

底地・借地の法律で悩んでいる方、これから定期借地権等で土地を貸そうと検討している方、借りようとしている方に知っていただきたい底地・借地に関する法律のポイントをまとめています。
用法違反、建替え(増改築禁止特約・建替承諾)
基本的には地主と借主との間の信頼関係を破壊したものとして契約を解除することができると考えられ、損害が生じた場合には賠償を請求することができると考えられます。
土地を屋外駐車場にする目的でお貸しになったとのことですので、普通に考えますと建物を建てることを契約の目的とされていなかったのではないかと思われます。そうしますと、建物を建ててしまった借地人が契約に違反していることは明らかであるといえます。
もっとも、賃貸借契約は、地主と借主との間の信頼関係に基づく継続的な契約関係ですから、契約違反の程度が著しくなく、信頼関係を破壊したものといえない場合には解除は認められないものとされています(【Q地代を確実に払ってもらいたいので、1か月でも支払いが遅れたら即解除できるようにしたいのですが、可能ですか。】参照)。
では、設問のケースはどうでしょうか。借地借家法という法律が参考になります。
建物の所有を目的とする土地の賃貸借の場合、借地借家法が適用されることになりますが、建物の所有を目的としない土地の賃貸借の場合、借地借家法は適用されませんので、民法が適用されることになります(【Q他人に土地を貸すと借地権が発生するのですか。】参照)。したがって、契約で期間を定めている場合にはその期間が満了すると契約は終了します(これに対し、建物所有を目的とする借地契約の場合には更新拒絶の正当事由が必要であることにつき【Q借地契約の期間が満了するので、更新せず、土地を返してほしいのですが、借地人は土地を使い続けたいと言っています。土地を返してもらうことはできますか。】参照)。期間を定めていない場合には、地主が解約を申し入れた日から1年後に賃貸借が終了します(これに対し、建物所有を目的とする借地契約の場合には地主による解約申入れが認められないことにつき【Q借地契約の期間の途中に、借地人から解約を申し入れられましたが、応じる義務はあるのですか。逆に、地主の方から解約を申し入れることはできますか。】参照)。また、土地の所有者が変わった場合には、借主は新たな所有者に対して賃貸借契約の存在を主張することができなくなります(これに対し、建物所有を目的とする借地契約の場合には借地権の登記又は借地上の建物の登記により借地権を第三者に対応できることにつき【Q土地を購入したのですが、その土地上に建物を建てて住んでいる借地人がいました。新しい地主は、借地人に対して土地の明渡しを求めることはできますか。】参照)。
このように、建物を所有する目的で土地を貸した場合と、それ以外の目的で貸した場合では、借地借家法の適用があるかどうかという非常に大きな違いが生じることになります。以上からしますと、屋外駐車場にする目的で土地を借りており建物を建てる契約にはなっていなかったのに、借地人が建物を建ててしまったことは、地主と借主との信頼関係を大きく破壊するものといえるでしょう。
そこで、基本的には、設問のケースでは契約を解除することができるものと考えられますし、損害が生じた場合にはその賠償を請求することができるでしょう。
もっとも、借地人が建物を建てたにもかかわらず、地主がこれを放置していたり、あるいは地代の値上げを請求したりしますと、暗黙のうちに地主が建物の建築を容認してしまったとして、賃貸借が建物の所有を目的とするものに変わったと認められてしまうこともあり得ます。
そこで、地主としては、日頃から現地を確認しておくとともに、建物を建築したのを知った場合には、直ちに契約を解除する通知を出しておくべきです。
また、建築の途中で事実を知った場合には、建築の中止を求めるなどの措置をとっておくことが必要ですし、場合によっては、裁判所に対し、仮に建築工事の続行を禁止するよう申し立てることも必要でしょう(仮処分といいます。普通に裁判所に建築工事の続行を禁止するように訴訟を起こすこともできますが、その審理をしている間に建築工事が続行されてしまうおそれがありますので、裁判所が建築工事を仮に禁止する手続です。)。
地主と借地人との間の信頼関係の破壊に至らないとして、借地契約の解除が認められない可能性があります。
建物を建築する目的で土地を貸していたということですから、借地人が空き地のままにしていることは契約に違反しているともいえそうです。
しかし、地主と借地人の間の信頼関係の上に成り立っている賃貸借契約においては、地主と借地人との間の信頼関係が破壊されていない場合には解除は認められないものとされています(【Q地代を確実に払ってもらいたいので、1か月でも支払いが遅れたら即解除できるようにしたいのですが、可能ですか。】参照)。
一概にはいえませんが、設問のケースのように土地が空き地とされているにとどまり土地の形状が変更されているわけではない場合には、信頼関係が破壊されているとまではいえないものと考えられます。
参考までに、裁判例を紹介しておきましょう。
これは、建物を所有する目的で借りた土地について建物を建築せずに駐車場として利用していたという件に関する裁判例です。
裁判所は、借主は整地した以外には土地に変更を加えずに駐車場として使用しているものであること、借主が土地を駐車場として使用していることを知りながら地主が賃貸借契約解除の意思表示をするまでの間何ら異議等を述べたことがないことなどを理由に、いまだ地主と借主との間の信頼関係が破壊されたとはいえないとして、解除を認めませんでした。
なお、この裁判例は契約の更新拒絶に正当事由があるかどうかの判断において借主が駐車場として利用していた事実を考慮すること自体は否定していませんので、設問の後半の事案でも、更新を拒絶する際の正当事由の事情の一つとして主張していくことはできると考えられます(【Q借地契約の期間が満了するので、更新せず、土地を返してほしいのですが、借地人は土地を使い続けたいと言っています。土地を返してもらうことはできますか。】参照)。
建物の種類等を制限する借地条件を設定することができます。借地条件に違反したことにより地主と借地人との間の信頼関係が破壊されたと認められる場合には、借地契約を解除することができます。
借地人は建物を所有しています。所有者は所有する物をどのように使用し処分するかの自由を有しています。そのため、借地人が借地上にどのような種類や構造の建物を建てるかも、借地人の自由に任されているようにも思えます。
しかし、どのような種類や構造の建物が建つのかは、建物の存続期間、地代額、建物買取額などの点から、地主にとっても大きな利害があるところです。そのため、借地契約で、借地上に借地人が建てる建物の種類、構造について制限することも可能とされています。
したがって、借地人が建物の種類などを制限した契約と異なる種類や構造の建物を建ててしまった場合には、契約違反となり、借地契約の解除の問題が生じてきます。
もっとも、賃貸借契約の解除は、地主と借地人との間の信頼関係が破壊されていない場合には認められないものとされています(【Q地代を確実に払ってもらいたいので、1か月でも支払いが遅れたら即解除できるようにしたいのですが、可能ですか。】参照)。
信頼関係が破壊されたかについては、約束の内容や違反の程度など諸般の事情を考慮して決められることになるでしょう。
なお、借地人から、建物の種類、構造などを制限する契約(借地条件)を変更するように協議を求められることも予想されます。協議が整わない場合には、借地人は、裁判所に対し、事情の変更を理由に、借地条件を変更するように申立てを行うことが認められています。
具体的には、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間の協議が整わないときに、当事者の申立てにより裁判所が借地条件を変更することができるとされています(【Q借地人は、土地上に木造二階建ての建物を建築し、その建物を住居として使用しています。しかし、借地人は、土地上の建物を鉄筋コンクリート三階建てのものに建て替え、1階を店舗とし、2階を住居として賃貸し、3階に借地人自身が居住するつもりのようです。どのように対応すればよいですか。】参照)。
見解が分かれており、特約が無効とされる可能性もあることに注意が必要です。
借地借家法では、借地条件の変更についての定めに反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは無効とされています(借地法でも同様の規定がありました)。
抵当権は、抵当権を設定した者がそのまま目的物を使用収益することを認めるものですから、借地人は建物に抵当権を設定したとしてもそのまま使用することができますので、借地の使用関係には何ら変わりはありません。
したがって、借地人は、原則として自由に借地上の建物に抵当権を設定することができます(【Q借地人(賃借人)が、借地上に所有する建物に抵当権を設定する場合、地主の承諾は必要になりますか。】参照)。
そうすると、抵当権の設定を禁止する特約は、借地人が建物に抵当権を設定し、金員を借りられる利益を予め放棄させる点で目的物の使用収益を制限するものであり、借地人に不利なものとして無効であるとも考えられます。借地法下の事例ですが、同様の考え方をして、借地権者に不利であるといえるから、借地法の規定の趣旨に違反し無効であるとした裁判例があります。
しかし、他方で、借地権者等に不利益な特約を無効とする先ほどの借地借家法の規定は、借地人に不利な特約を全て無効にするというものではなく、借地人の建物所有権を制限する特約であっても有効である場合もあります(例えば、建物の増改築禁止特約など。【Q借地人から建物を改築したいとの申し入れがあったのですが、これを機会に地代を値上げすることはできるのですか。】 【Q借地人が地主への連絡もなく、借地上の建物を増築しようとしています。これに対して地主として何か主張できますか。借地人から借地上の建物を増築することへの承諾を求められた場合には、どうすればよいですか。】参照)。そのため、抵当権の設定を禁止する特約も先ほどの規定によって無効となるものではないとも考えられます。借地法下の事例ですが、同様の考えに基づいて、抵当権の設定を禁止する特約を有効とした裁判例もあります。
このように、借地上の建物に抵当権を設定することを禁止する特約が有効かどうかは争いがありますが、地主としては、このような特約が無効とされる可能性があることに注意しておく必要があるでしょう。
また、抵当権の設定を禁止する特約が有効であるとしても、特約違反の程度が軽微な場合には信頼関係が破壊されておらず、直ちに契約が解除できることにはならないと考えられますので、その点も注意が必要です(抵当権の設定を禁止する特約を有効とした先ほどの裁判例は、多数回にわたって抵当権が設定されており、解除当時にもそのうちの数件の抵当権が残っていたことや、その中の1件は競売開始決定までなされる段階に至っていたことなどを理由に、賃貸借上の信頼関係が破壊されていないとはいえないとして、契約の解除を認めています。信頼関係破壊の理論について【Q地代を確実に払ってもらいたいので、1か月でも支払いが遅れたら即解除できるようにしたいのですが、可能ですか。】参照)。
借地人の行為により地主と借地人との間の信頼関係が破壊されたと認められる場合には、借地契約を解除することができます。
土地の形状変更にも色々な場合があります。
例えば、建物所有を目的とする借地契約の目的となった土地が傾斜地であった場合には、借地人が土地を整地して建物を建築する約束があると考えられることが多いでしょう。
また、土地を盛土したり土留めを設けたりした場合には、土地の利用価値を高めることになるでしょうから、信頼関係が破壊されるような形状変更とはいえないと考えられます。
逆に、土地の形状変更の結果、価値を著しく減少させたり、土地の復旧を不可能にするような損害を与えた場合には、信頼関係が破壊されたとして解除が認められることになると考えられます。
なお、土地の形状を変更してはならないという特約も、土地の形状変更の態様によっては土地の価値を著しく減少させたりするおそれがあるため、合理性が認められる限り、有効であると考えられています。
参考までに、地下駐車場を作るために土地の掘削を行ったという事案に関する裁判例を挙げておきます。
この事案では、借地人の行った掘削工事が土地のほぼ全域にわたって地面を深さ2メートル以上まで掘り下げて大量の土を搬出するという大規模なものであったため、湧水が生じ、近隣にも支障が生ずるといった事態を招いていました。また、土地を埋戻しても地盤が軟弱化してしまって建物建築には一定の補強が必要とされる程に土地の形質に影響を及ぼしていました。裁判所は、土地所有者と異なり、借地人には自ずから利用の態様に制限を伴うことが当然であり、地主の承諾のない限りこのような土地の形状を著しく変更することは許されないとして、解除を認めました。
借地人の行った掘削工事は、土地の価値を著しく減少させ、土地の復旧を不可能にするような損害を与えるものといえますから、解除が認められたのも頷けるところです。
越境部分の除去や越境された土地の明渡しを請求することが考えられます。また、事情によっては借地契約を解除できる場合もあります。
借地人は、借地契約で定められた目的や用法に従って目的物を使用しなければなりませんので、借地契約の対象となっている土地(借地)について、用法の契約違反があれば、解除の理由となり得るところです(ただし、信頼関係が破壊されていない場合には解除が認められないことになります。【Q屋外駐車場にする目的で土地を貸したのですが、借地人が建物を建ててしまいました。契約を解除したり、損害賠償請求をすることはできますか。】 【Q建物を建築する目的で土地を貸していたのに、借地人が空き地にしてしまっています。借地契約を解除できますか。長い間空き地のままでなかなか建物が建てられませんでしたが、その後ようやく建物が建ちました。なかなか建物を建ててくれなかったことについて、何か言えることはないのでしょうか。】参照)。
しかし、そもそも設問の事案で問題となっているのは、借地以外の土地への越境ですから、借地の用法について契約違反があるといえるのかが問題です。
借地を用法に従って使用しなければならないのは借地契約によるのですから、借地契約の対象となっていない土地に借地上の建物が越境していたとしても、直ちに借地の用法に違反があったとはいえないことになりそうです。
とはいえ、設問の事案では、地主は越境されてしまっている側の土地の所有者でもあるわけですから、所有権に基づいて建物の越境部分の除去や越境された土地の明渡しを求めていけばよろしいでしょう。
なお、例えば、借地と地主側の土地上の建物が極めて近接していて、借地人所有の建物の越境が地主の建物の使用に非常に大きな支障を及ぼすことが明らかであり、地主が越境部分の除去を求めているのにこれに応じない場合など、事案によっては、用法違反と考える余地がある場合もあるでしょう。
また、借地の用法違反に限らず、越境によって借地契約関係上の信頼関係が破壊されたことを理由に借地契約を解除する余地もあると考えられます。
いずれにせよ、借地人の建物があなたの土地に越境しているからといって、借地契約を解除できるとは判断せずに、それぞれの土地上の建物の位置関係、越境している建物による地主の土地への影響、越境の経緯などをよく検討する必要があります。