「不動産売買契約」の「取消し」について
不動産売買契約に関して留意すべきこととして、今回は「取消し」について、とりあげます。
わかりやすいイメージでいいますと、契約を締結したことは確かであるが、その契約をなかったことにしたい、契約締結後であるが「取消し」の意思表示をしたい、「取消し」が認められるにはどのような理由(要件)が必要か、というお話しです。
第1 民法による「取消し」
民法において、このような要件があれば取消すことができる、という規定があります。それらの一例をみていきましょう。
(1)(未成年者の法律行為の取消し)
民法5条1項は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と定めています。
続いて民法5条2項は「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる」と定めています。
したがって、未成年者が「法定代理人の同意」を得ずに不動産売買契約を締結しても、それは民法5条2項により「取消す」ことができます。
なお、「未成年者」ですが、2017年の法改正により、「成年」は18歳に変更されています。改正前の「成年」は20歳でした。
(2)(錯誤取消し)
民法95条は次の通り定めています。
1項 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2項 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4項 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
以上の「錯誤」とは、表示の内容と内心の意思とが一致しないという伝統的な錯誤(1項1号)や動機の錯誤(1項2号)を意味しますが、法律の定めにありますように、単に「錯誤」があったから、取消すことができる、というものではありません。
「錯誤取消し」は、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして」「重要なもの」である必要がありますし、1項2号の場合は、「その事情が法律行為の基礎とされていること」が「表示」されていなければなりません。
そして、このような要件が認められるようであれば、「錯誤取消し」をすることができます。
なお、2017年改正前は、「錯誤」は「取消し」ではなく、「錯誤」は「無効」でした(改正前の95条は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」と定められていました)。
(3)(詐欺又は強迫による取消し)
民法96条は次の通り定めています。
1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法の「詐欺・強迫」は、刑法上の「詐欺罪・脅迫罪」の「詐欺・脅迫」とは別個の概念であり、おおむね、民法の方がかなり広いとされています。
以上が民法の定める「取消し」事由の一例です。以上のような要件が認められれば、売買契約を民法の条文に基づき「取消し」することができる場合があるのです。
第2 消費者契約法による「取消し」
消費者契約法においても、このような要件があれば取消すことができる、という規定があります。それらの一例をみていきましょう。
(1)消費者契約法による「取消し」が認められている趣旨
現代社会のように、情報の質・量や交渉力の面で「消費者」と「事業者」との間に「格差」が存在する状況にあっては、「消費者」が「事業者」の不適切な勧誘行為に影響されて自らの欲求の実現に適合しない契約を締結した場合には、「消費者」は当該契約の効力の否定を主張し得るとするのが適当であるとして成立したのが「消費者契約法」の定めです。
その「効力の否定」として、「無効」となる場合もありますが、今回のテーマである「取消し」できるという場合もあるのです。
以下、消費者契約法による「取消し」をみていきましょう。
(2)「消費者」とはなにか
まず、重要な前提ですが、消費者契約法に基づく「意思表示」の「取消し」をするためには、「消費者」であることが前提として必要です。
それでは、消費者契約法でいうところの「消費者」の定義は何でしょうか。
消費者契約法2条1項は次のとおり定めています。
「2条1項この法律において『消費者』とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。」
この定義で重要なのは、「個人」として書かれている後に記載されているカッコ書きです。
すなわち、「(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」です。
私は、自然人で個人だから、当然「消費者」だ、といえるわけではないのです。消費者契約法2条2項では「事業者」の定義として、「法人その他の団体」に加え、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」も「事業者」と定義しています。
そうではない「個人」で「消費者」といえる一方と、それに対する「事業者」との間に締結される契約(消費者契約)について、取消しや無効を定めたのが「消費者契約法」です。
それでは、「事業として又は事業のために」というのはどのような意味でしょうか。
この「事業」とは「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」をいうとされています。
(3)「消費者契約法」による「取消し」とはどのような場合があるか
(ⅰ)(誤認類型)
消費者契約法4条1項・2項は、次の定めがなされています。
すなわち、消費者は、事業者の「一定の行為」により、消費者が「誤認」をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができることとしました。
これらを「誤認類型」という場合もあります。
「誤認類型」における事業者の「一定の行為」とは、「誤認を通じて消費者の意思表示に瑕疵をもたらすような不適切な勧誘行為」を指しますが、具体的には、①不実告知(4条1項1号)、②断定的判断の提供(4条1項2号)、③不利益事実の不告知(4条2項)により、消費者が「誤認」し、意思表示をしたときは、取り消すことができる、とされています。
①の「不実告知」とは「重要事項について事実と異なることを告げること」で、
②の「断定的判断の提供」とは「将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること」を指します。
①の「不利益事実の不告知」とは「重要事項又は当該重要事項に関連する事項」について、当該消費者の不利益となる事実を「故意又は重過失」によって「告げなかった」ことを指します。
(ⅱ)(困惑類型)
消費者契約法4条3項は、事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し、事業者の「一定の行為」により、消費者が「困惑」し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができることとしました。
これらを「困惑類型」ということがあります。
事業者が、契約の締結を「勧誘」するに当たって、「消費者」の住居や勤務先から退去しなかったり、一定の場所から「消費者」を退去させなかったりして契約を締結した場合、民法の強迫(民法96条)が成立しない場合も、契約の成立についての合意の瑕疵は重大であるため、「消費者」は当該契約の効力の否定を主張し得るとするのが適当であるので、取り消すことができる、としたのです。
消費者契約法4条3項は、1号から10号まで定めています。具体的には次のような定めがあります。
・不退去(1号)
(消費者が事業者に対し、退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、事業者がそれらの場所から退去しないこと)
・退去妨害(2号)
(消費者が退去する意思を表示したにもかかわらず、事業者がその場所から当該消費者を退出させないこと)
・消費者を任意に退去困難な場所に同行し勧誘(3号)
・契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害(4号)
・経験の不足による不安をあおる告知(5号)
・経験の不足による好意の感情の誤信に乗じた破綻の告知(6号)
・判断力の低下による不安をあおる告知(7号)
・霊感等による知見を用いた告知(8号)
・契約目的物の現状変更(9号)
・契約前の義務実施・契約前活動の補償請求(9号・10号)
以上のように、「民法による取消し」や「消費者契約法による取消し」が認められる場合があります。当該契約の効力の否定を主張し得る方法のひとつとして「取消し」があることに留意してください。









