不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
ほんとうの専門家に頼まないと
不動産の相続の方法
税理士事務所に深刻な顔つきの青年が尋ねてきました。10年ほど前に相続した賃貸ビルが大変なことになっているというのです。
「先生、大変なことになっているのです」
「どう大変なのですか」
「10年ほど前、父が亡くなり、当時、相続税評価額で14億円のビルを母と姉と弟と私の4人で相続しました。」
「ほう、それはそれは、相続税が大変だったでしょう」
「ええ、相続税は全部で3億3千6百万円ほどでした。父の預金が4億円ほどあったので、私たち子どもは父の預金を一人当たり1億2千万円相続し、1億1千2百万円納税しました」
「なるほど、そうすると次の表のような形で相続したのですか」
「そうなのです。母の持分はいずれ私ども兄弟3人が相続することとなるので、最終的には3人共有になるから、その時お願いしていた税理士さんは『これでいい』という話だったのですが、いま考えると大変なことをしてしまった感じです」
「なにが起こったのですか」
「弟が先日亡くなって、弟の奥さんと甥2名が共有で相続すると言ってきたのです」
「ビルの共有者が3人増えることになったのですね」
「そうなのですが、弟ならばなんでも相談できたのですが、弟のお嫁さんと甥では、そうもいきません。特に、甥の一人は何を考えているかわからない青年で・・・」
「なるほど」
「心配なのはそれだけではないのです。姉が事業で失敗して、ビルを売りたいと言ってきたのです」
「それは大変ですね」
「おまけに母が認知症になっていて、成年後見人をつけないと売れないというのです」
「困りましたね」
「ええ、It never rains but it pours. 『降る時は土砂降り』というのはこのことですね」
不動産を共有にするのは、直ぐに売却する時以外は避けましょう。
理由は、時が経てばたつほど共有者が増える傾向があるからです。相続開始直後は母と子3名、合計4名の共有です。母が亡くなっても、母の持分を子どもが相続すると共有者は3名です。ところが、子どもがなくなり孫の代になると、通常、共有者が増加し、曾孫の代になると更に共有者が増える傾向にあります。一つの賃貸ビルのオーナーが24人いるというようなケースもあるのです。
おまけに、共有者の一人でも反対したり、意思能力が無くなっていたり、行方が知れないときは、不動産を換金することがとても困難になります。連絡がつかない人がいると相続登記さえままなりません。
どうしてこんなことが世間では起こるのでしょうか。
原因は専門家の選定にあります。税法だけでなく相続実務にも習熟した税理士に依頼しないと思わぬ心配事が生じることがあるのです。
その他、よくあるミスリードとしては「『相続税の申告までに不動産の相続登記が完了していなければいけない』とアドバイスされ、急いで登記をすませたために、合理的な分割協議ができなくなった」などというものがあります。
相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立していないと各種特例(配偶者の税額軽減、小規模宅地等課税価格特例など)を使えないのですが、登記がすんでいなければならないことはありません。特例を受けるためには、分割協議さえ成立していればいいのです。
相続税が課税される方は勿論のこと、課税されない方でも、不動産の相続の仕方について相続登記を行う前にベテランの税理士に相談することが、不要な税負担を避けるためにも、思わぬ心配事を抱えないためにも、必要なことかもしれません。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。