不動産登記は、不動産に関連する法律行為には欠かせないものです。日頃一般の皆様が疑問に思われていること、また、登記手続きをする際に誰しもがぶつかると思われる疑問について解説しています。
法務局(登記所)について
不動産登記申請をする場合、その不動産を管轄する法務局で受け付けてくれます。管轄は、登記する不動産の所在地により決められており、その不動産を管轄する不動産登記の事務を行う法務局もしくは地方法務局、支局または出張所のことをいわゆる登記所といいます。
各登記所の管轄は、下記の法務局のホームページにおいて確認することができます。
法務局ホームページ:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/index.html
例えば、東京都千代田区や文京区であれば、東京法務局と決められています。
不動産を管轄する登記所では、管轄内の不動産の登記申請の受付以外に、登記事項証明書、登記事項要約書、地図、地積測量図、建物図面等の証明書を交付してもらえます。また、その不動産についての過去の不動産登記簿謄本(全部事項証明書)、地図(公図)、地積測量図、建物図面を閲覧することができます。
以上の証明書等により不動産の現在の状況、過去の状況を把握することにより安全な不動産の取引をすることができます。
「地番」とは、土地の1区画(1筆)ごとに法務局により定められた番号のことをいいます。「住居表示」とは、原則的に建物に付けられた住居番号のことで、市区町村が定めています。住居表示が実施される前は、慣習的に地番を住居表示として利用しているのですが、住居表示が実施されると、「●●市■■町1番地」⇒「●●市■■一丁目1番1号」のような記載になります。地番の決め方が、住居表示ほど規則的ではないので、郵便の配達等の際、その建物がどこに存在するのかが分かりづらいため、住居表示の実施により整理するのです。ただし、「住居表示」は、全国的に実施されているわけではなく、まだ住居表示制度が取り入れられていない地域では、地番を住所として利用しています。
現在、「不動産登記簿謄本」のことを「全部事項証明書」といいます。「全部事項証明書」は、地番、家屋番号が分かっていれば、全国どこの法務局でも取得することができます。
しかし、地番、家屋番号が分からなければ、住居表示では、「全部事項証明書」を取得することができないため、管轄法務局に行き、住宅地図に地番を重ねて記載したブルーマップや地番検索システムで住居表示から地番を検索し、地番を調べてから取得することになります。
さらに、昨今はオンラインでこの全部事項証明書の取寄せや、有料ですがインターネットで登記記録や地図や、地積測量図、建物図面が閲覧できるようになっています。
不動産登記簿謄本(全部事項証明書)の表題部の下に甲区があります。この甲区には当該不動産の所有権に関する内容(誰がどのような原因でいつその所有権を取得したか)が記載されています。所有権の登記は、同じ不動産に2つ併存することはありません。すなわち、1個の不動産に所有権は、1つなのです。
例えば、下記図1の不動産登記簿謄本(全部事項証明書)のような場合、所有者はDとなります。乙区と違い所有権は、受付年月日、受付番号が若いものが優先するのではなく、順番に移転していきます。
すなわち、A⇒B、Cに売却し、所有権がB、Cの共有になった後、B、CからDに所有権が売却されたことになります。
ここでもし、実は、B、Cが二重売買を行い、D以外の第三者であるEに先に売買を行い、その後Dに売却し、Eより先にDに所有権移転登記をした場合、その後、B、CからEに所有権移転登記が申請したとしても、Dが先にB、Cから登記申請を受けているのでEの所有権移転登記申請は、却下されてしまいます。
しかし、これが乙区の登記であればどうでしょうか?
例えば、抵当権を設定し登記申請をした後、さらに別の抵当権を設定し登記申請をしても受け付けられます。
なぜなら、抵当権のような担保権は、所有権とは違い、他の担保権者を排除する権利ではないため複数の同じ担保権を設定登記することが可能であるからです。
すなわち、所有権の場合は、その不動産に1つしかありませんので対立するDとEの登記は両方を登記することはできないのです。
では、質問の不動産登記等謄本(上記図2)では、どのような登記がなされているのでしょうか。
(1)順位番号1番・・・
順位番号1番で登記した際は、Aに所有権があることが分かります。
(2)順位番号2番・・・
その後、順位番号2番でAの所有権の一部がBに移転し、この時点で、この不動産は、AとB(持分2分の1ずつ)の共有になっていることが分かります。
(3)順位番号3番・・・
その後、順位番号3番でBの持分の一部がCに移転し、この時点で、この不動産は、A(持分2分の1)とB(持分4分の1)とC(持分4分の1ずつ)の共有になっていることが分かります。
(4)順位番号4番・・・
そして、順位番号4番でAの持分全部がDに移転されたため、最終的にこの不動産は、B持分4分の1、C持分4分の1、D持分2分の1の3名の共有になったことが分かります。
以上のように、所有権の場合、複数の所有者で共有することができます。しかし、特に後先や優劣があるわけではありません。1個の所有権を持分に応じて分け合っているに過ぎません。
上記図3は、所有権以外の用益権や担保権が設定されている乙区の登記になります。
下記の(1)~(5)のような内容の登記となります。このように甲区の所有権の登記とは違い、
(1)順位番号1番・・・
Aがこの土地に抵当権を第1順位で設定したことが分かります。
その後、AがXに債権譲渡したため、この抵当権はXに移転しています。したがって、現在では、Aは抵当権者ではなく、Xが抵当権者となります。
(2)順位番号2番・・・
Bがこの土地に区分地上権を設定したことが分かります。
区分地上権は、地上権ですが、土地の地下や空間に一定の範囲を決めて工作物を所有するために設定する地上権です。
こちらの区分地上権は、地下の30メートルから100メートルの間で地下鉄道を所有するための地上権となります。
第2順位の登記ですので、先順位の抵当権がこの区分地上権より優先します。したがって、万一、順位番号1番の抵当権が実行されこの土地が競売された場合は、この区分地上権は、抹消されることになります。
(3)順位番号3番・・・
Cの賃借権が設定されています。
区分地上権と賃借権は利害が対立する権利ですが、Bは、自分の地上権の利用についてはCに対抗できます。また、そもそも、Bの区分地上権の範囲以外については、Cと利害対立はないので併存できる権利関係となります。
したがって、問題なく賃借権を設定することができたのですが、あくまでBの区分地上権を侵害することのない範囲です。また、順位番号1番の抵当権より受付年月日・受付番号が遅れますので、競売された場合は区分地上権とともにこの賃借権は消滅します。
(4)順位番号4番・・・
Dにより根抵当権が設定されています。
根抵当権は抵当権と同じく担保権の一種です。したがって、順位番号1番の抵当権に遅れる登記として登記ができます。そしてこの不動産が競売された場合、順位番号1番の抵当権の債権が弁済を受けた後、この根抵当権の債権が弁済を受けることになります。
(5)順位番号5番、6番・・・
Eにより根抵当権が設定されその後、順位番号6番登記で抹消されています。
抹消された登記は、下線が引かれます。
平成17年の不動産登記法改正により各登記所において電子申請(以下、「オンライン申請」)が可能となり、現在では全ての登記所が「オンライン指定庁(オンライン申請ができる登記所のことです)」になりました。オンライン申請は、簡単に言えば自宅のパソコンに法務局の指定するソフトをダウンロードの上、必要事項を入力して登記申請をすることをいい、
この改正により
(1)従前からあった登記所に出頭して書面で申請する方法
(2)郵送により書面で申請する方法
(3)オンライン申請
と申請方法の選択肢が増えたことになります。
平成17年の不動産登記法の改正によりオンライン申請が可能となり、オンライン申請で添付する情報には、原則として、作成者の電子署名や電子証明書が必要になりましたが、この電子署名や電子証明書は、個人には、ほとんど普及していないため、オンライン申請は、以前はあまり利用されていませんでした。
そこで、オンライン申請を普及させるため、その後の法改正により「特例方式」とよばれる「添付書類」を郵送もしくは持参する方法が認められることになりました。
すなわち、これによって、オンラインで申請情報及び必要な場合は登記原因証明情報のPDFならびに登記識別情報を送信し、その他の書面は、現物を郵送または持参をすれば良いこととされたのです。
このため、オンライン申請の際でも、添付情報への電子署名や電子証明書は必ずしも必要ではなく、出頭申請や郵送申請と同じ添付書類で登記申請をすることが可能となりました。
現在では、ほとんどのオンライン申請がこの「特例方式」で申請されています。
ただし、「特例方式」のオンライン申請での注意点は、申請を受け付けてから2日以内に申請した登記所に添付書面を提出しなければなりません。
平成17年の不動産登記法の改正によりオンライン申請ができる登記所(オンライン指定庁)については、登記完了後、「権利証(登記済証)」に代わって「登記識別情報」が通知されることになりました。ただし、今まで交付された「権利証」が無効になるわけではなく、オンライン指定庁になった以降に新たに行われた登記申請から「登記識別情報」が通知されます。
1.「登記識別情報」とは
「登記識別情報」は、不動産及び登記名義人となった申請人ごとに通知されるアラビア数字その他の符号の組合せからなる12桁の暗証番号(パスワード)です。法務局より割り当てられた暗証番号であり、お客様が自由に暗証番号を決める事は出来ません。また、平成27年2月23日から、登記識別情報の通知の際に、アラビア数字その他の符号の組合せからなる12桁の暗証番号(パスワード)に加え、新たにQRコードが追加されております。
不動産及び登記名義人となった申請人ごとに通知されることから、例えば、1戸の区分建物を夫婦共有で購入して所有権移転登記を行った場合、妻、夫それぞれに1通ずつ通知されることになります。
通知は、オンラインで通知を受信しダウンロードするか、もしくは登記識別情報を記載した書面の交付を受けることができます。一般的には、登記識別情報を記載した書面を郵送もしくは法務局の窓口で交付を受けることがほとんどと思われます。
「登記識別情報」は、登記名義人が後日になって所有権移転登記や抵当権設定登記等のようにその登記を処分、変更する登記を申請する際に、本人確認の手段として法務局に提供する必要がある大切なものです。
「登記識別情報通知」には、登記識別情報が記載されている部分を見えないようにするために折り込み方式もしくはシールで目隠しがされております。
「登記識別情報」を他人に見られたり、コピーされたりすると、従来の権利証が盗まれたのと同様の効果がありますので、厳重に保管して下さい。
必要が生じるまでミシン目を切り剥がさないこと(シールを剝がさないこと)をお勧めします(目隠し部分のミシン目(シール)は、1度切り剥がすと(剥がすと)元に戻すことができません)。なぜならば、登記識別情報は、暗証番号(パスワード)なので、他人に見られたり、コピーされてしまうと従前にいう権利証が盗まれたのと同様の効果となるからです。すなわち、この場合、「登記識別情報通知」の書面自体を持っていたとしても何ら意味はないということになります。
そのため、必要が生じるまでミシン目を切り剥がさずに(シールを剝がさずに)大事に保管しておくことをお勧めします。
「登記識別情報通知」を紛失した場合、また「登記識別情報」を他人に知られた可能性がある場合には、不正に使用されるおそれがありますので、その「登記識別情報」の失効手続きをとることをお勧めします。
「登記識別情報」は、「権利証」と違い、「登記識別情報」が記載された書面である「登記識別情報通知」自体に効力があるわけではありません。したがって、「登記識別情報」(すなわち「パスワード」)自体を無効にしてしまえば、「登記識別情報通知」自体も無意味なものになってしまうからです。
「登記識別情報」の失効には、書面で申請する場合は、実印を押印した失効の申出書に添付して
1個人 印鑑証明書
2法人 印鑑証明書と資格証明書(会社の登記簿謄本等)
が必要となり、代理人からであれば委任状、相続人等の一般承継人からであれば戸籍等の相続(一般承継)を証する書面が別途必要となります。
不通知制度とは、「登記識別情報」の通知を受けるべき者が、登記申請する際に予め「登記識別情報」の通知を希望しない旨の申し出をした場合、「登記識別情報」は通知されません。
「登記識別情報」は、登記名義人本人からの申請であることを証明する一つの手段です。例えば、登記名義人として所有している不動産を売却し、新しい所有者に所有権の移転登記をする際に登記義務者として売主である登記名義人からの申請であることを登記官が確認するための一つの方法です。
したがって、将来その不動産の登記義務者として登記申請を行うことがない場合、「登記識別情報」を使用する機会はありません。
このように「登記識別情報」を将来にわたって使用する機会が全くないような場合、また、「登記識別情報」の通知を受けるメリットより、管理上第三者に見られてしまうリスクをデメリットと考えるような場合「登記識別情報の不通知制度」を積極的に利用することも検討すべきです。
「登記識別情報」を不通知とするデメリットは、一度不通知を選択すると「登記識別情報」を将来発行してもらうことができないこと及び将来登記義務者として登記申請をする際に「事前通知制度」や「資格者代理人による本人確認情報提供制度」もしくは、「公証人の認証」が必要となります。
「登記識別情報」は、紛失や毀損によって判別できなくなったり、また、不通知制度により「登記識別情報」の通知を受けなかったりして、一度失効させると再通知は受けられません。また、キャッシュカードの暗証番号のように変更することもできません。
これは、「登記識別情報」が登記名義人本人からの申請であることを証明する強力な証明手段となるため登記申請時にのみ通知されることと「登記識別情報」がない場合の代替手続きが存在するため「登記識別情報」の再通知をする必要性がないためです。
「登記識別情報」の通知を受けなかった場合や「登記識別情報」が通知されなかった場合、また、「登記識別情報」を失念してしまった場合、失効させた場合、および「登記識別情報」を提供することができない場合に、次のような制度を使えば、「登記識別情報」を提供しなくても登記申請が可能です。
1.事前通知制度
登記識別情報(権利証)を添付しないで申請した場合、登記官から「申請があった登記名義人」に対して「本人限定受取郵便」を使って「申請があった事実と申請内容が真実であれば、2週間以内にその旨を申し出る旨」のお知らせ通知が送付されます。この通知に対して、登記名義人が「申出書」に記名し、申請書もしくは委任状に押印したものと同一の印鑑(実印)を押印して、この「申出書」を通知から2週間以内に登記申請した「法務局」に提出することで、本人からの申請である旨の申し出を行います。登記官は、この申出書の印鑑と申請書の印鑑の同一性を確認し、申請された登記を実行します。
2.資格者代理人による本人確認情報の提供制度
資格者代理人とは、弁護士、司法書士等登記申請を法令の規定により業とし代理することができるものをいいます。
登記識別情報(権利証)を添付しないで申請する際に、資格者代理人が、登記義務者本人からの申請に間違いないことを登記義務者本人と面談し、運転免許証やパスポート等の公的な身分証明書で本人であることを確認の上、登記所に「本人確認情報」を提供したときは、登記官の事前通知を省略して、登記申請をすることができます。この場合、事前通知と違い、法務局からの通知及び本人からの申し出の期間を経ることがなく直ちに登記することが可能です。
ただし、資格者代理人に対して報酬を払う必要がある場合が多いため、その費用については、資格者代理人に確認してください。
3.公証人の認証を得た場合
公証人によって、登記申請書(代理人による申請の場合は委任状)に、登記識別情報(権利証)を添付できない登記義務者が、登記申請の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるときは登記官の事前通知を省略して登記申請が可能です。公証人は、登記義務者がその面前で署名、記名・捺印した場合は、その書面を認証することができます。この認証を受けた場合、公的に本人が作成した書面であることが認められるため登記官は、事前通知を省略して登記を実行することができるのです。
登記識別情報は、当該申請した登記によって「新たに登記名義人」になった者に発行されます。
したがって、変更登記のように登記名義人が変わらない場合は、登記識別情報は、発行されません。この場合は、「登記完了証」という登記所からの登記が完了した旨の通知が発行されます。「登記完了証」は、あくまでお知らせであり登記識別情報のように今後の登記申請に使用することはありません。
それでは、下記の全部事項証明書乙区の記載例を見て、登記申請それぞれについて、どのような場合に登記識別情報が発行されるか否かを見てみましょう。
(1)順位番号1番において申請された「根抵当権設定登記」について、平成15年においては、不動産登記法改正前なので、登記識別情報制度はなく、「抵当権者A」に対して「登記識別情報」ではなく、「登記済証」が交付された。
(2)順位番号1番付記1号において申請された「根抵当権移転登記」について、平成25年においては、全ての登記所が「オンライン指定庁」になっているため、根抵当権全部譲渡により根抵当権移転登記を受け「新たな登記名義人」となった「新根抵当権者X」に対して「登記識別情報」が通知された。
(3)順位番号1番付記2号、付記3号において申請された「根抵当権変更登記」については、根抵当権の内容である債務者が「債務者甲⇒債務者乙」になっただけであり、極度額についても根抵当権の内容である。したがって、この根抵当権変更登記については、「新たな登記名義人」はいないため、登記識別情報は発行されなかった。
(4)順位番号2番において申請された「根抵当権設定登記」について、(2)同様「新たな登記名義人」となった「根抵当権者 D銀行」に対して「登記識別情報」が通知された。
(5)順番番号3番において申請された「根抵当権抹消登記」については、「抹消」であり、新たな登記名義人は、存在しないため(3)と同様登記識別情報は、発行されなかった。
登記は、その登記の先後で第三者への対抗力が得られるか否かが決まります。
不動産の売買は成立していないが、その不動産の売買を予約したり、農地法の許可を条件として売買したり、売買は成立したが登記書類の一部に不備があり、登記申請ができないような場合、所有権移転登記はできません。しかし、その場合でも、他の第三者が登記申請をして対抗力を得てしまえば、その第三者に自分の得た権利を対抗することができません。そこで、その第三者が登記申請してしまう前に「仮登記」を登記すれば、将来、売買予約が完結して売買が成立したり、条件が成就して売買が成立したり、登記必要書類全てが揃った場合の登記申請の順位を予め確保できます。
このように、仮登記には、登記申請の順位を保全する効力があり、本登記をするまでに生じた自らの権利と対立する利害をもつ第三者の権利の登記を否定することができます。
必要です。所有権の仮登記の本登記をする際には、仮登記に遅れて設定された抵当権や所有権移転登記等登記上の利害関係を有する第三者の承諾がなければ、本登記をすることはできません。なぜならば、本登記をすることによってこれらの利害関係のある登記は全て登記官の職権で抹消されてしまうからです。
いちいち本登記をする際に承諾が必要なのであれば、仮登記をする意味がないように思われますが、その仮登記の原因となる所有権移転請求権が有効であり、かつ本登記をするための法律要件を満たしているのであれば、この仮登記の本登記に対して、登記上の利害関係人は承諾する義務を負うのです。
そして、利害関係人が本登記の承諾をしない場合には、仮登記の本登記する者は、裁判所に訴えて承諾の意思表示を求めることが可能です。
仮登記は、あくまで順位保全をする効力しかありません。したがって、所有権に関する仮登記のなされている不動産に対して、所有権移転登記を行っても登記は、受け付けられ、仮登記権利者の承諾も不要です。
しかし、先順位の仮登記で順位保全されているので、せっかく登記した所有権移転登記は、仮登記が本登記された場合には、職権で抹消されてしまいます。
そして、実体上も売買による所有権移転登記が付いている場合は、二重売買になり、また、売買予約による所有権移転請求権仮登記がされている場合も、先になされた売買契約を無視しているわけですからトラブルになるのは明白です。
稀に、Aさん所有の土地に、Bさんが代物弁済予約による所有権移転請求権仮登記を行った後、その仮登記を本登記せずに仮登記権利者であるBさんがAさんから売買による所有権移転登記をしていることがあります。Bさんが既に所有権移転登記をしているのでこのような不動産を購入する際にBさんが先の仮登記の本登記を申請することはないとは考えられますが、それはあくまでも推測であり実体関係は登記からは見えてきません。また、このような登記を残して不動産を購入し登記を行っても、後日この不動産を処分する際にこの仮登記の抹消を要求されることになりますので、実体関係はともかくとして危ない仮登記は抹消してしまうことに越したことはないでしょう。
差押え、仮差押えは、処分制限の登記の一種で、裁判所から法務局に嘱託する登記です。したがって、差押え、仮差押えの登記の元になる「裁判所に申立てられた差押え、仮差押えの申立て」を取下げずに差押抹消登記、仮差押抹消登記を申請することはできません。
故に、この差押え、仮差押えの申立てを取下げについては、裁判所に対して行うため、差押え、仮差押えの登記を抹消するには、差押え、仮差押え権利者に裁判所で取下げをしてもらう必要があります。
ただし、税金の滞納による差押えの場合は、滞納した税金を納税すれば、差押えをした国や地方公共団体から法務局に対して直接差押え、仮差押えの抹消登記を申請してくれます。
登記申請の際、事前に準備する証明書として主なものに、下記のものが挙げられます。登記申請を司法書士等専門家に任せるとしても市区町村で取り寄せる書類は、通常ご自身で準備されることになるのが一般的です。使用する主だった登記と取得方法及び有効期限を記載しましたので参考にしてください。
(1)住民票
登記権利者として所有権移転登記や所有権保存登記のように所有権を取得する場合、また、登記名義人住所変更登記の際の住所の変更の証明書として使用します。
住民票には、不動産登記法上の有効期限はありません。したがって、1年前の住民票であっても住所が変わっていなければ登記には使用できます。
取得の際には、申請書(市区町村のホームページにてダウンロード可、窓口にもあります)、身分証明書(運転免許証、健康保険証、パスポート、住基カード等)、また、代理人により取得する場合は、本人からの「委任状」が必要となります。
なお、郵送による取得も可能です。
(2)印鑑証明書
登記義務者として所有権移転登記、抵当権設定登記等、所有権を処分する際の登記に使用します。
印鑑証明書には、住民票と違い、発行から3か月以内という有効期限があります。
取得の際には、申請書(市区町村のホームページにてダウンロード可、窓口にもあります)、印鑑カード、身分証明書(運転免許証、健康保険証、パスポート、住基カード等)が必要となります。代理人から申請する場合でも、印鑑カードを持っていれば申請が可能です。
なお、郵送による取得も可能です。
また、お住まいの市区町村が対応していればマイナンバーカードがあればコンビニエンストアでも取得が可能です。
(3)戸籍謄本
相続登記、相続人からの登記申請や氏名が変わったときの登記名義人氏名変更登記をする際に使用します。
いわゆる戸籍には、現在戸籍、除籍、原戸籍があり、有効期限はありません。
したがって、以前にあった祖父の死亡による相続登記で使った戸籍を父親の死亡による相続登記でも使えるものがあれば使用することが可能です。古い戸籍は捨てずに残しておくようにしてください。古い戸籍は保管期間が過ぎると除去されてしまうため残しておくと将来役立つ可能性があります。
取得の際には、申請書(市区町村のホームページにてダウンロード可、窓口にもあります)、身分証明書(運転免許証、健康保険証、パスポート、住基カード等)、また、代理人により取得する場合は、本人からの「委任状」が必要となります。
なお、郵送による取得も可能です。
また、お住まいの市区町村が対応していればマイナンバーカードがあればコンビニエンストアでも取得が可能です。
(4)法人の履歴事項証明書、現在事項証明書、代表者事項証明書
法人の代表者が誰であるかを証する資格証明書、法人の本店所在地を証明する住所証明書として使用します。登記名義人本店変更、登記名義人商号変更登記を行う場合は、履歴事項証明書(なお、現在事項証明書でも直前の本店移転、商号の変更は記載されます)、閉鎖事項証明書により本店、商号の沿革をつけます。
法人の履歴事項証明書、現在事項証明書、代表者事項証明書は、誰でも取得することができ、その有効期限は、資格証明書として使用する場合は、発行から3か月以内となります。全国どこの法務局でも取得可能です。
なお、郵送による取得、オンライン申請による取得も可能です。
また、お住まいの市区町村が対応していればマイナンバーカードがあればコンビニエンストアでも取得が可能です。
東京都23区内であれば「都税事務所」、東京都23区以外では、「市区町村」にて取得が可能です。
評価証明書の名義は、1月1日の所有者の名義になっていますので、1月1日以降に不動産の所有者になった場合は、その年の年度(4月1日から翌年3月31日)が変わるまでは、前の所有者との関係を証明する必要があります。
登記に使用する際は、年度は、4月1日から翌年の3月31日までを一つの区切りにするため、例えば、令和6年3月1日に登記申請を行うのであれば、令和5年度の評価証明書を取得することになります。
取得には、手数料が必要ですが、この金額は、市区町村によって金額が異なりますので取得の際は各市区町村に確認してください。
取得の際に必要な書類としては、申請書(市区町村のホームページにてダウンロード可、窓口にもあります)、身分証明書(運転免許証、健康保険証、パスポート、住基カード等)、相続登記を申請するために「固定資産評価証明書」を取得する場合は相続証明書として亡くなった方の相続人であることを証明できる「戸籍」、1月1日以降に不動産を取得して、その年の年度内(4月1日から翌年3月31日)に売却する場合は、その取得した際に行った登記が記載された「全部事項証明書」、また、代理人により取得する場合は、本人からの「委任状」が必要となります。
郵送でも取得することができ、その際の手続き費用は、「郵便小為替」で支払います。郵送による取得の場合、送り先、申請書等の記載の仕方は、各市区町村のホームページ郵送申請の方法が記載されていますので参考にしてください。
なお、以前は、不動産の評価額を課税価格とする登記申請をする場合、固定資産評価証明書の原本が必要でしたが、法務局によっては、納税通知書の明細等、評価額が分かる証明書等で代替できる場合もありますので登記申請の際は各登記所に問い合わせください。
不動産登記法第61条では、「権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない」となっており、「登記原因を証する情報」の提供が必要です。このため、作成されるのが「登記原因証明情報」という書面です。
「登記原因証明情報」とは、例えば、売買の場合、登記原因となる売買の発生を示す事実や法律行為として、不動産売買契約に基づいて「売買代金を支払い」かつ「売買の対象であるその不動産の引渡し」を受けたこと、売買を原因として所有権が移転したことが記載されています。そして、登記申請書の記載事項である「登記の目的」「登記原因」「当事者」「不動産の表示」を記載し、原則的に「両当事者」もしくは、その登記によって不利益を受ける者(売主)である「登記義務者」の署名・捺印をします。
このように「登記原因証明情報」とは、登記にまつわる法律行為や法律事実を簡潔にまとめ、登記原因が発生したことを証明するための書面であり、これによって不真正な登記の申請を防止するための機能を持っています。
「委任状」は、登記申請を司法書士に対して委任するための書面です。この「委任状」で与えられた内容以上の権限は、当該司法書士にありません。
以上「登記原因証明情報」「委任状」に署名・捺印する際は、内容をよく読んで分からないこと、疑問があることはどんどんその登記を受託する司法書士にぶつけてみてください。なぜなら、これらの書面に書かれてあることが、登記が完了した際に出来上がってくる登記の内容であり、守られるべき権利だからです。
なお、下記に売買における委任状、登記原因証明情報のチェック事項をまとめましたので参考にしてください。
・日付は合っているか?
・当事者である売主、買主が違っていないか?
・不動産の表示は、自分が売買する対象不動産と同じか?
・契約書どおりの売買代金の授受はあったか?
・契約書どおりの不動産の引渡しはなされたか?