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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

※実際のトラブル等では個別性(地域の慣習等を含む)があり総合的に判断しなければなりません。弁護士等に早めにご相談のうえ判断していただくようお願いいたします。 また、本コンテンツの内容は、平成27年1月31日現在の法律に基づき作成されております。
賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

借主の死亡

Q
借主が死亡すると、賃貸借契約はどうなるか?
A
1.借主が死亡しても、賃貸借契約は終了しません。

建物の賃貸借契約においては、借主が死亡しても、賃貸借契約は終了せず、建物を借りる権利=借家権は、相続人に相続されます。
相続人は、大家さんと死亡した借主との間の契約をそのまま引き継ぎます。従って、借主が死亡したからと言って、契約内容を変更したり、契約の更新を拒絶したりすることができるわけではありません。
もちろん、大家さんは、借主の相続人に対して、賃料や管理費などを請求することができます。
また、借主が死亡して何か月間も家賃の支払いがないような場合は契約を解除できますが、この契約の解除通知は、相続人に対して出すことになります。

2.相続人が複数いたら?

相続人が複数いる場合、たとえば死亡した借主が高齢の女性で、借主の子供3人が相続人である場合(これを共同相続といいます。)、この3人全員が、共同して借家権を持つことになります(これを準共有といいます。)。
相続人1人であれば、問題は起きませんが、相続人が3人いると、大家さんの相手が複数になってしまいます。家賃や管理費の請求は、3人の相続人のどの人に対してしてもよく、しかも、3分の1ではなく全額を請求してかまいません。
これに対して、契約の解除通知は、相続人全員に対してしなければなりません。

3.大家さんはどう動けばいいか。

まず、借主の相続人を探します。
通常は、賃貸借契約の締結時に、緊急連絡先を聞いてあるでしょうから、そこに連絡して、相続人の有無や連絡先を聞くことになります。あるいは、借主が亡くなった場合には、親族が訪ねてくるでしょうから、その人に聞いてもいいでしょう。
孤独死や自殺の場合は、警察が親族を調べて連絡しますので、その親族から相続人について事情を聴くことになります。
これらの方法で借主の相続人を見つけることができないときは、残念ながら、弁護士等に依頼して探してもらうしかありません。
相続人が見つかったら、その相続人に賃貸借契約を解約するかどうかを確認し、解約するときは、中途解約の申入書類をもらってください。また、相続人に、できるだけ早期に部屋を明け渡してもらってください。

4.相続人がいない場合はちょっと大変

借主にもともと相続人がいないということがあります。また、法定相続人がいても、全員相続を放棄してしまうと、やはり相続人はいないことになります。
この場合、大家さんは、誰を相手に契約の解約や明け渡しの話をしたらいいかわかりません。もう大家さんでは手に負えませんので、弁護士等に相談した方がよいでしょう。
なお、戸籍上結婚しておらず、内縁の夫婦の場合、契約者である夫が亡くなると、借地借家法上、夫に相続人がいない場合にだけ、内縁の妻が借家権を引き継ぎます。しかし、夫に相続人がいると、その相続人が借家権を相続します。
この場合、内縁の妻は借家に住み続けたいのに、夫の相続人が契約を解除してしまうなどというトラブルが発生し、大家さんが巻き込まれてしまうおそれがありますので注意してください。

Q
借主が室内で自殺した場合、借主の相続人や連帯保証人に損害賠償を請求できますか。また、請求できる金額はどれくらいですか。
A
1.損害の賠償を連帯保証人や相続人に請求できる。

借主が部屋で自殺した場合、自殺者が出たなどということを聞けば、普通の人はその部屋を借りません。このため、実際には、当分の間その部屋を貸すことはできなくなってしまいます。
また、自殺の場合には、近隣に知れ渡ってしまうこともあります。こうなると、自殺者が出た部屋だけではなく、周りの部屋を借りる人も当分見つからないかもしれません。
従って、大家さんは、借主が部屋で自殺した場合、賃料収入が減少して、大損害を受けてしまうおそれがあります。
このような場合、借主との契約に連帯保証人がついていれば、この連帯保証人に損害賠償を請求できます。
また、連帯保証人の有無にかかわらず、自殺した借主の相続人に損害賠償を請求することができます。

2.請求できる金額は?

たとえば、家賃が1か月12万円の都心のワンルームマンションを借りていたAさんが自殺した場合を考えてみましょう。この契約には、通常損耗を借主に負担させる特約も敷引き特約もないものとします。
まず、賃料や賃料相当損害金の請求があります。
すなわち、Aさんが亡くなっても、それだけでは契約は終了しません。当然のことながら、Aさんの家財道具は部屋に残っていますので、明け渡しも完了していません。
従って、大家さんはAさんの相続人に対して契約解除の通知をしなければなりません。その上で、Aさんの相続人にAさんの家財道具を片づけてもらい、部屋を明け渡してもらいます。ここでやっと明け渡しが完了しますので、大家さんは、この時点までの家賃と賃料相当損害金を請求することができます。もし、明け渡しがAさんの自殺から3か月後であれば、この間の家賃36万円を請求できます。
ちなみに、Aさんが亡くなった場合、Aさんの家財道具を処分する権利は、相続人にしかありません。ですから、大家さんは、勝手にAさんの家財道具を部屋から撤去したりできませんので、注意してください。
次に、原状回復費用の請求です。
まず、Aさんが借りている部屋を使用中にAさんのミスで壊したり汚したりした部分の修理費用を請求できます。もちろん、自殺の際に壊れたり汚れたりした部分の修理費用やクリーニング費用も請求できます。
また、不幸にして遺体の発見が遅れた場合には、部屋全体のクリーニングや壁紙の貼り換えや備え付けの設備の取り換えも必要になり、これらも原状回復費用に含まれます。実際にあった事件の判決では、原状回復費用として約95万円が認められています。
最後に、借主が自殺したことによって、一定期間部屋を貸すことができなくなった損害も請求できます。実際にあった事件の判決では、この一定期間について、全く貸すことができない期間を1年間、家賃を半額にしなければ貸すことができない期間を2年間としました。
この考え方によると、Aさんのケースでは、次の計算のとおり288万円が一定期間部屋を貸すことができなくなった損害です。
120,000円×12か月+60,000×24か月=288万円
もっとも、この一定期間は、自殺の態様や自殺後の状況、自殺者の出た部屋の性格や立地などによっても変わってきますので、上記の計算は一つの例に過ぎません。

Q
貸している部屋で自殺者が出た場合、隣室の解約などによる損害の賠償も請求できますか。
A

自殺者が出たことによって、自殺があった部屋の隣りの部屋の借主が、契約を解約して出て行ってしまうことがあります。また、自殺者が出た部屋のあるマンションの他の部屋について、家賃を下げなければ新しい借主が見つからない場合もあります。これらの場合に、他の部屋の空室や賃料の値下げ分を損害として認められるでしょうか。
裁判例としては、自殺者が出た部屋の周りの部屋の減収分の損害賠償請求を認めなかったものがあります。
裁判所は、その理由の1つとして、不動産屋さんは、自殺者が出た部屋以外の部屋については、同じ建物の中に自殺者が出た部屋があることをお客さんに知らせる義務はないということを挙げています。
しかし、実務では、不動産屋さんは、同じ建物内に最近自殺者が出た部屋があれば、お客さんに知らせています。実際問題として、入居してから隣の部屋で半年前に自殺者が出たことを借主が知れば、当然大家さんや不動産仲介業者に対し、「なんで教えなかったのか。」とクレームがつき、トラブルになるでしょう。
ですから、他の部屋の減収分も、自殺の影響があることを積極的に証明すれば、短い期間の減収分かもしれませんが、損害賠償が認められる可能性はあると思います。

Q
借主が貸している部屋の中で孤独死し、長期間遺体が発見されませんでした。この場合、借主の連帯保証人や相続人にどのような請求ができるでしょうか。
A
1.賃料や原状回復費の請求。

この場合も、明渡しまでの賃料や賃料相当損害金、原状回復費用を、借主の連帯保証人や相続人に請求することができます。
もっとも、孤独死は病死や事故死ですので、自殺とは異なり、借主が自分の故意あるいは過失で死亡したわけではありません。
このため、遺体の発見が遅れ、貸していた部屋に臭いが残るなどしても、借主のミスで壊したり汚したりした部分ということはできません
従って、臭いを取るために壁紙の張替えなどをしても、その費用を借主の連帯保証人や相続人に請求はできません。

2.賃料の減収分の請求

孤独死の場合、遺体の発見が遅れ、貸していた部屋に臭いが残るなどの物理的な問題とその部屋から死者が出た上、長期間遺体が発見されなかったという事実に対する心理的な抵抗から、一定期間部屋の借り手がつかなくなったり家賃の減額が生じたりするという事態があり得ます。
しかし、上記のとおり孤独死は病死や事故死ですので、自殺とは異なり、借主が自分の故意あるいは過失で死亡したわけではありません。
このため、孤独死によって上記のような賃料の減収が生じても、借主の責任とは言えません。
従って、上記の減収分を、借主の連帯保証人や相続人に請求することはできません。

3.保険による対応

上記のように、孤独死の場合は、大家さんに損害が生じても、借主の連帯保証人や相続人に請求ができないことがあります。そこで、このような場合に備えた保険もありますので、高齢者を入居させる場合などには、こうした保険への加入も検討するといいでしょう。