

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
本当は、危急時遺言は無かった?危急時遺言の盲点
先日、7歳になる孫といっしょに、大宮にある鉄道博物館に行ってきました。
鉄道博物館の大きな建物の中には、日本で初めて汽車が走ってから現在まで日本で使われてきた汽車や電車の実物が展示してありましたが、その中に、特急とき号がありました。
私は、新潟出身ですが、大学生のころは新幹線などありませんでしたので、この特急とき号に乗り、4時間30分かけて東京と新潟を行き来していました。
展示されていた特急とき号は、車内にもはいることができましたので、当時の座席の座り心地も味わうことができ、懐かしい気持ちになりました。
あの頃は、司法試験の勉強が憂鬱で、いつも暗い気持ちでとき号に乗っていましたが、孫と一緒に笑いながらとき号の座席に座れる日がくると知っていれば、もっと頑張れたかもしれません。
さて、今回は、危急時遺言について、面白い裁判例があったので、ご紹介します。
まず、危急時遺言について、少し説明します。
病気で死期が迫っていて、しかも、本人は字を書けないというような場合は、公証人に公正証書遺言の作成をお願いする時間的余裕はなく、また、自分で自筆証書遺言を書くこともできません。
このような場合には、民法976条に定める危急時遺言を作成するということが考えられます。
民法976条第1項には、次のように定められています。
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
この条文によれば、3人の証人が一緒に遺言者のいる病室などを訪れ、証人の中の1人が、遺言者の遺言内容を聞き取り、その場でその遺言内容を文章にし、その文章を遺言者と他の2人の証人に読み聞かせるか閲覧させて、遺言者の話した内容とその文章が一致していることを確認したうえ、3人の証人が署名捺印しなければなりません。
また、この危急時遺言は、遺言の日から20日以内に、裁判所に確認手続の申立をしなければなりません。
最近、と言っても令和6年8月ですが、この危急時遺言について、実際には、遺言者の口授、証人の一人による筆記、読み聞かせ等の事実はなかったので、遺言は無効であると判断した高等裁判所の判決があります。
事案を分かり易く簡略化して説明すると、遺言者であるAは、がんで入院中に死亡の危急に迫ったので、Aの相続人であるYの依頼を受けたB、C及びDを証人として、危急時遺言をしました。また、この危急時遺言ついては、遺言の日から20日以内に確認手続もとられました。
その後、Aは亡くなり、Aの危急時遺言により、遺産の大部分をYが相続しました。
これに対して、Aの他の相続人であるXが、Yを被告として、Aの危急時遺言が無効であることの確認を求める訴訟を起こしました。
第1審の地方裁判所では、Aの危急時遺言は有効とされましたが、Xが控訴し、控訴審である高等裁判所は、上記のとおり、実際には、Aの口授、証人による筆記、読み聞かせ等の事実はなかったとして、Aの危急時遺言は無効であると判断しました。
高等裁判所は、Aの口授、証人の一人による筆記、読み聞かせ等の事実はなかったと判断した理由として、Aが入院中に病院の許可を得て外泊しており、他の形式の遺言を作成することが可能であったことやYに他の相続人より沢山遺産を取得させる動機がなかったことなどを上げていますが、最も興味深かった理由は、証人B、C及びDの遺言書作成経過についての供述が信用できないというものでした。
まず、Cについては、Aの危急時遺言の証人となった経緯、遺言書作成の日時、場所などについての供述が大きく変遷しており、また、その変遷について合理的な理由を説明できていませんでした。
また、Bは、弁護士なのですが、Bも、遺言書作成の日について供述が変遷していました。
さらに、B、C及びDは、Aの体調が悪化して入院した日やAがYからCを紹介された日について、客観的な事実と異なる供述をしていました。
こうしたことから、証人B、C及びDの遺言書作成経過についての供述が信用できないというものでした。
上記に加えて、判決では、CがAの危急時遺言によって利益を受けるYの知り合いであり、B及びDがCの知人であることも指摘し、「虚偽の内容の遺言書を作成する動機がなかったとは言えない。」とも指摘しています。
結局、高等裁判所は、Yと証人B、C及びDが協力して、虚偽の内容の危急時遺言を作成したのではないかと考えたのです。
確かによく考えて見ると、危急時遺言の証人は、特に主治医などが指定されているわけではないので、被相続人が重篤な症状で入院したときに、相続人の一人が、自分と仲のいい人などを証人として、自分に都合の良い危急時遺言を作ってしまうというのは、不可能ではありません。
その意味では、本件の危急時遺言の作成は、法律の盲点を突いたものだったと言えます。
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