専門家執筆Q&A
相続の法律Q&A

相続の法律Q&A

相続の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫 鷲尾 誠

相続についての法律制度の中には、民法と相続税法の相続財産を巡る取扱に違いがある等、理解するのは難しいものとなっていますが、基本的な知識を手軽に得ることができるように解りやすく解説しています。

※本コンテンツの内容は、平成28年7月1日現在の法律に基づき作成されております。
相続の問題については、個別性があり総合的に判断しなければなりません。弁護士等に早めにご相談のうえ判断していただくようお願いいたします。また、相続税申告等の取扱いにつきましては、所轄の税務署もしくは税理士等の専門家に必ずご確認ください。
相続の法律についてQ&A形式で解説しています。

遺留分制度

Q
遺留分とは何ですか。また、遺留分の権利を有する相続人の範囲はどのように定められていますか?
A

 遺留分とは、一定範囲の相続人のために法律上必ず留保(遺留)しなければならない遺産部分です。遺言の自由を一定限度で制限するものといえます。

 基本的には、遺言書の内容は尊重されるべきです。しかし、それを貫くと、たとえば「自分が死んだらお世話になった知人に全財産を譲る」といった遺言書が作られてしまうと残された家族が住む家を失って生活にも困るという事態も生じかねません。

 そこで、民法は、遺言によっても奪うことのできない最低限相続できる財産として遺留分を保証しているのです。

 遺留分を有する相続人を遺留分権利者といいます。遺留分権利者は、被相続人の配偶者、子(子の代襲者、再代襲者を含みます)、直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分はありません。胎児も生きて生まれれば、子としての遺留分を持ちます。

 なお、相続放棄や廃除によって相続権を失った者には遺留分もありません。ただし、廃除の場合には代襲相続が開始しますので、代襲者が遺留分権利者となります。

Q
遺留分を放棄することはできますか?
A

 相続人は、相続開始前には、家庭裁判所の許可を得なければ遺留分を放棄することはできません。相続開始後であれば、自由に放棄することができます。

 被相続人の生前(=相続開始前)に遺留分を放棄しようとする場合の手続は次のとおりです。

 家庭裁判所に、誰の相続についての遺留分を放棄したいか、遺留分を放棄したい簡単な理由などを記載して遺留分放棄の許可の審判を申し立てます。これに対して、裁判所から、放棄を認めてよいかどうかを判断するために書面で照会される場合もあります(申立書は本当に自分の意思によるものかどうかなどの確認)。

 遺留分の許可の審判が確定すると、遺留分放棄の効果が生じます。相続開始時に遺留分の侵害があっても放棄の限度で遺留分減殺請求権は発生しません。

 ただし、遺留分の放棄をしても、相続の放棄をしない限り相続権は失われません。したがって、遺留分を侵害する遺贈がなされていた場合、遺留分を放棄していれば遺留分減殺請求をすることはできませんが、相続権を有するため、遺産分割により相続財産を取得することは可能です。

Q
遺留分減殺請求はいつまでにすればよいのですか?
A

 遺留分減殺請求は、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与・遺贈のあったことを知った時から1年以内に行使しないと時効により消滅します。また、相続開始時から10年を経過したときも消滅します(除斥期間)。

 「減殺すべき贈与・遺贈のあったことを知った時」と言えるためには、贈与や遺贈が自分の遺留分額を侵害しているため、減殺の対象となることまで知っている必要があると解されています。

 これは、単に贈与または遺贈の事実を知ったというだけでその時から1年で遺留分減殺の権利主張の機会を失わせるのは遺留分権利者に酷な結果となりかねないからです。

Q
遺留分の請求はどのようにすればよいのですか?また、遺留分減殺請求を裁判所に対して申し立てる場合の手続はどのようになりますか?
A

 遺留分についての事件は、相続に関する紛争ですから、家庭裁判所の調停を行うことができます。家庭裁判所の調停を行うことができる事件は、地方裁判所に訴訟を提起する前に、まず家庭裁判所の調停を受けることとされています。

 申し立てる裁判所は、相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所です。

 ただし、遺産分割の調停とは違い、話合いがつかず調停不成立となった場合は、家庭裁判所の審判手続に移行するのではなく、地方裁判所に訴訟を起こして解決すべきことになります。

 もっとも、相続人間で対立が激しく、調停を申し立てても到底成立する見込みがないような場合には、いきなり地方裁判所に訴訟を提起することもあり、このような訴訟提起も認められています。

Q
遺留分の割合(遺留分率)はどのように定められていますか?
A

 民法は、遺留分が相続財産のうちどの範囲で認められるかについて、遺留分権利者である共同相続人の全体が有する相続財産全体に対する割合として定めています。これを総体的遺留分といいます。

 総体的遺留分の割合は、だれが相続人であるかによって異なります。

 直系尊属のみが相続人の場合
 被相続人の財産の3分の1

 それ以外の場合
 被相続人の財産の2分の1
 それ以外の場合とは、具体的には、次の場合です。なお、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

 相続人が直系卑属だけのとき

 相続人が直系卑属と配偶者のとき

 相続人が配偶者のみのとき

 相続人が配偶者と直系尊属のとき

 ただし、上記の割合は、昭和56年1月1日以後に開始した相続について適用される割合です。

 相続人各自の遺留分は、総体的遺留分の割合に各相続人の法定相続分の割合を乗じて求めます。これを個別的遺留分といいます。

 たとえば、被相続人である夫が相続財産すべてを第三者に遺贈するという遺言を残して死亡し、相続人が妻と子2人の場合、総体的遺留分の割合は2分の1ですから(上記②)、妻の遺留分割合は4分の1(1/2×1/2)、子供たちの遺留分割合はそれぞれ8分の1(1/2×1/4)となります。

Q
遺留分を算定するための基礎となる財産の額については、どのように定められていますか?
A

 民法は、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する」と定めています。

 つまり、次のようになります。なお、「相続開始時の財産額」には、遺贈の額を含みます。

遺留分算定の基礎となる財産の額

=相続開始時の財産額+贈与財産の額-相続債務の全額

Q
遺留分算定の基礎となる財産に算入される贈与には、どのようなものがありますか?
A

 遺留分算定の基礎となる財産に算入される贈与の範囲には、一定の制限があり、次の贈与が算入されます。

 相続開始前1年間にされた贈与
 相続開始の1年以内にされた贈与は無条件に算入されます。1年以内の贈与とは、その間に贈与契約が締結されたことを意味します。したがって、1年以上前に締結された贈与契約が相続開始前の1年間に実行された場合は含まれません。

 遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与
 相続の1年前よりもっと以前にされたものであっても、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは遺留分算定の基礎財産に組み込まれます。「損害を加えることを知って」とは、遺留分を侵害する認識があれば足り、損害を与えるという意図やだれが遺留分権利者かを知っている必要はありません。

 特別受益としての贈与
 共同相続人への特別受益となる生前贈与は、贈与の時期を問わず無条件に算入されます。したがって、共同相続人の1人が婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与は、相続分の前渡しとして、契約の時期や遺留分を侵害する認識の有無を問わず、すべて算入されます。

Q
具体的に、遺留分権利者の遺留分の額はどのように算出されますか?
A

 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が被相続人から得た財産が遺留分額に満たないときに成立します。

 遺留分額は、遺留分算定の基礎となる財産に各遺留分権利者の個別的遺留分の率を乗じ、ここから各自の特別受益額を差し引くことによって行われます。算式にまとめると次のようになります。

 遺留分算定の基礎となる財産額を求める(※1・※2)=A
※1 Q 遺留分を算定するための基礎となる財産の額については、どのように定められていますか?
※2 Q 遺留分算定の基礎となる財産に算入される贈与には、どのようなものがありますか?

 個別的遺留分を求める(※3)=B
※3 Q 遺留分の割合(遺留分率)はどのように定められていますか?

 遺留分額を求める=C
 C=遺留分算定の基礎となる財産(A)×個別的遺留分(B)

 遺留分侵害額=D
 D=遺留分額(C)-(遺留分権利者が相続によって得た財産額-相続債務分担額)-(特別受益額+遺贈額)

 被相続人Aが死亡し、Aの相続人は長男・二男です。Aの資産は7,000万円で、債務が4,000万円あります。Aが相続人以外の第三者に5,000万円を死亡の2か月前に生前贈与していました。この場合、長男・二男の遺留分侵害額は次のとおり算出されます。

A

 遺留分算定の基礎となる財産額
 積極財産7,000万円+贈与5,000万円-債務4,000万円=8,000円

B

 長男・二男の個別的遺留分
 1/2(総体的遺留分)×1/2(法定相続の割合)=1/4

C

 長男・二男の各遺留分額
 8,000円×1/4=2,000万円

D

 遺留分侵害額

a

 長男・二男が相続によって得た財産額
 7,000万円×1/2=3,500万円

b

 長男・二男の債務の分担額
 4,000万円×1/2(債務は法定相続割合で分割される)=2,000万円

c

 長男・二男の遺留分侵害額
 2,000万円-(3,500万円-2,000万円)=500万円

 したがって、長男・二男は贈与を受けた第三者に対し、それぞれ500万円の遺留分を請求することができることになります。

Q
遺留分減殺請求がなされた場合、その対象となった贈与や遺贈の効果はどのような影響を受けますか?
A

 贈与・遺贈について遺留分権利者が減殺請求権を行使すると、贈与・遺贈は遺留分を侵害する限度で効力を失います。その結果、受贈者・受遺者が取得した権利は遺留分の限度で法律上当然に遺留分権利者に帰属します。

 つまり、遺留分減殺請求がなされると、請求を受けた相手方が現物を返還するのが原則とされているのです(現物返還主義)。

 その結果、たとえば不動産を遺贈された相続人が遺留分減殺請求を受けた場合、その不動産は両者の間で共有状態におかれることになり、この共有状態を解消するためには、共有物分割という手続によるべきことになります。

Q
遺留分減殺請求を受けた場合、必ず現物(その一部)を返還しなければならないのでしょうか?
A

 遺留分減殺請求があった場合、この相手方は贈与・遺贈を受けた現物を返還するのが原則です。ただし、現物返還に代わる価額弁償という制度が認められており、遺留分減殺請求を受けた相手方は、減殺を受けるべき限度において、贈与・遺贈された目的物の価額を遺留分権利者に弁償して現物の返還を免れることができます。

 なお、価額弁償をする場合、弁償する価額は、相続開始時ではなく、現実に弁償がされる時の値段で計算します。