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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

※実際のトラブル等では個別性(地域の慣習等を含む)があり総合的に判断しなければなりません。弁護士等に早めにご相談のうえ判断していただくようお願いいたします。 また、本コンテンツの内容は、平成27年1月31日現在の法律に基づき作成されております。
賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

修繕義務

Q
借主から、「お風呂の電球が切れたので、取り替えてほしい。」と言われましたが、取り替えるのが遅れてしまい、借主が自分で電球を買って取り替えました。この場合、電球の代金は誰が負担するのですか。もともと設置してあった電球が普通の電球であったのに、借主が高価なLED電球を設置した場合はどうでしょうか。
A
1.大家さんの修繕義務とは?

賃貸借契約は、物を貸して賃料をもらうことを約束する契約です。
物を貸すというのは、物をきちんと使える状態で提供することが前提ですから、貸主は、貸した物が壊れて使用に支障が生じた場合には、貸した物を修繕しなければなりません(民法606条1項)。これを、貸主の修繕義務といいます。
従って、建物の賃貸借契約においても、大家さんは、建物自体やその設備が壊れたり、汚れたりしたときは、修繕する義務を負います。

2.大家さんはどんな場合に修繕義務を負うか?

もっとも、大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりしたときに、常に修繕義務を負うわけではありません。大家さんが修繕義務を負うのは、次のような条件にあてはまる場合です。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があること
  4. 修繕が可能であること

3.設問の事案の場合

「お風呂の電球」は大家さんが提供すべき設備であり、また、「切れた。」というのは、いわゆる寿命が来ただけですから、借主が原因で壊れたわけではありません。
また、「お風呂の電球が切れた」場合は、夜間お風呂に入ることが困難となりますので、建物の使用に支障が生じているといえます。
そして、電球と取り換えることは容易ですから、修繕も可能です。
このように、この事案では、上記2の1.から4.までの条件にあてはまりますので、大家さんに修繕義務があります。
この事案では、借主が自分で電球を買って取り替えてしまいましたので、大家さんの修繕義務はなくなりましたが、借主は、大家さんに、借主が支払った費用(電球の代金)を請求できます。これを、必要費償還請求権といいます。

4.大家さんはどこまで修繕義務を負うか?

大家さんの修繕義務の範囲は、もともと設置してあった設備と同様の状態に戻すところまでであり、より品質のいいものや快適なものにする義務はありません。
従って、借主が普通の電球ではなく高価なLED電球を設置したとしても、その費用を負担する義務はないものと考えます。

Q
電球や網戸などの修繕義務を免れる方法はありますか。
A
1.修繕義務を免れる特約は有効か?

大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりした場合、次の条件にあてはまるときは、借主に対して修繕義務を負います。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があること
  4. 修繕が可能であること

しかし、大家さんは、賃貸借契約書に修繕費用は借主の負担とする旨の特約を記載することによって、修繕義務の一部を免れることができます。このような特約は有効です。

2.特約により修繕義務を免れることができる範囲は?

修繕費用を借主の負担とする旨の特約を契約書に記載する場合でも、全ての修繕費用を借主の負担とすることはできません。
借主に負担させることができるのは、あくまで日常的な使用によって発生する破損などであり、しかも少額なものに限られます。具体例としては、電球の取り替え、襖や障子の張り替え、畳替え、網戸の穴の補修などです。
これに対して、大きな破損の修繕は、特約によっても借主の負担とすることはできません。たとえば、壁紙の張り替え、雨漏りの修理、配管の取り替えなどです。
また、入口のドアの鍵の取替えなど小修繕にはいるのか大きな修繕にはいるのか微妙なものもあり、借主との間で修繕義務を巡ったトラブルとなるおそれもあります
従って、修繕費用を借主の負担とする旨の特約は、単に「小修繕は借主の負担とする。」と抽象的に書くのではなく、借主が修繕費を負担する設備を具体的に列挙した小修繕一覧表を契約書に添付し、借主が費用を負担する小修繕の内容を契約時に具体的に分かるようにしておくとよいでしょう。
ただし、この特約は、小修繕について、大家さんに修繕義務がなくなり、たとえ借主が修繕をしても、大家さんは費用を支払わなくてよいという意味しかありません。この特約によって、借主は、襖や障子の張り替えをしたり、畳替えをしたりする義務を負うわけではありません。
また、このような特約は、大家さんに有利な特約であり、借主に特別な負担をさせるものですから、契約前に借主にきちんと説明し、借主に十分理解してもらうことが必要です。

3.特約の具体的な記載方法は?

具体的には、次のように記載するといいでしょう。
「乙(賃借人)は、下記のような軽微な修繕について、甲(賃貸人)の承諾を得ることなく、乙(賃借人)の負担において行なうことができ、甲(賃貸人)は修繕義務を負いません。」

  1. 障子紙の貼り替え
  2. 襖紙の貼り替え
  3. 網戸の貼り替え
  4. 換気扇・エアコンのクリーニング
  5. 電球・蛍光灯の取り替え
  6. ヒューズの取り替え
  7. 給水栓の取り替え
  8. 排水栓の取り替え

東京都内にあるアパートやマンションの場合には、東京ルールを考慮して、次の一文をつけておくと安心です。
「これらの修繕は、本来甲(賃貸人)が負担すべきものですが、乙(賃借人)にご負担をお願いするために、特約として記載しています。」

Q
借主から、入居直後に「台所の給水栓が壊れているから直してほしい。」と言われました。入居前に確認した際には壊れていませんでしたので、借主が壊したのではないかと思いますが、直さなければなりませんか。
A
1.借主が壊した設備は、修繕しなくてもよい。

建物の賃貸借において、建物が壊れたり汚れたりした原因が借主にある場合は、大家さんは修繕義務を負いません。
もう少し正確に説明すると、借主の責めに帰すべき事由により建物やその設備が汚損した場合は、貸主に修繕義務はありません。
借主の責めに帰すべき事由とは、借主の故意または過失及びこれと同視すべき事由であり、同居している借主の家族の故意や過失も含まれます。
従って、借主や同居している借主の家族の故意または過失によって建物やその設備が汚損した場合は、貸主である大家さんには、修繕義務はありません。
従って、この事案でも、本当に借主が台所の給水栓を壊したのであれば、大家さんに修繕義務はないことになります。

2.借主の責めに帰すべき事由は大家さんが証明する。

借主との交渉中はもちろん、裁判においても、借主の責めに帰すべき事由の立証責任は、大家さん側にあります。
つまり、大家さんとしては、借主や借主の家族が、故意または過失で給水栓を壊したことを立証しなければならないのです。
しかし、このような立証は極めて困難と言ってよいでしょう。この事案では、「入居前に確認した際には壊れていませんでした。」とありますが、この事実自体、大家さんと借主が一緒に立ち会って確認しないかぎり、なかなか立証できません。大家さんが1人で貸室に入って点検したことを述べるだけでは、立証としては極めて不十分です。
また、仮に上記の点が立証できたとしても、その時点では壊れていなかったというだけであり、その後、老朽化が原因で壊れたかもしれません。
恐らく、借主の入居前に給水栓を交換しており新品である、大家さんと借主が入居前に一緒に立ち会って給水栓が壊れていないことを確認した、などの事情がない限り、借主や借主の家族が、故意または過失で給水栓を壊したことを立証することはできないでしょう。
従って、この事案では、大家さんは、原則として修繕義務を免れません。

Q
地震のために建物が歪み、室内の建具が完全には閉まらなくなりました。もともと古い建物のため、この歪みを直すには建替えるのと同じ費用がかかります。この場合、修繕義務がありますか。
A
1.大家さんが修繕義務を負う場合

大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりした場合、次の条件にあてはまるときは、借主に対して修繕義務を負います。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があること
  4. 修繕が可能であること

2.設問の事案では修繕義務はない。

老朽化した建物の場合、借主が入居した後に、地震によって建物全体が歪んでしまい、きちんと閉まらない襖があるなどという事態が生まれることがあります。
また、台風で屋根が飛んだり、壁の一部が壊れたりするというケースもあります。余談ですが、私が学生の頃、友人の住んでいたアパートの屋根が台風の強風のために飛んでしまい、台風が通り過ぎた後、部屋から星空が見えるようになったということがありました。
このような場合は、1.大家さんが提供すべき設備が、2.地震によって壊れ、3.借主の建物の使用に支障が生じており、4.修繕が可能である、と言えますから、原則として大家さんに修繕義務があります。
もっとも、上記4.の「修繕が可能である」かどうかは、単に物理的な可能性だけでなく、経済的な可能性も加味してよいものとされています。分かりやすく言えば、物理的には可能でも、あまりにも多額の費用がかかる場合には、経済的には「修繕が可能である」とは言えないということです。
すなわち、老朽化した建物の場合、地震で発生した歪みを修繕すると言っても簡単ではなく、ほとんど建て替えるのに等しい多額の費用がかかることがあります。それにもかかわらず、大家さんに修繕しろというのは、大家さんに酷です。このため、裁判所は、老朽化した建物の修繕に関して、建て替えるのに等しい多額の費用が掛かる場合は、たとえ物理的に修繕が可能でも、経済的には修繕不可能な状態になっているとして、大家さんの修繕義務を否定しているのです。 したがって、上記の事案のように「建物の歪みを直すには建替えるのと同じ費用がかかる。」という場合には、大家さんの修繕義務は否定されます。

3.更新拒絶又は解約申入れも可能

古い建物が地震などにより破損し、修繕に多額の費用がかかる場合には、修繕義務が否定されるだけでなく、少額の立退き料を提供するだけで、大家さんの更新拒絶や解約申入れに正当事由が認められることがあります。

Q
借主から、「入居してから長期間経過して壁紙が古くなって汚いので張り替えてほしい。」と言われました。張り替えなければなりませんか。
A
1.大家さんが修繕義務を負う場合

大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりした場合、次の条件にあてはまるときは、借主に対して修繕義務を負います。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があること
  4. 修繕が可能であること

2.設問の事案では、張替え義務はない。

壁紙は、大家さんが貸している部屋の壁と一体となっているものですから、1.大家さんが契約上提供すべき設備にあたります。
また、「入居してから長期間経過して壁紙が古くなった」のですから、2.壊れたり汚れたりした原因が借主にないことも明らかです。
しかし、単に「古くなって汚い」と言うだけですから、3.壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障がある場合には当たりません。壁紙が古くなって剥げ落ち始めたという場合であれば、建物の利用に支障があると言えますが、程度にもよりますが、単に汚いというだけでは、建物の利用に支障があるとは言えないでしょう。 従って、大家さんは、壁紙を張り替える義務はありません。

Q
借主から、「故障はしていないが、家賃が同じ隣の部屋のエアコンが新品なので、自分の部屋のエアコンも新品に取り換えてほしい。」と言われました。取り替えなければなりませんか。
A
1.大家さんが修繕義務を負う場合

大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりした場合、次の条件にあてはまるときは、借主に対して修繕義務を負います。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があること
  4. 修繕が可能であること
2.設問の事案の場合はケースバイケース

まず、エアコンの設置を大家さんが契約上提供すべき設備かどうかについて、契約書などで確認する必要があります。
契約書に書かれていなくても、大家さんが口頭で約束していれば、大家さんにエアコンの設置義務があります。この場合、エアコンは、大家さんが契約上提供すべき設備です。
しかし、そもそもこのエアコンは故障していないので、修繕義務の対象とはなりません。たとえ賃料が同じ隣の部屋のエアコンが新品でも、結論は同じです。
ただし、契約書に、新品のエアコンを設置することが記載してあるとか、大家さんが借主に約束したという場合は、新品のエアコンに取り替えなければなりません。

Q
借主から、「入居後に気付いたが、フローリングに細かい傷があるので直してほしい。」と言われました。直さなければなりませんか。
A
1.大家さんが修繕義務を負う場合

大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりした場合、次の条件にあてはまるときは、借主に対して修繕義務を負います。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があるこ
  4. 修繕が可能であること
2.設問の事案では、修繕義務はない。

フローリングは、貸している部屋の一部ですから、1.大家さんが契約上提供すべき設備です。
また、フローリングの傷の場合、入居時の立ち合いでは見過ごしてしまうこともありますので、大家さんとしては、借主が入居後につけた傷という明確な根拠はありません。2.壊れたり汚したりした原因が借主にないことという基準もクリアします。
しかし、フローリングに傷があっても、大きな傷でなければ借主の生活に支障をきたすことはありません。
従って、3.壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障がある場合には当たりません。
従って、大家さんに修繕義務はありません。

Q
借主から「最近の賃貸では、温水洗浄便座が当たり前になってきたので、温水洗浄便座を設置してほしい。」と言われました。設置しなければなりませんか。
A
1.大家さんが修繕義務を負う場合

大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりした場合、次の条件にあてはまるときは、借主に対して修繕義務を負います。

  1. 大家さんが契約上提供すべき設備であること
  2. 壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
  3. 壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があるこ
  4. 修繕が可能であること
2.設問の事案では、設置義務はない。

「最近の賃貸では、温水洗浄便座が当たり前になってきたので」という理由からすると、契約書には、温水洗浄便座を設置するという約束はなく、実際にも当初から設置されていなかったということです。
そうだとすると、そもそも温水洗浄便座の設置は大家さんの義務ではないので、1.大家さんが契約上提供すべき設備とまではいえません。
従って、大家さんはこの要求を拒否してかまいません。この要求は、修繕義務とは無関係と言うことです。

3.造作買取請求権

では、もし、借主が、勝手にトイレの便器に温水洗浄便座を設置しようとしたら、大家さんはどうすべきでしょうか。
大家さんとしては、借主が勝手に温水洗浄便座を設置しようとしていることや、あるいは設置したことを知ったときは、直ちに、温水洗浄便座の設置を承諾していないという内容の文書を、借主に送って下さい。
そうしておかないと、この借主が退去するときに、この温水洗浄便座の買取りを請求される恐れがあります。借主のこのような権利を、「造作買取請求権」といいます(【Q 退去時に、借主から、「入居中に温水洗浄便座を取り付けたので、その費用を負担してほしい。」と言われました。負担しなければならないでしょうか。】参照)