売買契約の取消しと第三者
相談例
私(A)は、所有する不動産を買主Bに売却したのですが、後でBの詐欺によって売却してしまったことに気づきました。そこで、急いで売買契約を取り消したのですが、買主Bは、第三者Cに対して、不動産を転売しているようです。
どのように考えたらよいのでしょうか。
売買契約の取消しと第三者
相談例において、売主Aは、買主Bの詐欺を理由に、売買契約を取り消しています(民法96条1項)。
売買契約が取り消されると、売買契約は初めから無効であったものとみなされます(遡及的無効 民法121条)。
無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた当事者は、相手方を原状に回復させる義務を負います(原状回復義務 民法121条の2第1項)。
売買契約を解除した場合の第三者との関係については、本コラムでご紹介いたしましたが(本コラム2026年5月号「売買契約の解除と第三者」ご参照)、売買契約が取り消された場合の第三者との関係については、どのように考えたらよいでしょうか。
判例は、法律行為(売買契約)の取消時を基準として、売買契約の取消前に第三者が買主から不動産を購入した場合(取消し前の第三者)、取消後に第三者が買主から不動産を購入した場合(取消し後の第三者)を区別して考えています。
そこで、以下では、この区別に従って、取り消された不動産売買契約に関し第三者が現れた場合の法律関係について、ご説明いたします。
(1)取消し前の第三者
ア 売買契約が取り消された場合、契約が初めから無効となり所有権も移転しなかったことになるため、買主は無権利者となります(民法121条)。したがって、買主から不動産を購入した第三者も無権利者となるのが原則です。
しかし、詐欺による取消しについては、例外的に、善意無過失の第三者には対抗することができないとされています(民法96条3項)。
この規定は、詐欺により意思表示をした者は、被害者ではあるものの、ある程度軽率であったとの非難を免れないことが多いため、善意無過失で利害関係を有するにいたった第三者には対抗できないとして第三者を保護した規定であると考えられています。
したがって、民法96条3項で保護される「第三者」とは、取消前に法律上の利害関係を有するにいたった第三者に限られると解されています(判例)。
なお、民法改正により、錯誤による取消しの場合も、民法96条3項と同様の規定が設けられています(民法95条4項)。
これに対し、強迫を理由とする契約の取消し(民法96条1項)や、制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)が契約を取り消す場合(民法5条2項、9条、13条4項、17条4項)には、本人保護の要請から、第三者を保護した規定はありません。そこで、これらを理由とする取消しの場合、遡及効は制限されず、第三者は善意であっても、保護されないと考えるのが一般的です。
なお、令和8年の民法改正により、後見及び保佐の制度が廃止され、補助の制度に一元化されることになりました(施行日は、公布の日(令和8年6月24日)から2年6月を超えない範囲内において、政令で定める日とされています)。
イ では、取消し前の第三者は、詐欺を理由に取消しを行った売主に対し不動産に関する権利を主張するために、登記を備える必要はあるでしょうか。
この点について、登記は不要であるとする判例があります(最高裁判所昭和49年9月26日判決)。
ただし、この判例は、農地の売買で、第三者が仮登記の付記登記(すでになされた権利に関する本登記に付け加えてされる登記)を備えていたという事案に関するものでした。そのため、この判例の理解について、一般的な事案でも登記を不要とした判例なのか、第三者が本登記を備えることができない特殊な事案について登記を不要とした判例なのか、考え方が分かれています。
(2)取消し後の第三者
詐欺取消し前に利害関係を有するにいたった第三者と異なり、取消し後に利害関係を有するにいたった第三者は、民法96条3項の「第三者」には当たりません。
もっとも、判例は、取消しによって元の所有者に不動産の所有権が復帰するので(このような考え方を「復帰的物権変動」といいます)、売主と第三者とは対抗関係に立つものと考えています。
したがって、目的物が不動産である場合には、基本的に、民法177条により、両者の優劣は登記を備えたか否かで決まることになります(判例は、取消しが強迫や制限行為能力を理由とする場合でも、取消し後の第三者との関係では、民法177条により優劣を決する立場であると考えられています)。
このように、判例が取消し後の第三者との関係では民法177条により登記を備えたかによって優劣を決するとしたのは、契約が取り消されている以上速やかに登記を備えるべきであるとする取引の安全や公示の要請に基づいているものと考えられます。
ただし、取消しの前後で考え方を変える判例の立場に対しては、理論的な一貫性がないといった批判が強いところです。
相談例の場合
第三者Cが売主Aによる取消し前に買主Bから不動産を購入していた場合には民法96条3項の「第三者」に当たります。そのため、第三者Cが、不動産購入時に、売主Aが詐欺によって意思表示をしていたことを知らず、そのことについて過失がなかった場合には、登記を不要と考える立場からは、第三者Cが登記を備えなくても保護される(所有権を失わない)ことになります。
他方、第三者Cが取消し後に買主Bから不動産を購入していた場合には、民法96条3項の「第三者」に当たりませんが、売主Aよりも先に登記を備えれば保護される(所有権を失わない)ことになります。
このように、第三者が取消し前に不動産を購入したのか否かによって考え方が異なるため、どのような事案なのかを見極めること、いずれにせよ速やかに登記を備えることが大切になります。
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