境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。
筆界特定制度-行政
1.公的機関が筆界を判断します
中立・公正な立場で客観的に正しい筆界の位置を特定することを可能とするため、登記行政を行なう法務局が筆界を判断します。一度筆界特定が行なわれると、これに納得できなくて裁判手続きが開始された場合においても、証拠価値を有するものとして活用されるなど、一定の証明力を有することになります。
2.当事者は立証責任を負わない
筆界特定を申請した者自らが証拠資料の収集の負担を負わず、主張する境界線につき立証責任を負いません。
3.当事者は対立構造をとらない
裁判のように相手方を訴える必要がありません。土地所有者が法務局に判断を求める申請を行ない、これを受けた筆界特定登記官が判断を示す、という形式をとるためであり、できる限り相隣関係を壊さない方法といえます。
4.行政処分としての効力はない
行政処分としての効力はないので、筆界特定結果にかかわらず土地所有者はいつでも裁判手続きを選択できます。
5.筆界特定結果は登記情報の中に特定記録として記載
筆界を特定した根拠が特定記録として明らかにされ、筆界特定が行なわれた土地であることが登記情報に記載されます。その内容は社会的通用力を有することになりますので、分筆、地積更正などの登記手続きは筆界が確定しているものとして、筆界特定の内容で行なうことができます。
6.和解の手続きがなく、筆界についての判断は必ず行なわれる
筆界特定には当事者の話し合いにより解決していくという制度はありませんので、筆界を特定する当事者の主張にとらわれることなく、筆界特定登記官の独自判断により必ず筆界が特定されます。
ただし、地図混乱地域のように土地の配列が不明の場合は筆界特定ができません。また、筆界点を1点に絞れないときは、境界線の位置する位置を一定の範囲(A~Bの間という具合に)として特定される可能性があります。
特に以下の場合に意義があると考えます。
①
隣地所有者が立会、境界確認に応じない場合
②
境界について双方の主張が相違し、手を尽くしたが決め手が無く合意できない場合
③
自己所有地の共有者の一部が境界確認に協力しない場合
④
境界確認の相手方が、分譲マンションあるいは多数の共有者であり、共有者間で境界についての認識が一致しない、あるいは境界確認書類の締結を拒否する共有者がいる場合
⑤
官民の境界確認手続きで、境界確認を申請している本人に異存ないのに、役所から要求される利害関係人(通常は、隣接地所有者あるいは道路、水路などの狭長物を挟んだ対側の所有者など)の承諾が得られず官民境界確認が完結しない、あるいは、承諾を得られない隣地から一定距離を控えたところまでしか確定できない(一部査定といいます)場合
例えば、官民境界確認手続きの結果、
イ)思いのほか官有地の範囲が大きく建物等の敷地に大きく食い込んでくるなどの経緯があって、隣地所有者が申請人との民民間の境界については異存がないが、官民の境界線については納得しない場合
ロ)隣地所有者が申請人との境界確認自体に協力しない場合
ハ)官地を挟んだ向側土地の所有者の承諾を要求されたが、上記①②④と同じ事情により承諾を得られない場合
などが実務上現実に少なからずあります。
1.事前に法務局での相談を経て、筆界特定室へ申請書類提出
筆界特定制度になじむ案件かどうか、事前に相談して確認が必要です。隣接地所有者と境界確認の協議を行なわずいきなり筆界特定制度を利用しようとする場合、所有権界の判断を求めたりする場合は筆界特定制度の趣旨からなじまないといえます。
土地の評価額に応じた申請手数料を納付する必要があります。
2.受付
法務局は、申請書類を受領したら、申請人の適格、記録事項につき審査を行ないます。
3.公告・通知
申請がされた旨の公告を法務局若しくは地方法務局及び管轄登記所に掲示します。また関係人に申請がなされた旨の通知を行ないます。
4.筆界調査員の指定及び実地調査
筆界調査員及びこれを補助する法務局職員が、職権で必要な資料を収集します。
申請人及び関係人に実地調査を行なう旨を連絡して、現地実地調査を行ないます。対象土地の確認、境界標、構築物、地形等必要な事実の調査を行ない、申請人、関係人及びその他の参考人等への事情聴取を行ないます。必要に応じて申請人等に立会を求め現況測量を行ない、その結果で筆界に関する論点の整理、争点を明確にします。
5.特定調査・測量
論点整理結果を踏まえ、筆界特定を行なうために必要な対象土地の測量・実地調査を行ないます。
この場合に、法務局では事前に特定調査測量の費用を算定して、申請人に予納を告知し供託所に費用を予納させます。この予納がないと特定測量は実施できません。
申請人から予納された場合、申請人及び関係人等に立会依頼の通知を行ない、境界標、構築物、地形等の再調査、特定測量を行ないます。特定調査・測量において、申請人及び関係人の立会がないからといって筆界特定ができないということはありません。
6.意見聴取
筆界特定登記官は、公告時から筆界特定までの間に、意見聴取等の期日を開催しなければなりません。申請人及び関係人に対し、意見聴取等期日の通知を行ない、意見書面の提出、資料の提出をする機会を与えます。
7.筆界特定
意見聴取の期日の実施後、筆界調査委員は意見書を筆界特定登記官に提出します。筆界特定登記官は意見書の内容を踏まえ、登記記録、地図又は地図に準ずる図面及び登記簿の附属書類の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮して、対象土地の筆界特定を行ない、筆界特定書を作成します。
申請人には筆界特定書の写しを交付し、関係人に筆界特定がされた旨の通知を行ないます。
また、筆界特定がされた旨の公告が、法務局若しくは地方法務局及び管轄登記所に提示されます。
8.記録の保管・公開
筆界特定登記官は、筆界特定手続き記録を管轄登記所に送付し、管轄登記所で保管されます。
管轄登記所の登記官は、対象土地の登記記録の表題部に筆界特定があった旨の記録をします。
筆界特定手続き記録のうち筆界特定書又は図面の全部又は一部の写しの交付請求ができ、筆界特定書等以外の筆界特定手続記録の閲覧請求ができます。
筆界特定書等の写しは誰でも手数料を納付して請求できますが、その他の手続き記録の閲覧請求は、請求人の利害を有する部分に限り認められます。
法務局又は地方法務局の長は、標準処理期間を定め、事務室内へ掲示するなど公にしなければならない、と定められています。
各法務局で実情に応じて定められますが、東京法務局の場合、手続きの案内で目途とする期間として9か月と記載があります。案件にもよりますが、通常9か月~16か月程度の期間を要するようです。
1.申請手数料
登記手数料令8条に規定があり、固定資産税台帳に登録された土地の価格に基づいて算定されます。
対象土地の合計額の2分の1に5%を乗じた額 | 単価 | |
100万円までの部分 | 10万円までごと | 800円 |
100万円を超え500万円までの部分 | 20万円までごと | 800円 |
500万円を超え1000万円までの部分 | 50万円までごと | 1600円 |
1000万円を超え10億円までの部分 | 100万円までごと | 2400円 |
10億円を超え50億円までの部分 | 500万円までごと | 8000円 |
50億円を超える部分 | 1000万円までごと | 8000円 |
【金額例】
筆界特定するA土地の金額の評価額が3,000万円、B土地の評価額が4,000万円の場合、で11,200円となります。
ただし、通常筆界特定申請を行なう相手方の土地の評価額は知りえないことが通常なので、その場合は、申請人の所有するA土地についてのみ計算した金額で仮に印紙納付のうえ申請します。申請を受けた法務局で他のB土地の評価額を取得し、規定に従い計算したうえで手数料額を確定します。申請人は法務局の確定額と先に納付した金額の差額を追加納付する(又は還付を受ける)必要があります。
また、筆界特定を行なう対象土地が申請人A土地に対し隣接地B土地、C土地、D土地と複数筆ある場合は、それぞれB土地、C土地、D土地という相手方ごとに手数料を算定し、その合計額が必要な手数料となります。
面積が大きい土地あるいは多数の筆を相手方とすると手数料が嵩むことになります。
2.手続き費用(主に特定測量費用)
筆界特定登記官が手続きに必要と考えて行なった測量等の行為に要する費用は申請人が負担しなければなりません。通常は特定測量費用がこれに該当します。
手続費用は全国一律、定額に決まっているものではなく、現場に応じて必要な範囲、内容が異なりますので、筆界特定申請の段階では手続き費用の概算額を提示するのは困難です。
特定測量の場合を概略想定すると、通常の境界確定に要する費用程度の金額が必要になります。
3.申請手続き書類作成、申請に要する費用
土地所有者が自ら申請書類を作成し、境界につき意見を述べることができたら特に必要ありません。業として行なえる資格者代理人として、土地家屋調査士、弁護士、簡易訴訟手続きの代理業務を行なうことができる司法書士がいます。代理人に手続きを依頼する場合は、その報酬額が必要となります。
4.準備手続きとしての調査・測量
筆界特定手続きを行なう場合は、申請書の必要的筆界特定申請情報として「筆界特定を必要とする理由」「対象土地の状況」を記載しなければならなりません。また、任意的筆界特定申請情報として「関係土地の状況」「筆界についての申請人の主張及びその根拠」「関係人の筆界についての主張」があります。いずれも、対象土地、関係土地についての調査・測量を要するものであり、土地所有者みずから行なうことが難しいと考えられる部分もあるので、この部分を業務として委託することも可能です。この場合に、委託業務の内容に応じた費用が発生します。
申請人の資格は以下のとおり定められています。
1.所有権登記名義人等
土地の所有権登記名義人等が筆界特定の申請をすることができます。
①
表題登記があり、かつ、所有権の登記がある土地については、所有権の登記名義人(登記されている共有者含む)及びその相続人その他の一般承継人
②
表題登記があり所有権の登記がない土地については、表題部所有者(登記されている共有者を含む)及びその相続人その他の一般承継人
③
表題登記がない土地(未登記の土地)については所有者(共有者を含む)。自己の所有権を証明する必要があります。
2.隣接する土地所有者が共同で申請
隣接する土地の所有者が共同で申請することもできます。
①
共有名義の土地については、共有者の一人からでも申請できます。
②
所有権に関する仮登記の名義人は、所有権登記名義人等に含まれません。
③
一筆の土地の一部の所有権を取得した者も申請できます。
④
申請は所有権登記名義人等に限定され、担保権者、用益権者には認められず、また所有権者に代位することも認められていません。
⑤
民有地と官有地で境界確定協議が成立した後でも、民有地と民有地との境界確定協議が成立した後でも申請できます。
3.代理人
業として筆界特定の手続きについての代理をすることができる者を資格者代理人といい以下の資格を有する者が定められています。
①
土地家屋調査士:土地の表題登記、地積更正登記、分合筆の登記などの申請代理業務を通して、現地の調査及び測量に関する専門的知識及び経験を十分に有しています。
②
弁護士:一般の法律事件についての業務として行なうことができます。
③
簡易訴訟手続きの代理業務を行なうことができる司法書士:その業務の範囲内で一般の法律事務について業務を行なうことができる弁護士に準ずる法律専門家として業務を行なうことができる。
ただし、目的の額(筆界特定申請の場合は、筆界特定申請手数料の算定の基礎の額140万円を超えない場合がその範囲となります。
筆界特定制度の特徴から以下の事に注意する必要があります。
1.境界確定訴訟への移行
行政処分としての効力が認められていませんので、たとえ筆界特定がなされても境界確定訴訟を行なうことができます。逆に境界確定訴訟で判決が確定した場合は、筆界特定をすることができません。
筆界特定も境界確定訴訟も公法上の境界を目的にしますので、境界確定訴訟が提起された場合にも、筆界特定手続記録は正確な事実の把握が行なえる重要な訴訟資料となり活用されます。
2.幅による確定可能性
法務局で調査を尽くしても現地における筆界の位置が判明しない場合は、筆界特定ができないのですが、例えば、筆界点の位置としておおよその位置しか特定できない場合、筆界点の可能性がある点を1点に絞れない場合は、範囲で示される可能性があります。この場合は、示された範囲内のどこかが筆界ということになり、これも筆界特定として成果になります。
3.現地には境界標が設置されない
筆界特定した筆界点は座標値により記録されることになっているため、当然に境界標が設置されるわけではありません。また、土地の所有権登記名義人等にも境界標設置を義務付ける規定がなく、ただ、筆界特定が行なわれたときに、法務局から永続性のある境界標を設置してくださいと説明されるだけです。
筆界点の位置を目で見て確認でき、将来の紛争防止に役立ちますので是非とも設置したいところですが、相手方との関係で難しいこともあるかもしれません。