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境界・筆界Q&A

専門家執筆Q&A
奥野 尚彦

境界・筆界Q&A

境界・筆界
Q&A

土地家屋調査士
土地家屋調査士法人東西合同事務所
奥野 尚彦

境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。

土地と土地との境界に関わる事柄をQ&A形式で解説しています。

境界標
(石杭・コンクリート杭・プラスティック杭・金属杭・プレート・ペイント等)

Q
以前、親からこれが御隣との境界標だと教えられた物があるのですが、礎石のようなもので表面に印がありません。本当に境界標なのでしょうか。
A

 その物の設置経緯、材質、その地方の慣習など根拠となる資料を調べる必要があります。
 今ほど境界について神経質でなかった時代には、特徴のある石や樹木(境界木といわれます。)などが境界標として使用されてきたことがあります。
 例えば、鉄道の境界石で境界点を示す印の無いものがあります。これは鉄道の用地という性格上厳しく境界点を特定する必要がなく、許容される誤差の範囲内に境界標が存すれば用が足りていると考えていたからです。
 また、農地や山地のように比較的許容誤差が大きいところでは、樹木、礎石、石塚などを境界標として使用した場合もあります。ただ、一定の幅を持った地物ですので、その地物の示す範囲のどこが境界であるか問題になる場合があります。

 集めた資料と現地の状況で判断して、該当する地物が境界点を示すものと隣接土地所有者の間で了解を得ることができたら、境界点に印を入れるなどして今後問題となることの無いようにしましょう。
 今回のように表面が無印の石、コンクリート柱などの場合は、一応その中心が境界点と考えられますが、樹木など一定の大きさがある物を敷地内に施設する場合には、その地物の外側が境界線として設置されます。
 地物が設置された時の状況、慣習などにより判断されることになります。

Q
御隣との境界について立会いを行なったとき、現地にある石を指してこれが境界点を示す杭だと主張されました。境界標があると異議をいえないのでしょうか。
A

 境界標は筆界の位置を物理的に目に見えるように示す目印であって、境界そのものではありません。
 法律上は、境界標は隣接地の所有者と共同の費用で設置されるものであり、境界標を無断で移動したり除去したりすると、境界毀損罪という刑法上の処罰があります。境界標は境界点を示すといえそうですが、実際の境界標は設置した者、材質、設置した経緯により様々な境界標が存在し、必ずしも正確に境界を示すとは限りません。
 一方の所有者が勝手に設置した、あるいは勝手に移動・復元したなどの事情がある場合がままあります。境界標自体が木杭、中空のプラスティック杭である場合や根巻きしていないコンクリート杭などのように耐久性・永続性に乏しい構造のため変形、移動することもよくあります。
 公法上の境界は、発生した後も変化しませんが、現実にある境界標は人為的な事情、自然環境で変化し、合致しなくなることが多々あります。

 境界標が隣接地所有者との権利が及ぶ範囲を示している場合もあります。
 通常、隣接地土地境界確認行為を行なう場合、地番と地番の境である公法上の境界はあまり意識されず、自分の権利が及ぶ範囲である所有権界の方が当事者にとって重要ですので、土地所有者が設置した境界標と公法上の境界が一致しない可能性があります。

 境界が発生したときの資料、境界標が設置された時の事情を検討して石が境界点を示すものかどうか判断しましょう。
 原始的な筆界を発生させる行為である、土地区画整理、土地分筆登記が行なわれたときに設置された境界標は、その後特別な事情がない限り信頼できると考えられます。これらの境界標を測量してその位置が許容誤差の範囲であれば、正しく境界点を示すと考えて良いでしょう。地域にもよりますが、平成18年以降の地積測量図ですと境界点の座標値の記載がありますので、位置の復元性がより正確になります。
 また、現在の様式では、公共基準点に基づく座標値の記載が規定されていますので、より客観的に境界点を特定することが可能となりました。

Q
御隣とは境界線に沿ってブロック塀を設置してあり境界について特に揉めているわけではなく良好な付き合いですが、境界標を設置する意味がありますか。
A

 「杭を残して悔いを残さず」。当事者が同じである限り、隣接地所有者との間に境界標を設置する必要はあまり感じないかもしれません。
 しかしながら、境界の争いは些細なことから生じる場合が多く、一旦こじれた関係で境界標を設置することは困難になります。また、構造物もどのような事情で再構築することになるかもしれません。
 境界標を設置することによって、目で確認できる確実性と隣接地所有者の間で共通の認識を持つことができるなど将来に渡って安心であり、無用なトラブルを回避できる効果があります。
 境界標を設置した場合は、記録に残しましょう。境界紛争は境界そのものが不明というより、隣人との信頼関係の欠如や利己的な態度によることが多いものです。隣接地所有者として互譲の精神と公平な態度が必要となります。
 隣接地所有者の間で十分協議し合意できたら、境界標を設置するのですが、是非とも写真やメモなど記録として残すこと、できれば境界確認書を締結して残すことをお勧めします。

Q
御隣との間に境界標を設置したいのですが、どんなものが良いのでしょうか。
A

1.永続性があるもの:石杭、コンクリート杭、金属杭
 境界標は基本的に位置の特定が明らかで、堅固、耐久性があり境界標として永続性があるものが適当です。これらは現地で見て境界点を示すものとして推定力が高いといえます。

実務上、比較的よく使われるものとして、
 永続性のあるもの:石杭、コンクリート杭、金属杭(埋設部分があるもの)
 石杭は通常御影石などを使用しますが、現在では所有者の特別な意向がある場合以外はあまり使用されません。材質として高価で加工が難しく、設置するときの取扱が難しいからです。

コンクリート杭は永続性のある境界標の代表的なものです。杭の内部は番線と呼ばれる鉄製の棒鋼が入っており、境界標の下部をモルタルや練コンクリートで根巻きしたものは、堅固で耐久性に優れています。杭の表面は十字の溝あるいは矢印で境界点を示すようになっており、見た目も明らかであり誰にでもわかりやすいものです。

金属杭(埋設部分があるもの)とは、金属製で鋳物など成型加工された上部と埋設される下部材料に鉄製の棒鋼・形鋼、ボルトねじを使用して一体としたもので、下部埋設部分を練りコンクリートやボンドで固定して設置します。
 官民の境界標あるいは市街地で埋設場所がコンクリートでできた三和土やブロックに設置する境界標として利用されます。構造全体が小さいので市街地などでも設置しやすいのですが、設置した元のコンクリート等の構造物を取壊したり、撤去した場合に一緒に亡失してしまいます。

 以上、永続性を前提に実務上は「本杭」ということがあります。

2.仮設的なもの:ペイント、木杭
 一時的に境界点を示す目的で設置されるもので、永続的な利用を考えていません。したがって、本杭に対して「仮杭」と呼ばれます。
 例えば、立会協議等の際に現地でその場所を示すために設置するもの、工事を行なうことが予定されており工事のために境界点を明らかにする必要はあるが、着工されると亡失することが明らかな場合に設置するもの、があります。
 当然に亡失することを前提に考えていますので、条件が整って設置できる状況になった場合は永続性のある「本杭」を設置する必要があります。

3.中間的なもの:プラスティック杭、貼り付けのプレート、刻印
 永続性のある境界標と仮設的な境界標の中間的な特徴で、現場の状況により、仮杭として使用されたり本杭として利用されたり使い分けられることになります。

プラスティック製の杭は、内部が中空のものと充填されたものがあります。内部が中空のものは、腐食・変質などに弱く仮杭としての性格が強いですが、内部も充填されたものは、比較的永続性があるといえます。重量が軽く設置しやすい構造ですので従来からよく使用されていますが、やむを得ない事情がある場合以外は避けるべきと考えます。農地、山林などでは許容誤差の程度、設置しやすさを重視して現在でも利用されています。

貼り付けのプレートは、金属板を境界付近の構造物に接着剤等で貼り付けて使用します。使用する接着材、金属とも物理的には堅固で耐久性があるのですが、設置する場所の条件により亡失してしまう可能性があります。市街地などでコンクリート杭、金属杭の設置が難しいコンクリートブロック塀の上部・側面、設置スペースが狭いところ、などで本杭として多用されます。人や車の接触がある場所には適していません。

刻印は石、コンクリート構造物などに素早く作業でき、尚且つ構造物が存する限り亡失することがありませんので、目印として比較的よく利用されてきました。ただ、現地でみたとき明らかに境界点といえるような状況ではなく、仮杭的な目的あるいは本杭の補助的な目的で設置されると考えた方が良いでしょう。

4.地域の慣習等で設置されている:刻印の無い境界石、境界木、
 人的なものでない:尾根、道、堀などの地物、地形
 これら境界を示すものは、古くから存する場合には当事者あるいは地域の方に判りやすく有効です。判例でもさまざまなものが認められているようです。
 ただ、いずれも境界点1点を指すものではなく、一定の幅で示すことになりますので、その範囲のうちどこが境界点であるかを現地の状況、慣習等を考慮して決める必要があります。
 新たに設置・確認するものとしては妥当でなく、農地や山林などで過去の境界線を推定、復元する資料として限定して考えることになります。