不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
建物の価格の決め方
「土地建物を売ったのですが、土地の価格と建物の価格をどのように決めたらよいのでしょうか」という質問をよく受けます。
これ、意外に難しい質問です。
その理由は、この質問の本質にあります。
この質問は、「税法の規定がどのようになっているか」とか、「税法をどのように解釈したらいいか」という問題ではなく、純粋に「土地建物の価格をどのように決めるのか(決めたのか)」というだけの問題です。これは、本来、売手と買手の駆け引きによって決定される問題です。
それを税理士に質問しても的確な回答を得られるはずがないのです。それなのに、なぜ、このような質問を税理士にするかといえば、建物の価格を高くするか低くするかによって税金が異なることがあるからです。
売主が消費税を負担する課税事業者である場合には、建物の価格が高くなればなるほど、消費税の負担は大きくなります。消費税の課税事業者である売主にとっては、建物の価格が低ければ得になるわけです。逆に、買主が建物を賃貸したり、商売に使う場合には、建物の価格が高ければ高いほど、毎年の経費となる減価償却費を多くとることができます。このような買主にとっては、土地建物の総額が変わらなければ、建物の価格が高い方が有利です。ただ、建物を自宅として使ったり、非事業用に使う場合は、将来、譲渡する時に未償却残高が少なくなるので、不利と言えば不利です。
国税庁は、どうでしょう。タックスアンサーを見ると消費税の適用に関しての回答ですが、次のような回答を示しています。
課税標準|国税庁
Q:建物と土地を一括譲渡した場合で、建物代金が区分されていないときは、建物代金はどのように計算したらよいでしょうか?
A:土地とその土地の上に存する建物を一括して譲渡した場合には、土地の譲渡は非課税ですので、建物部分についてのみ課税されます。
この場合、譲渡代金を
1.譲渡時における土地及び建物のそれぞれの時価の比率による按分
2.相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分
3.土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含みます。) を基にした按分
などの方法により土地と建物部分に合理的に区分する必要があります。
なお、それぞれの対価につき、所得税又は法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算における取扱いにより区分しているときはその区分した金額によることになります(消法令453 消基通10-1-5)。
問題が事実認定なので、国税庁も「合理的に区分」としか言いようがないようです。
税務実務では、賃貸していたり事業用に使っていたりする建物は、既に減価償却の計算をしているので、取得価額が不明だということはありません。加えて、中古の建物が値上がりすると言う事はめったに見られないことなので未償却残高を売値と見ることにより譲渡所得の計算は比較的容易にでき、売主の消費税の計算もそれほど悩むことはありません。
買主はどうでしょう。新築の建物を業者から取得する場合は、消費税の額が明らかになっているので建物の取得価額を計算することは難しくありません。
問題は、中古の建物を消費税の課税事業者以外のものから取得する場合です。
この場合でも、買主が取得直後に建物を取り壊している場合には、一括で支払った対価の総額は、土地の取得価額と見ることができるので簡明です。
実務的には、消費税の課税事業者である買主が取得した建物を商売に使ったり、他に貸し付けたりして賃料を得る場合に生ずる質問だといえます。
この場合、合理的な区分をどこに求めるかは、個々の取引ごとに具体的な取引事情を考慮して判断します。土地の価額を近隣売買実例や路線価から推定し、総額から推定土地価額を控除した残額(=建物価額)が、固定資産税評価額や再建築価額と比較して不合理な金額になっていないかを検討します。全体の価額が土地推定価額を下回るケースでは、買主の建物の利用状況なども参考に区分を検討します。
税法の要件や解釈とは異なる、個々具体的な事実認定の問題なのです。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。