偶者がいれば、数万円~100万円ほど、配偶者がいない場合も数万円~300万円前後です(負担税額は法定相続人の数に影響されます。)。この層の方は、相続税の税率が10%~15%なので、贈与が相続税に与える影響(節税効果)はいまひとつです。そもそも、預金の額がそれほど多くないので、老後のことを考えると、むやみやたらに贈与もできません。相続時精算課税制度など適用すると不利になるばかりです。
ハ 遺産の額が7千万円超~1億円以下の方たちは、2万8,000件、2万8,000家族といってもよいでしょう。この層の方たちも、やはり老後のことを考えると、格段に金銭的な余裕があるとはいえません。相続時精算課税制度の適用は控えるべきなのです。
ニ では1億円を超えてくると、老後の資金を確保しつつ、贈与できるお金の額も多くなります。さらに2億円超え、3億円超えと財産額が増えるに従い、贈与の節税効果が増大します。
ホ 一般的に、資産の額が基礎控除後で3億円を超える方は700万円から1,000万円贈与すると節税効果は抜群です。贈与するだけで、相続税が大幅に減少するのです。
基礎控除後で3億円の資産家、相続人子ども二人の場合、成人の孫に1,000万円を贈与するだけで将来の相続税が400万円減少します。贈与した翌年に納税する贈与税は177万円なので、純節税額は223万円(400-177)です。
相続開始前3年以内の加算期間を7年に延長する今回の暦年贈与の改正は、この節税効果の高い資産3億円を超える層を狙い撃ちにしているといえます。
資産が2億円以下の方は、法定相続人が一人しかいない、それも二割加算の対象となる兄弟姉妹や甥姪というような場合を除き、相続時精算課税制度を適用するメリットは少なく、お勧めできません。
では、資産の額が3億円以上の方は、相続時精算課税制度を適用すべきなのか、はたまた暦年贈与を適用すべきなのか。次回で、詳しくご説明したいと思います。
効果ある資産活用・相続対策には、正確な知識と経験を有したベテランの税理士や弁護士を見つけることが第一歩です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。