不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
~必ずチェックしましょう~ 相続税の増税に備えてNo.4
今回は、地価の高い地域で開業医を営んでいるドクターDのお話しです。
1 相続税対策の相談
ドクターDは、88歳になります。いたって元気ですが、歳も歳です。テレビや新聞で相続税の増税の話題が流れるので、今更ながら、相続税のことが心配になりました。でも、心配になったのはほんのちょっとです。いままで、相続税のことが話題になると、「その税金はわしが払うわけじゃないからな」と笑い飛ばすのが習わしだったのです。
2 まず、財産明細表を作る
ドクターDは、開業医として過ごした時期が良かったのか、一代で蓄積した財産はざっと8億2千万円あります。内訳は、預貯金が4億円、上場株式が2億円、不動産が2億2千万円です。不動産は約220坪(約730平米)の土地です。地上には自宅と診療所が建っています。
ドクターDの財産明細表は次のとおりです。
三井住友トラスト不動産の無料税務相談を申し込み、ベテランの税理士に相続税の試算をしてもらったところ、このまま相続が開始すると、三人の息子は2億6千万円ほどの相続税を負担することになることが分かりました。
図2をご覧ください。遺産8億2千400万円に対し、想定される相続税は約2億6千万円です。
3 超富裕層ほど贈与が有効
思わず、ドクターDは生真面目そうな税理士に向かってつぶやきました。
「ふむ、息子三人以外にオクニサンという相続人がいるようなもんじゃのう」
税理士は、思わず相好を崩しましたが、また謹厳な顔に戻りこういいました。
「まあ、そんなものですね。ただ、ここで重要なのは、相続税の『実効税率』というものです。相続税を遺産の額で割ると(ここでは便宜上、葬式費用や債務を無視して考えています。)31.50%です」
「で、それを使って何をするのかね」
「先生のように遺産が多額で相続税の負担が大きい方は、相続税対策として、贈与が効果的なのです」
「ほお、贈与税は相続税の補完税といって、贈与をすると相続よりも高率な税金を取られると思っていたのだが間違いだったのかな」
「ええ、一般的にはそういいますが、相続税の基礎控除が40%引き下げられた見返りといいますか、20歳以上の子どもや孫に対する贈与税の税率が今年から一部引き下げられたのです」
「ほう、それがどんな影響を」
「今年から毎年、20歳以上の息子さんに一人当たり1,000万円贈与すると(新しい税率表で計算した)贈与税は、177万円(贈与税の実効税率は17.7%)です。10年間、毎年1,000万円贈与すると合計1億円の贈与に対し、支払う贈与税は1,770万円です。相続で息子さんが負担される相続税は遺産1億円に対し31.5%の3,150万円です」
「え?! 毎年1,000万円ずつ、10年間で贈与すると、相続税より1,380万円お得というわけか!(注)」
「そ、それ以外に何か方法はあるかね。仕事している場合じゃないな。これは!」
(注)ここでは、相続開始前3年の贈与加算は考慮していません。
4 決め手は、自宅と診療所の小規模宅地等の課税価格の特例
「一番重要なことがあります。それは、ご自宅と診療所の課税価格を引き下げる特例(小規模宅地等の課税価格の計算の特例)を上手に使うことです」
「え!? 上手に使うって?」
「ご自宅の土地と診療所の敷地の相続税評価額は合わせて2億2千万円です。これを(今から手を尽くせば)相続税の計算上1億7千600万円引き下げる方法があるのです」
「君、課税価格が1億7千600万円も下がると、相続税はどれだけ少なくなるのだ」
「5千544万円も少なくなります」
5 80%減額特例を目一杯使うためには
良い相続税対策というのは、シンプルなものです。
ドクターDは、比較的地価の高い地域に自宅と診療所を持っています。事例は自宅の敷地が330平米、診療所の敷地が400平米と80%減額特例(小規模宅地等の課税価格の計算特例)の限度面積(自宅と事業用の土地の特例合計730平米)に一致します。そうすると、各々の土地について「特例を使える条件を備えた相続人や受遺者」が取得すると80%課税価格が減額されるのです。
特例を使える相続人や受遺者とはどんな人をいうのでしょうか。
自宅の敷地については、もうおわかりですね。診療所は特定事業用宅地等として一定の要件を備える必要があります。概略は次のとおりです。
【 特定事業用宅地等 】
特定事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除きます)の用に供されていた宅地等で、次の要件のいずれかを満たす被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます。
具体的にはどんな人が適用可能なのでしょうか。どのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。
紙数が尽きそうなので、残念ながら詳しい解説は次回に行います。皆様、来月まで、考えてみてください。
参考:ドクターDの家族構成は次のとおりです。長男(62)は弁護士です。次男(61)は、サラリーマンでしたが昨年停年退職して現在無職です。三男(58)は勤務医です。いずれも自宅を所有しています。三男の子ども(24)は医大生です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。