専門家執筆Q&A
奥野 尚彦

境界・筆界Q&A

境界・筆界
Q&A

土地家屋調査士
土地家屋調査士法人東西合同事務所
奥野 尚彦

境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。

土地と土地との境界に関わる事柄をQ&A形式で解説しています。

国土調査促進特別措置法

Q
国調(コクチョウ)という言葉を聞きますが、何のことですか。
A

(1)国土調査法という法律に基づいて、行われる国土調査のことです。

 現在令和2年を初年度とする第7次国土調査事業十箇年計画が進行中です。
国土調査の定義は条文によれば以下のとおり規定されています。

「国土調査」というのは、

イ)

国の機関が行なう基本調査、土地分類調査又は水調査

ロ)

都道府県が行なう基本調査

ハ)

地方公共団体又は土地改良区その他の政令で定める者(以下「土地改良区等」という。)が行なう土地分類調査又は水調査で指定を受けたもの及び地方公共団体又は土地改良区等が行なう地籍調査で指定を受けたもの等をいいます。

「基本調査」は、

 土地分類調査、水調査及び地籍調査の基礎とするために行なう土地及び水面の調査(このために必要な基準点の測量を含む)並びに土地分類調査及び水調査の基準の設定のための調査を行ない、その結果を地図及び簿冊に作成することをいいます。

「地籍調査」は、

 国土調査の一部であり、筆毎の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行ない、その結果を地図及び簿冊に作成することをいいます。

 土地に関する記録である登記簿は登記所において維持管理されています。管理されている地図や図面はその半分程度が地図に準ずる図面と呼ばれる旧土地台帳附属地図(いわゆる公図)です。
 公図は、境界線や形状などが現実と異なっていることがあり、登記簿の面積も正確では無い場合もあります。
 昭和32年の国土調査法改正により、地籍調査成果を活用するため「地籍の明確化」が追加されました。地籍調査を実施した市町村等は、都道府県等から成果の認証あるいは指定を受けることができます。認証された地籍調査成果若しくは地籍調査成果と同一の効果があるものとして指定された成果は登記所に送付されます。登記所では送付された成果に基づき土地の表示に関する登記及び所有権の登記名義人の氏名若しくは名称若しくは住所について変更の登記若しくは更正の登記、場合によっては分筆又は合筆の登記をしなければならない、と規定されています。図面は地図として備え付けられることになりました。

 したがって、私たちに直接関係するのは、地籍調査ということになります。

(2)地籍調査とは

1筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査です。
 地籍という言葉は、土地に関する戸籍といった意味合いで、土地に関する様々な情報を指します。

自治事務として、主に市町村等の地方公共団体が主体となって実施されます。
 市町村が実施する場合は、調査に必要な経費の1/2は国が補助、1/4は都道府県が補助しており市町村の負担は残り1/4となりますが、さらに、市町村や都道府県が負担する経費については、80%が特別交付税措置の対象となっていますので、実質的には市町村は5%の負担で地籍調査作業を実施することが可能です。
 地籍調査が行なわれる地域の住民、地権者などに個別に負担が生じない仕組みとなっています。

地籍調査の実施状況
 平成25年度末時点で地籍調査の進捗率は51%程度のようです。特に都市部(人口集中地区)及び山村部(林地)において進んでいません。関東、中部、北陸、近畿で調査が進んでおらず、特にその都市部では進捗率が20%に満たないなど大幅に遅れています。

Q
国土調査促進特別措置法は何のために設けられたのですか。
A

 昭和26年から地籍調査が開始されましたが、事業の進捗が十分ではありませんでした。
 そのため、調査の促進を図るため、昭和37年に国土調査促進特別措置法が制定されました。これに基づいて「国土調査事業十箇年計画」が定められ地籍調査が強力に推進されることになりました。現在は令和2年4月に決定された「第7次国土調査事業十箇年計画」に基づき、地籍調査が実施されています。

Q
先日役所から地籍調査の立会いを求める案内がきました。具体的にはどんなことが行なわれているのでしょうか。
A

(1)地籍調査の作業工程
 地籍調査は以下の手順で進められます。④の段階で土地所有者に立会確認を求める通知が行なわれます。

事業計画・準備

基準点測量
 地籍調査において必要となる測量の基礎とする基準点を設置・測量を行なう作業です。国土交通省の国土地理院が行ないます。

地籍図根測量
 基準点を基礎として地籍調査に必要な地籍図根点、地籍図根三角点といった細部の基準点を設け、細部測量、一筆地測量に必要な基準点を測量設置します。

注)

図根点というのは、境界点の位置を決定するための基礎とする点で、一筆地測量を行なう土地の近くに必ずしも公共基準点が設置されるとは限らないため、境界点の誤差の限度を保てるように多く設置されるものです。図根点には座標値が与えられます。

一筆地調査
 土地の現況を把握するため、登記所備付の地図又は地図に準ずる図面の写しを基に、調査素図を作成するとともに、登記情報に基づき地籍調査票を作成します。
 地籍調査票を基に現地で関係土地所有者と現地で立会い、各筆毎に所有者、地番、地目及び境界に関する調査を行ないます。

地籍細部測量
 地籍図根多角点等を使用して各筆毎の境界を測量し、地籍図の原図を作成する作業です。地積図根点を補完する細部図根点や境界点の座標を求めるための一筆地測量を行ないます。

地積測定
 地籍細部測量により求めた境界点の座標値を基に、各筆毎の土地の面積を測定する作業です。

地籍図及び地籍簿の作成
 一筆地調査及び地積測定の結果に基づき地籍簿案を作成し、地籍簿案並びに一筆地測量により作成された地籍図原図を20日間の閲覧に供します。閲覧期間を経過して地籍図及び地籍簿を作成し、これらを数値化する作業です。地籍簿案、地籍図に異議がある場合は、この期間に申出を行ないます。

(2)一筆地調査における立会等

一筆地調査の段階になると、関係土地所有者に対し現地調査への立会い、確認を求める通知がなされます。住所不明所有者等に関しては可能な範囲で調査を行ない、通知などの処理が行なわれます。

できる限りの筆界に関する資料からその復元点を現地に示し、関係土地所有者の同意を求めます。

同意を得られた場合には、関係土地所者等の協力を得て、境界標を設置します。

以上を基に地籍細部測量が行なわれます。

Q
立会をしなかった場合はどうなるのでしょうか。不利益があるのでしょうか。
A

現地調査に際し立会いを行なわなかった場合、あるいは立会いを行なったものの境界について納得がいかず同意しなかった場合は、該当地及びその隣接土地については未確定土地として土地と土地の境界線の表示がなされないまま地籍図が作成されます。

自分は土地所有者として立会い同意したとしても、隣接地所有者が同意しない、あるいは住所不明所有者等で立会いできなかった場合には、そこに接する自分の土地は隣接地とともに境界未定の土地として扱われます。

出来上がった地籍図では、未定地はまとめて集合画地(一つの区画の中に複数の土地の番号が併記してある形式)として表示されます。
 例えば、自己所有地が100番、同意を得られなかった隣接地を101番とすると、100番と101番の両方をあわせて1区画として記載し、その中に地番が(100+101)といった形式で記載されることになります。

集合画地となった両土地は別個に分合筆、地積更正、地目変更の登記申請ができません。ただし、両土地全体の地目変更、合筆は可能です。

地籍調査結果に基づいて登記所での処理が完了した後で、この集合画地を解消して100番、101番の境界線を記入するには、それぞれの土地について境界確認作業を行ない、ともに区画を確定したうえで、地積更正登記手続きを行なう必要があります。この作業により、登記所備付となっている地図に100番と101番土地の境界線の記入が行なわれます。
 この作業には多くの費用と期間が必要であり、その費用は全て個人が負担する必要があります。

Q
地籍調査にはどのような特徴がありますか。
A

(1)地籍調査の成果により、登記所の公簿が書きかえられます。
 地籍調査が終わりますと地籍図と地籍簿の写しが登記所へ送付されますので、登記所の登記官は登記情報の所有者、地目、地積と地籍簿の内容が一致しないときは、地籍簿に基づいて登記情報の記載を変更します。地籍図は原則として、登記所に地図(いわゆる14条地図)として備え付けられます。

(2)地籍調査は、公法上の境界(筆界)を復元しようとするものですが、筆界そのものを創設するものではありません。
 地籍調査は、境界を確認し図示する手続きですが、そのとおり境界が確定されてしまうわけではないのです。筆界は土地が登記簿に初めて記載された時に原始的に創設されるものですので、存在する登記情報を現地に実現しようとする行為は、あくまでも境界を事実上確認したという意味しかありません。
 したがって、地籍図が間違っていれば訂正できますし、地積更正登記も可能です。また、公法上の境界を決定する境界確定訴訟などの道が閉ざされるわけではありません。

(3)事実上の効力
 一度地籍調査結果により公簿が書きかけられ、地籍図により地図が備え付けられますと、強力な公示力がありますので、これを覆すのは事実上難しいことになります。
 集合画地の場合と同様に、地籍調査の内容と異なる主張をするには、再度所有地の地積更正登記を行なうための境界確定行為が必要となります。