不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
贈与するなら、不動産?それとも現金?
地主のGさん(80)は、土地が大好きです。物心ついた頃から、祖父に手を引かれ、「ここからあそこまでがうちの地所、大切にするのだよ」と教えられたからでしょうか、誰かが「土地を買ってほしい」と言うと、どうしても欲しくなって手に入れ、いまでは代々相続した以上にたくさんの土地を所有しています。
でも、だんだん自分の相続税も心配になってきました。知人に、いまのうちにコツコツ贈与しておくといいよとアドバイスされ、かれこれ10年程前から土地を子どもと孫たちに贈与し始めました。Gさんには息子が4人います。これ好都合だと考え、Gさんは毎年、長男Aとその子どもたちには甲土地を、次男Bとその子どもたちには乙土地を、三男Cとその・・・というように、贈与を行っているのです。
この方法は相続税の対策として本当に効果的なのでしょうか。
問題点1 所有関係が複雑になる
このような贈与形態を採用すると贈与した土地の所有関係は次表のようになります。
まだ、贈与が完成していないので、どの土地にもGさんの持分が残っていますが、このような贈与の特徴は次のとおりです。
問題点2 不動産は価格が変動する
土地を贈与すると贈与された土地は、時の経過とともに値上がりしたり値下がりしたりします。土地の価額が未来永劫一定である可能性はないと言ってもいいでしょう。相続対策で重要なのは、今後我が国の経済がインフレになるのかデフレが継続するのかという判断です。これは、確実に予言できる人は少ないので、ご自分で方針を立てていただくしかありません。
不動産を現金より優先して贈与する場合、贈与が効果を発揮するのはインフレ経済の時です。今日1,000万円で買える土地が来年には2,000万円になるというように、時の経過とともに物の価値が上がり、貨幣価値が減少するのならば、大切な土地は、いまのうち子どもや孫に贈与してしまい、値上がり益はその人たちが享受するようにしてしまうのが効果的です。
逆に、デフレが続き、今日2,000万円した土地が、来年には1,000万円で買えるようになるのなら、相続税対策としては、土地よりも現金を優先して贈与する方法が優れているといえます。
問題点3 不動産は贈与するコストが高い
次に、贈与するコストも考えなければなりません。不動産を贈与してもらった人(受贈者)は、登録免許税と不動産取得税を負担しなければなりません。贈与を受けた子どもや孫が負担するのです。
贈与による登録免許税は、固定資産税評価額の1000分の20(2%)です。固定資産税評価額3,000万円の土地の持分1/10を贈与登記すると6万円かかります(3,000万円×1/10×2%)。これ以外に司法書士の手数料と不動産取得税が必要です。
宅地の不動産取得税は原則として次の算式で計算します。
同じ宅地を相続で取得すると登録免許税は1000分の4(0.4%)、1万2千円です。不動産取得税は課されません。遺贈の場合も受遺者が法定相続人ならば税率は同一ですし、受遺者が法定相続人でなくても包括遺贈ならば不動産取得税は非課税です。
法定相続人以外の人に土地を遺贈した場合(特定遺贈した場合)の登録免許税は、不動産の固定資産評価額×1,000分の20(2%)ですから、この場合は贈与と変わりません。
これをまとめると次表のとおりです。
まとめ
どうでしょうか。毎年、宅地を贈与なさる地主さんは多いのですが、これを機会に、ちょっと立ち止まって考えてみるのも良いことだと思います。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。