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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

契約の締結から入居まで

Q
令和2年4月1日に改正民法が施行されたそうですが、次の場合、改正民法が適用されますか。

(1)令和2年3月10日に普通建物賃貸借契約を締結し、令和2年4月5日に建物に入居した場合

(2)令和元年3月25日に普通建物賃貸借契約を締結し、令和5年3月25日に更新契約を締結した場合

(3)令和元年5月10日に契約期間2年の定期建物賃貸借契約を締結し、令和4年5月11日に再契約をした場合

A
回答は次のとおりです。

(1)改正民法は適用されません。
(2)改正民法は適用されません。
(3)改正民法が適用されます。

改正民法附則第34条1項では、改正民法の施行日前に締結された契約については、「なお従前の例による。」と規定されています。
従って、改正民法の施行日(令和2年4月1日)より前に締結された契約については、改正前の民法が適用され、改正民法は適用されません。

(1)入居日は改正民法の施行日より後ですが、契約締結日が改正民法の施行日より前ですので、この普通建物賃貸借契約に改正民法は適用されません。

(2)更新契約は、従前の契約が同一性をもって継続するものですので、更新時に新たな契約が締結されるわけではありません。従って、改正民法が適用されるかどうかは、従前の契約の締結日が改正民法の施行日より前なのか後なのかによって決まります。
設例では、従前の契約は、改正民法の施行日より前の令和元年3月25日に締結されていますので、改正民法は適用されず、改正前の民法が適用されます。

(3)定期建物賃貸借契約は、契約期間が満了すると必ず終了する契約ですので、再契約は、従前の契約の継続ではなく、新たな契約となります。従って、改正民法が適用されるかどうかは、再契約の契約締結日が改正民法の施行日より前なのか後なのかによって決まります。
設例では、再契約は、改正民法の施行日より後の令和4年5月11日に締結されていますので、改正民法が適用されます。

Q
アパートやマンションなどの建物の賃貸借契約には、どのような種類がありますか。
A
1.普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約

物を貸して賃料をもらうことを約束する契約を賃貸借契約といい、賃貸借契約については民法に規定があります。
しかし、建物の賃貸借については、借家人保護の見地から借地借家法という特別の法律があります。このため、建物の賃貸借については、まず、借地借家法が優先的に適用され、借地借家法に特に規定のない部分について、民法が適用されます。
この借地借家法では、建物の賃貸借について、主に普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の2種類の契約を定めています。
この2つのうち、普通建物賃貸借契約が圧倒的に多く、定期建物賃貸借契約は、少ないのが実情です。
なお、これら以外にも、取壊し予定の建物の賃貸借契約(借地借家法)と終身建物賃貸借契約(高齢者の居住の安定の確保に関する法律)がありますが、少し特殊な契約ですので、ここでは説明を割愛します。

2.普通建物賃貸借契約の特徴は?

普通建物賃貸借では、借主保護のために、契約の存続が強く保障されているところに特徴があります。
すなわち、普通建物賃貸借契約では、契約期間を決めるのが一般的ですが、このように契約期間が決まっている場合、大家さんが契約期間満了時に契約を更新したくないときは、予め借主に対して、更新拒絶の通知をしなければなりません。この更新拒絶の通知をしないまま契約期間が満了すると、契約は法律によって当然に更新されてしまいます。これを法定更新といいます。
また、大家さんが更新拒絶の通知をしたにもかかわらず、借主が契約期間終了時に建物に居座っているときは、大家さんは、借主に対して、速やかに異議を述べなければなりません。しかも、この大家さんの異議には、正当事由がなければなりません。正当事由とは、大家さんが自ら賃貸建物を使用しなければならない事情ですから、正当事由が認められることはほとんどありません。
大家さんが異議を述べなかったとき及び大家さんが異議を述べたけれども正当事由がなかったときは、賃貸借契約は法律によって当然に更新されてしまいます。これも法定更新です。
さらに、大家さんと借主が上記の借地借家法の規定に反する借主に不利な契約を結んでも、その契約は無効となります。

3.定期建物賃貸借契約の特徴は?

定期建物賃貸借は、契約期間が満了すると、契約の更新はなく、確定的に契約が終了するところに特徴があります。
普通建物賃貸借契約の場合、上記1で説明しましたように契約期間が満了しても、ほとんどの場合法定更新となってしまうため、賃貸借契約が極めて長期間存続し、賃貸人にとって大きな負担となっていました。
そこで、借地借家法では、書面による契約や賃借人への説明・書面交付などの手続きを踏むことを条件として、契約期間の満了により確定的に終了する定期建物賃貸借契約を認めました(詳しくは、【Q 定期建物賃貸借契約とは何ですか。どんなメリットがありますか。】参照)。

Q
建物賃貸借契約を締結する場合、契約書は必要でしょうか。また、賃貸借契約書は、どこから入手すればいいですか。
A
1.契約書は必ず作る。

建物賃貸借契約は、当事者が合意すれば成立しますので、契約書という書類は必ずしも必要ありません。
しかし、口頭での合意は、その内容が記録に残らないので、後で「言った。言わない。」というトラブルの原因となります。
特に、建物の賃貸借契約では、いろいろと細かいことを決めなければならないので、たとえ大家さんと借主とがよく話し合って納得の上合意しても、その内容を正確に覚えておくことは困難です。結局、後で合意内容について双方の意見が食い違い、トラブルとなります。
従って、建物賃貸借契約では、必ず契約書を作成するべきです。

2.賃貸借契約書の入手方法。

一般的に大家さんは、次のような方法で賃貸借契約書を入手しています。
まず、最も多いのが、借主の募集をお願いしている不動産屋さんが用意した賃貸借契約書をそのまま使用するというパターンです。
不動産屋さんが用意する契約書は、不動産屋さんごとに内容はまったくバラバラで、大家さんのために契約書の内容をよく検討して、オリジナルな契約書を作っている不動産屋さんもあれば、市販の賃貸借契約書をそのまま使っている不動産屋さんもあります。
また、契約書に大家さんに有利な条項を沢山入れると、借主に説明したり交渉したりしなければならない事項が多くなります。このため、不動産屋さんは、どうしても大家さんに有利な条項を入れたがらない傾向にありますので、注意が必要です。
次に多いのが、市販の契約書を使っている場合です。インターネットからダウンロードして使っている場合もあります。市販の契約書の場合、当たり障りのない内容であることが多く、大家さんが有利となるような工夫はあまりありません。
さらに、あまり多くはありませんが、弁護士や司法書士に依頼してオリジナルの契約書を作っている大家さんもいます。
最後に、国土交通省がインターネット上にアップしている標準契約書があります。この標準契約書は、国土交通省が作っているものですから、内容はしっかりしていますが、どちらかというと借主寄りになっています。また、ちょっと分厚いのも難点です。
(普通建物賃貸借契約について)→国土交通省のページにリンクします。
(定期建物賃貸借契約について)→国土交通省のページにリンクします。

Q
借主を決める際には、どのような点に気を付けるべきでしょうか。
A
1.借主の決定にはできるだけ関与する。

一般的に大家さんは、借主の募集を不動産屋さんに依頼しますが、不動産屋さんは、契約が成立しないと仲介手数料をもらえませんので、どうしても審査が甘くなりがちです。
しかし、建物賃貸借契約はあくまで大家さんと借主との契約ですので、賃料の不払いその他のトラブルで損害を被るのは大家さんです。
従って、借主を決める際には、不動産屋さんに丸投げせず、大家さん自身も借主の決定に参加しましょう。

2.まず本人確認が大切。

借主を決める際に最も重要な点は、本人確認と賃料の支払能力です。
まず、本人確認ですが、写真のある身分証明書(免許証やパスポート)と住民票によって、入居希望者が本当にその人本人であるかどうかをしっかり確認しましょう。
大家さんが直接入居希望者に会わないときは、不動産屋さんにこの点を確認してもらいましょう。
自分の信用では部屋を借りられないので、他人になりすまして契約するケースもありますので、注意してください。しっかりとした大家さんや不動産屋さんは、必ず契約書に借主の免許証やパスポートと住民票のコピーを添付して保存しています。  

3.賃料の支払能力は客観的な資料で確認。

次に、賃料の支払能力ですが、入居希望者の勤務先の確認や給与額の確認をしてください。賃料の額に見合った収入のある仕事をしていないと、賃料の不払いなどの原因となり、大家さんが大変な損害を被ることになります。
支払能力の確認方法は、収入を証明する書類を提出してもらうことです。一般的には、給与明細あるいは源泉徴収票を見せてもらい、コピーを取ってください。  

4.ちょっとした工夫が問題借主の発見につながる。

新たに賃貸借契約を締結するということは、何かの理由があって前の家から転居するということです。その理由が大学への入学、転勤、結婚などの普通の事情ならよいのですが、賃料の不払いや近隣とのトラブルなどであれば、また同じ問題を起こしかねません。
こうした問題借主を見つけるためにも、住民票のコピーをもらい、転出転入を繰り返していないかなどを確認するべきです。また、さりげなく引越してくる理由を聞くことも大切です。  

Q
不動産屋さんと賃貸物件の管理契約を締結する場合、どのような点に注意が必要ですか。
A
1.どこまで頼むか、あるいは頼んでいるか確認する。

不動産屋さんというのは、宅地建物取引業者のことであり、国土交通大臣または都道府県知事から免許を得て仕事をしています。
ほとんどの場合、大家さんは、入居者の募集と契約締結について不動産屋さんに依頼しています。法律用語で言いますと、賃貸物件の契約の媒介と契約締結の代理になります。
もっとも、媒介と代理の両方を依頼しなければならないわけではなく、媒介だけを依頼して、契約の締結は大家さん自身が行うというパターンもあります。不動産屋さんが、入居者を募集して、契約内容についての説明や交渉をし、契約締結のお膳立てをしたうえで、大家さんと入居者の両方から、契約書に署名・捺印をしてもらうというパターンです。
さらに、不動産屋さんが賃料の回収、物件の管理、契約の更新などを行う場合もあります。
このように、建物の賃貸借においては、不動産屋さんの業務は多岐にわたり、不動産屋さんと締結する賃貸借管理契約は、いろいろなパターンがあります。
そこで、大家さんは、借主の募集、契約の締結及び契約の管理、賃料の回収、物件の管理、契約の更新などのうちどこまでを不動産屋さんに頼みたいのか、という点をきちんと決めておく必要があります。
また、既に不動産屋さんと契約している場合は、どこまでが契約内容となっているか確認してください。
不動産屋さんが何もしてくれないと訴えてくる大家さんに、不動産屋さんとの契約書を見せてもらうと、そもそも契約の管理を依頼していなかったというケースがよくあります。

2.賃貸借契約書の内容を確認する。

【Q 建物賃貸借契約を締結する場合、契約書は必要でしょうか。また、賃貸借契約書は、どこから入手すればいいですか。】で説明しましたように、かなりの大家さんが、借主の募集をお願いしている不動産屋さんが用意した賃貸借契約書をそのまま使用しています。
しかし、不動産屋さんが用意した賃貸借契約書は、必ずしも大家さんに有利ではないことがあります。
契約書に大家さんに有利な条項を沢山入れると、借主に説明したり交渉したりしなければならない事項が多くなります。このため、不動産屋さんは、どうしても大家さんに有利な条項を入れたがらない傾向にあります。
ですから、賃貸借契約書は、不動産屋さんに丸投げしないで、少なくとも、その内容を確認してください。
借主とトラブルになって賃貸借契約書を確認したら、賃貸借契約書に大家さんにとって重要な事項がほとんど書いてなかったというケースがありますので、注意してください。  

3.大家さんのために、まめに動いてくれる業者を見つける。

建物の賃貸借契約では、家賃の滞納、設備の故障、近隣とのもめごとなど、さまざまなトラブルが発生します。これを大家さんがいちいち対応していたのでは、たまりません。
そこで、こうしたトラブル対応をきちんとやってくれる不動産屋さんを見つけることが大切です。  

Q
最近よく建物賃貸借契約の保証会社ということを耳にしますが、保証会社とは何をしてくれる会社ですか。
A
1.保証会社とは?

借主にとって、大家さんが納得する連帯保証人を確保できなければ、契約を締結できません。逆に、大家さんも、入居はしてもらいたいが、連帯保証人がきちんとした人でないと、契約に踏み切れません。
このような借主と大家さんのニーズにこたえるために生まれたビジネスが、保証会社が行う家賃等の保証ビジネスです。今では、大多数の建物賃貸借契約で、保証会社が行う家賃等の保証が行われているといっても過言ではありません。
保証会社が行う家賃等の保証ビジネスでは、保証会社は、借主の依頼を受けて、大家さんと保証契約を締結します。
この保証契約で、保証会社は、大家さんに対し、借主が契約上支払うべき賃料等の債務を支払わない場合に、借主に代わって大家さんに支払うことを約束します。その代り、保証会社は、保証を依頼した借主から保証料を受け取ります。

2.保証会社は、大家さんの権利を代わりに行使する。

このように、保証会社は、大家さんに対し、借主が契約上支払うべき賃料等を支払わない場合に、借主に代わって大家さんに支払うことを約束します。しかも、料金を払うのは、借主です。大家さんからすれば、大家さんが抱えるリスクを、タダで保証会社が肩代わりしてくれるのです。
もっとも、保証会社は、大家さんのリスクを肩代わりすることから、保証契約上、大家さんの持っているいろいろな権利を、大家さんに代わって行使できるようにしています。もちろん、実際に作業や手続を行うのは、保証会社です。
具体的には、滞納家賃の督促、契約の解除、明渡し訴訟、明渡しの強制執行などについては、大家さんに選択の自由はなく、大家さんは、保証会社の判断に従わなくてはなりません。

3.契約内容の確認を!

保証会社の保証の内容は、会社によってさまざまですので、保証契約を締結しておけば、何でも保証されると思い込まずに、保証会社がどこまで保証してくれるのか、逆に言えば、保証してくれないのはどんなお金かをよく確認してください。
通常は、滞納家賃、管理費、共益費、駐車場代、賃料相当損害金、原状回復費用、借主の所有物の撤去費用、明渡し訴訟の費用、強制執行の費用などを保証してくれます。
これに対して、借主の自殺による損害、失火による損害、孤独死による損害、退去後のクリーニング費用などを保証しない保証会社が多いようです。
また、保証金額の限度も保証会社によって異なりますので注意してください。

4.手荒なことをする保証会社もある。

保証会社としては、家賃の滞納があった場合、借主に代わって大家さんに家賃を支払わなければならないので、滞納が続けば続くほど、損失が増えていきます。
このため、保証会社は、かなり厳しく滞納家賃の督促を行い、さらに、家賃を払わない借主を、貸している部屋から実力で排除するという手荒なことをする会社もあります。
しかし、行き過ぎた督促や借主の実力での排除は、違法行為であり、損害賠償責任を負うことがあります。もちろん、損害賠償責任を負うのは、第1次的には保証会社ですが、大家さんがこうした行為を黙認したり同意したりすれば、保証会社とともに責任を問われることがあります。
従って、保証会社を選ぶ場合は、このような手荒なことをする会社ではないかなどの評判を、よく調べた方がいいでしょう。  

Q
建物賃貸借契約では、連帯保証人をつけるのが一般的だと聞きましたが、連帯保証人とは何ですか。また、連帯保証人と契約する際に注意すべき点は何ですか。
A
1.建物賃貸借契約の連帯保証人とは?

建物賃貸借契約の連帯保証人は、借主が契約に基づいて大家さんに対して負う責任を、借主に代わって負います。ただの保証人ではなく、「連帯」保証人ですから、借主と連帯責任を負います。これは、貸主と連帯保証人は、原則として同じ責任を負うということです。
従って、滞納している賃料だけでなく、退去期限に退去しなかった場合の賃料相当損害金、退去後の原状回復費用や残置物撤去費用など、およそ借主に請求できるものは、連帯保証人にも請求することができます。
このため、財産や収入のある人に連帯保証人になってもらえば、借主の家賃滞納などがあっても、連帯保証人から支払いを受けることができます。実際に私も、多くの事案で、連帯保証人から滞納家賃を回収しています。

2.連帯保証人の人選

連帯保証人と契約する際に注意すべき点は、まず人選です。
一定の財産や収入があることはもちろん、借主の親族や上司など、借主とある程度関係が深いことが大切です。借主が賃料の不払いなどの問題を起こしたときに、連帯保証人に連絡し、連帯保証人から借主に注意をしてもらうことが可能だからです。

3.連帯保証人との契約時の注意事項

連帯保証人との連帯保証契約は、大家さんと連帯保証人との契約ですが、通常は賃貸借契約書の連帯保証人の欄に、連帯保証人に署名・捺印をしてもらう方法で契約します。
この連帯保証人の署名・捺印について、契約書を借主に渡して持ち帰ってもらい、後日、連帯保証人の署名・捺印のある契約書を持ってきてもらうという方法をとることがあります。しかし、この方法は、本当に連帯保証人自身が署名・捺印したか分からないので、とても危険です。借主が勝手に連帯保証人になるはずだった人の署名を書き込んで、判子を買ってきて押してしまうというケースもよくあります。このような場合は、たとえ賃貸借契約書に連帯保証人の署名・捺印があっても、何の効力もありません。
従って、連帯保証人の署名・捺印は、原則として大家さんの面前でしてもらってください。連帯保証人が遠くに住んでいるなどの事情で来てもらえないときは、印鑑登録をしている判子を押してもらい、必ず印鑑登録証明書の原本をもらって下さい。最も確実なのは、連帯保証人の自宅に電話をし、本当に署名したかを確認することです。  

Q
契約の更新時に借主とは更新契約書を交わしたのですが連帯保証人の署名・捺印をもらいませんでした。更新契約時に署名・捺印をしていない連帯保証人も、更新後の滞納家賃について責任を負いますか。
A
1.更新契約後も連帯保証人の責任は続くか。

普通建物賃貸借契約では、契約期間の終了時も借主が住み続けたい場合には、大家さんに「正当事由」がない限り、大家さんは更新を拒絶できません。この場合、賃貸借契約は、借地借家法の規定によって「法定更新」となり、家賃などの契約内容はそのままで、契約期間の定めだけがないことになります。この「法定更新」の場合、大家さんと借主は、更新契約書を作っていませんので、連帯保証人にも、改めて署名・捺印をもらうことができません。
また、大家さんと借主が更新の合意をし、更新契約書を作った場合でも、改めて連帯保証人に署名・捺印をもらわなかったという場合もあります。
このような場合、連帯保証人の責任はどうなるのでしょうか。
最高裁判所の判例によれば、更新後の契約について改めて連帯保証人の署名・捺印が無くても、連帯保証人の責任は、更新後の契約についてもそのまま存続します。従って、大家さんは、契約更新後も、家賃の滞納などについて連帯保証人に支払いを求めることができます。

2.更新後に連帯保証人が責任を負わないのは、どんな場合か。

ただし、最初の契約書に、更新後の契約について連帯保証人の責任を否定するような記載があれば、連帯保証人は責任を負いません。
また、連帯保証人に責任を負わせるのが酷な事情があるときは、更新後の契約について署名・捺印をしていない連帯保証人の責任は否定されることがあります。
たとえば、契約期間の満了時に既に借主が数ヶ月分の賃料を滞納しており、大家さんは更新を拒絶したり契約を解除したりできたのに、連帯保証人に連絡もせず、漫然と契約の更新をしてしまったというような場合です。このような場合には、更新後の滞納分について、連帯保証人の責任は否定されるおそれがあります。
大家さんとしては、家賃の滞納があったら、その都度連帯保証人に連絡すべきです。それによって、連帯保証人は借主に支払いを促し、滞納が解消するかもしれません。また、更新後の契約について改めて連帯保証人の署名・捺印が無くても、連帯保証人の責任を否定されることを避けることができます。

Q
改正民法では、建物の賃借人の保証人の責任について、「極度額」というものを決めなければならないことになったそうですが、「極度額」とは何ですか。また、「極度額」を決めないと、どうなりますか。
A
「極度額」とは、保証人が負う責任の上限額です。
「極度額」を決めない保証契約は無効であり、保証人に対する請求はできません。

今回の民法改正では、建物の賃借人の保証人の責任を軽減するために、次のような内容の改正を行いました。
(1)個人が建物賃貸借契約の保証人となる場合、賃貸借契約書等に連帯保証人が負う責任の上限額(極度額)の記載が必要となった。
(2)限度額の記載がないと保証契約が無効となり、保証人に請求はできない。
(3)極度額の設定方法は、最大金額(たとえば金240万円)あるいは賃料の○ヶ月分(たとえば当初賃料の24ヶ月分)などがある。
(4)限度額の上限については、特に法律の定めはないが、大き過ぎると公序良俗違反(民法第90条)として無効となる可能性がある。
(5)法人が賃貸借契約の保証人となる場合は、極度額を設定する必要はない。

具体的なケースで考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約(賃料月額9万円・敷金9万円)を締結して入居しました。Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となり、契約書上、極度額は120万円となっています。
上記の賃貸借契約の期間は、令和3年4月2日から令和5年3月31日でしたが、Bは令和4年1月から6か月間賃料を滞納したので、Aは、令和4年6月末日に賃貸借契約を解除しました。
Bは、Aの契約解除後も賃料を支払わないままマンションに居座り、退去しなかったので、Aは弁護士に依頼して明渡請求訴訟を起こし、判決を得た上で、強制執行によりBを退去させました。退去が完了したのは、令和4年11月末でした。

この間のAの損失は、次のとおりです
契約解除までの賃料          54万円(9万円×6ヶ月)
契約解除後明渡しまでの賃料相当損害金 45万円(9万円×5ヶ月)
明渡しの強制執行に要した費用     50万円
原状回復費用             20万円
弁護士費用              30万円

このうち、AがBに請求できるのは、弁護士費用を除いた169万円であり、ここから敷金を差し引いた160万円がBの債務となります。
しかし、極度額の定めが120万円となっているので、Aが連帯保証人であるCに請求できる金額は、120万円までに制限されることになります。

このように賃貸借契約書等に極度額の記載ないと保証契約が無効となり、保証人に請求はできなくなりますので、賃貸借契約書の連帯保証人の条項あるいは保証誓約書などに、極度額を明示することを忘れないようにしましょう。
具体的な記載の例は、以下のようになります。

【契約書に記載する条項】
第○○条
連帯保証人は、乙と連帯して、本契約に基づく乙の債務一切について責任を負うものとする。ただし、連帯保証人が個人の場合は極度額として当初契約時賃料の24ヶ月分を責任の上限とする。
2 連帯保証人は、本契約が更新された場合も、その更新が合意更新か法定更新かにかかわらず、更新後の契約に関して継続して前項と同様の責任を負うものとする。

極度額は、どれくらいの金額が適当かという質問をよく受けますが、これは、なかなか難しい問題です。
賃料不払いの場合の大家さんの損害は、上記の例でも分かるように、賃料の18ヶ月分を超えることが多いようです。そこで、少し余裕を見て、賃料の24ヶ月分くらいが適切ではないかと思います。ただ、賃料の24ヶ月分では、賃料滞納の場合の損失には対応できますが、借主の自殺などのケースの損失には対応できないので、保険等によるリスクヘッジが必要となります。

Q
民法改正後に締結した建物賃貸借契約書の中で、保証人の責任の極度額を「240万円」と記載しました。このように「極度額」の記載があっても、保証人に対する請求ができなくなることはありますか。
A
保証人の責任について「元本の確定」が発生すると、賃貸借契約書に記載されている「極度額」を請求ができなくなる場合があります。

改正民法では、次の場合、個人保証人の保証の範囲は確定してしまいます。これを「元本の確定」といいます。
① 保証人の財産に強制執行がされた場合
② 保証人が破産した場合
③ 借主または保証人が死亡した場合

この中で、注意を要するのは、「③ 借主または保証人が死亡した場合」です。

まず、「保証人が死亡した場合」について、具体例で考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居し、Cは、上記の建物賃貸借契約においてBの連帯保証人となりました。極度額は、300万円です。
上記の賃貸借契約の期間は、令和3年4月1日から令和5年3月31日でしたが、令和4年10月8日にCが亡くなりました。
この時点で、Bには家賃滞納などなく、また、貸室内に損傷などはありませんでした。

このケースで、Cの連帯保証人としての責任はどうなるでしょうか。
上記のとおり、個人保証人の保証債務の元本は、個人保証人が亡くなった時点で確定しますので、Cが死亡すると、Cの保証債務の元本は、その時点のBのAに対する債務の額で確定してしまいます。
上記のとおり、Cが死亡した時点で、BはAに対して未払債務はないので、Cの保証債務の額は0です。
Cが亡くなった後で、Bが家賃を滞納したりしても、Cの保証債務の元本は確定していますので、0だったCの保証債務の額が増えることはありません。

この保証人の死亡による元本の確定があると、その保証人に対して請求額できる額は確定してしまいます。
そこで、賃貸借契約書に、保証人が死亡した場合は、借主は、一定期間内に別の保証人を立てる義務を負い、この義務を怠ったときは、契約を解除できることを明記し、借主が新しい保証人を探してくるように促すことが必要です。

【契約書に記載する条項】
第○○条


3 連帯保証人が死亡したときは、乙は、乙が連帯保証人の死亡を知ったときから6か月以内に、新たに甲が認める者を連帯保証人としなければならず、乙がこの義務を怠ったときは、甲は本契約を解除することができる。

次に、「借主が死亡した場合」について、具体例で考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居しました。
Cは、上記の建物賃貸借契約においてBの連帯保証人となりました。極度額は、300万円です。
上記の賃貸借契約の期間は、令和3年4月1日から令和5年3月31日でしたが、令和4年10月8日にBが貸室内で孤独死(病死)し、1か月後に発見されました。
Bが死亡した時点で、家賃滞納などなく、また、貸室内に損傷などは発生していませんでした。

このケースで、Cの連帯保証人としての責任はどうなるでしょうか。
個人保証人の保証の元本は、借主が亡くなった時点で確定しますので、Bが死亡すると、Cの連帯保証責任の金額は、その時点のBのAに対する債務の額で確定してしまいます。
上記のとおり、Bが死亡した時点で、BはAに対して未払債務はないので、Cの保証債務の額は0です。
この後、滞納家賃や貸室の汚損による損害賠償請求権が発生しても、Cは一切責任を負いません。

ちなみに、借主が死亡していますので、借主の相続人は、借主の債務を承継します。
このため、Bの死亡後の滞納家賃や原状回復費用を、Bの相続人に請求することはできます。
しかし、Bの相続人が相続を放棄する手続きをとると、Bの相続人は、Bの債務を承継しません。
また、Bの相続人が相続を放棄する手続きをとらず、AがBの相続人に請求できる場合でも、Bの相続人に請求できる原状回復費用は、あくまでBが死亡するまでに発生していたBに帰責事由のある貸室の汚損の原状回復費用だけであって、原則としてBの死亡後に発生した室内の汚損等の原状回復費用は請求できません。
同様に、孤独死と遺体の発見の遅れによる心理的瑕疵により、一定期間マンションの賃貸ができなくなったり、賃料が低下したりしても、原則としてその損害をBの相続人に請求することはでません。

このように、「借主または保証人が死亡した場合」に、連帯保証人の保証債務の元本が確定するという改正民法の規定は、大家さんにとっては、なかなか厳しい規定ですので、注意が必要です。

また、借主または保証人が死亡した場合以外にも ① 保証人の財産に強制執行がされた場合や② 保証人が破産した場合にも、保証債務の元本が確定します。
①は、たとえば保証人が自分の借金を返済しなかったために、裁判で返済を命じる判決が出た場合に、保証人の債権者が、判決に基づいて保証人の所有する財産を差し押さえたようなケースです。
また、②は、保証人が多額の債務を負い、返済が出来なくなったため場合に、保証人自身あるいは保証人の債権者が、裁判所で保証人の破産手続を始めるよう申立て、その決定が出たというケースです。
いずれのケースでも、保証人自身が経済的に苦境に陥っているため、保証債務の額が増加しないように、保証債務の元本が確定することとしたのです。

Q
改正民法における建物の賃借人の保証人について、「極度額」や「元本の確定」以外に、注意すべき点はありますか。
A
事業のための建物賃貸借の借主の財産状況の説明義務と貸主の保証人に対する説明義務に注意する必要があります。

1 事業のための建物賃貸借の借主の財産状況の説明義務
改正民法では、「事業」のための建物賃貸借(例えば、会社の事務所や個人の店舗にする目的での建物賃貸借)の場合、借主は、個人保証人となる者に対し、保証契約締結前に、借主の財産状況の説明をしなければなりません。
借主が、この説明をしなかった場合、あるいは虚偽の説明があった場合、それによって保証人が借主の経営状態や資力を誤解し、連帯保証をしてしまったときは、大家さんがそのことを知っていた場合あるいは知ることができた場合には、個人保証人は、大家さんとの保証契約を取消すことができます。

この借主の説明義務について、具体的事例で考えてみましょう。
Bは飲食店を開く目的で、AとA所有の店舗用建物を賃借する建物賃貸借契約を締結しました。Bの友人のCは、この建物賃貸借契約の連帯保証人となりました。
このような場合、BはCに対して、Bの財産状況を説明しなければなりません。
BがCに説明しなければならない内容は、次のとおりです。
① Bの財産、収入
② Bに賃貸物件の家賃以外に債務があればその額、弁済状況
③ Bが賃貸物件の家賃等の為に担保設定をする場合、その内容
この説明において、Bが多額の債務を負っているにもかかわらず、そのことをCに説明せずに隠した場合、もしAが、そのことを知っていた、あるいは知ることができたという事情があるときは、Cは、後に保証契約を取り消すことができます。

これは、事業用建物の賃貸借契約の保証人になろうとする者は、借主の財産状況によって保証人となるかどうかを判断しますので、この判断を誤らせないように、借主に対して、自分の財産状況を保証人となろうとする者に正確に説明する義務を課すとともに、借主がこの説明をせず、あるいは虚偽の説明をし、そのことを大家さんが知っていた、あるいは知ることができたときには、保証人を保護するために、保証契約を取り消すことができるとしたものです。

そこで、大家さんとしては、この取消権が認められないように、個人保証人との契約書に借主が保証人に対し財産状況を説明したことを確認した旨の条項を設けることが望ましいと言えます。

契約書に記載する条項としては、次のような書き方が考えられます。
第○○条
乙(賃借人)は、令和○年○月○日仲介業者○○(株)の○○所在の事務所において、下記記載の書類を連帯保証人丙に示した上で、次の事項を説明した。
乙は、本契約締結時点において、借入金、買掛金等、弁済期の到来した債務について、支払いの遅滞はなく、賃料の滞納を発生させる原因となる事象はない。

乙の第○期から第○期までの決算書、日付明細書、税務申告書

2 貸主の連帯保証人に対する説明義務

大家さんには、次の2つの説明義務があります。
まず、保証人から、借主の家賃支払状況等に対して確認請求があった場合は、賃貸人は、遅滞なく説明しなければなりません。

これは、どういうことでしょうか。具体的なケースで考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居しました。Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となっています。
Bは入居後、半年間は賃料を払っていましたが、その後賃料を払わなくなり、6か月間賃料を滞納しました。
この場合、Aは、連帯保証人のCに対して、Bの賃料の滞納を報告する義務はありませんが、CからBの賃料の支払い状況について問い合わせがあったときは、遅滞なくCの滞納状況について情報を提供しなければなりません。これは、あくまで連帯保証人から問い合わせがあったときの情報提供義務です。
このため、例えば上記の例で、AがCに対して6ヶ月分の滞納賃料の支払いを請求したときに、Cから、「もっと早く連絡してくれれば、Bに連絡して、6ヶ月分も滞納させなかった。6ヶ月分も滞納したのは、Aの連絡が遅かったせいだから、3ヶ月分しか払わない。」と言われても、これを認める必要はありません。

次に、借主が滞納家賃の分割払いを約束したにもかかわらず、分割払いの支払いを怠り、一括払いとなった場合には、大家さんは、一括払いとなったことを、一括払いとなったときから2か月以内に個人保証人に連絡をしなければなりません。
この連絡を怠った場合には、大家さんは、連絡をするまでの期間の遅延損害金を個人保証人に対して請求できなくなります。

これも、具体的なケースで考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居しました(賃料は月額10万円)。Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となっています。
Bは入居後、半年間は賃料を払っていましたが、その後賃料を払わなくなり、6か月間賃料を滞納したため、滞納額は60万円となりました。
そこで、AとBは、この60万円を毎月3万円ずつ通常の賃料に上乗せして支払うことで合意しました。つまり、60万円の滞納額を20回の分割払いで払うことを約束したということです。
このような約束をする場合、借主が分割払いを怠らないように、この分割払いの支払いを1回でも怠ったら、分割払いの約束はなかったことになり、一括払いに戻ること(これを「期限の利益の喪失」といいます。)、また、その場合は、残金に14.6%の遅延損害金をつけることなどを、合わせて約束します。
AとBとの間でも、60万円の滞納額を20回の分割払いで払うこと、この分割払いの支払いを1回でも怠ったら、分割払いの約束はなかったことになり、一括払いに戻ること、一括払いに戻った場合には、残金に年14.6%の遅延損害金をつけることが約束されました。
Bは、この約束をした後、10か月間は、毎月13万円をAに支払いましたが、11か月目には、10万円の家賃だけ支払い、分割払いの滞納家賃3万円は支払いませんでした。
この結果、Bは、Aに対して、残金30万円を一括払いしなければならなくなり、また、この30万円には、年14.6%の遅延損害金をつけなければならなくなりました。

このような場合に、Aは、Cに対して、Bが約束を破ったので一括払いになったこと、つまり期限の利益を喪失したことを、その事実を知ってから2ヶ月以内に連絡しなければなりません。
そして、この連絡をしないと、Aは、Cに対して、連絡するまでの間の年14.6%の遅延損害金を請求することができなくなります。たとえば、Aは、Cに対して、3ヶ月後に連絡したという場合は、この3ヶ月の間の遅延損害金の請求はできなくなります。

Q
賃貸借契約締結の際、借主と一緒に貸室の状態を確認した方がいいでしょうか。また、その際に注意すべき点は何ですか。
A
1.契約時の貸室の状態確認はとても重要。

建物の賃貸借契約では、契約が終了したら、借主は、借りた部屋を借りた時の状態に戻して大家さんに返還する義務があります。これを、借主の原状回復義務といいます。
ですから、借主は、自分のミスで壊したり汚したりした部分について、修理して元に戻す義務があります。もし、自分で修理できないのであれば、修理費を負担する義務があります。この修理費を、原状回復費用と呼びます。
たとえば、借主が部屋のガラスを割ったり、壁にシミをつけたりした場合は、ガラスの修理費やシミのある部分の壁紙の張替費用は、借主が負担しなければなりません。
しかし、借主が部屋のガラスを壊したり、壁紙を汚したりしたことを証明する責任は、大家さん側にあります。借主が、「窓ガラスを壊したり、壁にシミを付けたりしたのは自分ではない。」と言い張ると、大家さんは、何らかの証拠を出して、借主の仕業であることを証明しなければならないのです。
そこで、大家さんは、このような借主の主張を封じるために、賃貸借契約の締結の際に、借主と一緒に貸室の室内に入り、破損や汚れの状態を確認しておく必要があります。
この確認作業を行う時期は、できれば借主が貸室を使用できるようになるとき、具体的には、部屋の鍵を渡すときが最も適切です。

2.確認したら記録に残す。

貸室の破損や汚れの確認の方法は、まず、大家さんと借主が一緒に貸室の中に入り、貸室の中の破損している部分や汚れている部分を確認します。
確認できた破損や汚れは、必ず写真か書面に残してください。
最も良い方法は、書面と写真の両方を使う方法です。書面の場合は、貸室の見取り図に書き込んでいく方法が簡単なので、予め貸室の図面を用意しておくとよいでしょう。また、作成した書面には、大家さんと借主が立ち会ったことを確認するために、日付を記入したうえで、その場で、大家さんと借主が署名をしましょう。

Q
賃貸借契約締結時に借主から礼金として賃料の1ヶ月分を受け取りました。ところが、借主が入居前に事情があって契約を解約したいので礼金を返してほしいと言ってきました。この場合、礼金を返さなければなりませんか。
A
1.礼金とは何か。

建物の賃貸借契約では、契約締結時に借主から大家さんに礼金を支払うことがあります。最近では、空室対策として礼金のない場合もありますが、依然として礼金をとる場合の方が多いようです。
礼金は、部屋を貸してもらったことに対するお礼として、借主が大家さんに支払うお金などと言われますが、実は、その法的性質や根拠がよくわからないものです。
たとえば、物を買うときには、代金を支払うだけで礼金を支払うことはありません。それと同じで、物を借りるときには、賃料を支払えばよく、礼金を払わなければならない法的な根拠はありません。
おそらく、建物の賃貸物件が少なかった時代、つまり賃貸市場が売手市場で大家さんの方が借主より有利であった時代に、部屋を貸してもらうために大家さんに賃料以外のお金=お礼を払うという慣習があり、それが残ったものなのではないでしょうか。

2.契約書に返還義務を否定する条項を入れる。

このように、礼金は、その法的性質や根拠が明確ではなく、借主からすると余分なお金を取られている感覚があるため、この事案のように、借主が入居前や入居直後に事情があって賃貸借契約を解約した場合に、返還を求められてトラブルとなることがあります。
そこで、こうした場合に備えて、念のため礼金の返還義務を否定する条項を契約書に入れておくべきです。

Q
当初月額8万円の賃料だったのですが、契約の更新の際に借主から賃料を4000円減額してほしいと言われました。どのように対応すればいいでしょうか。
A
1.借主が賃料を減額する手続きは?

借主が賃料を減額する手続きは、まず、借主が、大家さんに対し、自分が適正と思う金額に家賃を減額して欲しいと申入れます。
これに対して、大家さんが了解すれば、賃料は減額されたことになります。しかし、大家さんが了解しない場合は、賃料の減額は確定しません。この場合、借主は、契約書で定める賃料を支払い続けなければなりません。
その上で、借主は、家賃の減額を求める調停を裁判所に申し立てなければなりませんが、調停で話し合っても合意ができない場合は、調停不成立となります。
そして、調停不成立になった場合は、借主は、賃料の減額を請求する訴訟を裁判所に起こすことになります。
借主は、面倒だからと言って、調停を飛ばして直ちに訴訟を起こすことはできません。特別な事情がある場合を除いて、まず調停をして、調停不成立となった場合に初めて訴訟を起こすことができることが法律で決められています。
借主が、賃料の減額を請求する訴訟を起こした場合には、裁判所が審理して、判決によって適正な賃料額が決定されます。

2.借主が一方的に減額した賃料を支払ってきた場合は?

借主が、一方的に減額した賃料を払ってきた場合は、契約で決まっている正規の賃料を支払っていないことになりますので、大家さんは賃料不払いを理由として、契約を解除することができます。

3.減額請求に対する大家さんの対応

このように、借主は、裁判所における調停や裁判をせずに、一方的に賃料を減額することはできません。
また、借主が一方的に減額した賃料を支払ってきた場合には、大家さんは、賃料不払いを理由に契約を解除することができます。
ですから、大家さんとしては、借主から賃料の減額請求があっても、慌てることなく今迄どおりの家賃を受け取り、借主が、調停を起こしてくるのを待つことになります。

Q
当初月額8万円の賃料だったのですが、契約の更新の際に賃料を4000円増額したいと思います。どのような手続きを取ればいいでしょうか。
A
1.大家さんが賃料の増額請求をする場合の制限

大家さんが賃料の増額請求をする場合の手続きも、【Q 当初月額8万円の賃料だったのですが、契約の更新の際に借主から賃料を4000円減額してほしいと言われました。どのように対応すればいいでしょうか。】で述べた賃料の減額手続きとほぼ同じですが、大家さんについては、借主の賃料の減額請求にはない制限が1つあります。
それは、賃貸借契約書に一定期間賃料の増額はしないことを定めた条項がないことです。この条項があると、大家さんは、この期間内は賃料の増額ができません(なお、賃貸借契約書に一定期間賃料の減額をしないことを定めても、この条項は、借地借家法に違反する借主に不利な条項として無効となります。)。

2.賃料増額請求の具体的手続き

具体的には、まず、大家さんが、借主に対し、自分が適正と思う金額に賃料を増額して欲しいと申入れます(ちなみに、【Q 賃料の減額請求訴訟や増額請求訴訟の審理や判決には、どのようなリスクがありますか。】で述べるように、判決による賃料の増減の決定の効力は、増減の請求をしたときに遡ります。ですから、いつ増減の請求をしたかが極めて重要になってきます。従って、大家さんが増額請求をするときは、必ず内容証明郵便を使い、記録が残るようにして下さい。)。
これに対して、借主が了解すれば、賃料は増額されたことになります。しかし、借主が了解しない場合は、賃料の増額は確定しません。この場合、借主は、賃貸借契約書で定める賃料を支払い続ければよく、大家さんの主張する増額された賃料を払う必要はありません。もし、大家さんが、「増額された賃料でなければ受け取らない。」と言う場合は、借主は、賃貸借契約書で定める賃料を法務局に供託することになります。
その上で、大家さんは、賃料の増額を求める調停を申し立てます。調停で話し合っても合意ができない場合は、調停不成立となります。
そして、調停不成立になった場合は、大家さんは、賃料の増額を請求する訴訟を起こすことになります。

Q
賃料の減額請求訴訟や増額請求訴訟の審理や判決には、どのようなリスクがありますか。
A
1.高額な鑑定費用を負担させられることがある。

ある部屋についてどの程度の家賃が適正かは、裁判官だけでは判断できません。そこで、裁判所の選んだ鑑定人に鑑定意見を出してもらうことになります。
鑑定人になるのは、不動産鑑定士ですが、鑑定人の報酬は、簡単な事件でも1件30万円程度です。難しい事件になると、100万円を超えることもあります。
この報酬は、鑑定費用として裁判所が鑑定人に払う形を取りますが、実際には訴訟を起こした側が、予め裁判所に預けておいたお金です。そして、最終的には、判決によって、大家さんと借主のどちらがどれだけ鑑定費用を負担するか決められます。場合によっては、鑑定費用は全額大家さんの負担となるおそれがあります。

2.年率10パーセントの利息の支払義務もある。

賃料の増額や減額を求める裁判では、裁判所の判決によって適正な賃料額が決定されますが、その決定は、増額あるいは減額の請求があった時点に遡ります。
たとえば、令和4年4月10日に、借主が大家さんに、賃料を月額8万円から月額7万5000円に減額するように請求をしたとします。そして、令和6年6月10日に賃料を7万5000円に減額する判決が確定したとします。
この場合、賃料の減額は、借主が大家さんに減額の請求をした令和4年4月10日に遡って認められます。
大家さんは、この間、賃貸借契約書どおりの賃料を受け取っていますので、約2年2ヶ月あまりの間、1ヶ月当たり5000円家賃を多く取りすぎていたことになります。
大家さんは、この多く取りすぎた金額について、受けとった時点から利息を付けて返還しなければなりません。しかも、その利息は、年率10パーセントです。

3.調停で解決したほうが得な場合もある。

このように、賃料の増減を請求する訴訟には、鑑定費用と高い利息の支払義務という2つのリスクがあります。
従って、大家さんとしては、近隣の家賃相場をよく調べ、敗訴の可能性があれば調停段階の話し合いで解決し、無用なリスクを負わないようにするべきです。

Q
賃貸借契約書に契約の更新ごとに賃料を2000円ずつ増額するような条項を入れた場合、このような条項は有効ですか。
A

契約書に賃料を自動的に増額させる条項を入れたら、その条項は有効でしょうか。例えば、家賃を2年ごとに5パーセントずつ増額させるというような条項は、有効でしょうか。
このような条項は、無制限ではありませんが、一定の範囲で有効とされています。
【Q 当初月額8万円の賃料だったのですが、契約の更新の際に賃料を4000円増額したいと思います。どのような手続きを取ればいいでしょうか。】で説明しましたように、賃料の増額は、大家さんと借主の話し合いがまとまらない限り、裁判所の手続きによらなければならないことが借地借家法で決められています。
しかし、賃貸借契約書に賃料の自動増額条項を入れた場合に、この条項が無条件で有効とされると、上記の借地借家法は簡単にすり抜けられてしまい、有名無実になってしまいます。
そこで、裁判所は、賃料の自動増額条項について、その内容があまりにも大家さんに有利で、借主にひどい不利益を与えるものでなければ有効であるとしています。
たとえば、家賃を2年ごとに3パーセント上げていっても、近隣の賃料相場が上昇していれば、必ずしも近隣の賃料相場からかけ離れた賃料にはなりません。
また、大家さんの事情や借主の事情から、最初の家賃をある程度安い金額に設定し、契約を更新する毎に少しずつ家賃を上げていくという場合であれば、やはり近隣の賃料相場からかけ離れた賃料にはなりません。
このように、契約書の賃料自動増額条項は、その条項の結果、家賃が近隣相場からかけ離れてしまい、借主が不当に高い家賃を取られるようなものでなければ有効と考えられます。

Q
賃料の自動増額条項(傾斜家賃制度)を活用して空室対策ができると聞きましたが、どのような方法ですか。
A
1.賃料自動増額条項(傾斜家賃制度)を活用した空室対策

 【Q 賃貸借契約書に契約の更新ごとに賃料を2000円ずつ増額するような条項を入れた場合、このような条項は有効ですか。】で説明しましたように、賃料自動増額条項は、その条項の結果、家賃が近隣相場からかけ離れてしまい、借主が不当に高い家賃を取られるようなものでなければ有効であると考えられます。
そこで、この賃料自動増額条項を活用して、空室対策をすると言うことが考えられます。空室の目立つ物件を持っている大家さんは、何とか空室を埋めたいと考えます。この場合、賃料の減額が一つの空室対策となります。 しかし、無闇に家賃を下げると、とりあえず空室は埋まりますが、安い賃料のまま長期間住み着かれてしまい、大家さんにとって逆に不利益になることがあります。 そこで、「とにかく空室を埋めたい。しかし長期間安い家賃で住み続けられるのは困る。」という大家さんの希望を叶える方法として、先ほどの賃料自動増額条項を使った傾斜家賃制度が考えられます。

2.空室対策の具体的内容

最初の賃料は安くしておいて、契約更新毎に少しずつ賃料を増額し、何度目かの更新で、近隣の賃料相場に追いつくという方法です。
例えば、同条件の部屋の近隣の賃料相場が月額10万円なら、最初の契約時は月額8万円に設定し、契約を更新する毎に賃料を1万円ずつ増額していくという条項を入れておくのです。
このような賃料自動増額条項であれば、契約期間が2年の場合は、契約後4年経過してやっと賃料相場に追いつきます。ですから、この賃料自動増額条項は、賃料が近隣相場からかけ離れてしまい、借主が不当に高い賃料を取られるというようなものではなく、有効な条項と考えられます。
大家さんからすると、取りあえず賃料を安くすることによって空室を埋めるととともに、将来的には近隣の賃料相場に追いつきますので、長期間安い家賃で住み続けられるという危険はありません。
借主からしても、安い賃料で入居が可能であり、将来賃料が上昇しても、あくまで近隣の賃料相場に追いつくだけですから、特に不利益は受けません。しかも、もし近隣の賃料相場を払うのが嫌なら、その前に引っ越して、賃料の安い期間だけ借りるという美味しいとこ取りをすることも可能です。

Q
賃貸借契約書には、賃料と管理費を分けて記載した方がよいですか。
A

たとえば賃料が8万円で管理費が4,000円の場合、賃貸借契約書にこれを合算して賃料84,000円と記載したとすると、何か不都合があるでしょうか。
このように「賃料84,000円」と記載した場合と「賃料8万円、管理費4,000円」と分けて記載した場合とでは、結局大家さんが受け取る金額は同じですので、特に不都合はないようにも見えます。
しかし、【Q 当初月額8万円の賃料だったのですが、契約の更新の際に賃料を4000円増額したいと思います。どのような手続きを取ればいいでしょうか。】で説明したように、賃料を増額するには、借地借家法に定める一定の手続きを取らなければなりませんが、管理費の増額には、この借地借家法の適用はありませんので、管理費は、賃料のように面倒な手続きを取らなくても、必要に応じて増額することができます。
従って、賃料84,000円と記載した場合には、例え実質的に管理費の増額であっても、賃料増額の手続きを取らなければならなくなるという不都合が生じます。 このような問題が生じるのは、特に分譲マンションを賃貸しているような場合です。
たとえば、ある大家さんが分譲マンションの1室を所有していて、この部屋を賃貸しているとします。
この場合、分譲マンションですから、所有者は毎月一定額の管理費を管理組合に支払わなければなりません。このため、分譲マンションを賃貸している大家さんは、通常、借主との賃貸借契約書において、大家さんが管理組合に支払う管理費を、そのまま借主に管理費として負担させる条項を入れています。
そこで、もし、分譲マンションの管理費が管理組合の決議で増額された場合には、大家さんは、分譲マンションの管理費が増額されたことを理由として、借主との賃貸借契約における管理費を増額します。これは、管理費の増額ですので、賃料増額の手続きを取る必要はありません。
しかし、もし、借主との賃貸借契約において、管理費を賃料に含めて総額で記載していると、例え分譲マンションの管理費の値上げを理由としていても、賃料の値上げである以上、賃料増額の手続きを取らなければならなくなります。
このように、管理費を安易に賃料に含めて記載すると、管理費の増額が必要になっても、簡単には管理費を増額できなくなりますので、注意が必要です。