専門家執筆Q&A
徳田 友夫

登記Q&A

登記
Q&A

司法書士
司法書士法人 東西合同事務所
徳田 友夫

不動産登記は、不動産に関連する法律行為には欠かせないものです。日頃一般の皆様が疑問に思われていること、また、登記手続きをする際に誰しもがぶつかると思われる疑問について解説しています。

登記に関する法律をQ&A形式で解説しています。

相続登記

Q
家族が亡くなり、相続をすることになりました。不動産についてはどのような手続きが必要になるのでしょうか?
A

 不動産の名義が亡くなった方の名義である場合、相続により所有権が相続人に移転しますので所有権移転登記の手続きが必要となります。この登記のことを「相続登記」と呼んでいます。

Q
誰が相続人になるのですか?甥や姪は相続人になるのでしょうか?
A

 夫が亡くなった場合、妻と子供が相続人となります。

 また子供がいなければ、父母や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹という順番で、相続人が変わっていきます。

 亡くなった方の配偶者は、どんなときも相続人となります。したがって亡くなった方の配偶者は「私は相続したくない」という場合でも遺産分割協議や相続放棄等、何らかの形で必ず相続の手続きを行う必要があるということになります。

 配偶者以外の相続人というのは、下記のとおり優先順位があります。

第1順位 子供

第2順位 父母や祖父母などの直系尊属

第3順位 兄弟姉妹

 順位が1番である子供がいるときは、父母や祖父母などの直系尊属と兄弟姉妹は相続人とはなりません。

 よって相続人には次の7つのパターンがあることになります。

(1)配偶者(夫または妻)と子供

(2)配偶者と父母や祖父母などの直系尊属

(3)配偶者と兄弟姉妹

(4)配偶者のみ

(5)子供のみ

(6)父母や祖父母などの直系尊属のみ

(7)兄弟姉妹のみ

 ここで、被相続人に配偶者・子供がおらず、父母や祖父母などの直系尊属も既に亡くなっていた場合(上記7の相続人が兄弟姉妹のみであるケース)を取り上げてみます。

 兄弟姉妹全員が生存していれば問題はないのですが、被相続人死亡時に既に亡くなっているか、後に亡くなった場合は兄弟姉妹の子(甥や姪)も相続人となるケースがあります。超高齢化・少子化社会に向かっている今、兄弟姉妹や甥・姪が相続人となるケースは今後増加していくものと考えられます。

Q
相続人が複数いる場合、相続する割合はそれぞれどうなるのでしょうか?
A

 民法で法定相続分というものが定められています。その割合は下記のとおりです。

 ただし、相続人全員で遺産分割協議をすることで法定相続分とは異なる割合で相続することもできます。

(1)相続人が配偶者(夫または妻)と子供の場合

配偶者 1/2

子供 1/2

(2)相続人が配偶者と父母や祖父母などの直系尊属の場合

配偶者 2/3 

父母や祖父母などの直系尊属 1/3

(3)相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合

配偶者 3/4

兄弟姉妹 1/4

 なお、子供、父母や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けることとなります。

Q
遺言書が出てきました。どうすれば良いですか?すぐに開封して中身を見たいのですが良いのでしょうか?
A

 相続の手続きにおいて、まず確認しないといけないのが遺言書の有無の確認です。

 公正証書遺言は公証人役場に保管されており、公正証書遺言検索システム等を利用することでその存否は容易に判明します。

 それ以外の遺言書(自筆証書遺言等)はすぐに見つからない場合もありますが、遺言は見つかった時点で速やかに、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

 検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです(遺言の有効・無効を判断する手続きではありません)。公正証書遺言はそもそも公文書扱いとなりますから、検認の必要はありません。

 検認を受ける前に未開封の遺言書を開封することや、偽造、改ざんすることは禁止されています。遺言そのものが無効になることはありませんが、相続人に過料等の罰則が科せられたり、相続権を失うこともありますので注意が必要です。

 また、遺言自体は有効であっても、遺言書の記載内容によっては、相続登記ができないこともありますので、司法書士等の専門家に相談することをお勧めします。
 なお、法務局における自筆証書遺言の遺言書保管制度を利用した場合には家庭裁判所における検認は不要となります。後述のQ&A自筆証書遺言書保管制度とはどういったものですか?を参照してください。

Q
相続人全員が納得しない内容の遺言書でした。必ず遺言書どおりに相続する必要があるのでしょうか?
A

 遺言書に書かれている内容は、被相続人の最後の意思と言えますので尊重すべきだと思われますが、法定相続人全員が同意すれば遺言書の内容と異なる分割協議を行うことも可能です。

 また、遺言書の内容どおりに相続手続きをした場合でも、相続人から異議が出る場合もあります。相続人には最低限保障されている権利(遺留分といいます)があり、これを侵害するような遺言内容の場合は、遺言自体は有効でその内容どおりに手続きできますが、遺留分を侵害された相続人は他の相続人に対し異議を述べることができます(遺留分減殺請求)。例えば相続人が妻と2人の子である場合で「妻に全財産を相続させる」という遺言内容であれば子2人の遺留分が侵害されていることになります。

 なお、遺留分が保証されている相続人は、配偶者、子供、父母や祖父母などの直系尊属であり、その割合は下記のとおりです。

1 父母や祖父母などの直系尊属のみが相続人の場合は被相続人の財産の1/3

2 それ以外の場合財産の1/2

※2のそれ以外の場合とは相続人が下記のケースになります。

(1)配偶者(夫または妻)と子供

(2)配偶者と父母や祖父母などの直系尊属

(3)配偶者と兄弟姉妹(この場合は兄弟姉妹には遺留分はないので配偶者だけに1/2の遺留分があることになります)

(4)配偶者のみ

(5)子供のみ

Q
1通だと思っていた遺言書が何通も出てきました。遺言書を書いた後に気が変わったのか、内容が矛盾しています。どうすれば良いのでしょうか?
A

 遺言の要件を満たしている限りどの遺言も有効となりますが、1通目の遺言書と2通目の遺言書で内容が抵触する(矛盾している)場合、抵触している部分については後の遺言により前の遺言が取消されたことになります。一部のみ抵触しているからといって前の遺言全体が無効になるわけではありません。なお、遺言の種類に優劣はありません。2通の遺言書が公正証書により作成された遺言とそれ以外の自筆証書遺言等だったとしても、公正証書が優先する等ということはありません。内容が抵触する部分はあくまでも後に作成されたものが優先します。

Q
相続登記にはどのような書類が必要ですか?何から手を付けていけば良いのか分かりません。どうすれば良いでしょうか?
A

 不動産の所有者である被相続人の相続人が誰であるか確定するところから始めましょう。以下に一般的な書類の取得の流れを記載します。

1 まず、被相続人の本籍地の役所で被相続人の出生から死亡までの全ての除籍謄本、改製原戸籍謄本等を取得します。

 最新の死亡の記載のある除籍謄本だけではほとんどのケースで足りませんので注意が必要です。戸籍は法律改正等の理由により改正され、新しいものに書き換えられることがあります。その際に婚姻等の理由により除籍されていた被相続人の子等は新しい戸籍に記録されないこともあり、その場合新しい戸籍だけでは相続人が誰なのか確定ができなくなってしまうからです。また、他の市区町村から転籍されている場合も同様で、転籍前の市区町村の役所でも除籍謄本等を取得する必要があります。

 役所の窓口で「相続登記に必要」である旨を伝えればその役所で取得できる戸籍類を全て交付してもらえるなど、ある程度の対応・アドバイスはしてもらえると思います。

 戸籍類が全て揃えば相続人が誰であるか確認することができます。相続人が確認できれば相続人全員の現在の戸籍謄本も必要となります(相続人が生存しているということを証明するためです)。

2 次に被相続人の住所地の役所で「住民票の除票」を取得します。

 このときは「本籍地」の省略をしないものを取得してください。これは不動産の登記記録に記録されている被相続人と戸籍等に記録されている被相続人が同一人物であることを証明するために必要なものです。これは本籍地の役所で取得できる「戸籍の附票」でも確認できますのでそちらを取得しても構いません。

 なお、被相続人の最後の住所と登記記録上の住所が住民票の除票や戸籍の附票によってつながりが付かない場合(保存期間が経過していて取得できない場合等)、被相続人の登記記録上の住所が戸籍謄本に記載された「本籍」と異なる場合には被相続人名義の不動産の権利証の提出が必要となります。権利証を紛失している場合には上申書(相続人全員が実印で押印し、相続人全員の印鑑証明書を添付します)が必要になる場合があります。法務局によって対応が異なる場合がありますので注意が必要です。

3 不動産を相続する方の住民票を住所地で取得します。

4 不動産の所在地の役所で固定資産税の評価証明書を取得します。

 登記申請の際に添付する必要があるものですが、相続登記の際に納める登録免許税を計算するのにも必要です。登記申請には原則として評価証明書の原本を添付しますが、法務局によっては固定資産税の納税通知書や固定資産名寄帳のコピーで対応してもらえるところもあります。登録免許税を計算するだけなら手元にある納税通知書を用いて行うことができます。

5 遺産分割をする場合は、遺産分割協議書と、相続人全員の印鑑証明書が必要になります。

6 代理人(司法書士)が申請する場合は不動産を相続する方の委任状が必要です。

 なお、上記の戸籍謄本等の書類は相続登記を司法書士に依頼される場合、司法書士が代わって取得することもできます。お仕事等で手続きに時間を取ることができないという場合等は司法書士に相談してください。

 また、実際に戸籍謄本等を取得してみると相続関係が意外に複雑であることが分かったりすることがあります。家族の誰も知らなかった子供がいた等ということもあるかもしれません。また、被相続人が生前に転籍等を多くしていた場合は戸籍謄本の取得が想像以上に手間のかかる作業になってしまう可能性もあります。そういった場合も司法書士に相談されるのが良いと思います。除籍謄本、改製原戸籍謄本等は非常に古い書類も多く、判読・理解が難しいものもありますし、相続人の内の1人を見落とすといったこともないようにしなければなりません。その点専門家である司法書士であれば確実に相続関係を把握することができます。

 また、遺産分割協議書の作成につきましても司法書士が代わって作成することが可能です。遺産分割協議書の記載が不十分だと登記ができないということもありえます。その場合何度も相続人全員に印鑑を押してもらわなければいけないという状況になることも考えられます。不安のある方は司法書士等専門家に問い合わせしてください。

Q
相続登記に必要な戸籍が戦災等により滅失しているなどの理由で取得できません。どうすれば良いのでしょうか?
A

 この場合、取得できた戸籍類に加えて、除籍等の滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書の提出により登記申請を行います。
 以前は取得できない理由等を記載した上申書(相続人全員が実印で押印、相続人全員の印鑑証明書を添付します)が必要でしたが、相続人全員による証明書を提供することが困難な事案が増加していることなどに鑑みて平成28年より上記の通りの取り扱いとなりました。

Q
相続登記の費用はどの位かかるのでしょうか?
A

 下記の費用があります。

1 国に納める登録免許税

 相続の場合、原則として不動産の固定資産税の評価額の1,000分の4の登録免許税がかかります。遺贈の場合は1,000分の20となります。

 評価額は役所で取得できる固定資産の評価証明書に記載されていますが、お手元の固定資産税納税通知書にも不動産の評価額が記載されています(実際の登記申請においては評価証明書原本が必要となる場合があります)。
 ただし、税制改正により、令和7年(2025年)3月31日までに相続登記を行う場合、土地については固定資産税の評価額が100万円以下であるときは登録免許税を課さないこととされました。
 また、相続(相続人に対する遺贈を含みます。)により土地の所有権を取得した場合、所有権を取得した個人がその相続による所有権の移転登記を受ける前に死亡した場合には、令和7年(2025年)3月31日までにその死亡した個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については登録免許税を課さないこととされました。

2 戸籍謄本等を取得するための実費

3 司法書士に対する報酬

 司法書士に戸籍等書類の取得や、遺産分割協議書等の書類作成、相続登記を依頼した場合の司法書士に対する報酬。これは不動産の数、評価額、相続人の数によって変わります。

4 その他郵便代等

Q
相続登記に権利証(登記識別情報)は必要でしょうか?
A

 相続登記に権利証(登記識別情報)は原則として必要ありません。相続登記完了後に不動産を相続した相続人に対し、新しい登記識別情報が発行・通知されることになります。

 ただし、被相続人の最後の住所と登記記録上の住所が住民票の除票や戸籍の附票によってつながりが付かない場合(保存期間が経過していて取得できない場合等)、被相続人の登記記録上の住所が戸籍謄本に記載された「本籍」と異なる場合には被相続人名義の不動産の権利証の提出が必要となります。

 ここで注意が必要なのは、法定相続分どおりで相続登記を行う場合、相続人の中の1人が全員のために申請することができますが、その際、新たな登記識別情報は「申請した相続人」にしか通知されないということです。申請人とならなかった他の相続人には登記識別情報が通知されないことから、将来相続した不動産を売却しようとした場合等登記識別情報が必要となるケースで余計な手間・費用がかかる場合がありますので相続人全員が申請人となるのが良いでしょう。

Q
代襲相続とはどういったものなのでしょうか?
A

 被相続人死亡時よりも前に被相続人の子または兄弟姉妹が死亡している場合に、被相続人の子の子(被相続人の孫)または兄弟姉妹の子が代わりに相続人となるという制度があり、これを代襲相続といいます。

 また、被相続人の子の子(被相続人の孫)も被相続人死亡時よりも前に亡くなっているような場合、ひ孫が相続人となります(再代襲相続)。兄弟姉妹が相続人になる場合にも、兄弟姉妹が被相続人死亡時よりも前に死亡している場合には代襲相続の規定が適用され、兄弟姉妹を代襲して甥や姪が相続人になりますが、子の代襲の場合とは異なり、甥や姪が被相続人死亡時よりも前に亡くなっているような場合は、さらに甥や姪の子供は相続人になりません。兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっている場合の代襲相続は、甥や姪までの一代限り、ということになります。

 なお、相続が開始したが、遺産分割協議や相続登記を行わないでいるうちに、相続人の1人が亡くなってしまうこともあります。一つ目の相続の手続きをしないうちに、次の相続が開始してしまっている状態であり、これを数次相続といいます。

 例えば夫が死亡し、その相続人が妻と子1人であったとします。夫の相続の手続きをしないうちに子が死亡しました。死亡した子に妻と子1人があったとすると、死亡した子の妻と子が死亡した子の相続権を相続することになります。代襲相続との違いが分かりにくいかもしれませんが、数次相続では死亡した子の妻にも相続権が発生することに違いがあります。これは死亡した子の相続権をその妻と子が相続人として引き継ぐことになるからです(代襲相続の場合は死亡した子の子のみが代襲相続人となります)。

Q
相続登記は相続人全員が申請する必要があるのでしょうか?それとも代表して相続人の1人が申請しても良いのでしょうか?
A

 相続に関する登記には、

(1) 法定相続分による相続登記

(2) 遺産分割協議による相続登記

(3) 遺言書による相続登記または遺贈登記

の3つが考えられます。

(1) 法定相続分による相続登記の場合、原則として法定相続人全員で申請しますが、相続人の中の1人が全員のために申請することもできます。しかし、1人で自分の持分だけを登記することはできません。注意が必要なのは、相続人の中の1人が全員のために申請した場合、新たな登記識別情報は「申請した相続人」にしか通知されないということです。申請人とならなかった他の相続人には登記識別情報が通知されないことから、将来相続した不動産を売却しようとした場合等登記識別情報が必要となるケースで余計な手間・費用がかかる場合があります。よって可能であれば相続人全員が申請人となって申請するのが良いと思われます。また、場合によっては相続人の内の誰かが法定相続分で勝手に登記をしてしまい、自分の持分だけ売却してしまう、ということもおこり得ます。その場合見ず知らずの他人と不動産を共有することになってしまいます。そういったことを防ぐためにもなるべく早いうちに相続人同士で相続について話し合い、手続きを進めるべきです。

(2) 遺産分割協議による相続登記の場合は遺産分割協議により不動産を取得することになった相続人が申請します。

(3) 遺言書による相続登記の場合は遺言書により相続するものと指定された相続人が申請します。

 遺言書に「遺贈」(遺言によって、財産の一部または全部を贈与すること)の文言があれば遺贈の登記をすることになりますが、この場合には、遺贈を受ける人(登記権利者)と相続人または遺言執行者(登記義務者)とが共同で申請することになります。遺言執行者が遺言で指定されていないときは、相続人(全員)が登記義務者となって申請します。
 なお、法律改正により、令和5年4月1日以降は「相続人に対する」遺贈については遺贈を受けた相続人が単独で遺贈による所有権移転登記を申請することができる様になりました。遺言に遺言執行者の定めがない場合は相続人全員で手続きをしなければならない等、手間がかかっていましたが、今回の法律改正により遺贈登記がスムーズに行える様になりました。

Q
遺産分割協議書の作り方が分かりません。遺産分割協議書はどのように作成すれば良いのでしょうか?
A

 様式は特に決まっていません。手書きでもパソコンでも構いません。相続人全員が署名と実印を捺印する必要があります。もちろん印鑑証明書も必要です。その他、主な注意点は下記のとおりです。

1 当事者(被相続人や相続人)を、氏名・本籍・住所・続柄などで明確に特定できるように記載しましょう。

2 氏名・本籍・住所は、戸籍謄本・印鑑証明書等に記載されているとおり正確に記載しましょう。

3 不動産については、登記簿謄本の記載どおりに記載しましょう。登記簿謄本の不動産の所在・地番・家屋番号と「住所」の表示とは異なる場合がありますので注意しましょう。

4 相続人も知らなかった不動産、財産が後日判明することがあります。その場合は誰が相続するのかも記載しておいた方が良いでしょう(「その他一切の財産は相続人○○○○が相続する。」等)。

Q
不動産を誰が相続するかについては話し合いができているのですが、預金等他の財産についての話し合いに時間がかかりそうです。不動産の相続登記を先に行うことはできるでしょうか?
A

 遺産の一部についてのみ遺産分割協議をすることが可能です。

 被相続人の遺産全部について遺産分割の合意ができていなくても、一部については合意できているということもあるでしょう。このような場合、その合意できている部分についてのみ遺産分割協議を成立させることが可能です。不動産について合意ができているのであれば、不動産についてのみ記載した遺産分割協議書を作成し、それに基づいた相続登記が可能となります。不動産を相続人の中の1人がいったん相続し、売却して売却代金を相続人全員で分けるといった協議となった場合はこうした手続きを行えば良いでしょう。

Q
遺産分割協議により相続登記を行ったのですが、後で協議をやり直すことは可能でしょうか?
A

 遺産分割協議をやり直すことは可能です。遺産分割協議が成立した後に事情が変わることもあるでしょう。この場合、相続人全員の合意が必要であるのは言うまでもありません。既に行ってしまった相続登記を抹消して、新たな遺産分割協議書で再度登記をすることになります。

 ただし、税務上は注意が必要で、遺産分割のやり直しは遺産分割ではなく、譲渡・交換・贈与として課税を受ける場合があります。税理士や税務署に相談する等した方が良いでしょう。

Q
遺産分割協議をしたいのですが、相続人の1人である母親が認知症です。どうすれば良いでしょうか?
A

 相続人が認知症等である場合、意思能力(物事を判断する能力)の有無が重要なポイントとなります。意思能力がなければ遺産分割協議に参加することができません。意思能力のない状態で協議に参加しても他の相続人の良いように導かれてしまい、結果として不利益を被るおそれがあるからです。認知症であっても意思能力があればその相続人も遺産分割協議に問題なく参加することができます。

 問題は認知症等により意思能力がない場合です。この場合、「成年後見制度」を利用して後見人等を選任し、後見人が本人に代わって遺産分割協議を行うことになります。この制度の利用について詳しくは成年後見制度のQ&A(【参考】成年後見制度について)を参照してください。

 ここで注意しなければならないことは、後見人となった者は意思能力が失われている相続人が不利益になってしまう内容の遺産分割協議を原則としてすることができないということです。後見制度は意思能力が十分でない方を支え、保護するための制度であり、最低限法定相続分の遺産を相続できる様に協議する等、配慮が必要となってきます。場合によっては家庭裁判所に事前に相談する等した方が良いでしょう。

Q
亡くなった父親には借金しかありません。支払いの催告書が来て困っています。このような場合、相続放棄ができると聞きました。相続放棄をしたいのですが、どうすれば良いでしょうか?
A

 相続放棄とはプラスの財産もマイナスの財産も全て相続しないという意思表示のことです。マイナスの財産(借金)の方がプラスの財産よりも多い場合には相続放棄をすることで借金を引き継ぐことを避けることができます。

 相続人が相続放棄をするには家庭裁判所(被相続人の最後の住所地の家庭裁判所となります)に戸籍等の必要書類を添えてその旨の申述をしなければなりません。

 申述は、民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています。ただし、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続財産の状況を調査してもなお、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には、相続の承認または放棄の期間の伸長の申立てをすることができます。

相続放棄の手順は下記のとおりです。

1 戸籍等の必要書類を集める

・被相続人の住民票除票もしくは戸籍附票

・放棄する方(申述人)の戸籍謄本

・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

※申述人が被相続人の第二順位(父母等)、第三順位(兄弟姉妹等)の相続人である場合は第一順位の相続人がいないことを証明する必要がありますので、被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本等が必要となる等、事案によって必要な戸籍等の書類は変わります。

2 相続放棄申述書を作成する

 申述書は裁判所のホームページからダウンロードすることができます。記載例もあります。

3 家庭裁判所への申立て

 費用は収入印紙で納めます。金額は裁判所のホームページ等で確認できます。他に連絡用の切手を納めます。切手の種類、枚数は申述先の家庭裁判所に確認します。申立ては家庭裁判所に行かなくても郵送でも可能となっています。

 相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると家庭裁判所から「照会書」が郵送されますので照会書の質問に回答し、家庭裁判所に返送します。問題がなければ相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から郵送されます。これによって相続放棄が認められたことになります。

 もしも債権者から支払いの催促があったりした場合はこの相続放棄申述受理通知書を見せます。必要があれば家庭裁判所で「相続放棄申述受理証明書」を取得することもできます。

Q
相続人の中に相続放棄をした者がいます。このような場合、相続登記はどのように行うのでしょうか?
A

 相続放棄をすると裁判所で「相続放棄申述受理証明書」を取得することができます。登記申請にこの証明書を添付します。

Q
相続人の中に未成年の子供がいます。相続登記はできますか?遺産分割協議をする場合どうすれば良いのでしょうか?
A

 未成年者だとしても相続人であることに変わりはありません。相続により未成年者が不動産を取得することも可能です。遺産分割協議をする場合、その未成年者も含めて行う必要があります。ただ、未成年者は単独で法律行為をすることができません。遺産分割協議も法律行為であるため、協議を行う際には法定代理人の同意を得る必要があります。親権者は通常子の法定代理人になりますが、相続において親権者も子も共に相続人である場合、親権者は子の法定代理人として遺産分割協議についての同意はできません。親権者が法定代理人として自分に有利になるように協議を進める可能性があるからです。このような場合、親権者に代わって子の代理人になる特別代理人を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。なお、この特別代理人選任の申立ては、特別代理人の候補者を指定して行いますが、子のおじやおばなどの近親者を候補者として選任してもらうのが一般的です。また、未成年の子が2人いる場合は特別代理人も2人選任する必要があります。不動産の所有権移転登記手続きには、家庭裁判所の「特別代理人選任審判書」を提出する必要があります。

 ここで注意しなければならないことは、特別代理人は未成年の相続人が不利益になってしまう内容の遺産分割協議を原則としてすることができないということです。特別代理人は未成年者の利益を保護するために選任されるものであり、特別代理人は最低限法定相続分の遺産を相続できる様にする等配慮して協議をしなければなりません。相続人が被相続人の妻と未成年の子の2人である場合、他に財産があって子の法定相続分を確保できない限りは妻が単独で不動産を相続することは原則として難しいということになります。場合によっては家庭裁判所に事前に相談する等した方が良いでしょう。

 ただ、未成年の子が成人すれば妻単独で相続する旨の協議は可能となりますので、特に相続登記を急がないのであれば子が成人するまで待つというのも一つの方法です。ただし、法律改正により相続登記が義務化され、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないことになりました(令和6年4月より)ので注意が必要です。詳しくはQ&A相続登記が義務化されたということですがどういうことでしょうか?を参照してください。

 なお、法定相続による場合や、遺言により未成年の子に相続させる場合は親権者である妻が子の法定代理人になることができますので特別代理人を選任する必要はありません。

 特別代理人選任の申立ての手順は下記のとおりです。

1 戸籍等の必要書類を集める

・未成年者の戸籍謄本等

・親権者の戸籍謄本等

・特別代理人候補者の住民票

・利益相反に関する資料(遺産分割協議書の案文等)

 遺産分割協議書の案文に記載された財産についてはその価値が分かる様な資料の提出も用意します(不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書、預金の残高証明書等)。

※上記以外の書類の提出を要求されることもあります。

2 選任申立書等必要書類を作成する

 申立書は裁判所のホームページからダウンロードすることができます。記載例もあります。

3 家庭裁判所への申立て

 費用は収入印紙で納めます。金額は裁判所のホームページ等で確認できます。他に連絡用の切手を納めます。

Q
相続登記をしたいのですが、相続人の1人が行方不明で連絡がとれません。このような場合どうすれば良いでしょうか?
A

 2つの方法があります。

1 家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選任してもらい、不在者財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加して手続きを行う方法

2 不在者の「失踪宣告」を行い、不在者が死亡したものとして不在者の法定相続人が遺産分割協議に参加して手続きを行う方法。なお、失踪宣告は行方不明と認識されてから7年以上(火災や地震等によって生死不明になった場合(危難失踪)は1年以上)が経過していなければなりません。ただ、所定の年数を経過していても親族の感情等から死亡扱いとすることに抵抗がある場合等は不在者財産管理人の制度を利用しても構いません。

 不在者財産管理人選任の申立ての手順は下記のとおりです。想定していた候補者ではなく、家庭裁判所の指定する弁護士や司法書士が選任されたり、それらの者に対する手数料を予納金として納める必要が生じることがあったりと、手続きは煩雑になりますので、弁護士や司法書士等の専門家に相談する等した方が良いでしょう。

 なお、不在者財産管理人は保存行為(財産の現状を維持する行為)と目的物または権利の性質を変えない範囲内においてその利用または改良を目的とする行為の2つしかできません。不在者財産管理人が行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議を行うことは権限外の行為となりますので、家庭裁判所の許可が必要になります。そして、不在者財産管理人は行方不明者に不利になるような遺産分割協議は原則としてできませんので注意が必要です。不在者財産管理人の制度は不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するための制度です。不在者財産管理人は最低限法定相続分の遺産を相続できる様にする等配慮して協議をしなければなりません。協議の内容によっては家庭裁判所が認めないこともありますので、家庭裁判所に事前に相談する等した方が良いでしょう。

 不在者財産管理人選任の手順は下記のとおりです。

1 戸籍等の必要書類を集める

・申立人の戸籍謄本等

・不在者の戸籍謄本等

・不在者財産管理人候補者の戸籍謄本、住民票等

・不在者の財産目録(相続財産が不動産であれば登記事項証明書が必要です)

・不在の事実を証明できる資料(警察に捜索願を提出している場合は、その受理証明書等も必要になる場合があります)

※上記以外の書類の提出を要求されることもあります。

2 選任申立書等必要書類を作成する

 不在者財産管理人となる人を候補者として記載します。申立書は裁判所のホームページからダウンロードすることができます。記載例もあります。

3 家庭裁判所への申立て

 費用は収入印紙で納めます。金額は裁判所のホームページ等で確認できます。他に連絡用の切手を納めます。家庭裁判所から申立人と不在者財産管理人候補者に呼出がある場合もあります。家庭裁判所の調査官と面談し、事情を説明します。

4 家庭裁判所での調査

 家庭裁判所でも不在者の調査をします。その後不在者財産管理人が選任されます。

 失踪宣告の申立ての手順は下記のとおりです。

1 戸籍等の必要書類を集める

・申立人の戸籍謄本等

・行方不明者の戸籍謄本等

・行方不明の事実に関する資料等

2 申立書類を作成する

 申立書は裁判所のホームページからダウンロードすることができます。記載例もあります。

3 家庭裁判所への申立て

<申請できる時期>

(1)危難失踪(火災や地震等によって生死不明になった場合)

 事件事故から1年以上経過していることが必要です。

(2)普通失踪

 行方不明になってから7年以上経過していることが必要です。

 費用は収入印紙で納めます。金額は裁判所のホームページ等で確認できます。他に連絡用の切手を納めます。また、官報公告料が必要になります。

4 家庭裁判所での調査

 多くの場合、申立人や不在者の親族などに対し、家庭裁判所による調査が行われます。その後、裁判所が定めた期間内(3か月以上。危難失踪の場合は1か月以上)に、不在者は生存の届出をするように、不在者の生存を知っている人はその届出をするように官報や裁判所の掲示板で催告をして、その期間内に届出などがなかったときに失踪の宣告がなされることになります。

 失踪宣告がされると、その人は死亡したのと同じ扱いとなりますので相続手続きが開始できることになります(死亡したとみなされた行方不明者の相続人が代わって手続きを行うことになります)。
 ただし、この場合、相続人に行方不明者の相続人が加わることになりますので行方不明者の相続人が複数いる場合等、遺産分割協議が難しくなる可能性もあります。

Q
相続人間で話し合った結果、被相続人名義の不動産は売却してその売却代金を相続人間で分けることにしました。このように近々売却する予定の不動産でも相続登記は必要なのでしょうか?
A

 不動産を相続するよりも売却して現金でもらいたい、という方もいると思います。その場合、被相続人が生前にその不動産を売却しており、所有権移転登記が行われていなかっただけという場合でなければ被相続人名義から直接買主への所有権移転登記はできません。相続登記を省略して買主の名義に所有権移転登記をすることは実際の権利の変動の過程を登記に反映していない中間省略登記として認められないものだからです。よって、不動産を売却したいというのであれば相続人への相続登記が完了してからということになります。なお、所有権移転登記までに相続登記は済ませる必要がありますが、不動産が亡くなった方の名義のままでは買主側としては相続トラブルがあるのではないかと警戒し、買主が見つかりにくい、ということもあるかもしれません。そのため、相続不動産を売却するときは早めに相続登記をしておくべきでしょう。相続登記は戸籍謄本等多くの書類を準備したり、遺産分割協議等相続人同士で話し合いを行う必要がある場合もあり、時間がかかるものです。希望の日に売却するためには余裕を見て早めに準備にとりかかるようにしましょう。

Q
遠方に被相続人の不動産があることが分かりました。どのように手続きをすれば良いでしょうか?
A

 以前は不動産登記申請を行うためには、管轄の法務局に出向いて登記申請書を提出しなければなりませんでした。現在は不動産登記法が改正され、法務局に出頭せず、インターネットによって登記申請を行うこと(オンライン申請)もしくは郵送によって登記申請を行うこと(郵送申請)が認められています。登記完了後発行される登記識別情報についても郵送(本人限定受取郵便)で受け取ることが可能です。

 オンライン申請については申請書に電子署名が必要であり、申請用の専用ソフトも必要となる等、インターネット環境を整えなければなりません。司法書士であればそれらの環境を整えているところが多くありますので司法書士に登記を依頼される場合は心配はいりません。

 郵送申請の場合、申請書を準備し、返信用封筒とともに書留郵便で管轄の登記所に送付することになります。

Q
未登記の建物を相続したのですが、どのような手続きになるのでしょうか?
A

 まず、建物の売却や建物を担保にした借入を考えておられる場合は建物の表題登記を行い、保存登記を行う必要があります。保存登記をしなければ買主への所有権移転の登記や、金融機関の抵当権等の担保の設定登記ができないからです。では、そういった予定がない場合には未登記のままにしておいても良いでしょうか?未登記では所有権を第三者に対抗することはできませんし、表題登記については不動産登記法で登記することが義務付けられています。争いがおこりにくい状況(他の相続人がいても遺産分割協議書があれば所有権で争いになることはないでしょう)であれば良いのではと考えられるかもしれませんが、将来にわたってトラブルを未然に防いでいくという意味で、登記することにより権利関係を明確にしておくメリットはあると思います。

Q
相続登記にはどれ位時間がかかるのでしょうか?
A

 まず戸籍等の書類の取得に時間がかかることが多くあります。一つの役所で全て揃えば良いのですが、被相続人が生前に何度も転籍をされていてその本籍地が遠方であったりすると、各市区町村に郵送での書類の申請・取得が必要になることもあり、書類を集めるだけでも1~2か月(相続人が多い等場合によってはそれ以上)かかることもあります。

 また、遺産分割をする場合、話し合いがついていたとしても相続人が遠方にちらばっているような場合も郵送でのやり取り等になってしまうので時間がかかることになります。

 全ての書類が揃うと法務局に申請することになりますが、申請してから登記が完了し登記識別情報が手元に届くまで法務局の混み具合にもよりますが1週間~10日前後かかります。

 もし相続登記後の不動産の売却を考えておられるなら売買の日程については余裕をみておくのが賢明です。

Q
司法書士等の専門家に依頼せず、相続登記を自分で行うことは可能でしょうか?
A

 費用を安く抑えるため司法書士等の専門家に依頼せず自分で手続きをしたいという方は多いと思います。時間と手間をかければ専門家でなくとも登記手続きを行うことは可能だと思われます。税務申告も自分で行えば必ずしも税理士に依頼する必要がないのと同じです。

 しかし、必要な書類を役所で集めたり遺産分割協議書等の書類を作成するといったことは時間と手間をかければ可能だとは思われますが戸籍謄本等の書類は古いものになると判読、理解が難しかったり、遺産分割協議書も記載が不十分だと後で作成し直す必要が生じ、何度も相続人全員に印鑑をもらうことになったりと想像以上に労力と時間を費やすことになるかもしれません。相続登記後売却を考えておられるような場合、時間がかかりすぎて希望の時期に売却ができなくなってしまうということも考えられます。

 また、不動産は高額な財産であり、後になってトラブルが生じないように手続きをする必要があります。専門家でない個人が手続きを進めると相続登記すべき不動産を見落としてしまったり、相続人の誰か1人が手続きを行うことで同じ立場の他の相続人は、自分が不利になる様に進められているのではないかと不信感を抱くといったこともあるかもしれません。

 その点、司法書士等の専門家が手続きを代わって行えば戸籍等の資料から正しく相続関係を把握し、対象となる不動産を特定し、適正な書類を作成できることになります。第三者が間に入ることにもなり証拠も残るので後々のトラブルも未然に防ぐことができるということにもつながります。

Q
相続登記が義務化されたということですがどういうことでしょうか?
A

 現在問題となっている所有者不明土地の主要な発生原因が相続登記の未了とされていることから、法律の改正により相続により不動産を取得した場合、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないことになりました。これには遺言による場合も含みます。この改正は令和6年4月1日からスタートします。令和6年4月1日より前に相続した不動産も相続登記がなされていないものは3年間の猶予期間はありますが、義務化の対象となりますので注意が必要です。
 遺産分割協議をされた場合、不動産を取得した相続人は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に、遺産分割協議に基づく相続登記の申請をしなければならないことになりました。
 なお、正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかった場合、過料が科されることがあります。
 正当な理由としては、
(1)相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や相続人の特定・把握に多くの時間を要する
(2)遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている
(3)申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース
などがあります。
 また、過料の問題以外にも相続登記をしないまま放っておいた場合、不利益となるケースもあります。亡くなった方の名義のままになっている不動産を相続人が売却しようとした場合、相続登記により相続人名義にした後でなければ買主の名義に所有権移転登記ができません。また、その不動産を担保に借入を行いたいといった場合は抵当権等の担保権の設定登記が必要になることが多いのですが、抵当権等の設定登記も相続登記をしなければできません。
 また、相続人の誰かが亡くなる等して数次にわたる相続が発生してしまうと相続人の数が増え、顔を合わせたこともない様な遠い親戚と遺産分割協議をしなければならなくなる等、手間が一気に増える可能性があります。相続人全員の意見がまとまらず、相続登記ができなくなってしまう可能性もあります。できるだけ早く相続登記は行うべきでしょう。
 尚、相続登記以外に登記名義人の住所の変更登記の未了も同じく所有者不明土地の発生原因とされていることから、相続登記と同じく義務化されることとなりました。こちらは令和8年4月のスタートとなります。

Q
相続登記の義務化にともない「相続人申告登記」というものができたそうですがどういったものですか?
A

 登記簿上の所有者について相続が開始したことと自らがその相続人であることを申し出る制度です。この申出をすることにより、申出をした相続人の氏名・住所等が登記されます。
相続登記申請義務の履行期間内(3年以内)に行うことで、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。
 ただし、申請義務を履行したものとみなされるのは、登記簿に氏名・住所が記録された相続人のみとなります。
 相続人申告登記においては、相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申出することが可能であり、法定相続人の特定・把握、及び法定相続分の割合の確定が不要であることに加え、添付書面としても申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本の提出のみで足りるので、相続登記の準備に時間がかかるケース等で活用できます。

Q
相続土地国庫帰属制度とはどういったものですか?
A

 相続(遺言による場合を含みます。)により土地の所有権を取得した相続人が、不要だと考える土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする制度で、令和5年4月27日よりスタートしました。国庫に帰属された土地は、普通財産として、国が管理・処分します。
 国庫帰属までは、
 (1)法務局への事前相談
 (2)申請書の作成・提出
 (3)法務局による要件審査
 (4)審査を踏まえ、承認・負担金の納付
 (5)国庫への帰属
 という流れになりますが、手順が多いため、ここでは詳しい解説は割愛します。法務省のホームページに詳しいパンフレット等が掲載されていますので参考にしてください。
 なお、下記に該当する土地は帰属させることができませんので注意が必要です。

1 申請をすることができないケース(却下)

(1) 建物がある土地
(2) 担保権や使用収益権が設定されている土地
(3) 他人の利用が予定されている土地
(4) 土壌汚染されている土地
(5) 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

2 承認を受けることができないケース(不承認)

(1) 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
(2) 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
(3) 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
(4) 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
(5) その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

Q
「配偶者居住権」というものが創設されたと聞きました。どういったものですか?
A

 配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人の財産に属する建物に居住していた場合に、その建物の全部について無償で使用及び収益をすることができる(住み続けることができる。)権利のことをいいます。(1)遺産分割によって配偶者居住権を取得した場合、(2)配偶者居住権が遺贈の目的とされたときのいずれかに該当する場合に当該権利を取得するものとされています。
 配偶者が「配偶者居住権」を取得することにより、配偶者は自宅に住み続けることができる上、当該建物の所有権を他の相続人が相続する等、バランスのよい遺産分割が可能になる等のメリットがあります。
 配偶者居住権の存続期間は終身の期間とされていますが、遺産分割協議もしくは遺言で期間を定めることもできます。
 また、配偶者居住権は登記することができます。建物の所有者(所有権を取得した他の相続人等)は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。登記したときは、その後にその不動産について所有権を取得した者、その他の第三者に配偶者居住権を対抗することができます。
 登記に必要な書類としては当該建物の所有者の登記識別情報・印鑑証明書の他、配偶者が配偶者居住権を取得した事実を記載した書面(登記原因証明情報)、登記申請を司法書士に委任する場合には委任状を提出することになります。

Q
自筆証書遺言書保管制度とはどういったものですか?
A

 自筆証書による遺言を作成した場合、自宅で保管されることが多いため、紛失等のおそれがあり、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄・隠匿・改ざんのおそれもあります。
 そこでこうした問題によって紛争が生じることを防止するため法務局で自筆証書による遺言書を保管する制度が創設されました。
 メリットとしては、下記があげられます。

1民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するか遺言書保管官の外形的なチェックを受けることができる。

2遺言書原本に加え、画像データとしても長期間適正に管理される。

3相続開始後、家庭裁判所における検認が不要。

4相続開始後、相続人は遺言書を閲覧したり、遺言情報証明書の交付を受けることもできる。

5相続人の内どなたか一人が遺言書保管所において遺言書の閲覧をしたり、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人全員に対して、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届く。(関係遺言書保管通知)

6遺言者があらかじめ通知を希望している場合、その通知対象とされた方(遺言者1名につき、3名まで指定可)に対しては、遺言書保管所において、法務局の戸籍担当部局との連携により遺言者の死亡の事実が確認できた時に、相続人等の方々の閲覧等を待たずに、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届く。(指定者通知)

手続きの流れの概要としては下記の通りとなります。

1自筆証書遺言に係る遺言書を作成し、遺言書保管所(法務局)を決定する。
2遺言書の保管申請書を作成する。
3遺言書保管所の予約を取る。
4遺言書保管所に来庁し、保管の申請をする。
5最後に保管証を受け取る。

必要書類としては下記の通りとなります。

1遺言書
2保管申請書
3住民票の写し等
4顔写真付きの官公署から発行された身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード等)
5手数料※遺言書1通につき、3,900円(収入印紙で納付します。)

Q
法定相続情報証明制度とはどういったものですか?
A

 相続人が相続関係の一覧図を戸籍謄本等一式とともに登記所に提出することにより、一覧図の内容が民法に定められた相続関係と合致していることを登記官が確認した上で、その一覧図に認証文を付した写し(証明書)を無料で交付するという制度です。
 この一覧図は戸籍謄本の束と同じ意味をもつことになり、行政機関や金融機関等に提出すれば様々な相続関係手続にいちいち戸籍謄本の束を提出する必要がなくなり、費用も安く済むことになります。
 相続税の申告書の添付書類に使用することや、遺族年金の請求等、各種年金等手続においても使用することが可能となっています。
 この制度を利用するには、作成した相続関係の一覧図、戸籍謄本等の書類一式、本人確認書類等を添えて申出書を法務局に提出する必要があります。詳しい手続の内容は法務省のホームぺージにも掲載されていますが、一覧図の作成等は慣れていないと手間がかかるかもしれません。代理人でも申出手続は可能ですので相続関係手続の専門家でもある司法書士にご相談されても良いでしょう。