不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
~必ずチェックしましょう~ 相続税の増税に備えてNo.7
これまで、自宅と賃貸している宅地について、いざという時に小規模宅地等の課税価格の計算特例を使えるようにする方法を見てきました。まだまだ小規模宅地等の課税価格の計算特例についてはお話しすることがあるのですが、今回はちょっと目先を変えて、土地の評価の基本を考えてみることにします。
1.時価とは何か
(1)時価とは公開市場価格である
私が最初の税務署に赴任して、土地の譲渡所得や相続税の調査を担当したときに、疑問に感じたのは、「時価」とは何かということです。
「時価ってなんだろう」という疑問に対し、提示されたのは、次の答えです。
財産評価基本通達には、次のような規定があります。
不特定多数の者が自由に参加できる市場を公開市場といい、公開市場で形成される価格を公開市場価格といいます。これに対し、特定の者だけが参加して形成される価格があります。これを閉鎖市場価格といいます。閉鎖市場価格の典型例は、隣地を買収する時の価格です。閉鎖市場価格は、特殊なメリットを受ける買主に生じる価格で相続税の評価に使用する普遍的な「時価」ということはできません。
相続税法を見てみると次のような規定があります。
相続税法の評価額は、取得の時における時価ですから、相続又は遺贈により取得した財産を公開市場で買ってくるときの時価をいいます。相続税の実務では、よく「売ったらいくら」という考え方をする方がいらっしゃるのですが、実は、「買ってきたらいくら」というのが相続税法の定める時価なのです。
(2)相続税評価額は「中値」を基にしている
ただ、時価というのは難しい概念です。時価というアプリがあって、ちょっとクリックするだけで答えが出てくるわけではありません。「この土地の時価はいくらかな」という質問に、「現実に土地を売りに出して、二か月以内に成約する価格をいう」という答え方がありますが、これは案外妥当な時価かもしれません。
現実に、相続税の評価額に使用する路線価や倍率は、その地域の標準的な画地について、売り急ぎや買い進みという要素を排除した「中値」という概念で査定された価格(一般的に公示価格というものです。)の80%を目途に作成されていることになっています(平成4年度の税制改正に関する答申。)公示価格の80%を路線価とする理由は、評価の安全性(間違っても、実際に購入できる金額よりも高額な評価にならないようにする。)だけでなく、路線価の評価時点と課税時点のずれの調整でもあります。
と申しますのは、路線価の評価時点は、1月1日の価格なのです。年末、12月31日に相続が開始した場合、364日のずれが生じるわけです。課税時点と評価時点の時間的な間隔を調整するために、公示価格の80%を目途に路線価が評定されているのです。もし、値下がりしても、さすがに一年間に20%は値下がりしないだろうという発想です。
2.路線価の評定
(1)路線価の矛盾
路線価の評定作業の実務は、地元の不動産鑑定士を中心とした複数の精通者の意見を基に行われます。ただ、このとき奇妙なことが起こります。奇妙なこととは、売買実例が多い地域の評価は、現実に売れる価額の80%の水準の評価が容易に作成できるのに対し、極端に売買実例の少ない地域では(たとえば、二三年に一回しか取引が生じない地域)、評価の参考とすべき売買実例に事欠くことから、ある意味概念的な評価額になってしまう可能性があるのです。
そうすると、どんな現象が生ずるか。売買実例の少ない地域の評価では、担当者が保守的な評価を行うと、実勢価格を大きく下回る評価額が相続税の評価額となり、担当者が積極的な評価を行うと、過大評価が行われるおそれが生じます。現実には、評価は保守的に行われる傾向があるので、売買実例の少ない地域は、実際の売買価格に比べ、過小評価が行われている可能性が高いのです。路線価は公示地価の80%を目途に作成されているけれども、地域によっては、実際に取引される価格の70%だったり、40%だったりする可能性があるのです。
(2)固定資産税の評価の精度
都や市町村の固定資産税の評価にも精度の違いがあります。都市部の固定資産税評価は、国税局と同様の路線価方式を採用し、不動産鑑定士などに依頼した標準地価格を基に3年に1回評定を行います。税務署が管轄する地域に比べ面積が限定されていることもあり、不動産鑑定士や固定資産税課の職員が全ての地域を踏査し、豊富な資料を基に十分な時間をかけて評価している傾向があります。専門知識を有した者が時間をかけて評価するのですから比較的精度が高いといえます。
これに対し、人員や予算に限りがある市町村では、固定資産税評価を行うのに路線価方式を採用せず、一定の評価対象地域にポイント(基準値)を設け、基準値の評価を当該地域全体に適用するという大雑把な評価を行っている場合があります。
地価の高い都市部は、精密な固定資産税評価が行われ、地価が低く、売買実例の少ない地域は精度の低い保守的な評価が行われている可能性があるのです。
3.相続税評価がおかしいと感じたときは
相続税評価がおかしいと感じた時は、まず、隣接している道路と評価対象地の接している道路の環境が同一かどうかを調べます。評価対象地の直前までは車の往来が可能な道路であるのに、評価対象地に接している道路だけ段差があり、車の通行が不可能であるなどの特殊要因があるのに評価額が同一ならば、評価対象地の路線価は、誤っている可能性が高いと言えます。
都市部では、固定資産税の路線価からチェックする方法もあります。固定資産税の路線価と国税局の路線価が矛盾しているならば、国税局の担当者が誤った評価額を付けている可能性があります(もちろん逆の可能性もありますが)。用途地域が同一のAという土地に接している道路の路線価が国税100、固定資産税87なのに、評価対象地Bの路線価は国税100、固定資産税70ならば、国税局の路線価の設定が誤っている可能性があります。
もしおかしいと感じたら、現況を調査した資料を持参して、管轄税務署の評価担当者に相談してみるのも一つの方法です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。