不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
自宅の(特定居住用小規模宅地等)課税価格特例の改正案
自民・公明両党は、平成29年12月14日午後、政務調査会長や税制調査会長らが会談し、来年度の税制改正大綱を正式に決定しました。年収850万円を超える給与所得者に対する増税が目を引きますが、相続税に関し多くの人に影響がある改正は、自宅の小規模宅地等の課税価額の特例の制限です。
自宅の小規模宅地等の課税価格の特例とは、亡くなった方の自宅の敷地を一定の親族が相続又は遺贈により取得すると330㎡を限度として、80%課税価格を減額する特例です。
この特例を適用できる親族には優先順位があり、その順番は次のとおりです。
①配偶者又は同居の親族
②配偶者又は同居の法定相続人がいない場合
※いわゆる家なき子(この度の税制改正大綱では「持ち家に居住していない者」という表現を採っています。適用を受ける人が亡くなった人の子どもならば、その子どもが自分名義の家又はその子の夫や妻名義の家に、相続開始前3年以内に住んでいない人をいいます)。
この特例の特色は、適用を受けられる人の範囲を一定の親族としていることです。
亡くなった人に配偶者がいれば、たとえ仲が悪く長い間別居していた場合でも、亡くなった人の戸籍上の夫又は妻が亡くなった人の自宅の敷地を相続するとその人(夫又は妻)が相続した敷地に関しては最高330㎡まで課税価格が80%減額されます。
配偶者以外に第一順位に登場するのが同居の親族です。亡くなった人と同居していた人が法定相続人でなくても遺言で敷地を譲られた場合には、この特例を使って相続税の申告を行うことができます。
配偶者や同居の法定相続人がいない場合には、上述の家なき子が取得した敷地についてこの特例の適用が可能です。
資産家の子どもたちの多くは、自宅を所有していることが多いので二次相続では、この特例の適用を受けることができません。父が亡くなり、母が自宅敷地を相続した後、(たとえば十数年後に)母が亡くなると(この相続を二次相続といいます。)、母が再婚していない限り配偶者はいません。母が一人で住んでいた場合には、配偶者や同居の法定相続人がいないので、その敷地を相続する人が家なき子ならば課税価格を80%減額して申告することが可能ですが、多くのケースで特例の適用はかないません。
そこで、自分が住んでいる家を親や一族で経営している会社に買い取ってもらうとか、自宅に住んでいない孫に自宅敷地を遺贈するとかという方法を取る人が増えています。
これを封じ込める意図で、この度の改正案では次の制限を設ける予定です(税制改正大綱の原文のまま引用します。)。
持ち家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の特例の対象者の範囲から次に掲げる者を除外する。
①相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者
②相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有したことがある者
税法に不慣れな方には、魔法の言葉のように見えるかもしれません。
解説すると次のとおりです。
資産家Aさん(88)は配偶者がいません。一人で自宅に住んでいます。子どもB(65)とC(62)は各々持ち家に住んでいます。いまAさんが亡くなると自宅の敷地につき80%減額特例を使える相続人はいません。そこでBさんの家をAさん個人に、又はAさんが経営する同族法人株式会社A興産に、買い取ってもらいます。現行法令ですと、Bさんが家をAさん個人、もしくは同族法人A興産に売った後(Bさんは、売った家にそのまま住み続けるのですが)、3年を経過した時以降にAさんが亡くなるとBさんは家なき子として特例の適用を受けることができます。
上述①は、これを封じ込めるための改正です。ご参考までに三親等の血族は次の図のとおりです。親族とは6親等内の血族と3親等内の姻族をいいますから、次の図の血族の配偶者も対象となります。
先ほどの例で、Aさんは大学生の孫D(Bさんの子ども)に自宅の敷地を遺贈すると、現行法令では、Dは親であるBさんの家に住んでいるので特例の適用を受けることが可能です。改正後は、この孫Dも(居住している家の持主である親Bは三親等内の親族ですから)特例の適用対象外になります。
それでは、BやCが持家を三親等外の親族に売った場合とか三親等の親族や同族会社に売った後3年を経過した場合はどうでしょうか。上述の②はその対策を意識して相続開始時点でBやCが住んでいる借家(親などから無償で借りている場合を含む。)を過去に所有していた場合も適用対象外としています。
改正の影響
従来、子ども全員がすでに持家に住んでいる場合、自宅の敷地を孫に遺贈するのが最も簡明な対策でした(遺産の分け方としては代償分割と組み合わせます。)。Aさんが亡くなった時に孫が大学生になり、親の家を離れ、大学の寮や賃貸マンションに転居して3年を経過すると対策は効果を発揮します。3年以内に亡くなると効果が封じ込められるということになりそうです。
じゃあ、中学高校全寮制の学校に入れるといいのではないかという質問もお受けしています。この改正案では、子弟を全寮制の学校に入れられる富裕層が有利になるのかもしれません。
自宅の小規模宅地等の課税価格の特例は、効果が大きいのでなるべく適用できるように工夫したいというご相談を多く受けています。元気なうちに相続税の節税を意識した遺言を作成することが、紛争の防止にも効果的です。ぜひ、ベテランの税理士にご相談ください。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。