売買契約の解除と第三者
1 相談例
私(A)は、所有する不動産を買主Bに売却し、所有権や登記を移転しましたが、買主Bが約束に反して売買代金を支払ってくれません。
買主Bに対して代金を支払うよう催告しましたが、やはり支払ってもらえませんでしたので、売買契約を解除しました。
ところが、買主Bから不動産を購入したという第三者Cが現れて自分が不動産の所有者だと主張しています。
どのように考えたらよいのでしょうか。
2 売買契約の解除と第三者
相談例において、売主Aは、買主Bが代金を支払わなかったこと(債務不履行)を理由として、催告の上、売買契約を解除しています(民法540条、541条)。
契約が解除されると、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務(原状回復義務)を負います(民法545条1項本文)。
この解除の法的な効果をどのように考えるかについては、考え方が分かれていますが、判例は、解除によって売買契約が契約締結時にさかのぼって消滅すると考えています(解除の遡及効)。
以下では、判例の考え方を前提として、売買契約の解除前に第三者が買主から不動産を購入した場合(解除前の第三者)、解除後に第三者が買主から不動産を購入した場合(解除後の第三者)に分けて、解除された不動産売買契約に関し第三者が現れた場合の法律関係について、ご説明いたします。
(1)解除前の第三者
ア 売買契約が解除によりさかのぼって消滅する以上、買主は無権利者となり、買主から不動産を購入した第三者も無権利者となりそうです。
しかし、それでは第三者の利益を著しく害することになります。
そこで、民法は、解除は「第三者の権利を害することはできない」と定めて、解除の遡及効を制限しています(民法545条1項ただし書)。
この規定は解除の遡及効によって害される第三者を保護するためのものであることから、この規定における「第三者」とは、解除の遡及効によって害される第三者、すなわち解除前に新たに権利を取得した者をいいます。例としては、解除前に契約の目的物を譲り受けた者や目的物の上に抵当権を取得した者などが挙げられます。解除の対象となった契約に基づく債権の譲受人は「第三者」に当たらないと解されています(判例)。
なお、民法の規定上、「第三者」として保護されるために、債務不履行の事実(解除原因)を知らなかったこと(善意)は必要とされていません。債務不履行があったとしても解除されるとは限らず、第三者が債務不履行を知っていても帰責性は大きくないことや、意思表示に問題のない有効な契約に続く取引の安全を保護する必要があることなどが理由とされています。
これに対し、錯誤や詐欺によって契約が取り消された場合に第三者が保護されるためには、善意(無過失)が必要とされています(民法95条4項、96条3項)。瑕疵ある意思表示をした当事者を保護する必要があり、瑕疵の存在を知った第三者を保護する必要はないことが理由とされています。
イ では、第三者が解除者である売主(以下「売主」といいます)に対し不動産に関する権利を主張するために、ほかに必要とされる要件はないのでしょうか。
この点について、判例・通説は、第三者が売主に権利を主張するためには登記を備えることが必要であると解しています。
ただし、登記がどのような要件として必要であるかについては、判例と学説では考え方が異なっています。
すなわち、判例は、第三者が「対抗要件としての登記」(民法177)を備える必要があると解しています。
これに対し、学説は、売主と第三者は対抗関係に立たない(いわゆる前主・後主の関係に立つ)ため、登記は、対抗要件としての登記ではなく、第三者が自己の権利の保護を受けるための資格としての登記(権利保護要件としての登記)であると解しています。
ウ それでは、反対に、売主が第三者に対し解除の効果を主張するために登記を備える必要があるのでしょうか。
この点について、売主と解除前の第三者が対抗関係に立つと考える立場によれば、売主が解除の効果を第三者に主張するためには登記が必要になると考えられますが、この点について明示した判例はないようです。
これに対し、登記を権利保護要件と考える立場によれば、売主の保護が重視され、売主が解除の効果を第三者に主張するために登記は不要であると考えられているようです。
以上を前提としますと、売主と第三者がいずれも未登記である場合、対抗要件としての登記が必要であると考える立場からは、訴訟を提起した者が敗訴することになりますが、権利保護要件としての登記であると考える立場からは、売主が勝訴することになります。
(2)解除後の第三者
解除前の第三者と異なり、解除後に権利を取得した者は民法545条1項ただし書で保護される「第三者」には当たりません。
この点について、判例は、解除前の第三者の場合と同様に、売主と第三者とは対抗関係に立ち、目的物が不動産である場合には、登記を備えたか否かで優劣が決まると解しています。
通説も売主と解除後の第三者との関係については、判例と同様、対抗関係に立つと解しています。
3 相談例の場合
第三者Cが売主Aに対し所有権を主張するためには、第三者Cが解除前、解除後の第三者いずれである場合も、登記が必要になります。
これに対し、売主Aが第三者Cに対し解除の効果を主張するためには、判例のように登記を対抗要件と考える立場からは、第三者Cが解除前、解除後の第三者いずれである場合も登記が必要になると解するのが素直な考え方といえます。
他方、登記を権利保護要件と考える立場からは、第三者Cが解除前の第三者である場合には売主Aが解除の効果を主張するために登記は不要となり、第三者Cが解除後の第三者である場合には登記が必要になると考えられます。
以上のように、解除された契約の目的となった不動産について権利を主張する場合、速やかに登記を備えることが非常に重要となります。また、そもそも売買契約の解除が有効になされているかについての検討も必要となりますので、ご留意ください。
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