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相続の法律Q&A

相続の法律Q&A

相続の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫 鷲尾 誠

相続についての法律制度の中には、民法と相続税法の相続財産を巡る取扱に違いがある等、理解するのは難しいものとなっていますが、基本的な知識を手軽に得ることができるように解りやすく解説しています。

相続の法律についてQ&A形式で解説しています。

具体的な分割方法

Q
遺産分割の方法については、どのような方法がありますか?また、各分割方法の選択にあたり優先順位がありますか?
A

 遺産分割の方法には、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割の4種類の方法があります。協議や調停により遺産分割を行う場合には、当事者全員が合意すれば、これらのどの方法によることも自由です。

 しかし、家庭裁判所の審判によって遺産分割が行われる場合には、原則として現物分割が行われ、それが相当でない場合に代償分割、代償分割も相当でない場合に換価分割が検討されます。これらのいずれもが妥当でないとき、最後に共有分割となります。

Q
現物分割とはどのような分割方法ですか?
A

 現物分割とは、財産の形状や性質を変更することなくその物を分割する方法です。たとえば、相続財産のうち現金をある相続人に、不動産を他の相続人に取得させたりする場合や、広い土地の一部を分筆して各相続人がそれぞれを取得するような場合です。

 遺産分割は、できる限り現物を相続人に受け継がせるのが望ましいことから、遺産分割の原則的方法とされます。

Q
代償分割とはどのような分割方法ですか?
A

 代償分割とは、一部の相続人が現物の分配を受け、その代わりに他の共同相続人に対してその相続分の価額に相当する支払義務を負わせる方法です。

 代償分割は、相続人間で協議が整うときには自由に行うことができます。協議が整わない場合には、家庭裁判所が、審判によって、「特別の事情」があると認められるときに現物分割に代えて行うことができます。

 代償分割を行うこととされた場合には、たとえば、「相続人Aは、相続財産である甲不動産を取得した代償として、相続人Bに対し、○○円を支払うこととする。」などのように定められます。

 代償分割が認められる「特別の事情」とは、次のような場合です。

 現物分割が不可能または現物分割すると分割後の財産価値が著しく損なわれるため不適当な場合

 ある不動産を占有する相続人の利用状態をとくに保護する必要がある場合

 共同相続人間で代償金支払の方法による分割を行うことについておおむね争いがない場合

 また、代償分割が認められるためには、代償金を支払うこととなる相続人にその資力があることが必要となります。

Q
換価分割とはどのような分割方法ですか?
A

 換価分割とは、相続財産を任意売却や競売により売却して換金したうえで、その価格を分配する方法です。当事者間の協議または家庭裁判所の審判により行われます。

 当事者間の協議による換価分割は、現物分割が困難で、現物の取得希望者の代償金の支払能力が不十分であったり現物の取得希望者がいないなどの理由で代償分割もできない場合に、相続人間の合意に基づいて、現物を第三者に売却したうえでその換価代金を分配する方法です。

 遺産分割方法について協議が整わない場合、家庭裁判所の審判により換価分割が行われることもあります。この場合には、裁判所が、競売または任意売却を命じ、その換価代金を当事者全員の具体的相続分に応じて分配するよう命じることになります。

Q
共有分割とはどのような分割方法ですか?
A

 共有分割とは、相続人間において、相続財産の全部または一部を共有で取得する方法です。

 共有分割は、現物分割、代償分割、換価分割が困難な状況にある場合や、当事者が共有による分割を希望しており、それがとくに不当ではない場合などに行われます。

 共有取得される場合には、たとえば、「相続人Aと相続人Bは、甲不動産を、Aが3分の2、Bが3分の1の各持分割合で共有取得する。」などのように定められます。

 共有分割がなされた場合には、その共有関係を解消して単独所有としたり売却処分したりするためには、協議によるほか、共有物分割訴訟という別の裁判手続によることになります。

Q
遺産分割を請求する権利は消滅時効などにより制限を受けますか?
A

 遺産分割請求権は時効にかかりません。したがって、各相続人は、いつでも遺産分割を請求することができます。

 ただし、5年以内であれば、①遺言、②共同相続人の合意、または③家庭裁判所による分割禁止の審判により、遺産分割を禁止することができ、この禁止期間中は遺産分割の請求ができません。

〈税法との関係〉

 遺産分割には期限がありませんが、相続税の申告は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」にしなければなりません。この期限を過ぎると、無申告加算税などのペナルティが課せられます。

 実際には相続開始から10か月以内に遺産分割が終了しないことも多いのですが、この場合には、各相続人が民法に定める相続分に従って財産を取得したものとして課税価格を計算して申告しておくことになっています。

 後日、遺産分割が行われ、その結果がすでに申告した税額と異なった場合は、税額が過小だったときは修正申告をし、税額が過大だったときは更正の請求を行うことができます。

 なお、相続税の申告期限に間に合わせるために、とりあえず一定の内容の遺産分割協議を成立させて相続税の申告を行い、その後、遺産分割協議をやり直すというケースが見受けられます。しかし、遺産分割協議のやり直しによって、最初の遺産分割協議によってある相続人が取得した遺産を他の相続人が無償で取得すると、贈与として課税されることがありますので注意してください。