専門家執筆Q&A
奥野 尚彦

境界・筆界Q&A

境界・筆界
Q&A

土地家屋調査士
土地家屋調査士法人東西合同事務所
奥野 尚彦

境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。

本コンテンツの内容は、平成27年6月30日の法律に基づき作成されております。
土地と土地との境界に関わる事柄をQ&A形式で解説しています。

ADR、総合法律支援法

Q
ADRとはどういう手続きですか。
A

1.ADRとは

 「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(平成16年12月1日法律第151号通称ADR法)に基づいて行なわれる紛争解決手続きです。

厳格な裁判制度に適さない紛争の解決手段として、公正な第三者が関与して解決します。より身近に司法制度を利用できるようにすることを目的としています。
ADR(裁判外紛争手続き)としては、当事者間の話し合いで紛争解決する「調停」や「和解斡旋」、公正な第三者に解決内容を決めてもらう「仲裁」があります。

事例としては、平成19年4月2日日本スポーツ仲裁機構が認証申請し、初のADR認定申請者となりました。他に各弁護士会の仲裁センター、紛争解決センター、交通事故紛争処理センターなどがあります。

2.土地境界問題ADR
 土地の境界問題に関しては、都道府県単位の土地家屋調査士会が下記の通り取組みを進めて境界紛争の解決を行なっています。

土地家屋調査士会型ADRへの試行
平成14年10月あいち境界問題相談センター 設立
平成15年3月境界問題解決センターおおさか 設立
平成15年6月24日「東京土地家屋調査士会境界紛争解決センター」設立(東京3弁護士会との協定締結スタート)調査士は申立人の保佐人として同席するに留まるところからスタートしました。

平成19年12月11日法務省民二第2572号法務大臣の指定ADR機関となりました。これは弁護士との協働による境界紛争の解決を目指すもので、弁護士協働型土地家屋調査士会ADRと呼ばれています。

Q
境界紛争を解決するために利用できますか。
A

 土地家屋調査士が取り組むADR機関は、「土地の境界が明らかでないことを原因とする民事に関する紛争」を対象としてその解決を図ることを目的としており、有効な利用手段となります。
 対立構造を作る裁判手続きでは多大な費用と時間を要することが多いことが知られています。この解決に向けた困難を回避し、現実的な解決を図ることを目指すものですので大いに利用できます。

〈ADRによる解決に関する問題〉

 境界問題ADRは、当事者間で話し合いにより境界紛争の解決を図る手続きです。

双方が話し合いに応じない場合には進めることができません。
専門家の第三者としての公正な意見、提案を冷静に受け入れ解決していこうという意志が必要です。

境界確定裁判や筆界特定のように筆界を確定し、又は特定することはできません。
筆界の位置については当事者間で確認したという効力があるだけです。いわゆる所有権界の確認ということになります。

 ただし、双方で話し合いが可能であれば、

当事者間で所有権の範囲について合意し解決すること。

筆界の位置について当事者間で確認すること。

分筆・合筆の登記申請について合意するなど、その他紛争解決に必要な合意を盛り込むことにより紛争を解決すること。

が可能となります。

Q
ADRによる境界紛争解決手続きの特徴と手続きの概要を教えてください。
A

1.まずは相談

 通常は、境界について問題が生じた場合、何処で誰に相談すればよいか良く判らないことが多く官公庁主催の弁護士法律相談が主たるものでした。その解決方法も境界確定訴訟、所有権確認訴訟などで決着をつけるということであったのです。
 一般的に考えて、依頼する場合にも、裁判を継続するのも、結果としての判決の内容にも、利用するにはハードルが高いものでした。
 そこで、いきなり対立的な構図を取ることなく、まずは問題が起こった場合に相談するところから入るので、利用しやすいという利点があります。

 境界紛争の元となる初期の段階では、

登記された区画の範囲を示す筆界と所有権の及ぶ範囲を示す境界についての理解不足

境界付近の構造物の設置や所有権の争い、建物建築などで引き起こされた相隣関係の不和など、過去の経緯から不満を増幅させてきた心理的な問題

 がもとで心情的な行き違いを生じている場合が多く、公平中立な第三者である専門家の説明を受け意見を聞くことによって相談段階で大半の案件は解決しています。

2.調停の手続き

 相談だけで紛争が解決しない場合、調停の受付を行ないます。認定土地家屋調査士は、依頼者の代理人として調停の申し立てを行なうことができます。
 土地家屋調査士会ADRでは相談を受けた委員とは別個に独立した調停を行なう調停者たる委員がおり、当事者双方の話を十分に聴取し、解決の糸口を探ります。
 現地調停として、紛争の対象となっている土地の実地見分あるいは測量を行ない、場合によっては、境界鑑定を実施することもあります。
 ただし、土地家屋調査士会ADRでの調停は、あくまでも話し合いによる解決が前提で、期日への出頭義務があるわけではありませんので、相手方が応じない限り前へ進めることができません。
 しかしながら、裁判などのように期日、場所を一方的に定めるのではなく、相手方の事情により柔軟に決定するなどに対応ができるので、相手方に対するお願いであっても応じていただける場合が多くなります。
 その後、反応の無い相手方に調停への参加、回答書の提出等を求める連絡を行ないますが、それでも反応が無い場合には、調停の申し立てを取り下げることになります。

3.弁護士との協働

 調停で当事者が合意に達すれば、民法上の和解契約が成立したことになります。
境界の位置が不明なことに起因する民事上の争いですので、その解決内容は当事者の権利義務に深く関わりあいがあり弁護士の関与が必ず必要となります。したがって、土地家屋調査士会ADRでは相談、調停、運営に関し必ず弁護士との協働が前提となります。

 調停の内容は、

法律判断が必要な箇所にあっては、適法に処理されているか

当該紛争の実体に即した内容となっているか

双方の意向が反映されているか

客観的にみてどちらにも優位性が見当たらないか

が基礎となります。

 例えば、公法上の筆界と所有権の及ぶ境界の食い違いによる争いについて調停した結果、「一方の当事者が相手方の土地の一部を取得し、その取得した部分に自分の費用でブロック塀を築造する」といった内容の場合、当然に取得する相手方の土地の一部を分筆登記し、所有権移転登記を行なわないと根本的に解決したことになりません。調書の中にその手続きの具体的な協力事項も盛り込む必要があります。

Q
総合法律支援法とはどういうものですか。ADR法とはどこが違うのですか。
A

 法律の条文に以下のことを目的とすると記載があります。

裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にする。

弁護士(弁護士法人)並びに司法書士その他の隣接法律専門識者(弁護士及び弁護士法人以外の者であって、法律により他人の法律事務を取り扱うことを業とすることができる者)のサービスをより身近に受けられるようにする。

そのための総合的な支援の実施及び体制の整備に関し、その基本理念、国等の責務その他の基本となる事項を定める

目的遂行のための中核となる「日本司法支援センター」(「法テラス」と愛称されています。)の組織及び運営について定め、もってより自由かつ公正な社会の形成に資する。

つまり、この法律に基づいて具体的に何か問題を直接解決するのではなく、司法制度を利用して問題を解決する枠組みを規定するものです。

〈日本司法支援センター(ホームページより)〉

 総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行なうことを目的として、「日本司法支援センター(法テラス)」が設立されました。

同センターでは以下の業務が行なわれています。

情報提供業務
 法的トラブルの解決に役立つ法制度の情報提供を行ないます。一般の人は、支援センターの職員に法的トラブルについて相談することができます。相談を受けた職員は、相談内容に応じて、最も適した機関や団体を紹介します。ただし、個別の事案に関する具体的なアドバイスや対処法を行なう法律相談とは異なります。

民事法律扶助業務
 資力の乏しい国民に対して、弁護士や司法書士に支払う裁判費用や書類作成費用の立て替えを行ないます。

国選弁護制度、国選付添人、国選被害者参加弁護士関連(省略)

犯罪被害者支援
 被害者支援に通じた弁護士や専門機関の紹介や情報提供を行ないます。

司法過疎対策
 法律専門職の少ない地域での法律サービスを行ないます。

つまり、法テラスは法的トラブルについて弁護士等の紹介や費用の立替、情報提供を行なう窓口としての機関であり、直接法律問題の相談に応じているわけではありません。