不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
(続)ほんとうの専門家に頼まないと
不動産の相続の方法
前回のコラムをお読みになった方からこんな質問がありました。
不動産を共有にしない方がいいといわれても、事例では次表のとおり、全財産に占める賃貸ビル一棟の割合が78%と大きすぎて、法定相続分に近い形で分けるには、共有しか考えられません。ベテランの税理士に相談してもメリットがあるとは思えません。
おっしゃるとおり、物で分ける方法(現物分割)では、賃貸ビルの割合が高すぎて、ビルを共有にする以外に分ける方法がありません。もっとも、一棟のビルの各部屋を区分所有登記して分ける方法が考えられないこともありませんが、はたして対象となる賃貸ビルがそのような方法に向いているかは具体的に慎重に検討しなければなりません(ビルにより適否がありますが、区分所有登記をして、各フロアばらばらに売り買いできるようにすると、まとめて一棟で持っているよりも価額が下がる可能性もあるのではないでしょうか。一棟の賃貸マンションの場合は、区分所有登記して各戸ばらばらに売り買いできるようにしたほうがよいかもしれません。いずれにしても不動産の専門家に相談するなど注意が必要です。)。
これ以外に遺産分割の方法としては、賃貸ビルを売り払ってしまい。その代金を分割する方法(換価分割)もあります。
賃貸ビルを売り払って分割する方法は、正確に表現すると「分割が確定していない遺産を換価して換価代金を分割する方法」です。この場合、譲渡所得の計算をどのようにしたらよいかという、問題が生じます。未分割状態の遺産は潜在的に法定相続分で各相続人に帰属しているので、未分割で処分する場合は、法定相続分による共有割合で譲渡したとして計算するのが原則です。
さらに、相続人の一人に一棟まるごと相続させ、他の相続人には対価を支払う方法もあります(代償分割)。
代償分割を行った場合、税金はどのように計算するのでしょう。
14億円のビルを相続人Aが1人で相続し、他の相続人B、C、Dにはお金を払う場合を考えてみましょう。この場合、Aが1人でビルを相続する他の相続人B、C、Dには3億5千万円ずつ支払うという遺産分割協議書を作成します。代償分割ではB、C、Dが各々取得する3億5千万円は相続で取得するため相続税が課税されます。Aは14億円から他の相続人に対する代償債務10億5千万円を引いた残額に対し相続税を負担します。相続人全員がビルの時価を相続税評価額で算定し、代償金額を計算する場合は、相続税の評価額と代償債務に矛盾が生じませんが、B、C、Dがビルの時価を17億5千万円として代償金を各々4億3,750円支払うようにAを説得した場合、Aはビルを14億円として申告しますから、代償金13億1,250円を代償債務として計上するとAの課税財産は8,750万円となります。B、C、Dは各々代償財産として4億3,750万円を申告します。この結果、B、C、Dの負担する相続税が増加し、Aが負担する税額は減少することになります。
これを調整する方法としては、下の計算式のように、相続税の申告書に記載する代償金をビルの相続税評価額14億円と時価17億5千万円の比率で案分し減額した額で申告する方法があります。
国税庁は、時価との乖離を調整することなく通常の評価方法で評価する方法(上の例でいえばAは8,750万円、B、C、Dは4億3,750万円)を原則としています。ただ、当事者である相続人間で申告書に記載する代償債務の金額を上の式のように「代償分割物の相続税評価額と時価との比率」で案分した額で申告することも認めています。
相続税の実務の世界では、相続財産の金額や形態により税負担が変わるばかりではなく、遺産分割の仕方により、将来の財産運用にも影響が生じます。相続が開始したら、分割協議書を作成する前に、不動産の相続登記をする前にベテランの税理士によく相談していただくことが重要です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。