専門家執筆Q&A
奥野 尚彦

境界・筆界Q&A

境界・筆界
Q&A

土地家屋調査士
土地家屋調査士法人東西合同事務所
奥野 尚彦

境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。

土地と土地との境界に関わる事柄をQ&A形式で解説しています。

外壁の後退距離

Q
建物を新築しようと考えていますが、建物は境界線から50センチ以上離さなければいけないと聞きました。何故でしょうか。
A

1.民法の規定
 民法に境界線付近の建築の制限として、①建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない②その規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。
 と規定されています。このことを指すものと考えます。
 これは御隣との生活環境を確保する目的で、所有権の内容に制限を加え互いの利益を調節していると考えられます。御隣同志の建物の間隔が狭いと、建築、修繕に不便、防災上危険、日照・採光・通風に支障をきたすなどお互いに様々な弊害があるからです。
 この場合の距離とは、建物など構築物の基礎部分、建物側壁の出窓など固定的な部分から境界線までの最短距離とされています。庇、軒先は建物ではないので対象にはなりませんが、勿論境界線を越境していると越境という別の問題となります。

2.相隣者間での協議
 距離の規定は御隣同士互いの所有権に関する制限ですので、御隣同志の協議により自由に変更することができます。境界線に接して建築することも可能です。

3.建築の中止又は変更
 協議によらず一方的に隣接者が距離保持に違反して建築しようとする場合には、その建築を中止させるか変更させることができます。
 この時に問題になるのが、境界線の位置ということになります。建物建築する際に役所に申請する建築確認申請手続きは必ずしも境界の確定を要求しませんので、本件地の所有者の主張線で行なうことができますが、隣地との境界確認が行なわれていない場合は50センチを確保できていない、ということで工事がストップする可能性があるということです。工事予定が変わりますので、入居予定、建築費用に大きく影響します。

Q
店舗を開くため建物を現地で確認したのですが、御隣との境界線ギリギリに建物が建築されています。仲介業者は大丈夫というのですが、購入してから問題になりませんか。
A

1.建築基準法の規定
 建物を建築する際の拠り所となる建築基準法で「隣地境界線に接する外壁」として防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。
 と規定されています。
 この根拠については様々な先例・判例がありますが、建築確認申請手続きにおいては、防火地域又は準防火地域内で外壁が耐火構造であれば、外壁が隣地境界線に接していても、必ず認められ建築することができます。
 これは、防火上、土地利用上その他の公益上の見地から定められたものであり、民法の50センチという規定に優先します。

2.物件場所の用途地域、地区を確認
 都市計画法及び建築基準法により、土地の存在する一定の範囲につき用途地域(住居地域、商業地域など)を定め、その用途地域内で建築可能な建築物が定められています。これと並行して市街地では火災の危険を防除するため「防火地域又は準防火地域」が定められます。
 本件地が防火地域又は準防火地域内の土地で外壁が耐火構造であれば、問題ありません。外壁に耐火構造を要求するのと引き換えに、この規定を満たせば隣地境界線に接して建物建築することができます。
 ちなみに防火地域内の耐火建築物は建蔽率の計算においても緩和される規定となっています。

【参考】
(境界線付近の建築の制限)
民234:建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。

 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

民235:境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。

 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。