専門家執筆Q&A
奥野 尚彦

境界・筆界Q&A

境界・筆界
Q&A

土地家屋調査士
土地家屋調査士法人東西合同事務所
奥野 尚彦

境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。

土地と土地との境界に関わる事柄をQ&A形式で解説しています。

測量技術

Q
明治時代に行なわれた地租改正事業により原始的な境界(筆界)が創設されたということですが、どのような測量が行なわれたのでしょうか。
A

地租改正事業当時の測量技術
 地租改正事業当時の測量は、現地で図面に直接測量結果を記載していく十字法、三斜法といった測量方法が行なわれました。明治初期の「野取り絵図」が作成された当時は、十字法が多用されたのですが、明治時代中期に行なわれた地押作業による「更正図」作成のときは、ほとんど三斜法が採用されたようです。面積計測する方法を考えると当然のことですが、三斜法の方が一般的に言って精度が良い方法です。

十字法

 測量の対象となる土地の形状を、現地で直接絵図として描きます。
 面積の計測方法は、不整形な対象土地を面積的に等価となるように、現地で正方形や長方形に整形し直しその縦横の寸法をかけて面積を算出したものです。
 この長方形に整形しなおすのは、目測によるとされていたので、人により、地方によって精度がまちまちとなったようです。

三斜法(廻り検地)

 こちらも対象となる土地の形状を、現地で直接絵図として描いたのですが、面積の計測は不整形な土地を、現地で幾つかの三角形に分け各々三角形の面積の和を計算して算出しました。
 土地の形状を三角形に分割するのも目測で行なわれましたが、長方形に比べてより実際の形に近くなりますので、一般的にいって十字法よりも精度が良いと考えられます。

 求積方法は平板測量における三斜法と同じですが、現地において目測で三角形を作成しますので、誤差がその分大きくなります。また、測量器具も現在のように精密でなく、作業も多くは一般人が測量したものであり、精度には問題がありました。

Q
現在ではどのような測量を行なうのでしょうか。
A

1.平板測量
 平板測量は対象となる土地の形状を、現地で直接描く方法ですが、測量に用いる道具が整えられたおかげで、多少の高低差、屈曲点があっても実際の形状に即した平面図形を描けるようになったものです。
 求積方法は図解法と呼ばれるもので、三斜法による求積なのですが、描いた図形の各屈曲点ごとに三角形を配置し、その面積合計を計算するものです。前述②の三斜法では現地で目測で三角形を設置したのですが、平板測量の場合は、現地で正確に測量して作成した図面を持ち帰り、別途図形の屈曲点ごとに三角形を配置し三斜法による求積を行ないますので、より正確に面積を算出できるようになりました。
 ただし、平板測量の三斜求積をするときの三角形の垂線は実測することができず図上で読み取りますので面積の誤差を生じます。
 実務的には、昭和50年代の後半くらいまで長く使用されていました。
 現在でも、建築確認申請の敷地図面のように、求積図といえば三斜法を使用する習慣が残っているところもありますが、トラバース測量により作成された図形の三斜求積とは別物です。

2.トラバース測量
 角度を計測する測角器と距離を測る測距器により、基準となる2点からの角度と距離で測量点を測量し、その結果を測量点の座標値として表わす測量方法です。
 測量に使用する器械は、昭和50年ころまでは角度はトランシット、距離はテープという組み合わせであったので、角度の精度に比べて距離の精度が良くなかったのですが、距離もレーザー光線を利用した光波測距器が利用されるようになり格段に精度が良くなりました。角度で約20秒、距離で±5ミリ程度の精度が期待できるようになっています。昭和60年以降は、測角と測距が一台の器械で行なえるトータルステーションが使用されるようになって、現在の主流となっています。

 面積の計算は、観測された測量点の座標値を使用して「座標法」により行なわれます。
 実務的には、従来の慣習に基づいて座標法でなく三斜法にした求積方法を求められることがあり平板測量の三斜求積と同じ形式で求積することがありますが、図形の各屈曲点は座標値をもっていますので、三角形の垂線といえども図上の読み取りでなく、座標を使用した計算で求められます。平板測量の三斜求積より正確であり座標法に基づいて求積する場合とほとんど差がありません。
 法務局に提出する地積測量図の求積においても依頼人の求めに応じ三斜求積することが認められています。ただし、各境界点の座標値も地積測量図に記載する必要があります。

 以上、平板測量もトラバース測量も器械を設置する基準となる点を設け、そこからの角度と距離で観測点を示しますので境界線のように境界点の2点を結ぶ線上に建物などの障害物があっても、測量可能です。平板測量の場合には図上で、トラバース測量の場合は座標値で2点間の距離を求めることができます。

3.GPS測量
 米国国防総省が開発したもので、「Global Positioning System 全地球測位システム」と呼ばれます。元は軍事目的に開発されたものですが、民生用に利用できるようになりました。
 最も身近なものは、車のナビゲーションシステムです。観測点に設置した器械と最低4個の人工衛星の間で電波のやり取りをして、観測点の位置を計算して座標値を求めます。
 以前は実用的な使用法では、メートル単位の誤差がありましたので、普及が難しかったのですが、観測方法・機器が進歩しセンチ単位の精度を得られる方法が採用されるようになり測量分野でも活用できるようになりました。
 その特徴を生かした活用がなされています。
・電波を利用するので、天候の影響を受けない。
・24時間いつでも作業可能。
・観測地点間の見通しができなくとも測量できる。
・4個以上の人工衛星の電波を同時に受信できる必要があるため、上空の視界が開けている必要がある。市街地のビルに挟まれた道路、宅地では利用が難しい、原野、山林などの長距離で直接見通しのきかない場所で非常に有効ですが、山林の樹木が生い茂ったところでは樹木の伐採等を行なわないと観測できないなど制限があります。

Q
過去の測量技術と現在の測量技術では精度がどの程度異なるのでしょうか。
A

1.許容誤差の変化

地租改正のとき(十字法)の精度
 農地1反につき10歩(30分の1程度)、市街地で100坪につき2坪(50分の1)、山地は歩測、目測。

現在の精度は、農地1000㎡につき20㎡(50分の1)、市街地で1000㎡につき3.35㎡(300分の1)、山林1000㎡につき40㎡(25分の1)程度
 一般的にいって、山林・原野>農地>宅地の順に精度がよくなります。ただし、現在のトラバース測量では山林のような極端な高低差が無い場合、原野でも農地でも宅地でも測量精度に差が出ません。

2.誤差の実務的な取扱い
 法律的には、上記の誤差が許容されますが、実務的にこれでは許容誤差が大きすぎて争いの基になります。自主的な規定として、辺長の長さにかかわらず、寸法で3センチ程度が誤差として許される範囲の目途となります。官民の境界確認行為を行なうときに、過去に行なった境界確認を行なった事実があり境界点間の距離などが図面として備え付けられている場合には、概ね2センチ程度の誤差を許容範囲としているようです。
 過去の資料等が存する場合、辺長など数値の差異、誤差等については、作成当時の取り扱い等の時代背景を十分に考察及び分析して対応を検討する必要があります。

Q
任意座標とか公共座標(測地成果2011)といった言葉をよく耳にしますが、どう違うのでしょうか。
A

 トラバース測量を行う場合、観測点は座標値で表示するのですが、その座標値の基準となる座標軸を例えば、基準点の座標をx=500、y=500と仮に定めて、これに対応した相対的な座標値で観測点を表示する方法です。
 例えば観測点Aはx=525、y=550といった具合に表示されたものが任意座標です。

 これに対し、基準点の座標を世界的な基準に沿って定めてありこの座標軸を使用してx、y座標値を表示するものです。
 例えば、関東地方の場合、座標区分Ⅸ系では経度139度50分0秒、緯度36度0分0秒を原点(x=0.000、y=0.000)とした場合の相対的な位置として座標値をx=-122345.666、y=98765.444のように表示します。

 現在使用する測地成果2011というのは2011年(平成23年)に定められた公共座標値ですので、この規定以前に作成された地積測量図は測地成果2000に基づくもの日本測地系に基づくもの、任意座標によるもの存在します。また、現在作成される地積測量図でも現場の事情、公共基準点の設置事情により混在することがあります。これら混在した基準点に基づく地積測量図はそのままでは整合をとることができませんので座標の変換などを行ったうえで活用する必要があります。