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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

※実際のトラブル等では個別性(地域の慣習等を含む)があり総合的に判断しなければなりません。弁護士等に早めにご相談のうえ判断していただくようお願いいたします。 また、本コンテンツの内容は、平成27年1月31日現在の法律に基づき作成されております。
賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

禁止行為

Q
賃貸借契約書の目的には住居専用と記載されているのですが、借主が貸室内でインターネット通販の会社を始め、入口の表札や郵便受けに会社名を表示しています。契約違反を理由に契約を解除できますか。
A
1.契約書上は解除できるはず!?

賃貸借契約書の目的には住居専用と記載されているにもかかわらず、借主が貸室内でインターネット通販の会社を始め、入口の表札や郵便受けに会社名を表示した場合には、借主は、形式的には賃貸借契約上の義務に違反していることになります。
そして、一般的に賃貸借契約書では、契約上の義務に違反した場合には契約を解除することができる旨定められていますので、上記の事案では、契約を解除することができるようにも考えられます。

2.建物の賃貸借契約の解除には、信頼関係の破壊が必要

しかし、建物の賃貸借契約は、契約上の義務違反があったからと言って直ちに解除できるわけではありません。
裁判所は、建物賃貸借契約の借主が契約上の義務や法律上の義務に違反した場合の契約の解除について、その義務違反が賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除を認めないという考え方(いわゆる信頼関係理論)をとっています。
これは、建物賃貸借契約が貸主と借主の継続的な関係であることから、例え義務違反があっても、その内容や程度によって、貸主と借主との間の信頼関係が破壊されたという状態にまでならなければ解除を認めないという考えです。
そこで、上記の事案を見た場合、貸室内で行われるいわゆるインターネット通販では、現実の店舗のように不特定多数の人が貸室を訪問したり、商品が頻繁に出入りしたりするというようなことがなく、住居としての従前の使用状況がほとんどかわらないという場合も考えられます。このような場合には、たとえ貸室を住居以外の目的に使っていても、「賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある」と言えるでしょうから、未だ契約の解除は認められないでしょう。
逆に、インターネット通販とはいっても、現実の店舗のように不特定多数の人が貸室を訪問したり、商品が頻繁に出入りしたりするというような状況になり、大家さんが止めるように警告してもこれに従わないときは、賃貸人に対する信頼関係を破壊したものとして、解除が認められるでしょう。

Q
借主が大家さんに無断で自分の交際相手を貸室に同居させた場合、どのように対応すればよいですか。
A
1.契約上の義務に違反しているか?

賃貸借契約書上、1人暮らしに限ると記載されている場合や、ワンルームマンションのように、貸室の面積や構造上、当然1人暮らしが前提となっている場合には、契約内容として1人暮らし専用ということになります。従って、これらの場合に、借主が大家さんに無断で自分の交際相手を貸室に同居させた場合には、契約上の義務に違反したことになります。
しかし、賃貸借契約書上、1人暮らしと明記されておらず、しかも、建物の面積や構造上、特に1人暮らしを前提としていない場合には、たとえ1人の借主と契約している場合でも、1人暮らし専用の契約と解釈することはできません。従って、借主が大家さんに無断で自分の交際相手を貸室に同居させたとしても、契約上の義務違反となることはありません。

2.契約を解除できるか?

借主が大家さんに無断で自分の交際相手を貸室に同居させたことが契約上の義務違反となる場合には、これを理由として契約を解除することが一応可能です。
しかし、ここでも、契約上の義務違反に賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、契約の解除は認められません。
具体的には、賃貸借契約書上1人暮らし専用と明記してあっても、特に1人暮らし専用としなければならないような合理的理由がない場合やワンルームマンションであっても、比較的広いワンルームマンションであり、2人で暮らしても特に支障がない場合には、借主が大家さんに無断で自分の交際相手を貸室に同居させたとしても、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情があると言えるでしょう。
従って、このような場合には、簡単には契約の解除は認められないでしょう。

3.同居者の身元確認が大切

契約の解除が認められないとしても、大家さんとしては、賃貸借契約の管理上、同居者の名前や年齢、借主との関係などを把握しておく必要があります。また、通常は賃貸借契約上、同居者の申告は借主の義務とされています。
そこで、大家さんは、借主に対して、これらの情報の提供を求めるべきです。借主がこれらの情報の開示を拒否した場合には、大家さんに対する信頼関係の破壊を判断する上で重要な要素となり、場合によっては契約の解除が認められることもあります。

Q
借主が、壁紙の色が気に入らないという理由で、大家さんに無断で壁紙の張替工事をしようとしている場合、どのように対応すればよいですか。
A
1.勝手に壁紙の張替えをしてもいいのか?

民法上、物の借主は、借りている物を善良なる管理者の注意義務をもって保管しなければなりません(民法400条)。これを、借主の善管義務(善管注意義務)といいます。このため、建物の借主も、大家さんの承諾なく勝手に借りている部屋に手を加えて、形状を変更できません。
また、通常は賃貸借契約書においても、借りている部屋の中を工事する場合には、事前に工事内容を開示して大家さんの承諾を取らなければならないことが定められているはずです。
従って、借主が大家さんに無断で壁紙を張り替える工事は、上記の民法の規定や賃貸借契約書の定めに違反していますので、大家さんとしては、直ちに壁紙の張替え工事を止めるように、内容証明郵便等によって警告するべきです。
この大家さんの警告を無視して、借主が壁紙の張り替え工事を強行した場合には、大家さんとしては、このような借主との契約は解除したいところです。
しかし、壁紙を張り替えたというだけでは、大家さんとの信頼関係を破壊した(【Q 賃貸借契約書の目的には住居専用と記載されているのですが、借主が貸室内でインターネット通販の会社を始め、入口の表札や郵便受けに会社名を表示しています。契約違反を理由に契約を解除できますか。】参照)とまでいえるかどうか微妙なところであり、解除が認められない場合もありますので注意してください。

2.工事が完了してしまった後でも、契約違反の通告をする。

壁紙の張り替え工事が完了してしまった場合には、もはや工事自体を阻止することはできません。
しかも借主が、貸室の価値を高めるような工事等をした場合には、契約が終了して借主が退去するときに、借主から有益費償還請求権を行使される恐れがあります。
この事例でも、壁紙を張り替えれば壁紙が新しくなり、貸室の価値が上がりますので、その費用は有益費償還請求の対象となります。
しかし、無断工事の場合は有益費償還請求権を認めないという裁判例もありますので、大家さんとしては、借主の工事に同意していないことを明確にしておくために、たとえ工事完了後であっても、内容証明郵便等によって、借主の工事が契約違反であることを通告しておくべきです。

Q
借主が貸室で猫を飼っています。この場合、契約を解除できますか。
A
1.動物の飼育を禁止する条項がない場合は?

賃貸借契約書にペットの飼育を禁止する条項がない場合は、ペットの飼育は、原則として貸室の通常の利用方法の範囲内の行為として許されます。
しかし、借主のペットの飼育の仕方や態様に問題があり、そのために大家さんとの間の信頼関係を破壊するに至ったときは、契約を解除することが可能です。
例えば、飼育している猫を適切に管理しておらず、爪とぎで貸室内の設備を何か所も破損させたり、あちこちに尿の臭いをつけたりしているような場合には、貸室の通常の利用方法の範囲内の行為とは言えませんので、大家さんとの間の信頼関係を破壊するものとして、契約の解除が認められる可能性があります。

2.動物の飼育を禁止する条項がある場合は?

動物の飼育を禁止する条項がある場合には、動物を飼うこと自体が契約上の義務違反です。従って、これを理由として契約を解除することが可能です。
もちろん、ここでも、契約違反に賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、契約の解除は認められません。
しかし、通常、猫を飼育した場合、臭いなどが貸室内に残ることはなかなか防ぐことができません。猫を飼育している人にとって気にならない程度の臭いでも、動物を飼育しない人にとっては、気になるものです。従って、猫を飼育したことのある貸室は、そのままでは動物の飼育をしない人に貸すことができなくなります。また、複数の貸室のある建物の大家さんとしては、ある部屋で猫の飼育を認めてしまえば、他の部屋での動物の飼育を禁止できなくなってしまいます。
こうした点から見て、動物の飼育を禁止する条項がある場合に、大家さんに無断で猫を飼育したときには、信頼関係を破壊しない特別の事情を見出すのは、かなり難しいかもしれません。
臭いも鳴き声もなく、他の居住者に見つかることもない小動物、たとえば小鳥やハムスター程度であれば、信頼関係を破壊しない特別な事情があると言えるかもしれません。

Q
空室対策として犬や猫を飼うことを認めようと思います。どのような点に注意したらよいですか。
A
1.ペットの飼育の許可は空室対策として有効

最近では、大家さんも昔ほど簡単に貸室を満室にすることができず、賃料の値下げ、設備の充実、高級感のあるデザインなど、さまざまな空室対策をされています。
このような空室対策の1つとして、ペットの飼育を認めることがあります。ある大家さんにお聞きした話ですが、貸室でペットを飼いたいという入居希望者はかなり多く、ペット可の貸室は、すぐに借主がみつかるそうです。

2.ペットの飼育を許可する場合は賃貸借契約書に工夫が必要

しかし、ペットの飼育は、爪とぎなどによる貸室の設備の破損、ペットの臭いの室内への付着、鳴き声による他の居住者からの苦情といった問題を引き起こします。
従って、ペットの飼育を認める場合は、契約条項にある程度の工夫をして、上記のような問題を最小限に抑える必要があります。
第1に、たとえば抽象的に「犬の飼育を許可する」というだけでは、どのような犬でも、また1匹に限らず2匹以上飼育できるととられてしまうおそれがあります。そこで、動物の種類(単に犬や猫というだけでなく、その中の種類も含む。)、頭数、飼育方法をきちんと定めることが必要です。たとえば、「小型犬1頭、借主の不在時はゲージに入れ、貸室外に放さない。借主の用意した設備外での糞尿を禁止する。」などです。こうした飼育方法を守っているかどうかを確認するために、契約更新時に、大家さんが貸室内を点検できることも定めておくべきです。
第2に、敷金を多めにとることも必要です。ペットを飼育した場合、どうしても貸室内に臭いが残りますので、これを除去するには、壁紙の張り替えと、かなりのクリーニングが必要になります。この費用を借主に負担してもらうために、敷金を多めに取っておくことが必要です。
第3に、第2と関連しますが、退去時の原状回復義務として、壁紙の張替えとクリーニングの費用は、無条件に借主が負担する旨の特約を定めておくべきです。
例えばペットの臭いが残っているかどうかなどは、ある程度主観的な判断となりますので、退去時に大家さんと借主の意見が食い違い、借主が壁紙の張替え費用を負担しないなどと主張することがあります。そこで、こうしたトラブルを防ぐために、最初から壁紙の張替え費用は借主が負担することを定めておくことをお勧めします。