不動産登記は、不動産に関連する法律行為には欠かせないものです。日頃一般の皆様が疑問に思われていること、また、登記手続きをする際に誰しもがぶつかると思われる疑問について解説しています。
【参考】借地借家(賃貸借)と登記
一般的に、自宅の不動産(土地や建物)を買ったり、売ったりした場合は、売買代金の決済時に土地や建物の所有権移転登記を行い、住宅ローンを借りた場合は、自宅の不動産(土地や建物)に抵当権設定登記を行うことがほとんどかと思います。
また、親から子へ不動産を贈与した場合や、不動産を相続した場合にも所有権移転登記を行い、法務局から発行された権利証(現行法では登記識別情報)を大切に保管されると思います。
これは、大切な資産である不動産の所有者は誰であるか等の権利関係をはっきりさせるために登記し、またお金を貸した場合に、返済が滞ってしまった場合等のトラブルの備えとして、抵当権等の担保権を設定登記することが通常行われていますが、例えば、自宅用に家を借りた場合や、駐車場を借りた場合に登記するということは稀ではないでしょうか。
土地や建物を貸したり、借りたりすることを賃貸借といいますが、この賃貸借をする契約により借主は、賃借権をもつことになります。この賃借権は民法上、債権ですが登記することができます。
ではなぜ、一般的に家を借りたり、土地を借りたりした場合に登記をしていないのでしょうか?
これにはさまざまな理由がありますが、判例上、賃借権は債権ですので、貸主が、賃借権の登記をすることを特約で承諾した場合に限って、借主は登記手続きを請求できることとなっています。通常の自宅や駐車場のための賃貸借契約では、この賃借権の登記を承諾する特約はないでしょうし、特に賃借権の登記を希望することもないかもしれません。
また、一般的に賃貸マンションの場合、部屋ごとに登記することを想定していないため、分譲マンションのようにそれぞれの部屋(専有部分)ごとの登記簿(登記記録)はなく、一つの建物として登記されています。
そのため、その一室を借りた場合に賃借権の登記をしたいと考えても、一つの建物として登記されている不動産の一部(賃貸マンションの一室)に、賃借権の登記をすることはできないこととなっています。
その他、実際に自宅や駐車場等のために借りて使用している場合は、登記をして第三者対抗要件を備えなくても、借りていることを第三者に対抗できないということは、あまり考えられないため、わざわざ費用をかけて登記することを考えないかもしれません。
一般的に賃借権の設定登記をする場合の絶対的記載事項としては、原因及び日付(賃貸借契約が成立した日付、令和○年○月○日設定とします)、賃料と権利者(借主)の住所、氏名があります。
また、賃料の支払期や、存続期間(賃貸借契約の期間)がある場合、敷金の定めや、賃借権について譲渡や転貸ができる旨の特約がある場合には、これも登記することとなっています。賃借権の種類によっては、賃借権設定の目的(例えば、借地上に自己の家を建てて住む場合は、賃借権設定の目的は建物所有となる)も登記することとなり、他にも特約によっては登記事項となるものや、定期借地権では登記しなければならいな事項が他にもあります。
普通の建物所有の土地賃借権(譲渡・転貸できる旨の特約ある場合)の登記をした場合
賃借権設定の場合の登録免許税率は、不動産の価格(固定資産税の評価額)の1,000分の10(令和6年現在)です。
例えば、借地権を設定する場合に土地の固定資産税の評価額が2,000万円とした場合
20,000,000円×税率1,000分の10=200,000円
賃借権設定登記をするには、登録免許税20万円を納めなければなりません。
また、司法書士に登記手続きを依頼される場合は、別途、司法書士への報酬の支払いも必要となります。
賃借権設定登記は、借主と貸主とが協力して登記申請を行い、登記申請人として、借主が登記権利者、貸主が登記義務者となり共同申請を行います。
土地や建物の所有権に対して賃借権の設定登記をする場合は、土地や建物の所有者(貸主)が登記義務者となり、借主が登記権利者となります。
一般的な必要書類としては、次のものがあります。
・登記原因証明情報
・登記義務者の印鑑証明書(発行3か月以内のもの)
・登記義務者の登記識別情報または登記済証
・法人が登記申請人となる場合は、代表者の資格証明情報(会社法人等の登記事項証明書)
資格証明情報の提供に代えて、会社法人等番号の申請情報へ記録、又は記載でも可能。
・司法書士へ手続きを依頼される場合は、委任状(登記義務者は実印の押印が必要)
借地に家を建てて住む場合は、長期間になるでしょうし、借主としては、その間に土地の売買が行われ、知らない所有者に代わって、その新しい所有者(第三者)から借地権を否定され、借地権を主張できず、明渡しなどを求められないか心配になります。
このような場合に借地権(賃借権)の登記をしていなくても、借地権の対抗要件を認めている場合があります。
それは、(1)有効に借地権が成立していて、(2)借地上に建物が存在し、(3)その建物は借地人が所有しており、(4)借地上の建物について、借地人名義の登記がされている場合です。
なお、借地上の建物についての借地人名義の登記は、建物の表題登記と所有権保存登記を行います。
ただし、建物の表題登記だけでも借地権の対抗要件を認めた判例があります。