中古の居住用建物の雨漏りと契約不適合責任
【相談事例】
私は、令和5年9月、売主である不動産業者から、木造スレート瓦葺き2階建ての居住用建物(昭和52年新築。以下「本件建物」といいます。)とその敷地を購入しました。
この売買契約の際に売主から受領した「物件状況等報告書」には、売主が認識している本件建物の状況として、「雨漏りは発見していない」旨の記載があります。ところが、本件建物の引渡しを受けた後、数週間のうちに、屋根から室内に雨漏りが生じ、その後も継続的に雨漏りが生じています。
この状況を受けて、私は、売主に対して屋根の補修費用等の負担を求めました。
ところが、売主は、本件建物が築48年を超える物件であり、売買契約上、現状有姿での引渡しとされていること、売主が本件建物を購入してから私に売却するまでの数カ月間、本件建物には雨漏りは生じていなかったことから、雨漏りが生じる状態であることを知らなかったこと、本件建物には経年劣化による小規模な雨漏りが生じていた可能性はあるが、中古物件の売買に関し、売主においてそのような雨漏りをも調査して引き渡す義務があるとはいえないことなどを主張し、補修費用等の負担に応じてくれません。
本件建物は、築48年を超えており相応の経年劣化があることはやむを得ないとしても、居住用建物として売買されたのですから、屋根から雨漏りがするという状態は居住用建物として通常有すべき性能を欠いていると思います。売主に対して契約不適合に基づく損害賠償を請求することはできないのでしょうか。
【解 説】
1 売買契約における契約不適合責任とは(一般論)
(1)売買契約の目的物に契約不適合(引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと)がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補や損害賠償などの契約不適合責任を追及することができます(ただし、当事者間の合意により契約不適合責任の免除や制限がなされる場合等があります)。
(2)契約不適合といえるかどうかは、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しているかどうかによることから、契約の内容として、どのような種類、品質又は数量の目的物が売買対象とされたのかが問題になります。
(3)本件建物のような中古建物については、経年劣化による性能の低下等は避けられないことから、特段の合意がない限り、経年劣化による性能の低下等があったとしても直ちに契約不適合になるわけではありません。経年劣化がある建物であることを前提としつつ、その品質等が契約の内容に適合しているかどうかを判断する必要があります。
2 今回の相談事例について
今回の相談事例は、東京地裁令和7年8月18日判決をモデルにしています。
判決では、本件建物は築48年の中古建物であるため、本件売買契約において経年劣化による性能の低下等は予定されていたとしつつも、本件建物が居住用建物であることからすれば、雨漏りを生じる状態であることは居住用建物として通常有すべき性能を欠くものといえるとして、契約不適合があることを認めました。
そのうえで、買主が主張している損害額について検討し、その一部について売主の損害賠償責任を認めています(後記4参照)。
以下では、判決文のうち、契約不適合に関する部分についてご紹介いたします。
※ 判決文は、原文そのままではなく、適宜改行し、「原告」を「買主」に、「被告」を「売主」にするなどの変更をしています。
3 東京地裁令和7年8月18日判決の内容(契約不適合に関する部分)
(1)証拠及び弁論の全趣旨によれば、①本件建物は、買主に引き渡された後、数週間のうちに、屋根からの雨漏りを生じ、その後も継続的に雨漏りを生じていること、②買主の依頼を受けた業者が令和6年1月に行った本件建物の調査では、本件建物の屋根には、棟部分のセメント瓦のひび割れや欠損が認められたほか、屋根裏の雨漏りが確認されたこと、③買主の依頼を受けた業者が同年9月に行ったインスペクション検査では、スレート瓦自体の経年劣化や部分的なひび割れがあり、屋根端部の釘止めがシーリング処理されていることが確認されたほか、小屋裏の野地板の複数箇所にはシミ跡が、押入れ内部に水濡れ跡があったことがそれぞれ認められる。
(2)前記(1)の事実からすれば、本件建物は、買主に引き渡された当時から、屋根の瓦にひび割れや欠損があり、これを原因とする雨漏りが生じる状態であったと認めるのが相当である。そして、本件建物は築48年の中古建物であるため、経年劣化による性能の低下等は避けられず、本件契約においても経年劣化による性能の低下等は予定されていたと認められるものの、本件建物が居住用建物であることからすれば、雨漏りを生じる状態であることは居住用建物として通常有すべき性能を欠くものといえ、本件建物はその品質において、居住用建物の売買を目的とする本件契約の内容に適合しないものであったと認められる。
(3)売主は、本件契約の際、本件建物が雨漏りを生じる状態であったことを知らなかった旨の主張をするが、売主の認識は契約不適合に基づく損害賠償責任に関わる事情ではないし、売主は不動産の売買等を目的とする業者であること、売主は上記主張をするのみで具体的な主張立証を行わないこと等を踏まえると、雨漏りが生じる状態の本件建物を引き渡したことにつき売主に帰責事由がないと認めることはできない。また、売主は、買主が手配した塗装会社や本件契約の仲介をした会社にも責任がある旨の主張をするが、これも売主の責任の成否に関わる事情ではない。
(4)よって、売主は、買主に対し、契約不適合に基づく損害賠償責任を負う。
4 判決についての補足(損害額について)
判決の事案では、買主が主張する損害額についても争われています。
屋根の補修工事費用について、買主は屋根の全面貼替えを行い、ガルバリウム鋼板葺きとする内容の工事費用を損害額として主張しました。これに対して、裁判所は、そのような工事は、引渡し時に予定されていた状態よりも屋根の品質及び性能自体を向上させるものであって、補修の範囲を超えるとしたうえで、本件建物の雨漏りの原因を踏まえると、瓦の貼替えで足りるとし、その範囲での工事費用を損害額として認めています。そのほか、買主が業者に支払った検査費用の一部が損害額として認められていますが、他方で、慰謝料や皮膚科治療費などは損害として認められていません。
結果として、買主が主張した損害額約377万円に対して、裁判所が認めた損害額は約74万円になっています。
5 最後に
この判決は、あくまで判決の事案における具体的な事実関係を前提として、契約不適合の有無について判断したものです。同種の事案であっても、事実関係が異なれば裁判所の判断が異なる可能性があることにご注意ください。
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