不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
~必ずチェックしましょう~ 相続税の増税に備えてNo.1
1 はじめに
相続税法が改正され、平成27年1月1日以降に開始した相続では、基礎控除が現行よりも4割下がります。夫が亡くなり、妻と子ども2人、合計相続人が3名のケースで(各人が法定相続分どおり相続した場合)どれだけ影響があるのか見てみましょう。
課税価格の合計額(遺産から債務+お葬式の費用を引いた金額)が8,000万円の場合、改正前は税金が0円のところ、平成27年以降は175万円の納付が必要になります。課税価格の合計額が6,000万円の場合でも60万円の納税が必要になります(下表「現行税制と改正案の税額比較表」)。
今年(平成26年)、相続が開始した場合、基礎控除は8,000万円あります。これが、平成27年1月1日以降に相続が開始すると基礎控除は6割(4,800万円)に減ってしまうのです。除夜の鐘をきくだけで、一夜のうちに基礎控除がこれだけ減ってしまうのは驚きです。今年中に亡くなるか、来年以降に亡くなるかによって妻や子どもが負担する相続税が上述のように異なるのです。18世紀のイギリスの哲学者デイヴィッド・ヒュームが予言していたように、大量の国債を発行している国家の国民は、増税から逃れられない運命のようです。
「基礎控除」というのは、「それ以上財産がなければ税金の申告をしなくてもよい」という金額です。この金額が縮小するということは、相続税の申告義務を負う人たちが新年になると著しく増加するということです。
巷では、相続税の納税義務者が5割増しになり年間に亡くなる方の6%が相続税の課税対象となる、さらに、地価の高い地域、たとえば、東京都心に住んでいる人ならば、(年間に亡くなる方の)4人に一人が相続税の納税義務者になるのではないかと言われています。
かように増税が図られているのですが、安倍政権は生活の基盤である家や、商売に使っている土地を地価の高い都市部に持っている方については、増税の影響を受けにくくするように工夫もしています。生活の基盤であり処分が困難な自宅やご商売に使っている店舗の敷地などについて課税価格を減額する特例の拡充を図っているのです。「小規模宅地等の課税価格の特例」の拡充です。
この特例を適用できるかどうかで、相続税は、大幅に異なります。そこで、これから三回に分けて、地価の高い地域に土地を所有しているお三方(A氏、B氏、C氏)に登場していただき、大切な事前のチェックポイントをご説明したいと思います。
2 節税のための大切なチェックポイント
小規模宅地等の課税価格の特例を適用できる形になっているか。
小規模宅地の課税価格の特例とは、一定の要件を備えると、課税価格(相続税の税率をかけて税額を計算する価格です。)が最高80%減額される特例です。
相続した土地(240平米)の相続税評価額が1億円なら、税金の対象とされる課税価格は80%減額され2,000万円でよいという特例です(注)。この例でいえば80%にあたる8,000万円が税金の対象から除かれます。節税効果は群を抜く特例ですから、適用できるように準備することがなにより重要なのです。
(注)土地のうち課税価格が減額される部分は、本年なら240平米まで来年以降は330平米までと面積制限があります。事例の場合は240平米と目一杯80%減額されています。
(1) 具体的な例をあげてご説明しましょう。今回はAさんのお話しです。
イ) Aさん(88)は、土地を一か所、所有しています。土地の上には建物が建っています。築38年の自宅です。昭和50年Aさんが50歳のときに建てた自宅です。いまでは、二人の娘の子育ても終わり、妻と二人暮らしです。Aさんが亡くなった場合、この土地はどのように計算され相続税の対象とされるのでしょうか。
ロ) Aさんが亡くなった場合、相続人は妻と二人の娘です。妻がこの土地を相続すると自宅の敷地は330平米(本年中に亡くなると240平米)まで80%課税価格が減額されますが、娘たちが相続すると一切減額されません。自宅は残された妻にとって生活の基盤であり処分が困難なものです。このような宅地に対し単純に相続税額を算出すると納税資金が不足し、ひいては生活の基盤を損なうことにもなりかねません。それゆえ、妻が相続すると課税価格を80%減額して相続税を計算する特例が設けられているのです。
(注)「評価額が80%下がる」と説明している「専門家」がいますが、評価額は下がりません。税金の対象とする「課税価格」が減額されるのです。
ハ) 市街化区域の宅地の評価額は、原則として各国税局が定める路線価という価格を基に算出します。国税庁のホームページ(http://www.rosenka.nta.go.jp)を開くと、全国の路線価図が掲載されています。Aさんの自宅が面している道路には、300Dと記載されています。路線価は千円単位ですから、300とは平米当たりの単価が300,000円(30万円)という意味です。Dはその地域の借地権割合が60%であることを表しています(路線価図の上欄余白に記載されている表が借地権割合の区分表です。)。
ニ) Aさんの自宅の面積が200平米だとすると、評価額は6,000万円(30万円×200平米)です(この土地が正方形であるという前提で計算しています。土地の形が変形すればするほど宅地としての効用が落ちますから評価額は下がります。)。
ホ) Aさんが亡くなり、特例を適用してこの宅地の課税価額を計算する場合、妻が全部を相続するならば、6,000万円の8割(4,800万円)が減額され相続税の対象となるのは1,200万円だけです。4,800万円が相続税の対象から除かれますから、税率が一割でも480万円が、三割なら1,440万円納税額が減少します。(別居の)娘たちが相続するとこの減額は行えません。
(2) 事前のチェックポイント
イ) まず、亡くなった方の自宅(生活の本拠)の敷地かどうか
相続財産である土地でも、課税価額が80%減額されるのは自宅の敷地でなければなりません(注)。
(注)この他、80%減額される特例には、400平米まで80%減額されるご商売に使っている土地を商売を継ぐ親族が取得した場合がありますが、これについては、次々回のCさんの例でご説明する予定です。
Aさんの場合は、亡くなる直前まで自宅に住んでいましたから、自宅の敷地はAさんの生活の本拠です。
ロ) 一定の要件を満たした者が相続又は遺贈により取得しなければ適用できません
自宅の敷地を相続する人は、
①配偶者か同居の親族(注)でなければなりません。
②配偶者も同居の法定相続人もいない場合には、相続開始前3年以内に自己又は自己の配偶者が居住している家屋に居住したことがない親族(いわゆる「家なき子」)が相続又は遺贈により取得するとこの特例を受けることができます。
(注)この場合は法定相続人に限りません。同居している甥や姪などの親族に遺贈すると特例の対象になり得ます。
Aさんの場合は、配偶者がいましたから、配偶者が相続すると330平米(本年中に亡くなると240平米)まで、課税価格が80%減額されます。逆に配偶者がいるので、娘たちはアパート暮らしであっても(自己又は自己の配偶者が所有している家屋に住んでいなくても)、この特例を受けることができません。
次回は、独り暮らしのBさんの場合をご説明する予定です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。