

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
親族がアパートで亡くなったと大家さんから連絡が。迷惑はかけたくないけど…
Q
見知らぬ人から突然、「わたしはあなたの叔父様にあたるAさんにアパートを貸していた者ですが、Aさんは去る〇月△日に死亡されましたので、相続人であるあなたにご連絡させていただきました。Aさんは家賃を滞納していましたし、部屋をすみやかに片付けていただかないと新しい借主に部屋を貸すこともできずとても困っています。早急に賃貸借契約を解消し、部屋を明け渡していただく必要があります。そのため…」というような手紙が届いたらどうしたらよいでしょうか。
実は、このようなご相談をいただくことはよくあります。
A
Aさんのことをあなたがご存知であればともかく、Aさんという叔父さんの存在自体を知らなかったり、Aさんのことは知っていても長年連絡を取っておらず死亡したということが事実かどうかもわからないということもあり得ます。
そのような場合には、まずは親戚に連絡したりAさんの戸籍謄本を取り寄せるなどして、Aさんが本当に亡くなっているかどうかを確かめなければなりません。
Aさんが亡くなっていることが判明したら、つぎは自分が相続人なのかどうかを確認する必要があります。相続人の順位は、被相続人の子、親、兄弟の順と定められています。そこで、Aさんの子どもや親がご存命であれば、その人が相続人ということになります。
ただし、その人が相続放棄をしていればはじめから相続人ではなかったことになるので、たとえばAさんに子どもがいてもその人が相続放棄をしていて、両親もすでに亡くなっていれば、Aさんの兄弟が相続人ということになります。
大家さんの手紙は、叔父さんであるAさんについての連絡ということですから、あなたのお父さんかお母さんが叔父さんの兄弟ということでしょう。そして、甥または姪であるあなたに連絡がきたということは、叔父さんの兄弟にあたるあなたの親はすでに死亡していて、あなたがその代襲相続人になっているはずです。
相続人の調査によって自分がAさんの相続人だということが確認できてはじめて、では相続人としてはどのように対応すべきかが問題となります。
前提としておさえておきたいことは、賃貸借契約に基づく借主の地位も相続の対象になるということです。
したがって、あなたがAさんを相続すれば、その部屋を借りて住む権利を引き継ぐことができるかわりに、Aさんが滞納していた賃料を支払う必要がありますし、部屋が必要ないときは、賃貸借契約を解消し(そうしなければ賃料が今後も発生してしまいます)、Aさんの私物を処分して部屋の原状回復をしたうえで大家さんに返すという義務を負うことにもなります。
Aさんが多額の財産を残してくれているなら、相続して大家さんの求めに対応していくことにも特段の問題はないでしょう。
しかし、部屋を貸していた大家さんからいきなり連絡があり、家賃も滞納していたとなると、残念ながらAさんにはみるべき財産はない可能性が高いように思えます。その場合、滞納しているという家賃だけでなくほかにも債務があるかもしれません。相続すると、資産だけでなく債務も引き継ぐことになるので、思わぬ債務を背負わされてしまうことのないよう、相続を放棄することを念頭に慎重に検討しなければなりません。
ここで注意しなければならないのは、相続放棄は自分のために相続が開始したことを知ってから3か月以内(ただし延長可)に家庭裁判所に申立てをしなければならないという期間の制限があることと、民法921条は、相続人が「相続財産の全部または一部を処分したとき」は相続を承認したものとみなす(これを法定単純承認といいます)、つまり相続放棄はできなくなると定めていることです。
そこで、Aさんの相続を放棄しようとする場合には、単純承認になるようなことは行わないようにしなければなりません。
相続放棄をすると決めたのであれば、あなたはAさんの相続とは無関係になるので、Aさんの賃貸借についても一切タッチしないということでもかまいません。
ただし民法921条は、保存行為をすることはこの限りではない、つまり保存行為の範囲の行為なら単純承認にはならないとも定めています。困っている大家さんにできるだけ迷惑をかけたくないと思うのは自然なことで、保存行為の範囲であれば対応しても大丈夫です。
問題は、どこまでが保存行為かの基準が明確でないことですが、生ごみや腐敗してしまう物など、放っておくと周囲に害を及ぼすものを清掃・処分することは保存行為にあたり問題ありません。着古した衣類やたまった新聞紙など明らかに財産的価値のない物の処分も問題ないでしょう。
これに対し、家具や家電などをリサイクルショップで換金処分するとなると、財産的価値のある物の処分となって、単純承認にあたってしまう危険があります。滞納している賃料を叔父さんの遺産(室内にあった現金や叔父さん名義の預金からの引出しなど)から支払うことも避けるべきです。
賃貸借契約の解約書面にサインすることは、部屋を賃借するというのも財産的価値のある権利なので、具体的な事情にもよりますが一般的には避けた方が無難です。
実際の対応としては、大家さんが一番困るのは、いつまでも相続人が確定せずどのようにして部屋を処理してよいか判断がつかないことだと思いますので、あなたがAさんを相続して対応してよいかどうかすぐには判断がつかないときは、まずは大家さんに、手紙をもらったが事情がわからず状況を確認しており、相続放棄をすることも検討しているため、勝手に室内の荷物を処分することなどはできないという状況を伝えるのがよいでしょう。そのうえで、生ごみの処分など保存行為の範囲であれば対応してもよいでしょう。
それ以上の、保存行為として安全かどうかの判断に迷うときは、弁護士など専門家に相談したうえで判断することをお勧めいたします。
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