専門家執筆Q&A
奥野 尚彦

境界・筆界Q&A

境界・筆界
Q&A

土地家屋調査士
土地家屋調査士法人東西合同事務所
奥野 尚彦

境界について、改めて疑問を感じたときや問題が発生したときに気軽に参考として利用いただけるように、できるだけ普段使用している言葉で基本的な事項を実務に即して記載しています。

本コンテンツの内容は、平成27年6月30日の法律に基づき作成されております。
土地と土地との境界に関わる事柄をQ&A形式で解説しています。

境界に関するトラブル事例

Q
境界標を移動、破損あるいは撤去してしまった。
A

 最も頻繁に直面するトラブルであり、境界の争いとなる原因を作る仕掛け人がいます。

【事例】

隣地との境界付近にあるブロック塀、下水管などの埋設物を設置するとき、あるいは造りかえる時に工事業者が境界杭を飛ばしてしまった。

境界確定を行ない建物を建替えしたが、既存建物を取り壊すとき一緒に境界標も撤去してしまった。

官公庁の道路工事が行なわれたときに、道路部分にあった御隣も含めた三者境である境界標がいつの間にか亡失しており、道路工事完了後もそのままとなっている。

あるいは、

上記のように故意や過失で失くしてしまった境界標が、工事が終わってみたら、無断でいつの間にか適当に復元されていた。

1.注意すべきこと

所有地の維持管理に目を配ることは所有者としての権利であるとともに義務でもあります。御隣の敷地で塀・垣根や建物の工事が始まった場合や、公共工事といえども、道路について工事が始まった場合などに注意が必要です。境界標は工事の邪魔になる場合が多いので、故意や過失で勝手に撤去したり、移動する場合がありますし、また、工事が終わったら適当に復元している例が多々あります。工事の依頼人自ら指示することもあります。
 いずれにしても、境界標が亡失する恐れがあると気が付いた場合は、隣地所有者など工事の発注者に注意を促す必要があります。現場で実際に作業を行なっている者に言っても、ほとんどの場合対応できないと考えて良いでしょう。直接、工事発注者を相手にする必要があります。

法律的には、隣家に無断で塀や垣根を設置するだけで違法であり、損害賠償の責任を負うこともあります。この場合の隣家には借地人、借家人も含みますので、土地所有者と同様に同意と立会を求める必要があります。

刑法に「境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とあるように境界標を勝手に損壊、移動、除去したときは「境界毀損罪」になります。境界標を誰が設置したかにかかわらず(自分が設置したものであっても)該当することになります。

2.対処方法

当然のことですが、境界付近について工事をする場合には、工事着手前に隣地所有者、借地人などの利害関係人と打ち合わせ協議をするなど、手を打っておく必要があります。着手前に現地で立会確認して、その時にある境界標、境界付近の構造物と周囲の目印となる構造物との位置関係など引照点を測量、写真撮影するなどして把握しておき、工事進捗のどのタイミングでどんなものをどのように復元するのかを説明し互いに了解しておくのです。
 事前に手を打っておけば、境界点はほとんどの場合座標値で管理されますので、他の境界点、基準点が残っている限り正確に復元すべき点を特定でき誤差無く境界標を設置できます。これによって、無用なトラブルの大半が回避できます。

既に境界標を撤去してしまった場合には、境界標を元の位置に復元する必要がありますが、その元の位置を事前に確認していませんので、資料に基づいて慎重に復元作業を行ない、隣接土地所有者の確認を得て境界標を設置する必要があります。
 既存の資料として地積測量図、境界確認書あるいは土地境界確定図面などで座標値の資料がある場合は、残っている基準点、境界点を点検測量することにより、復元点を計算して比較的容易に復元することができます。過去の測量図等の資料はあっても座標値のデータが無い場合は、該当する敷地全体、場合によっては隣接する土地の区画も含めて、復元点を調整のうえ設置する必要があります。工事を行なう計画があるのですから敷地に関する資料があるはずですが、測量図のような復元可能な資料が無いときは、厄介ですが、隣接土地所有者間で境界確定に関する協議から始める必要が生じます。工事進捗に対する影響も大きく、又作業に要する時間、費用も嵩むことになります。

無断で先に境界標、境界付近の構造物を壊したり、撤去した場合には、トラブルの仕掛け人は本件地側ですので、焦らず隣地の信頼を回復することから始める必要があります。境界標が存する状態には戻せませんが、できる限り早い段階で現地立会確認をして現状を把握し、復元点の予定、工事進捗に合わせた復元作業の工程を了解いただくことにより、最終的な境界標の復元作業がスムーズに行なえることになります。

境界の復元ができた場合には、後日のために写真・図面を添付した記録を残します。

Q
現況の占有状態と相違する境界線が公法上の境界である場合。
A

 隣接土地所有者同士が了解している限り問題ありませんが、公簿上の手続きを経ていないと、相続や売買など当事者に変更があった場合、新しい所有者に当然には引き継がれませんので、争いの原因になります。

【事例】

昔、御隣同士の親が、口頭で自分たちが利用する敷地範囲について、当時の状況で取り決めをした。

御隣との境界線は公図上屈曲しているが、御隣と相談して、利用しやすいように境界線を直線とした。

御隣と敷地形状を整形するため、所有地と相手方敷地の一部を同じ面積となるように交換して書類も作成したが、登記手続きは行なっていない。

御隣との間にある当方の塀が境界線を越境していると言われたので、越境部分の土地を購入し費用も支払ったが登記手続きを行なっていない。

1.注意すべきこと

隣接土地所有者間でたとえ境界確認書等の締結が行なわれていたとしても、それによって地番を持つ土地と土地の境界(筆界)が変更されるわけではありません。互いに所有権の範囲を互いに了解したに過ぎない、ということになります。

土地の所有者は、土地の所有権につき売買、分割など自由に処分できますので、境界も隣接土地所有者同士で協議して変更できるように思われがちですが、地番と地番の境界は最初に登記されたときに公法上定められた線ですので、私人が自由に変更できるものではありません。

2.対処方法

現実の所有権の範囲と地番と地番の境界を一致させるには、分合筆の手続きを行ないます。まず境界線の位置が現実の所有権界の位置と合致させることが必要です。
 境界確定手続を行なって、本件地あるいは相手方の土地を一部取得しているなどの場合は、本件地又は相手方の土地を分筆し、交換をしていた場合は本件地と相手方の土地の両方を分筆するなど、所有権界の位置と公簿上の境界線の位置が合致するようにします。

そのうえで、本件地側又は相手方の土地である分筆された土地につき所有権移転登記を行ない、所有権界の位置と公簿上所有する土地の境界位置が合致するようにします。

所有権界の位置と公簿上の位置が合致した段階で、境界確認書の締結を行ない、将来に備えて復元可能な書類を残すようにしましょう。

Q
隣接する敷地の境界線付近に占有物が存在する場合。
A

 直接、境界線に関するトラブルではありませんが、解決する場合にはしばしば筆界と所有権界に関する問題として扱われます。

【事例】

建物、塀等構造物その物が境界線上に存在する。

建物軒先、レンジのフードなど建物の附属物が境界線上にある。

空調の室外機及びその架台、排水等の樋、管など建物の設備が境界線上にある。

御隣の敷地へ通じる空中の引込線など境界線上空に越境がある。

上水道管・下水道管、ガス管の埋設など境界線の地下部分に越境がある。

樹木の枝葉が塀を超えて侵入している。

1.注意すべきこと

過去の経緯によりそれまでは互いに何ら支障なく生活してきたのですが、建物建替えや売却に伴う確定測量により問題となる事実が発覚した、あらためて気が付いた、認識したという場合です。

今まで支障なく時間を経過してきており、境界についても占有物についても互いに意識していなかったのですから新たにトラブルの原因にならないように冷静に対処することが必要です。

過去の経過資料を持ち寄り、協議しましょう。

2.対処方法

過去の経過資料を持ち寄り、境界の確認、占有物の所有権の帰属により越境、被越境の確認を行ない納得の末、同意します。

境界確定行為と同じく現況の測量を実施し、隣接土地同士の境界を公正に復元し了解のうえで境界標を設置するなど位置を明確にします。

境界については「境界確認書」、占有物については「越境の覚書」を作成し互いに維持保管し、売買や相続など所有者が替わった後も有効に活用できるようにします。

一般に、境界確認書や越境の覚書は書類を締結した当事者間の契約と考えられていますので、所有者が承継されたときには新しい所有者に引き継ぐ、といったいわゆる「承継文言」があったとしても本来は当然に引き継がれるわけではなく有効とはなりません。
 しかしながら、不動産取引の慣習又は常識として、特に売買などの買主は売主の既存境界確認書や越境に関する覚書きを重視して購入の条件にするなど、承継することを前提にしていますので、書類として承継されそれが売買契約書で項目として記載されることが通常です。このため、作成した書類は有効に承継されますし、また新たな所有者同士で改めて書類を締結することもできます。

Q
境界近くギリギリに建物を建築するなど、直接境界とは関係ない事柄により御隣との仲が悪くなった場合。
A

 民法と建築基準法の規定の相違、互譲の精神の欠如から引き起こされるものですが、最終的には境界問題として争いが提起されるケースが多くなります。

【事例】

建物建替えのとき、旧建物の取壊工事がいきなり始まった。振動、騒音など業者に言っても埒が明かない。

境界一杯に建物を建築しだした。

境界付近に勝手に管の埋設(水道、ガス管の設置、下水の排水)を行なったり、空中に電線を通過させた。

境界付近に勝手に塀を設置した。

境界線上に建物補修用の足場を勝手に設置した。

隣の雨水、樹木の落ち葉が侵入してくる。

1.注意すべきこと

いわゆる相隣関係と呼ばれるもので、特別の法規が無いと認められない権利ですが、地上と同じく空中や地下についても地上から垂直に上下に線を引いたところが境界とされその管理・支配の問題となります。上下といっても無限に管理・支配ができるわけではありませんので、管理・支配が可能な一定範囲が対象となります。

事例に関する影響を広くとらえれば、日照権、眺望権、電波・騒音・振動・煤煙・悪臭などの問題として提起されることもあります。

争いの原因となる権利を主張する根拠を示すため、境界問題として争われることが多いものです。

2.対処方法

互いに権利主張を繰り返すばかりではますます相隣関係が悪化します。
 例えば、建物建築にあたり民法で定めている境界線から50センチメートルの距離をとるという規定も建築基準法上の規定とは異なっているため守られない場合があります。また、これに呼応して他方も境界線に接近して建物を建築したため、境界線付近の空間が無くなってしまう、といった事態になることがあります。

民法の基本原則である「信義誠実の原則」「権利濫用の禁止の原則」を念頭に互譲の精神をもって協議し、対応することが必要と考えます。

互いに協議するか、第三者を間に入れた方が良い場合は、境界確認の場合と同じように調停、民間ADRなどを利用して話合いを進めることです。

互いに合意することができたら、その内容につき書類を作成・締結をして後日のために保管しましょう。