不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
~必ずチェックしましょう~ 相続税の増税に備えてNo.9
前回(2015年6月号)は、とても難しい内容でした。完読された方には何かお贈りしたいほどです。今月は、前回の復習です。難しすぎた反省も含め、二世帯住宅にお住いの方やこれから二世帯住宅を建てようとお考えの方に、気を付けていただくことをなるべくシンプルにまとめてみました。
二世帯住宅の家にお伺いしたときに、どんな点に気を付けたらよいのでしょうか。税法や通達の細かな内容は別にして、目の付け所のポイントだけを抽出してみましょう。
「え!」と驚かれた人も多いと思います。通常、二世帯住宅は、同居の法定相続人がいます。息子や娘家族と同居したいから、二世帯住宅を建てるのですから、同居の法定相続人がいるに決まっているのです。ですから、基本的に、同居の法定相続人がその家を相続した場合に80%減額特例を受けることができ、その他の相続人は特例の適用を受けることができないはずです。
ところが、構造上区分された二世帯住宅では、独り住まいの被相続人が住んでいる部分(たとえば一階部分)には、同居している人はいません。出入り口が別々になっている二階部分に長男家族が住んでいても、構造上区分され、空間が断絶している二世帯住宅なので、厳密には、同居の法定相続人はいないのです。
「息子家族や娘家族が近くに住んでいる」というのに似ているのです。
「息子家族や娘家族が近くに住んでいる」というだけなら、独り住まいの方が亡くなられた場合、家なき子がその家の敷地を相続すると80%減額特例を受けることができるのです。
このように構造上区分された二世帯住宅では、意外なことが起こるのです。
構造上区分された(中でつながっていない)二世帯住宅の一階部分に老夫婦が住んでいて、二階部分に長男家族が住んでいる場合には、夫が亡くなったときに配偶者がいるので、家なき子は特例対象者として出てくることができません。
ところが、妻や夫に先立たれた独り住まいの方が亡くなった場合には、その人が住んでいた部分(たとえば1階部分)に同居の法定相続人がいなければ、家なき子が特例の適用対象者として登場できるのです。
二世帯住宅を建てる時に構造上区分した二世帯住宅と区分されない二世帯住宅のどちらを建てるか相続税も考えて決める必要があるかもしれません
特に、地価の高い地域に住んでいる方が二世帯住宅を建てる時には、誰にその土地を相続させるのかをよく考えていただき、構造上区分するかしないかを考慮するという余地もあるのです。
では、中でつながっている、「完全同居型二世帯住宅」のメリットはなんでしょうか。
答えは簡単です。同居人以外が相続すると相続税がひどく高くなるので、家なき子がいても、その家を欲しいと言い出しにくくなるということです。
この場合は、他の相続人(家なき子を含めた相続人)に分け与える財産を用意し、自宅は同居してくれる特定の相続人に相続させるという遺言を書くことをお勧めします。遺言と相続税の80%減額特例が上手くかみ合う手だてとなり得ます。
相続とは、プラスの財産だけを承継させるものではありません。配偶者の老後の介護までも含め、家族が仲良く生活を継続できるように配慮することが必要です。大切な家族のために、いかに財産を残すか。相続税にも配慮した遺言は有効な手段です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。