不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
令和5年度税制改正の解説2 相続時精算課税制度の選択
令和3年11月13日に開催された税制調査会で話題に上がった「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について」という日本語としては難しい表現の意味するところが、昨年12月に公表された令和5年度税制改正大綱によって、明らかになりました。
「中立的な税制の構築等」の意味するところは、相続開始前3年以内に行われた贈与について遡及期間を7年に延長するというものです。
対して、相続時精算課税については、制度適用以降行われる毎年の贈与については、すべて相続税に加算する制度であったものを毎年の贈与から110万円まで加算対象から外す手当てが行われました。
暦年贈与課税には厳しく、相続時精算課税制度は少しだけやさしく、緩める方向の改正が行われたのです。
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では、相続時精算課税制度を適用すべきなのか、はたまた暦年贈与を適用すべきなのか。
この問題に答えるためには、まず、相続税の課税の仕組みを理解することが必要です。
1. 事例:相続税の基礎控除後3億円の資産家A(86)がいます。もし、Aが亡くなった場合、相続人は長男と次男の二人です、Aの配偶者はすでに他界しています。
Aが1,000万円を孫に贈与した場合の相続税の節税効果はどれだけあるでしょう。
(※)3億円は、基礎控除4,200万円控除後の金額です。
2. 最初に結論を見てみましょう。Aが18歳以上の孫に暦年課税制度を使って1,000万円贈与します。贈与税は177万円必要ですが、将来の相続税は400万円減少します。1,000万円贈与するだけで、差し引き223万円の相続税の節税効果が生ずるのです。
3. なぜこのような効果が生ずるのかは、相続税額の計算の仕組みにあります。
相続税の総額を計算するためには、長男と次男が法定相続分で取得したと仮定した額を算出します。事例では、下図のとおり各々1億5,000万円ずつ取得します。
次に税率を掛けるのですが、相続税法では、次のように計算すると定められています。
下図をご覧ください。1千万円までは一番下の欄のとおり10%で100万円、1千万円を超えて3千万円までは15%で300万円、3千万円を超えて、5千万円までは20%で400万円と順次、累進課税が行われ、1億円を超えて(この事例では)1億5千万円までは40%で2千万円が税額です。このように計算して算出した税額の合計が4,300万円となるのです。
この資産家が1,000万円を贈与すると、上の累進課税の税率表のどの部分が減るでしょうか。そうです。事例の累進税率表では、最高の40%の対象となる1,000万円がなくなるので、相続税は40%、400万円が減少するのです。
資産家Aは単に1,000万円を贈与するだけで将来の相続税が400万円減少し(その代わり贈与税が177万円生ずるので)、223万円の節税が可能となるのです。
1,000万円贈与するだけで、車一台分の税金が浮くのです。
ただ、この効果は、遺産の額が少なければ減少してしまいます。遺産の額が1億円、相続人は長男、次男の二人のBさんは、1,000万円を孫に贈与しても、上の表で見ると減少する欄の税率は15%ですから150万円しか将来の相続税は減少しないどころか、贈与税が177万円課税されるので、贈与することにより27万円税金を増やしてしまうことになります。
「中立的な税制の構築等」という難しい日本語を受けての改正にどのように対処するべきなのか。残念ながら、紙数が尽きてしまいそうです、続きは次回に。
相続税と贈与税の仕組みをきちんと理解しているベテランの税理士に相談することが重要です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。