

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
受遺者の相続人は遺贈を受けられる?
先日、こんな相談がありました。
事案を単純化して説明することにします。
登場人物は以下のとおりです。
相談者は、甲と乙の間の長男です。兄弟はいません。
甲と乙は相談者が中学生のころ離婚しましたが、甲は離婚後もたまに乙とコンタクトをとっていたようです。
甲は離婚後、なにかの会社をやっていたようですが現在は入院中で仕事もしておらず、3ヶ月ほど前に乙に電話してきたときは、交際していた丙という女性が最近亡くなってしまって淋しいということだったそうです。
電話の1ヶ月後、今度は甲が借りていた部屋のオーナーという人物から相談者に、甲が死亡したので、甲に貸していた部屋を早期に明け渡してほしいという電話がありました。
相談者は他人から甲の死亡を知らされて驚きましたが、とりあえずゴミの片づけだけでもと思い、甲の借家を訪れてみました。すると、丙作成の遺言書が見つかり、そこには、丙は身寄りがないため丙の財産はすべて甲に遺贈すると記載されていました。遺言書とは別に参考資料として財産目録も作られており、これをみると、丙の遺産は少なくとも2000万円以上の価値がありそうでした。
相談者は、甲が離婚後、お金がないとして相談者の養育費もろくに支払わなかったこと、以前やっていた会社の関係で負債があるかもしれないことから、相続放棄を考えていました。ですが、遺言が有効なら、甲に多少の債務があっても相続する方がいいかもしれません。
どうしたらいいでしょうかというのが相談の内容でした。
まず、相続するか相続放棄をするかが問題ですが、相続放棄をするには3ヶ月(これを熟慮期間といいます)以内に家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。ですが、遺産の内容が不明で放棄をするかどうかすぐには決められないというようなときは、熟慮期間の伸長を申し立てることができます。相続放棄に関しては2017年4月のコラムなどで解説してありますのでそちらもご参照ください。
首尾よく熟慮期間の伸長ができ、その間に遺産も確認でき、遺贈を受けたいとなったとして、果たして遺贈を受けた甲の子である相談者は遺贈を受けることができるのでしょうか。
甲が丙と婚姻していれば、相談者は、相続人である甲の相続人として丙の遺産をもらい受けることができそうです。
しかし甲は丙と婚姻はしておらず、相続人ではありません。
では、遺言者が死亡して間もなく受遺者も死亡してしまったという場合、遺言による贈与(遺贈)の効力はどうなるのでしょうか。遺贈の効力は失われてしまうのか、それとも受遺者の相続人がその権利を受け継ぐことができるのでしょうか。
この問題について、民法は、「受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を示していたときは、その意思に従う」と定めています(第988条)。
整理すると、①受遺者が、遺贈を承認するか放棄するかを決めないまま死亡して、②受遺者を相続した者が存在する場合、その相続人は、自分が承継した相続分の範囲で承認・放棄を選ぶことができるということです。ただし、遺言者が「受遺者本人に限る」「相続人には承継させない」など別段の意思を示していれば、そちらが優先されます。
民法968条は、受遺者は遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができると定めていて、上記の民法988条も「遺贈の承認又は放棄」をすることができることを前提としています。これは、遺贈を受ける受遺者の側の意思を尊重するためです。たとえば、最近よく問題となる負動産といわれるような遠方で価値のない土地を譲られても困ってしまいます。そのため受遺者に遺贈を放棄する自由を認めているのです。
ただし、遺贈を放棄する場合、遺贈が包括遺贈か特定遺贈かでその方法が異なります。
包括遺贈というのは、遺贈する財産を限定せず、被相続人の全部を受遺者に取得させようとする遺贈です(厳密にはこれを全部包括遺贈といい、これとは別に割合的包括遺贈というものもありますが、ここでは割合的包括遺贈については割愛します)。
これに対し、特定遺贈というのは、ある特定の土地を遺贈する、というように財産を特定して遺贈するものをいいます。
特定遺贈の場合は、受遺者はいつでも遺贈を放棄することができます。
これに対し、包括遺贈の場合は、相続人以外の受遺者も相続人と同一の権利義務を有するとされているため、遺贈を放棄するときも、相続の放棄と同様に家庭裁判所への申述が必要となります。
ここで冒頭のご相談に戻ると、入院中の甲は、遺贈を承認することも放棄する間もなく死亡してしまったと思われます。
そして、遺言書には甲が死亡した場合についてまで記載されてはいませんでしたから、甲の相続人である相談者は、丙の遺贈を承認するか放棄するかを自身で決めることができることになります。
相談者は、遺贈を受けることを選択することになりそうです。
この記事を読んだあなたにおすすめの記事







