底地・借地の法律で悩んでいる方、これから定期借地権等で土地を貸そうと検討している方、借りようとしている方に知っていただきたい底地・借地に関する法律のポイントをまとめています。
貸主の義務
地主は、借地人に土地を引き渡した後も、その土地を利用させる義務の他に、その土地の使用収益に必要な修繕をする義務、借地人がその土地の状態を保存・回復するために必要な費用やその土地の価値を上げるのに有益な費用を支出した場合にその費用等を償還する(借地人に支払う)義務などを負います。土地を借地人に引き渡したら地主の義務は終わり、ということにはなりません。
修繕というと建物の修繕がイメージされますが、土地の場合でも、例えば崖崩れや地盤沈下があった場合など、借地人がその土地を利用できるようにするための修繕を施す必要が生じる場合があります。
その土地の状態を保存・回復するために必要な費用は、必要費と呼ばれ、借地の場合、例えば地震による地盤沈下があった場合の土盛り費用など、その土地を利用できる状態にするために必要な費用が含まれます。
土地の価値を上げるのに有益な費用は、有益費と呼ばれ、借地の場合、例えば、石垣の築造や、道路開設など、客観的に判断してその土地の価値を増加させる費用が含まれます。この有益費に含まれるかどうかは、あくまで客観的に判断されますので、借地人の個人的な趣味嗜好による改良等により生じた費用は有益費には含まれず、その費用を借地人に支払う必要はありません。
この有益費の場合、借地人が地主に支払いを請求できるのは、借地契約が終了してからです。そして、地主は、有益費として借地人に支払う金額について、借地人が実際に支出した金額にするか、又は請求時点でその土地の価格が増価している分の金額かどちらかを自由に選択することができます。
工事が可能であれば地主の義務となります。
地主には、借地として貸している土地の使用収益に必要な修繕をする義務があります(【Q地主は、賃貸借契約を締結して、その土地を借地人に引き渡した後も、借地人に対して何か義務を負うのですか。】参照)。
地主は借地人に土地を貸した以上、それを使用収益させる義務があり、この義務から、その土地を使用収益できるよう修繕する義務も派生して生じるのです。
地主の修繕義務は、修繕が必要で、かつ可能な場合に生じます。
そして、修繕が必要となるのは、修繕しなければ借地人が契約によって定まった目的に従って使用収益できない状態になったときです。たとえ借地に何らかの障害が生じたとしても、その程度が借地人の使用収益を妨げるものでない限り、地主の修繕義務は発生しないことになります。
どの程度、借地人の使用収益に支障があれば、修繕義務が生じるかについては考え方が分かれており、判例は「著しい」支障が生じていることが必要としているようですが、「通常の」支障が生じていれば修繕義務が発生するとの考え方も有力です。
また、修繕義務が発生するのは、修繕が可能な場合に限られます。修繕が可能であるかは、物理的な観点だけではなく、経済的な観点も含むとされています。
なお、平成29年の民法改正により、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった場合には、賃貸人に修繕義務がないことが明らかにされました。
豪雨により土留施設が損壊して安全に使えなくなっている場合、借地人によるその土地の使用収益に支障が生じておりますので、修繕が可能であれば、地主には、損壊した土留施設を修繕して安全に使えるようにする義務があります。
民法上、賃貸借契約については、賃貸人の賃借人に対する費用償還義務が定められており、この「費用」には必要費と有益費があります。必要費とは、賃借人が賃借物の使用収益をするために必要なものとして、賃借物の原状を保存し、その使用収益を妨げる欠陥が生じた場合にそれを修繕して原状に回復するなどの費用をいいます。有益費とは、賃借物の改良のために支出し、賃借物の客観的価値を増加させた費用をいいます(【Q地主は、賃貸借契約を締結して、その土地を借地人に引き渡した後も、借地人に対して何か義務を負うのですか。】参照)。
設問の場合、借地人による工事が借地の使用収益をするために必要なものであれば、地主は、その工事費を必要費として支払う必要があります。また、工事が借地の使用収益をするために必要ではないものの、借地を改良し借地の価値を増加させるものである場合には、地主は、工事費又は増価額(価格の増加が現存する場合)を有益費として支払う必要があります。