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建物Q&A

専門家執筆Q&A
印南 和行

建物Q&A

建物
Q&A

一級建築士
株式会社南勝
印南 和行

建物の構造や工法、耐震、シックハウス、建物保証、太陽光発電、リフォーム、建物診断、メンテナンス、地盤沈下、インスペクション等、建物に関する知識を解説しています。

建物に関する知識をQ&A形式で解説しています。

インスペクション(建物検査)
・建物メンテナンス

Q
インスペクションはどのタイミングで行うのがよいですか。
A

 どんな目的のためにインスペクションを行うかによって異なります。あなたが買う側の立場で、「気にいった物件があるのだけど、建物は大丈夫かな」というときであれば、契約前に行うことがおすすめです。なぜなら、契約前に調べて良い点、不具合があって修理が必要な点、修理が難しい点などを把握してから購入の決定をすることができるからです。もし大きな問題があるのであれば、購入を見送ればよいわけです。

・既に契約しているとき

 契約後から引渡しまでの間にインスペクションを行うケースもあります。契約はしたものの、建物に不安が出てきたときなどに引渡し前にインスペクションを行うのです。新築一戸建て、新築マンションでは、引渡し前の内覧会、竣工検査という、契約者に建物をお披露目し、確認してもらう機会をもうけることが一般的です。この内覧会の際に、インスペクションを依頼し、専門的に建物に不具合がないかをチェックしてもらいます。建築知識のない一般の方ですと、建物の良し悪しを見極めるのが難しいのですが、プロが見ることで良い面、悪い面を専門的にチェックしてもらえることがメリットです。

・住宅を売却しようとしているとき

 あなたが住宅を売却する立場でインスペクションを行うケースもあります。売却前に建物に問題がないかどうかをインスペクションで調べてもらい、報告書などの資料を作成してもらうのです。インスペクションの報告資料は、販売資料として非常に役に立ちます。一般的な中古物件では建物面の資料が間取図面程度しかないことが多く、専門家がインスペクションを行ってくれている物件は非常に少ないため、インスペクションの報告書類があることで、購入を検討する側にとっては建物についての安心度が増すことでしょう。 また、万が一不具合が見つかったとしても、売却前に修理するか、購入者側に不具合を伝えることで、契約後に契約不適合責任などによる想定外の費用を負担しなければならない事態を防ぐことも可能です。

・定期的な修繕を行うとき

 住宅を長持ちさせるためには定期的な修繕が欠かせません。長期修繕計画表などを元に各部位の修繕期間の目安を参考に修繕を行うことが有効です。また、この定期的な修繕を行う前に、インスペクションを行うことも有効です。インスペクションによって、実際の建物の状態を見たうえで修繕の必要性をチェックすることができるので、修繕工事を効果的に行うことができます。緊急で修繕が必要な箇所、将来的には修繕が必要な箇所、まだ問題なく使用できる箇所ごとに修繕工事計画を作成するのがよいでしょう。

Q
建物診断の特徴、タイミングなどを教えてください。
A

 建物診断と一言でいっても、診断の目的によって調べるポイントは異なります。目的に見合った建物診断ができる業者を選択することが大事です。今回は目的に応じた建物診断の特徴と最適なタイミングを具体的にご説明します。

・購入前の建物診断

 購入前の建物診断では、買う側が依頼主となり「購入する建物に問題がないか」調べることが最大の目的です。住宅は非常に高額な買い物ですから、欠陥住宅などの問題がある物件を掴んでしまうと後々大変な思いをすることになります。そのため、購入する物件に致命的な不具合などがないかを調べることが重要なのです。

 新築、中古に限らず、建物の状態についての詳しい資料が揃っていないことは珍しくありません。建物診断により、建物の劣化状態を把握することができ、購入してからの修繕費用などを予測する判断材料にもなります。建物面で不安があるというときには、建物の専門的な知識を持ったプロに建物を調べてもらうことは効果が高いです。

 購入前の建物診断は契約前、または引渡し前までに行うことが望ましいです。なぜなら、一度引渡しを受けた後で想定外の不具合が見つかっても、その責任を売る側に求めることは難しいケースが多いからです。引渡し後に建物の致命的な構造上の欠陥が見つかり、「このような問題がある物件ならば買わなかった」と思っても、売買代金を支払った後では契約を無効にすることは原則としてできないのです。

・売却時の建物診断

 売却時の建物診断は、売る側が「売却する建物の状態を把握し、買う側に建物面の不安を解消してもらうこと」が目的です。普段生活している所有者であっても、建物の状態についてすべてを把握しているわけではありません。買う側にとっては「建物に問題がないか」ということを不安に感じるもの。そこで、売却前の準備段階で、予め建物診断を行い、報告書を作成しておくことで買う側の不安を払拭するのです。

 個人が売主となり、同様に個人に不動産を売却する場合には、契約条件として一定期間の契約不適合責任をつけることが一般的です。契約不適合責任というのは、雨漏りや主要構造部分の致命的な欠陥などが発見された場合には、売主が修繕義務を負うことをいいます。あなたが物件を売却して、代金を受け取った後で建物の致命的な欠陥が発覚し、契約不適合責任によって多額の修繕費用の負担が必要になったとしても、既に売却代金を次の住まいの確保のために使っていたら、大変困ってしまいます。売却時の建物診断は物件売却後のトラブルを未然に防ぐためにも役に立ちます。

・耐震診断

 建物の耐震性を調べるための建物診断です。物件を購入する際に購入を検討する人が建物の耐震性を調べるために行う場合と、自分が居住している建物の耐震性を調べるときに行います。耐震診断によって建物の耐震性能がどの程度あるかを知り、基準の耐震性に不足しているときには耐震補強工事を行うこともあります。旧耐震基準の建物は現在の耐震基準よりも劣ることが多いです。地震の発生する回数が多い日本では、安心して暮らすためには建物の耐震性に対する安心が欠かせません。旧耐震基準の建物に住む場合には耐震診断を行うことが好ましいです。尚、築年数の制限などで税制優遇措置を受けられない物件について、耐震診断を行い一定の耐震基準を満たすことで税制優遇措置を受けられることもあります。自分が住んでいる建物についても、自治体によっては耐震診断費用の補助が受けられる場合もありますので、確認してみるとよいでしょう。

・照合調査

 設計図面どおりに建物が施工されているかを照合する調査のことです。建築途中、または建物完成後に、建物が図面どおりに造られているかをチェックすることを目的として行います。建物が完成してしまうと見えない部分が多くあります。基礎の鉄筋はきちんと図面どおり施工されているか、柱と梁の接合する部分に正しい金物が指定の位置に入っているか、ボルトは緩んでいないかなど、建物完成後に図面と照合することで、扉の開き方、照明の位置などチェックするポイントはいくつもあります。建物は人の手によって造られていくため、大なり小なり設計図面と異なる施工がされることが普通です。施工上の理由で図面から変更させたのか、単なる施工間違いなのか、その見極めが重要です。

・劣化調査

 建物の劣化状態を調べる調査です。主に、所有している建物のメンテナンスを目的として行います。建物に定期的なメンテナンスは必須です。適切なメンテナンスを行うためには、劣化調査が欠かせません。長期修繕計画で建物の各部分ごとの修繕、交換の目安期間を参考にしながら、実際の建物の劣化状況をみたうえで修繕工事を行うことで最適なメンテナンスができるようになります。10年、20年などの建物にとっての大きな節目となるタイミングで、大規模修繕工事を効果的に行うために役立ちます。

・原因調査

 雨漏りや、漏水、建物の構造的な問題などが発見されたときに原因を見つけるための調査です。例えば、雨漏りが発生したら、建物のどの部分から雨水が浸入しているのかを調査し、その侵入経路を防ぐ必要があります。また建物内で漏水が発生した場合でも同様に、漏水箇所の特定をすることになります。原因調査の目的は、なんらかの問題の原因を探ることです。

Q
建物診断に使う機材にはどんなものがありますか。
A

 建物診断を行う際に活躍する機材があります。建物の傾き、水平など精度を確認するレーザーや水平器、木材の含水率をチェックする木材水分計、基礎の鉄筋をチェックする鉄筋探査機、高いところを確認するための脚立、手袋などです。雨漏りや漏水が発生していて、その原因箇所の調査を行う場合には、温度変化を見るサーモグラフィーカメラや、壁の内側などの目の届かない小さな箇所を確認できる胃カメラのようなファイバースコープカメラを使用します。最近では、ドローンを使って建物の屋根や外壁を調べるサービスも登場しています。今後も新しい機材や人工知能(AI)などを活用して建物を診断できるサービスが開発されていく可能性があります。

・機材は脇役 絶対に必要なものではない

 上記でご紹介した建物診断に使用する機材は確かに役に立ちますが、判断するのは人になります。まずは目視や感触で不具合の可能性がある箇所を発見し、客観的な裏付けとして機材を用いることが多いです。例えば、レーザーや水平器がなくても床が傾いていれば、専門家は気付きます。ただし、傾斜していると気付いても具体的にどのくらいの傾斜か分からなければ、第三者に対して不具合の内容を正確に伝えることができません。そのため、レーザーを用いて、5/1000の傾斜などと明確な数値を計測するのです。建物診断の基本は目視、調査機材は補助です。目視で不具合の判断ができるからこそ、機材を使って目の届かない箇所についても詳しく調べることができるわけです。

Q
建物のプロに建物を点検してもらうことができると聞きました。役に立ちますか。
A

 建物を調べてもらう目的によって効果は異なります。どのような場合にインスペクション(建物検査)を実施すれば効果があるのかをご紹介します。

・購入前のインスペクション

 購入する建物に不具合がないか、不具合があれば修繕費用がどれくらいかかるのかを把握するために行います。購入して引渡しを受けてから不具合に気付くと修繕費用を自分で負担しなければならないケースもありますし、引渡しを受けてから致命的な不具合に気づいても取り返しがつかないこともあります。建物について不明な点がある場合には、インスペクションは大変有効です。

・売却時のインスペクション

 売却する建物に不具合はないか、特に売却するうえで支障になるような不具合の有無を把握するために行います。売主にとっては、契約条件に契約不適合責任を付けている場合、買主に物件を引渡してから一定期間内の雨漏りや構造的な不具合について修繕を行わなければなりません。しかし、実際には売却代金で新しい住宅を購入したり、別の用途に資金を使っており、修繕費用が捻出できずにトラブルになってしまうこともあります。予め売却する建物についてプロに調べてもらい、不具合を明確にしておくことで引渡し後のトラブルを防止することができます。

・耐震診断

 建物の耐震性を調べるために行います。購入を検討する建物の耐震性を調べる場合と、自己が所有する建物の耐震性を調べる場合があります。主に旧耐震基準の建物などで耐震補強工事を行うために耐震診断を行うケースが多いです。

・照合調査

 設計図面と実際の建物を照合し、施工や建材、金物などの間違いを調べるために行います。主に建築途中などで建物の内部が見える状態で、一戸建てを注文した施主や建築途中の建物を購入した買主の依頼によって行うことが多いです。

・劣化調査

 建物の劣化状況を調べるために行います。1次診断とも呼びます。いわゆる建物の健康診断のようなものです。定期的なメンテナンスを行うために建物の劣化状況を調べて、最適な修繕工事を行います。修繕工事をする前に劣化状況を調べることで無駄なく効果的な修繕工事を行うことができます。

・原因調査

 雨漏りや建物の傾きなどなんらかの不具合が発生しており、その不具合の原因を特定するために行います。劣化調査を健康診断とすれば、原因調査は専門病院での検査のようなものになります。住宅保険の対象となる事故の原因を特定する場合にも原因調査が行われます。状況に応じて、専門的な機材を使用したり、不具合の原因を探すために建物の一部を壊して点検口をつくったりすることもあります。

Q
インスペクションを依頼するときの注意点を教えてください。
A

 インスペクションを依頼することを決めたとしても、次にどこの会社に依頼したらよいのか、迷うことがあるでしょう。インスペクションを依頼するときの注意点についてお伝えします。

・費用はいくらか

 インスペクションの金額は、調べる建物の大きさや構造、どの程度まで詳しく調べるのか、インスペクションを行う会社によって異なります。例えば、30坪程度の木造2階建ての一戸建てを調べる場合、1次診断として目視で行う場合には5万円程度、床下に潜ったり、屋根裏に上ったりして詳細に調べる場合には10万円程度かかることが多いようです。マンションの一室を調べる場合には、4万円程度を設定している会社が多いです。専門的な機材を使用すると、費用もその分高くなります。

・調べる範囲はどこまでか

 インスペクションを行うとしても、建物に不具合がないかすべてをチェックすることはできません。なぜなら、目に見えない範囲については確認することができないからです。インスペクションで確認できる範囲について、床下の点検口から見える範囲でチェックするのか、身体ごと潜って全体をチェックするのか、明確に確認しておきましょう。

・検査の基準は何か

 具体的にどのような基準で調べているのか、建物の瑕疵の有無を判断する基準として、『住宅紛争処理の参考となるべき技術基準』に基づいているか、瑕疵保険に加入できるかどうかの判断ができるレベルのインスペクションなのか、などを確認しておきましょう。国土交通省の『既存住宅インスペクションガイドライン』の中にも、住宅の検査対象とすることが考えられる項目について記載されています。

Q
売主さんにインスペクションを断られてしまいました。なんとか検査する方法はありませんか。
A

 インスペクションを行う際には、所有者である売主さんの承諾が必要になります。そのため、売主さんに断られてしまうと残念ながらインスペクションを行うことはできません。

・なぜインスペクションを断るのか

 インスペクションを断る理由としては、粗探しをされるのではないかという不安が大きいようです。特に、これまで住宅の売却時にインスペクションを行うことは希だったために、「インスペクションをするなんて聞いたことがない」と考える人が多いのはある程度仕方ないかもしれません。しかしながら、大手仲介会社を始め、売却時にインスペクションを行うケースが増えてきています。

・インスペクションを行うことで得られる売主側のメリットを説明する

 インスペクションを行うことで、買主側が建物の状態を把握することができるため、売りやすくなります。最近では仲介会社がインスペクションを行い、一定の基準を満たした住宅について保険をつけることによって、本来は売主側が負担する契約不適合責任を仲介会社が引き受けてくれるケースも出てきています。売主側にとっては、物件引渡し後に買主側から雨漏りなどの補修を求められるような心配がなくなるので安心です。

Q
家を買った後にメンテナンス費用はどれくらいかかりますか。
A

 購入する建物の状態によって異なりますが、一般的にどの程度メンテナンス費用がかかるかについては、長期修繕計画のひな型を元に確認することができます。長期修繕計画とは住宅のメンテナンス計画のことです。建物を長持ちさせるためには長期修繕計画に基づき、住宅の部位ごとにメンテナンスの目安期間を定めて、定期的に点検し交換を行う必要があります。

・マンションのメンテナンス費用

 マンションであれば長期修繕積立金をチェックします。マンションの長期修繕計画は30年以上で計画されていることが一般的で、住宅のどの部分にいつ、いくらかかるのか、という計画がされており、この修繕費用の総額を各区分所有者が毎月の修繕積立金として負担しています。毎月5,000円くらいから15,000円くらいまでが目安で、所有する建物の専有面積や建物の規模などによって金額は異なります。ただし、これは共用部分のみの修繕費用であり、専有部分は別に必要です。専有部分内のメンテナンス費用としては、クロスの張替えやフローリングの交換、バスルームやキッチンの交換などが主であり、5~10年ごとにリフォーム工事を行うケースが多いようです。

・一戸建てのメンテナンス費用

 メンテナンス費用の目安は建物の構造や規模などによるので一概には言えませんが、参考として仮に延床面積145㎡の2階建て住宅の場合、5年に1度、20万円程度、10年ごとに300万円程度をみておくとよいでしょう。内訳としては築5年経過時に床下の防蟻処理のコストとして15~20万円程度、その他基礎や床下のひび割れ補修など。築10年経過時に屋根の表面塗装として40~50万円、バルコニーの防水処理で15~20万円、外壁補修や塗装で100~150万円、外壁のシール打替えで30~40万円、床下の防蟻処理で15~20万円となります。一戸建ての場合はマンションと違い長期修繕計画はなく、メンテナンスするかどうかは個人の自由です。そのため、計画的なメンテナンスを行わず、ボロボロになってしまっている建物もあります。大切な建物を長持ちさせるためには定期的にメンテナンスを行うことをおすすめします。

Q
メンテナンスされている住宅とそうでない住宅では売却価格は異なりますか。
A

 メンテナンスをされている住宅とそうでない住宅では、売却価格は異なります。建物の寿命は定期的なメンテナンスをされているかどうかによって大きく差が出ます。メンテナンスされている住宅は耐用年数が長くなり、中古住宅として購入する際に修理する部分も少なくて済むからです。

・見る側が気付かなければ評価されない

 しかしながら、メンテナンスがされているかどうかは、見た目で分かる部分と、見た目では気付きにくい部分があります。例えば、外壁や屋根、内装などの補修は見た目できれいになっているので分かりやすいのですが、水回りの給排水管やトイレタンクなどは使ってみなければ分かりません。

・いつ、どの部分に、どの程度の内容のメンテナンスをしたのか

 住宅を買う側の立場なら、口頭で「きちんとメンテナンスしています」と言われるよりも、いつ、どの部分に、どの程度の内容のメンテナンスをいくらの費用をかけて行ったのか具体的に確認できれば、付加価値を感じるでしょう。

・メンテナンスをしていることを示す証拠が必要

 メンテナンスをしていることを示すもの、メンテナンス工事を注文したときの発注書や領収書、メンテナンス履歴をまとめた記録などを予め用意しておくと、メンテナンスの証明になります。また、メンテナンス前の写真とメンテナンス後の写真を残しておくのもよいかもしれません。住宅履歴制度を利用しているのであれば、メンテナンスの記録を住宅履歴に登録します。住宅履歴に登録することでメンテナンス結果が蓄積されていき、売却時に有利になります。

・建物の状態をチェックしてもらう

 メンテナンスの記録がなくても、建物アドバイザーなどの専門家に、インスペクションなどをしてもらうのも有効です。売主側で売却前に専門家にチェックを依頼し、調査報告書をまとめてもらう場合もありますし、購入を検討している側で専門家に依頼して建物を検査してもらう場合もあります。最近では、不動産仲介会社が売却査定の際に、建物の状態をチェックして査定価格に反映するという動きも活発になってきています。

・定期的なメンテナンスが売却価格を高める

 定期的にメンテナンスすることで、住み心地もよくなり、建物も長持ちして、売却価格も高くなるなどよいことづくしです。所有している建物についてはメンテナンスに力を入れることをおすすめします。

Q
マンションと一戸建てではメンテナンスするうえでどのような違いがありますか。
A

 一言でいえば、マンションは半ば強制的にメンテナンスがされ、一戸建ての場合は任意でメンテナンスを行います。マンションと一戸建てのメンテナンス方法の違いを簡単に説明します。

・長期修繕計画表に基づく修繕積立金があるマンション

 マンションは管理組合によって長期修繕計画が策定され、修繕積立金が毎月徴収されることが一般的です。長期修繕計画とは、住宅のメンテナンス計画のことです。住宅の部位ごとにメンテナンスの目安期間を定めて、定期的に点検し交換を行うのです。通常、分譲マンションの場合は、30年程度の長期修繕計画が定められることが多いです。この長期修繕計画に、住宅のどの部分に、いつ、いくらかかるのか、という想定がされています。この修繕費用を各区分所有者が毎月の修繕積立金として分担して負担しています。

・長期修繕計画表もなく修繕積立金もない一戸建て

 一戸建てには、マンションのような長期修繕計画表はないケースが多いです。マンションのように規約で修繕積立金の徴収が義務付けられているわけではなく、一戸建てのメンテナンスは自己責任なのです。そのため、一戸建て所有者の中には、定期的なメンテナンスを行わない、修繕に費用をかけない人も多くいます。一戸建てのメンテナンスが自己責任になっていることが、日本の木造住宅の耐用年数を短くしている原因の一つかもしれません。マンションのように一戸建ても長期修繕計画を作成し、いつ、いくらかかるのかを予め想定しておくことが必要です。

・マンションは自分勝手にメンテナンスできない

 マンションの場合は修繕積立金の負担が義務付けられていることがほとんどです。では、マンションは必ず定期的にメンテナンスがされていて良好な状態なのかというと、一概にそうとも言えません。マンションの中には、修繕積立金が不足しているマンションもあるからです。しかし、マンションの場合、共用部分については一個人の自由で修繕するかどうかを決めることはできません。専有部分については管理規約や使用細則などのルールに則り、所有者が自由にメンテナンス、リフォームができます。しかし、共用部分については、管理組合員の合意が必要になるのです。したがって、メンテナンス意識の高い管理組合員が多いマンションはメンテナンス状況が良好となり、メンテナンスに興味がない管理組合員が多いマンションでは修繕積立金が不足したり、不具合がそのままにされてしまったりするケースがあるのです。

・一戸建てのメンテナンスは個人の自由

 一戸建ての場合、メンテナンスをするかどうかは個人の自由です。したがって、メンテナンスを定期的に行うことで建物の状態を良好に保つことが容易となります。実際には、定期的なメンテナンスをしないままで、不具合が顕在化してから修理するというケースも多いのですが、不具合を未然に防止する意味でも定期的なメンテナンスは効果を発揮するでしょう。

Q
定期的に建物のメンテナンスをしないとどのようなことが起きるのでしょうか。
A

 定期的にメンテナンスをしなければ、建物は長持ちしません。なぜなら、建物は必ず経年劣化していくため、時間が経過するほど不具合が発生しやすくなるからです。人間なら病気になっても休むことで回復し、病気が治ります。しかし、建物の不具合については、放置しておいて勝手に直ることはありません。不具合を放置する時間が長くなるほどに、問題は悪化していってしまうのです。最悪の場合、修繕費用が高額になり、建替えが必要になるケースもあります。

・住宅にとってメンテナンスは命

 人間の場合、治療が難しい病気にかかってしまうこともありますが、建物の場合には、たいていの不具合は直すことが可能です。メンテナンスをすることで「必ず」長持ちするのです。また、人間が健康診断を定期的に行うのと同じように、建物も定期的にメンテナンスをすることで不具合を未然に防ぐことが可能です。住宅にとってメンテナンスは命なのです。

Q
メンテナンスされた建物であることをアピールする方法はありますか。
A

 ご自身の所有物件を売却するときに、定期的にメンテナンスを行っていても、口頭で「きちんとメンテナンスしているので建物の状態は良いです」と伝えるだけでは説得力がありません。大切なのは、明確な証拠となる記録、書面を見せられるようにしておくことです。

・リフォームの見積書や領収書を保管しておく

 いつ、どの部分に、どの程度の内容のメンテナンスをどのくらいの費用をかけて行ったのかを、具体的に伝えられるような資料を残しておくことが重要です。資料としては、リフォームの見積書や領収書、リフォーム工事中の写真などです。ほとんどの中古住宅はメンテナンスを行っていたとしても広告のチラシに「メンテナンス済」と記載する程度しか行っていないので、きちんとした証拠を提示できることが差別化要素になり、売却を有利に進めることができるようになります。

・住宅履歴制度を利用する

 上記で紹介したメンテナンスの記録資料は、あくまでも所有者自身が任意で用意するものになります。実際にはメンテナンスを実施したとしてもきちんと第三者に開示できるように記録をまとめているケースは珍しく、ほとんどの場合、売買が行われ所有者が変わると、以前のメンテナンス記録が新しい所有者に引継がれることはありませんでした。しかしながら、平成21年に住宅の長寿命化を目指した長期優良住宅が登場し、この長期優良住宅についてはメンテナンス記録などを住宅履歴として整備することが義務付けられました。長期優良住宅の場合には住宅履歴に登録することは必須となり、一般の住宅については任意となっています。この住宅履歴制度を利用することで、売買後もメンテナンス記録が引継がれるようになり、建物の長寿命化につながることが期待されています。住宅履歴については次の項目で詳しくご説明します。

Q
住宅履歴とは何ですか。具体的にはどのようなものですか。
A

 住宅履歴とは、一言でいうと、「住まいのカルテ」です。人の場合、医者が作成するカルテには、過去の診療結果やかかった病気などの記録がストックされていきます。万が一、病気になったときには、かかりつけの病院で診療してもらい、医者はそのカルテを見ながら診療方法を提案していきます。住宅履歴も同様です。もし雨漏りが発生したなら、住宅履歴を使って設計図面などの建物関連の書類を確認します。そして、実際に建物の状態を検査しながら原因箇所を特定し、対処していくことができます。また、リフォームするときにも設計図面があれば、目視では確認できない壁の中や床下、構造上の柱や梁の位置も分かるので、最適なリフォーム提案をすることができます。

・住宅履歴のメリット

 住宅履歴を利用するうえでの5つのメリットをお伝えします。まず、住宅履歴はデータ管理されるので必要なときに手軽に確認することができます。2つ目は、修繕やメンテナンスの正確な住宅情報が記録されるので、計画的な維持管理をする際に役立ちます。3つ目は、建物に不具合が発生したときにも、設計図面などの図面情報が揃っていれば原因を特定しやすくなることです。リフォーム工事を行う際にも設計図面があれば、無駄のない提案をすることができます。4つ目は、売買をするときに有利になることです。住宅のメンテナンス履歴が第三者に対しても明示できるので、他の物件との大きな差別化要素になります。5つ目は、長期優良住宅の認定要件に対応していることです。住宅ローン減税など様々なメリットがある長期優良住宅の認定要件として住宅履歴を利用することが定められています。

・住宅履歴に記録する内容

 住宅履歴には、「住まいのカルテ」として、住宅の設計図書や施工写真、インスペクションの記録、メンテナンス履歴、リフォーム履歴などの情報を記録します。具体的な資料としては次のようなものがあります。一戸建ての場合、新築時の資料としては建築確認書類一式(建築確認申請書、検査済証、設計図面、竣工図書一式)、住宅性能評価書(設計住宅性能評価書、建設性能評価書)など、維持管理に関する資料としては、長期修繕計画書、点検記録、修繕記録、リフォーム記録などです。住宅履歴に登録するために必要な情報は、工務店、ハウスメーカー、リフォーム業者、メンテナンス業者から受け取ります。そして、メンテナンス時、リフォーム時、不具合が発生したとき、売却するときに住宅履歴から情報を取り出し活用することができます。

Q
住宅履歴を利用するための費用はどれくらいかかりますか。また、住宅履歴で建物の価値は上がるのでしょうか。
A

 住宅履歴を利用するためには、およそ3万円の初期費用の他に定期的な費用がかかります。大切な住宅の記録を残すためのシステム利用料として考えておく必要があります。住宅履歴サービスは現在、社団法人等30社程度が提供しているサービスであり、住宅履歴の名称もサービス内容も異なっています。そして、工務店、ハウスメーカーによって利用している住宅履歴サービスが異なります。ただし、基本的なコンセプトでは「住まいのカルテ」や記録する情報は似たようなものとなっています。

・住宅履歴で建物の価値は上がるのか

 住宅履歴という仕組みが認知されつつある状況ですから、実際のところ住宅履歴を利用したことで高く売れたという事例は、まだそれほどありません。しかしながら、売却時に大手仲介会社などがインスペクションを行い、不具合もなく一定の基準を満たした住宅には瑕疵担保保証をつけるようになってきていることを考えれば、売却時に建物の価値が評価されるようになり始めたことは間違いないでしょう。そして、なによりも大事なのは、「単に住宅履歴を利用すればよい」ということではありません。きちんとメンテナンスを行い、住まいを大事に使っていくことで結果として住宅履歴が蓄積され、住宅が所有者にとって本当の資産となり、引いては社会的な資産となっていくようにすることです。今後、一戸建てを所有する際には、住宅履歴を利用することは当たり前になっていくと思われます。

Q
長期修繕計画とは何ですか。
A

 長期修繕計画とは、住宅のメンテナンス計画のことです。住宅の部位ごとにメンテナンスの目安期間を定めて、定期的に点検し交換を行うのです。予め交換が必要になる時期を予測し、適切な時期に点検を行い、不具合の発生を未然に防ぐことができます。

・分譲マンションの場合

 分譲マンションの場合は30年以上の長期修繕計画が定められていることが一般的です。この長期修繕計画に、修繕する箇所、修繕する時期、想定される費用、という予測がされており、想定される修繕費用の総額を各区分所有者が毎月の修繕積立金として負担しています。コンクリート造のマンションでは、長期修繕計画によって適切に修繕がされていけば、長期利用することも可能と思います。

・一戸建ての場合

 一戸建ての場合には、長期修繕計画がないことが多いです。マンションのように規約で修繕積立金の徴収が義務付けられているわけではなく、一戸建てのメンテナンスは自己責任なのです。そのため、一戸建て住宅の所有者の中には、定期的なメンテナンスを行わず、修繕に費用をかけない人も多くいます。一戸建ての修繕が自己責任であることが、日本の木造住宅の耐用年数が20年程度しかないと言われてしまう原因かもしれません。一戸建てもマンションのように長期修繕計画を策定して、いつ、いくらかかるのか、を予め想定することが好ましいです。

・長期修繕計画でかかる費用の目安

 一戸建てでもマンションでも、10年、20年というのが長期修繕計画の中でも最も費用がかかるタイミングです。なぜかというと、足場を組んで、建物の外壁塗装や屋根塗装、外部からの雨水の浸入を防ぐためのシーリングの打直しを行うためです。足場を組んで、建物の全体を点検できる機会は非常に少ないので、このタイミングで点検を入念に行うことが大事です。

Q
「建物状況調査」、「インスペクション」、「建物検査」、「住宅診断」、「建物調査」など建物を調べる名称がいろいろありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
A

 「建物状況調査」とは、国土交通省の定める講習を修了した建築士が、建物の基礎、外壁など建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の状況を把握するための調査です。  平成30年4月1日より宅地建物取引業法が改正され、媒介契約書面に「建物状況調査」のあっせんの有無が記載されることになりました。国土交通省が「建物状況調査(インスペクション)」という名称を使っています。

・建物を調べる会社によってサービス名称が異なる

 「建物状況調査」以外の「建物検査」、「住宅診断」、「建物調査」については建物を調べる会社によってサービス名称も内容も異なるので、違いを説明するのは難しいです。たとえば、建物調査会社のサービス名として「インスペクション」いう名称を使っているところもありますし、「住宅診断」もしくは「建物調査」という名称を使っている会社もあるからです。
この Q&A については、便宜上、建物について調べることを総称して「インスペクション」又は「建物診断」と呼ぶことにします。

・調べる内容を確認することが重要

 建物状況調査は最低限調べる項目が統一化されていますが、それ以外についてはサービスによって調べる対象と範囲が異なります。赤外線カメラなどを使って壁の中の柱の位置を確認する調査もあれば、屋根上までドローンを飛ばして確認するような調査も登場してきています。何をどこまで調べるのか、調査を行う前に確認することが重要です。詳細については「Q.建物診断の特徴、タイミングなどを教えてください。」でご説明します。