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底地・借地の法律Q&A

底地・借地の法律Q&A

底地・借地の法律
Q&A

弁護士
田宮合同法律事務所

底地・借地の法律で悩んでいる方、これから定期借地権等で土地を貸そうと検討している方、借りようとしている方に知っていただきたい底地・借地に関する法律のポイントをまとめています。

底地・借地の法律に関する法律をQ&A形式で解説します

借地紛争・相続

Q
借地人が借地契約を守ってくれません。借地契約を解除することはできますか。
A
1.解除原因はあるか

 借地契約を解除するためには、具体的な借地契約の解除原因が必要です。借地人が借地契約を守ってくれないということですが、軽微な契約違反では直ちに借地契約を解除することはできません(【Q地代を確実に払ってもらいたいので、1か月でも支払いが遅れたら即解除できるようにしたいのですが、可能ですか。】参照)。

2.催告が必要か

 契約を解除するためには、相手方に対して、契約を守るように一定の期間を定めて催告し、その期間を過ぎても契約に違反していたときに解除の意思表示をすることが必要になります(【Q地代の支払いが滞っていたので、期間を定めて支払を催告したのですが、期間経過後に地代を支払ってきました。借地契約を解除することはできないのですか。】参照)。
 もっとも、借地契約は、地主と借地人との間の信頼関係に基づいた継続的な契約といえます。そのため、軽微な契約違反があっただけでは客観的に信頼関係が壊れたと評価されず契約を解除することができない反面、客観的に信頼関係を破壊するような重大な契約違反が認められる場合には、先ほど述べた催告の手続なく借地契約を解除することができます。
 このように、借地契約の場合には、原則どおり催告をしたうえで解除する場合と催告なく解除できる場合の2通りがあることになります。
 具体的に借地契約の解除に踏み切る場合に、催告がいる場合かいらない場合かという判断は、法的評価が必要ですので、弁護士などに意見を求めたほうがよいでしょう。

3.解除通知を送付する

 借地契約を解除するためには、解除の意思表示が借地人に届かなければなりません。そのため、後で解除の意思表示が届いたかどうか争いになることを防ぐために、配達証明付の内容証明郵便にて、借地人に解除通知を送付すべきでしょう。
 解除通知の中には、例えば、地代を3か月分払っていない、無断転貸をした等の解除事由を記載したうえで、先ほど述べた催告をする場合には、「本書面到達の日から○日以内に地代全額の支払いをするよう催告するとともに上記期限内に地代全額の支払いをしなければ、借地契約を解除する。」などと記載し、催告をしない場合には「承諾を得ずに借地をAに転貸したので、借地契約を解除する。」などと記載して、解除の意思表示であることを明確にすべきです。
 この通知の内容が不十分であると、後に解除の有効性を巡って争いになり、借地人から土地の明渡しを受けるまでに多くの時間がかかってしまう可能性がありますので、解除通知は弁護士などに作成してもらった方がよいでしょう。

Q
借地人との契約を解除して、借地人に立ち退いてほしいときには、法律上どのような手段をとることが考えられますか。
A
1.契約を解除した後の手続

 借地契約を解除できたということは、借地人は、地主から契約を守るように催告を受けたのにこれを守らず、借地人と地主との間で信頼関係の破壊があったという場合でしょうから、そのような借地人が任意に(自分の意思で)建物を収去(取り壊して撤去)し、土地を明け渡す可能性はさほど高くないといえるでしょう(借地契約の解除について【Q借地人が借地契約を守ってくれません。借地契約を解除することはできますか。】参照)。

2.調停及び訴訟-民事保全手続の必要性も含めて

 そのため、基本的には、借地人に対して建物収去土地明渡請求訴訟を提起するということになります。この場合、借地のある場所又は借地人の住所地を管轄する裁判所が管轄裁判所となりますが、滞納地代の支払いも合わせて請求する場合などは、地主の住所地を管轄する裁判所も管轄裁判所となります。借地契約の解除の効力に問題がなければ、基本的に大きな争点が生じることは少ないと思われますので、土地の有効活用のためにも粛々と訴訟の手続を進めるべきでしょう。なお、訴訟を提起した後に、借地人が建物を売却したり、第三者に借地上の建物を占有させた場合には、借地人に対する勝訴判決では、これらの者を強制的に退去させることができません。そのような事態を防ぐために、民事保全手続というものがありますが、この手続の必要性や具体的な内容については、個別に弁護士に相談して下さい。
 仮に、借地人から地主の納得できる明渡期限が提示されたら、そのときに訴訟の手続の中で和解をすることもできます。借地人が和解の内容に違反して借地を明け渡さなかった場合には、和解調書に基づく強制執行をすることもできます(強制執行の手続について【Q借地契約を解除して、借地人に対して建物を収去して土地を明渡すよう求める訴訟を起こしたところ、地主の勝訴判決となり、判決が確定しました。このあと、どのようにして、借地人に立退きを求めていけばよいですか。】参照)。
 以上のように基本的には訴訟にて解決すべきですが、借地人と協議のうえ、具体的な明渡期限や未払い地代の支払い方法を合意により定める調停という手続もあります。
 調停は、裁判官(調停官)1名と弁護士などの2名の調停委員で構成された調停委員会が当事者の言い分を聞き、譲歩を促して当事者間の合意による解決を目指す手続です。調停が成立した場合には、調停調書が作成されます。借地人が調停の内容に違反して借地を明け渡さなかった場合には、調停調書に基づく強制執行をすることができます。

3.訴え提起前の和解

 まれに借地人が任意交渉の段階で具体的に明渡期限を特定して、土地の退去を申し出ることがあります。この場合に、地主が借地人の述べる条件に納得できるのであれば、その明渡期限を明示した明渡し合意書を作成します。
 しかし、借地人が約束を守るとは限りません。その場合に、訴訟等を経なくても土地の明渡しの強制執行をできるようにするために、裁判所を通じて合意書の内容での和解調書を作成することができます。この手続を「訴え提起前の和解」といいます。
 具体的には、地主が借地人の住所地を管轄する簡易裁判所に申立書と和解条項を提出して申し立てます。申立てが適法であれば、裁判所が期日を決め、借地人を呼び出します。期日で借地人に異議がなければ、その場で和解が成立します。借地人が和解に違反して土地を明け渡さなかった場合には、この和解調書に基づいて、強制執行をすることができます。

Q
借地契約を解除して、借地人に対して建物を収去して土地を明渡すよう求める訴訟を起こしたところ、地主の勝訴判決となり、判決が確定しました。このあと、どのようにして、借地人に立退きを求めていけばよいですか。
A

 判決が確定したことを受けて借地人が自ら建物を収去して土地を明け渡してくれればよいのですが、借地人との間で訴訟にまで発展し、かつ和解も成立せずに判決にまで至った場合には、借地人の自発的な対応を期待できないかもしれません。
 借地人が建物を収去して土地を明け渡さない場合には、建物収去土地明渡しの強制執行手続を進めることになります。具体的には、裁判所に対して、建物収去命令の申し立てを行って授権決定を得たうえで、執行官に対し、建物収去と土地明渡しの執行を申し立てることになります。そして、執行官が土地明け渡しの催告を行ったのち、建物収去の実施と土地の明渡しの断行が行われます。
 強制執行手続を行うには、必要となる書類を集めるだけでも煩雑な部分があり、手続のなかで法的な理解が必要となる場面がありますので、強制執行手続は弁護士に委任した方がよいといえるでしょう。

Q
借地人は、土地上に木造二階建ての建物を建築し、その建物を住居として使用しています。しかし、借地人は、土地上の建物を鉄筋コンクリート三階建てのものに建て替え、1階を店舗とし、2階を住居として賃貸し、3階に借地人自身が居住するつもりのようです。どのように対応すればよいですか。
A
1.借地契約の内容を確認する

 借地契約書の中に、借地上の建物の種類や構造、規模又は用途を制限する条項は入っていますか。この条項が入っていないのであれば、借地人は、建物所有の目的の範囲内また法令の範囲内で自由に借地を利用できますので、地主から、借地人に対して、建て替えをやめるように要求することはできません(なお、増改築を制限する旨の条項があれば、要求できる場合があります)(【Q借地人から建物を改築したいとの申し入れがあったのですが、これを機会に地代を値上げすることはできるのですか。】 【Q建物を建てたいという人に土地を貸そうと考えていますが、借地契約で、借地人が建築する建物の種類、建物の階数といった建物の構造などについて、制限することはできますか。仮に制限する約束をしていた場合、借地人がこれに違反したら、契約を解除できますか。】参照)。

2.建物の種類、構造、規模又は用途を制限する条項が入っている場合

 これらの条項が入っていた場合に、借地人が地主の許可なく建物の建て替えを行った場合には、借地契約の条件違反となり、信頼関係の破壊が認められる場合には、借地契約を解除できます(【Q建物を建てたいという人に土地を貸そうと考えていますが、借地契約で、借地人が建築する建物の種類、建物の階数といった建物の構造などについて、制限することはできますか。仮に制限する約束をしていた場合、借地人がこれに違反したら、契約を解除できますか。】参照)。そのため、地主としては、建て替えを検討している借地人に対して、そのまま建て替えを続ければ借地契約を解除すると通告したり、借地人が建て替えを済ませてしまった場合には、弁護士と相談のうえ、借地契約を解除する旨の通知を送ったりすることが考えられます。
 もっとも、借地人としても、借地契約を解除されては困りますので、建て替えを行う前に地主に借地条件を変更するように求めてくるものと思われます。設問では、建物の種類、構造、規模、用途が変更になりますので、この点を変更することへの承諾を地主に求めてくるでしょう。
 地主は、借地人の要求を拒否することも自由ですし、要求に応じる代わりに承諾料の支払いを求める等の交渉をすることも自由です。

3.地主の承諾に代わる裁判所の許可

 借地人としては、地主の承諾を得られない場合、従前の借地条件に拘束されることになりますが、通常の借地権の存続期間は、借地借家法のもとでは最低30年間とされており、30年の間に借地に関する事情が変更することも想定でき、一定の場合には当初の借地契約の条件を変更する必要があることも否定できません。
 そこで、借地上の建物の種類、構造、規模、用途等を制限する条項がある場合に、借地条件の変更について地主と借地人の協議が整わないときは、借地人から裁判所に借地条件変更を求める申立てがなされることがあります。
 ただし、一時使用目的の借地権では、この申立てはできません(一時使用目的の借地権について【Q土地を短期間に限って一時的に賃貸する方法はありますか。】参照)。
 そして、法令による土地利用規制の変更や付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により、従前の借地条件を変更することが相当といえる場合には、裁判所は、借地条件を変更することができます。
 設問の場合でも、周辺に鉄筋コンクリートの建物が増えてきたといった事情や法令に基づく防火地域指定により木造建築ができなくなったなどの事情があると、条件変更が認められやすくなるでしょう。
 また、裁判所が借地条件を変更する場合に、地主と借地人の利益のバランスを図る必要があるときは、他の借地条件も変更したり、地主に対する承諾料の支払いを条件としたりすることができます。例えば、木造の建物所有の目的から鉄筋コンクリート造の建物所有目的に借地条件を変更する場合には、借地人から地主に更地の価格の10パーセント程度を支払うことが条件とされることが多いようですが、具体的な金額や条件は事案によると言わざるを得ません(なお、増改築承諾料については、更地の価格の①3パーセント程度の場合、②3パーセント未満の場合、③3パーセントを超える場合などがあります)。

Q
借地人が地主への連絡もなく、借地上の建物を増築しようとしています。これに対して地主として何か主張できますか。借地人から借地上の建物を増築することへの承諾を求められた場合には、どうすればよいですか。
A
1.借地契約書を確認する。

 まず、借地契約書を確認しましょう。借地人が借地上の建物を増改築する前に地主の承諾が必要となる特約がありますか。例えば、「借地人は、借地上の建物を増築又は改築するときは、事前に地主の書面による承諾を得なければならない。」といった特約です。
 このような特約がなければ、借地人は、借地条件や法令に抵触しない限り、自由に借地上の建物を増改築できることになります(【Q借地人から建物を改築したいとの申し入れがあったのですが、これを機会に地代を値上げすることはできるのですか。】参照)。

2.増築をする前に借地人から増築の許可を求められた場合

 増改築をするために地主の承諾が必要となる特約がある場合には、借地人から地主に対して、増築を行うことの承諾を求めてくると思われます。地主は、承諾をするかどうかを借地人と協議のうえ任意に判断してよいということになります。
 この特約に違反して借地人が増築を行った場合には、信頼関係を破壊する特段の事情が認められないのであれば、借地契約の解除が認められることになります(【Q地代を確実に払ってもらいたいので、1か月でも支払いが遅れたら即解除できるようにしたいのですが、可能ですか。】 【Q建物を建てたいという人に土地を貸そうと考えていますが、借地契約で、借地人が建築する建物の種類、建物の階数といった建物の構造などについて、制限することはできますか。仮に制限する約束をしていた場合、借地人がこれに違反したら、契約を解除できますか。】参照)。

3.協議が整わなかった場合-承諾しなかった場合に行われる手続

 借地人は、増改築をするために地主の承諾が必要となる特約がある場合に、地主との協議が整わなかったときには、裁判所に対して、地主の承諾に代わる建物増改築の許可を求める申立てをすることができます。ただし、一時使用のための借地権の場合には、この申立てをすることができません(一時使用目的の借地権について【Q土地を短期間に限って一時的に賃貸する方法はありますか。】参照)。
 裁判所は、借地人の求める増改築が土地の通常の利用上相当であるといえる場合には、増改築の許可を出すことができます。例えば、建物の建築面積が土地の一部分だけであった場合に、法律上許される範囲まで建築面積を広げる増改築などは、土地の利用上相当と判断されることが多いなどと言われています。
 また、裁判所は、増改築を許可するにあたって、地主と借地人の間の利益のバランスをとる必要があると考えるときには、いわゆる承諾料の支払いを許可の条件とするなどの処分をすることができます。具体的な承諾料の金額は、個別具体的な事案によりますが、目安として、全面改築の場合には更地価格の3~5パーセント、それに至らない増改築の場合には、それよりも低い額になったり、そもそも承諾料の支払いを条件としないという判断がなされることもあり得ると言われています(【Q借地人から建物を改築したいとの申し入れがあったのですが、これを機会に地代を値上げすることはできるのですか。】参照)。

Q
借地人との借地契約を更新した後に、借地上の建物が滅失しました。借地人は、再び建物を建てようとしています。地主として借地人に何か主張できますか。
A
1.借地契約の内容を確認する

 問題となっている借地権が平成4年8月1日よりも前に締結された借地契約で借地法が適用される場合と、それ以降の借地契約で借地借家法が適用される場合で結論が異なります。
 もっとも、借地借家法に基づく借地権の存続期間は、最短でも30年間とされていますので、借地借家法に基づく借地契約の更新後の建物滅失という事態が生じるのは、平成34年8月1日以降ということになります(【Q借地契約の期間について、どのようなルールがありますか。】参照)。

2.平成4年8月1日よりも前に締結された借地契約による場合

 この場合は、借地契約更新の有無にかかわらず、借地人が建物を再び建てることは自由であると考えられており、地主は借地人に建物再築を禁止することができません。
 もっとも、借地権者が再築した建物が借地権の存続期間を超えて存続する建物であった場合に、地主が遅滞なく異議を述べなければ、借地契約の期間は、建物が滅失した日から、堅固な建物については30年、非堅固な建物については20年となります(ただし、もとの期間の方が長いときは元の期間は変更されません。(【Q借地上の建物が火災で焼失した場合、借地契約の期間はどうなりますか。】参照)。これに対し、地主が遅滞なく異議を述べれば(この異議には正当事由が要求されていません)、もとの期間がそのまま維持され、存続期間の満了時に、借地人が建物を再築したことや地主が異議を述べたことも含めて一切の事情が考慮され、更新拒絶の可否(正当事由の有無)が判断されることになります(なお、更新拒絶の可否について、(【Q借地契約の期間が満了するので、更新せず、土地を返してほしいのですが、借地人は土地を使い続けたいと言っています。土地を返してもらうことはできますか。】参照)。

3.平成4年8月1日以降に締結された借地契約による場合

 この場合、建物の滅失が最初の存続期間満了前か更新後かで区別されます。
 最初の存続期間中に建物が滅失した場合は、借地人が残存期間を超えて存続すべき建物を再築したとき、再築について地主の承諾があれば借地権の期間が延長されます。借地権は、承諾のあった日又は建物が建築された日のいずれか早い日から20年間存続します(ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間によります)。建物の建築について、借地人による予めの通知が必要であり、地主が通知を受けてから2か月以内に異議を述べなかったときには承諾があったものとみなされます。地主が承諾せず、承諾があったものともみなされなかった場合は、期間は延長されず、もとの期間が維持されることになり、期間満了時に更新拒絶の可否(正当事由の有無)が判断されることになります。
 借地契約の更新後に建物が滅失し、借地人が地主の承諾や後に述べる地主の承諾に代わる裁判所の許可を得ずに建物を再築した場合には、地主は、借地人に対して、借地契約の終了についての申入れをすることができます。もっとも、その建物が明らかに借地契約の残りの期間を越えて存続するような建物でないか又は事前に借地人から借地契約の残りの期間を越えては建物を存続させないという通知したときは、このような申入れをすることができません。そして、借地契約の終了を申し入れたときから3か月を経過したときに、借地契約は終了することになります(【Q借地上の建物が火災で焼失した場合、借地契約の期間はどうなりますか。】参照)。
 このように、借地人が地主の承諾なく、残存期間を超えて存続する建物を再築した場合には、借地契約が終了することから、地主が借地契約更新後の建物滅失による再築を承諾しない場合には、借地人は、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求めることができます。そして、建物の再築をすることにつき、やむを得ない事情があるといえるときには、裁判所は建物の再築を許可することになります。なお、裁判所は、この場合に、地主に対する金銭の支払い等を条件とする場合がありますが、この金銭の目安については、令和4年8月1日以降の事例の積み重ねによって、明らかになるものと思われます。

Q
借地人(賃借人)が借地上の建物を売却しようとしています。地主は建物の買主に土地を貸さなければならないのですか。
A
1.借地人が借地上の建物を売却した場合

 借地上の建物を譲渡した場合、特別の事情のない限り、建物とともに借地権(賃借権)も譲渡したものとされますが(【Q借地人が借地上に所有する建物を第三者に「譲渡」することは、借地権の譲渡や転貸に当たるのですか。地主の承諾は必要になるのですか。】参照)、地主と借地人間の契約が賃貸借契約である場合、借地人は、原則として地主の承諾なく賃借権を譲渡することはできません。地主の承諾なく賃借権が譲渡された場合、地主は、借地人の行為が背信的行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、建物の買主を借地人(賃借人)として扱う必要はなく、買主に対して土地を明け渡すように請求することができます。(なお、この場合に、地主は、買主から建物を買い取るように請求される可能性があることについて、【Q地主の承諾なく、借地人が借地権(賃借権)と借地上の建物を第三者に譲渡したため、借地契約を解除したところ、その第三者から、借地上の建物を買い取るよう請求されました。建物を買い取る義務はあるのですか。】参照)。
 また、借地人が地主の承諾なく賃借権を譲渡した場合には、地主は、借地人の行為が背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときを除き、賃貸借契約を解除することができます(【Q借地権(賃借権)の無断譲渡や無断転貸があった場合、地主は借地契約を解除することはできますか。】参照)。
 なお、借地権が地上権によるものである場合、借地人は地上権を自由に譲渡できますので、このような問題は生じません。

2.事前に建物の売却の承諾を求められた場合

 このように、借地人としては、地主の承諾なく借地上の建物を売却して土地の賃借権を譲渡した場合には、賃貸借契約を解除される可能性があり、同じく建物の買主も土地の明渡しを求められる可能性があることから、建物を売却する前に、地主に対して賃借権を譲渡することの承諾を求めてくることが多いと考えられます。この場合、地主は、借地人からの要求に応じる義務はないため、承諾を拒否したり、承諾をするための条件(承諾料、名義書換料等)について借地人と交渉をしたりすることができます(【Q借地人(賃借人)が借地上に所有する建物を第三者に譲渡するに当たって、地主は承諾料を請求できますか。】参照)。

3.地主の承諾に代わる裁判所の許可

 もっとも、地主が賃借権の譲渡を承諾しない場合、借地人は借地上の建物の売却をすることによって投下資本を回収すること等が制限されてしまいます。そのような借地人の不都合を回避するために、借地人は、裁判所に対して、地主の承諾に代わる賃借権の譲渡の許可を求める申立てをすることができます。
 この申立てを受けた裁判所は、賃借権を譲渡することが地主にとって不利となるおそれがない場合、賃借権の譲渡の許可をすることができます。
 地主に不利になるおそれがないかどうかの判断にあたっては、賃借権譲受人の資力や人的信頼性が問題になります。また、裁判所は、許可の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならないとされています。
 裁判所は、これらの要素を考慮のうえ、賃借権の譲渡の許可を与える場合で、地主と借地人間の利益のバランスをとるため必要があるときは、賃借権の譲渡を条件とする借地条件の変更を命じ、またはその許可を財産上の給付に係らしめることができます。
 裁判所による賃借権の譲渡の許可があった場合には、賃借権の譲渡につき地主の承諾があったのと同様の効果が生じます。このような結論を避けたい場合には、上記申立ての手続の中で、地主は賃借権と借地上の建物の譲渡を受ける旨を申し立てることができます。

Q
借地人が借地上に所有する建物が差し押さえられて競売されてしまいました。地主は、建物を競落した人に土地を貸さなければならないのですか。
A
1.競売について

 例えば、AがBに2000万円を貸したにもかかわらず、Bが約束通りに返さない場合、AはBに訴訟を起こし、「BはAに2000万円を支払え」という確定判決を得たときには、必要書類を整えて、Bの所有する不動産を差し押さえて競売手続を行い、競売による売却代金から2000万円を強制的に回収することができます。

2.競売に伴う借地権の譲渡

 ここで、Bが借地人であり、AがBの所有する建物を差し押さえて競売手続を行なった場合を考えてみます。この場合、建物の所有権は、競売手続によって競落人に移転してしまいます。
 この状態は、建物所有権が移転した原因が売買契約によるものか、差押えによる競売によるものかが異なるだけで、地主と関係のないところで建物所有権と一緒に土地の借地権も移転してしまうという点で、借地上の建物の売却の問題と同じであるといえます(【Q借地人が借地上に所有する建物を第三者に「譲渡」することは、借地権の譲渡や転貸に当たるのですか。地主の承諾は必要になるのですか。】参照)。
 そして、借地上の建物の売却の場合と同様に、競売によって建物の所有権を取得した競落人は、土地の借地権を取得するために地主の承諾が必要になります。

3.借地権の譲渡の承諾に代わる許可の裁判

 借地上の建物の売却の場合と同様に、地主は、建物の競落人に対して借地権譲渡の承諾を拒否することもできますし、承諾にあたって承諾料の支払いを求める等の交渉をすることもできます。
 もっとも、地主の承諾が得られない場合に、常に建物を収去しなければならないとすると、建物を競落することを躊躇する人が増え、ひいては強制競売による債権の回収にも支障をきたしてしまいます。他方、借地人が申し立てる借地権譲渡承諾に代わる許可の裁判の制度(【Q借地人(賃借人)が借地上の建物を売却しようとしています。地主は建物の買主に土地を貸さなければならないのですか。】参照)は、借地権の譲受人が誰であるか分からない競売前の段階で申し立てることができません。
 そのため、借地権付き建物を競売によって取得した買受人が、地主から借地権の譲渡について承諾を得られない場合には、借地権譲渡の承諾に代わる許可の裁判の申立てをすることができるという制度が設けられています。
 なお、この手続の具体的内容は、申立人が建物の買受人であるという点を除き、概ね借地人が申し立てる手続と同じ構造です(【Q借地人(賃借人)が借地上の建物を売却しようとしています。地主は建物の買主に土地を貸さなければならないのですか。】参照)。

Q
借地非訟手続とは何ですか。
A
1.借地非訟手続として取り扱うことのできる事件

 例えば、借地人が借地上の建物を譲渡する際に、地主の承諾を得られないと借地上の建物の有効利用・処分ができないことになり、土地の利用を阻害してしまう可能性もあります。
 そこで、借地に関する紛争を予防し、土地の合理的な利用を促すために、借地非訟手続が制定されています。具体的には、(1)借地条件の変更に関する事件(【Q借地人は、土地上に木造二階建ての建物を建築し、その建物を住居として使用しています。しかし、借地人は、土地上の建物を鉄筋コンクリート三階建てのものに建て替え、1階を店舗とし、2階を住居として賃貸し、3階に借地人自身が居住するつもりのようです。どのように対応すればよいですか。】参照)、(2)増改築の許可を求める事件(【Q借地人が地主への連絡もなく、借地上の建物を増築しようとしています。これに対して地主として何か主張できますか。借地人から借地上の建物を増築することへの承諾を求められた場合には、どうすればよいですか。】参照)、(3)借地契約更新後に建物が滅失した場合の再築許可を求める事件(【Q借地人との借地契約を更新した後に、借地上の建物が滅失しました。借地人は、再び建物を建てようとしています。地主として借地人に何か主張できますか。】参照)、(4)賃借権譲渡の許可を求める事件(【Q借地人(賃借人)が借地上の建物を売却しようとしています。地主は建物の買主に土地を貸さなければならないのですか。】参照)、(5)競売または公売に伴う賃借権譲受の許可を求める事件(【Q借地人が借地上に所有する建物が差し押さえられて競売されてしまいました。地主は、建物を競落した人に土地を貸さなければならないのですか。】参照)が挙げられます。なお、(4)及び(5)で、(6)地主が建物及び借地権の買い取りを申し出る事件も借地非訟事件として取り扱われます(【Q借地人(賃借人)が借地上の建物を売却しようとしています。地主は建物の買主に土地を貸さなければならないのですか。】【Q借地人が借地上に所有する建物が差し押さえられて競売されてしまいました。地主は、建物を競落した人に土地を貸さなければならないのですか。】参照)。

2.借地非訟手続の流れ

 では、借地非訟手続の概要を、借地人が申立人となり、地主が相手方になる形を例にご説明します。
 まず、借地人が、原則として借地のある土地を管轄する地方裁判所に申立書を提出します。申立書とともに、固定資産評価証明書等の添付資料や契約書等の証拠をつけなければなりません。また、申立手数料として印紙を収める必要があります。
 申立書の形式面に不備がなければ、第1回の審問期日の通知とともに申立書の副本が地主のもとに郵送されます。審問期日とは、裁判官が双方の言い分を聞くための期日であり、通常の訴訟とは異なり、傍聴人はいません。
 東京地方裁判所では、申立書の副本を地主に送付する際に、申立書に記載された事実を認否するための答弁書の雛形を同封しているようですが、地主の方は、申立書が届いた段階でできる限り早く弁護士に相談した方がよいでしょう。
 地主の方は、第1回審問期日に向けて答弁書を提出し、期日で裁判官に対して紛争に関する意見を述べます。例えば、①借地条件変更の事件であれば、条件変更の必要性などを述べることになります。
 このような審問期日を1回又は複数回重ねたうえで、裁判所が鑑定委員会に承諾料の金額等について意見を求めます。鑑定委員会とは、裁判所が申立てを認める場合に承諾料等の価格を算定するために、不動産の専門知識を有する不動産鑑定士、弁護士等の3名で構成される裁判所の諮問機関です。
 鑑定委員会は、地主・借地人立会いのもと、借地に出向いて現地調査を行います。鑑定委員会は、それらの結果を踏まえて、裁判所に意見書を送付し、意見書は地主・借地人にも送付されます。裁判所は、鑑定委員会の意見書に対する地主・借地人の意見を聴くための最終審問期日を設けたうえで審理を終了し、申立てに対する決定書を作成します。決定書は、地主・借地人に送付されます。

Q
妻と2人の子供がいる借地人が死亡した場合、借地契約は終了するのですか。もし終了しないのであれば、地主は今後誰に対して地代の支払いを求めればよいですか。借地人が生前未払いであった地代は、誰に請求すればよいですか。
A
1.借地権の相続

 借地人が死亡したとしても、借地権は、借地人の相続財産として妻と2人の子供が相続します。遺産分割により借地上の建物及び借地権の帰属が決まるまでは、借地権は、全ての相続人に帰属することになります(遺産分割の詳細について、【Q妻と2人の子供がいる地主が死亡し、遺言書がない場合、借地人に賃貸している土地を取得するのは誰になりますか。地主が死亡するまでの借地人の未払い地代、地主が死亡してからの地代は誰が取得するのですか。】参照)。
 したがって、借地人が死亡したとしても、それだけでは借地契約は終了しません。

2.借地人死亡後に発生した地代の請求

 上述したとおり、借地権は、遺産分割手続が終了するまでは、全ての相続人に不可分に帰属していることになります。地代は、そのような不可分の借地利用に伴う対価ですから、同様に全ての相続人に不可分に帰属することになります(判例は、地代(賃料債務)は不可分債務になるという考え方をとっておりますが、学説では、改正民法のもとでは、連帯債務になるという考え方が多くなっているとされています)。
 設問の場合には、妻及び2人の子供の全員が、借地人の死亡後に発生した地代の全額を支払う責任を負っていることになります。
 そのため、地主としては、全ての相続人に対して、地代の支払いを請求することができます。

3.遺産分割後の地代請求

 遺産分割が確定した場合には、借地権及び借地上の建物を相続した者を新たな借地人として取り扱えばよいことになります。遺産分割協議書や遺産分割の調停調書、審判書等を確認して、借地権及び借地上の建物を相続した相続人であるかどうかを確認したうえで、その者に対して、地代の請求等を行うことになります。

4.相続前に発生していた未払い地代

 借地人が生前未払いであった地代を誰にいくら請求できるかという点については、最高裁判所の判例に従えば、各相続人が法定相続分に応じて負担するとされています。
 設問の場合、例えば、借地人の生前の未払い地代が100万円となっていたとすると、妻が2分の1、2人の子供がそれぞれ4分の1の法定相続分を有していますので、妻に50万円、子供にそれぞれ25万円を請求できることになります。

Q
妻と2人の子供がいる地主が死亡し、遺言書がない場合、借地人に賃貸している土地を取得するのは誰になりますか。地主が死亡するまでの借地人の未払い地代、地主が死亡してからの地代は誰が取得するのですか。
A
1.遺産分割手続

 地主が所有している土地は、地主の方が死亡した場合には、地主の遺産となりますから、その財産を誰が取得するかということを相続人間で決めなければなりません。設問では、妻が2分の1の、2人の子供がそれぞれ4分の1の法定相続分を持つ相続人となりますので、この3名で土地を含む遺産の分割について協議することになります。
 遺産の分割について協議が調わない場合や、協議をすることができない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。遺産分割調停は、裁判官と調停委員により構成される調停委員会が、相続人の話し合いの間に入り、各相続人がどのような分割方法を希望しているか等を聴取し、解決案を提示したり、解決のために必要な助言を行ったりすることによって、合意を目指す手続です。
 遺産分割調停がまとまらなかった場合には、遺産分割審判手続に移行します。遺産分割審判手続では、裁判官が、遺産に属する物または権利の種類・性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。

2.遺産分割後の地代について

 以上に述べた遺産分割の手続によって、土地を相続する方が決まった場合には、遺産分割の結果に基づいて土地の相続登記手続を行ったうえで、土地を相続した方が新たな地主として借地人に対して地代を請求することになります。

3.地主の死亡前の未払地代について

 地主の方が死亡する前に発生していた未払いの地代については、遺産分割の手続きを待つまでもなく、各相続人が法定相続分に応じて取得するものと考えられます。設問の場合では、100万円の未払い地代があったとすると、妻が50万円、2人の子供がそれぞれ25万円の地代の支払いを請求することができると考えられます。もっとも、実務上、相続人全員の合意によって、この未払い地代を遺産分割の対象とすることが認められておりますので、妻と子供の合意によって、100万円の未払い地代の請求権を誰か1人の相続人が全て取得するということも可能です。

4.地主死亡後遺産分割成立までの地代について

 この場合の地代については、遺産とは別個の財産であり、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものとする最高裁判所の判例があります。設問の場合には、地主死亡後から遺産分割成立までの地代の合計額が100万円であったとすると、妻が50万円、2人の子供がそれぞれ25万円の地代の支払いを請求することができると思われます。もっとも、実務上、相続人全員の合意によって、この地代を遺産分割の対象とすることが認められておりますので、妻と子供の合意によって、誰か1人がこの地代を取得するということも可能です。

Q
私(地主)は土地Aと土地Bを持っています。土地Aは、借地人に貸しています。私には、2人の子供がおり、妻は他界しておりますが、下の子は、体が不自由なので、私が死亡した場合には、土地Aからの地代で生計を立てていってほしいと思います。そのため、他の遺産は2人で平等に分けるとしても、土地Aだけは下の子に相続させたいのですが、どのような方法がありますか。また、その際に気をつけるべきことはありますか。
A
1.遺言書を作成する

 設問の場合、土地Aを下の子に相続させる内容の遺言書を作成すべきです。遺言書を作成しなかった場合には、上の子と下の子で遺産を2分の1ずつ相続することになりますが、誰がどの遺産を相続するかは、相続人間の協議で決めることになり、協議がまとまらない場合には、裁判所の手続を通じて、誰がどの遺産を相続するか確定しなければならず、最終的に下の子が土地Aを相続できない可能性もあります。

2.遺言書を作成する際に注意すべきこと

 ご自身で遺言書を作成する場合には、民法上の自筆証書遺言の規定に従わなければ、遺言書が無効になってしまうので注意が必要です。自筆証書遺言をするには、遺言者(設問では地主)が、その全文、日付及び氏名を自書したうえで、捺印をしなければなりません。そのため、一部パソコンを利用して作成されたものや「平成25年10月吉日」などと特定できない日付が記載されたものは有効な遺言書とはいえません。(※)
 ※法改正により、2019年1月13日以降に自筆証書遺言をする場合には、パソコンなどで作成した自筆でない目録を添付できるようになります。この場合、遺言者は、目録の全てのページ(目録が両面の場合はその両面)に署名・捺印する必要があります。
 また、公正証書によって遺言書を作成する方法もあります。この場合にも、証人2名の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授するなどといった要件を満たす必要があります。公正証書による遺言書は、自筆証書による遺言書と比較して、公証役場が保管するという点で紛失の危険が極めて低いこと(なお、遺言書保管法が2020年7月10日から施行され、自筆証書遺言の遺言書保管所〔法務局〕の保管制度が新設されています)、公証人が確認するため遺言としての有効要件を満たしている可能性が高く、その内容に一定の信用があることといったメリットがあります。
 これらの遺言書の有効要件に注意したうえで、設問の場合には、どのような内容の遺言書を作成すればよいかご説明します。
 遺言書では、下の子に相続させる遺産の内容を明確にする必要があります。なぜなら、遺言書の内容が問題になるときには、地主の方は既に亡くなっているのですから、遺言書の記載のみから、どの遺産を誰に相続させるものであるかが明確でないと、遺言書の解釈方法を巡って、上の子と下の子で争いになる危険性が高いからです。実際に、「○○所在の不動産を甲に相続させる。」という遺言書が土地のみを相続させるものか、土地と土地上の建物を相続させるものかで相続人間で争いになり、最高裁判所まで争われた事例も存在します。
 そのため、登記簿謄本に基づき所在、地番、地目、地積を記載して土地Aの内容を特定したうえで、「土地Aを(下の子の具体的な氏名)に相続させる。」と明確に記載すべきですし、その他の点も含めて、遺言書の内容は、事前に弁護士に確認した方が安心です。