

不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
換価遺贈の税務(続)
1. 事例
甲は自宅不動産を売却して、換価代金を大学へ遺贈する旨の遺言を作成しました。遺言が円滑に執行されるよう遺言執行者の指定も行いました。不動産の譲渡所得の申告と相続税の申告はどのようになるでしょうか。
2. 答え
相続税の納税義務者は、原則として「相続又は遺贈により財産を取得した個人」です。大学は、法人ですから大学が受け取った不動産や金銭は法人税の対象となり相続税の課税対象ではありません。大学に法人税が課税されるといっても、大学は公益性が高いので、法人税の納税義務が生ずるのは34種類の収益事業に限られ、不動産や金銭の受贈益には税金は課税されません。
譲渡所得はどうなるのでしょう。詳しく検討してみましょう。
一般的に、遺言執行者が遺産を換価して、代金を一定割合で分配せよとの遺言があった場合、相続又は遺贈により取得した財産は、換価処分代金なのか、換価処分前の財産なのか、換価処分による譲渡所得の課税はだれが行うべきかという問題が生じます。
換価する物がインゴットのような動産ならば、遺言執行者は、当該動産を買取業者に持ち込み、売却できます。相続人や受遺者は、遺言書に基づき、遺言執行者から交付された換価代金を相続又は遺贈により取得したもの、もしくは、換価代金の配分割合でインゴットを取得したものとして相続税や譲渡所得の申告を行うことが可能です(「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる」(新民法1015条)。)。
対して、換価する物が不動産の場合、登記の問題が生じ、動産とは異なる疑問が生じます。その典型例は、不動産を換価して、法定相続人以外の者へ金員を遺贈する旨の遺言です。
遺言執行者は、換価予定の不動産について、法定相続分で法定相続人名義への相続登記を行った上で(法定相続人不存在の場合は相続財産法人名義に登記を行った上で)、売却し(登記名義人の同意は不要)、換価代金を受遺者へ交付します(注)。
(注)遺言執行者の単独申請により被相続人名義から相続人名義に相続による所有権移転登記を経由した上で,遺言執行者と買主との共同申請により相続人名義から買主名義への所有権移転登記をすべきである」(昭和52年2月4日付 法務省民3第773号民事局第3課長回答)
この場合、一度法定相続人名義に移転するので、税務署の調査官は法定相続人が一度不動産を取得し、法定相続人が売却すると考えがちなのですが上の注書きのとおり、法定相続人は、不動産に関する実質的な権限を全く有しないため、税法上、譲渡所得の申告義務を課すのは酷です。受遺者が不動産を取得した後に譲渡したとして譲渡所得の申告と納税を行うべきなのです。この場合、被相続人の準確定申告でみなし譲渡の計算が必要になる可能性があります。
上述のような難しい問題が生じないように(税務署の調査官を悩ませないように)、実務的には「不動産を大学へ遺贈する。ただし、遺言執行者は当該不動産を譲渡換金し、換価代金から諸経費を控除した残額を大学に交付すること」という記載が望ましいのではないでしょうか。
不動産にまつわる相続・遺贈には意外と常識では計り知れないことが起こります。
なにかことが起こる前にベテランの税理士に相談してください。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。